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AOLTimeWarner、不振のAOLグループの抜本的経営改善に乗り出す

2002年10月15日号

 2000年6月に行われた米国メディア最大企業のTimeWarnerとこれまた米国トップのISPであるAOLの合併は、当時インターネットの将来にいかに大きな期待がかけられていたかを如実に示す出来事であった。
 TimeWarnerは、雑誌社のTimeと映画会社のWarner Brothersが1990年に合併して創設された巨大メディア会社であり、傘下にタイム(週刊誌)、CNN(テレビニュース番組)、HBO(映画配信専用のテレビ番組)、ワーナーブラザーズ(大手映画会社)など有数のメディア企業を有している。
 これに対しAOLは1985年に設立されたパソコン利用者に対する情報提供会社から成長したISPであり、約3500万の総加入者を有する最大のISPである。
 ただ、両社の業務規模には大きな開きがあり、AOLの年商、従業員ともにTimeWarnerの5分1程度に過ぎなかった。これだけの企業規模の格差があって、なおAOLが対等合併以上の有利な条件(会長にはAOLのケース氏が就任、役員数は両社が同数ずつ)でTimeWarnerとの合併を成功させることができたのは、AOLが株式総額でTimeWarnerを上回っていたこと、並びにメディアの成長率が鈍っているのに対し、新興サービスのインターネットの成長率は著しく高いこと、さらに増大するAOL加入者数(間もなくブロードバンドへの移行が期待される)にTimeWarnerが有する膨大なソフトを供給すれば、そのシナジー効果によって莫大な収益がもたらされるとの期待が高かったことによる。また当時はインターネットバブルの最盛期であって、インターネット関連企業=成長企業、他の企業は衰退企業であるといった雰囲気が支配している時期であり、両社の合併はこのようなインターネットブームの異常な熱気のなかで実現したものであった。

 ただ当時から一部の辛口の評論家たちは、両社の合併は決して成功をもたらさないと断言していた。主たる根拠は独特の芸術家気質を持つTimeWarnerの企業文化と小売り業者的色彩の強いAOLの企業文化とが融和できるはずはない、所詮シナジー効果は期待できないのだから合併は不利に作用する、というものであった。
 その後の経緯は不幸にしてこれら業界通の予言通りに移行し、AOLの業績はTimeWarnerとの合併後精彩を失い、低下の一途を辿った。2002年第2四半期の決算はAOL部門の業績がTimeWarners全体の業績の足を引っ張っており、AOLがお荷物になっている事実を端的に示すものである。
 このような情勢から、TimeWarnerは現在、AOLグループを再び成長軌道に戻すことを同社経営目標の最優先順位に掲げ、経営の刷新を進めている。
 AOLグループの再編に当っては、AOL生え抜きの幹部がほぼ一掃され、旧TimeWarner出身者が企画、実行の任に当るという皮肉な現象が生じている。合併当初、経営面においてAOL側の幹部が主導権を握ると見られたのであるが、事態の進行は逆の方向に進んだこととなる。
 以下、AOLTimeWarnerによる最近におけるAOLグループ再建計画の概要を紹介する。

AOLTimeWarnersの問題児となったAOL

 まず、次表でAOLTimeWarnerが発表した最新の決算に基づき、同社におけるAOLの位置付けを見てみよう。

表 AOLTimeWarner社のグループ別2002年第四半期収入(単位:100万ドル)
項目
2002年第2四半期
2001年第2四半期
2002/2001(%)
映画
2,386
1,893
26.0
AOL
2,266
2,133
6.2
ケーブルテレビ
2,103
1,782
18.0
ネットワーク(注1)
1,957
1,828
7.0
出版
1,396
1,155
20.6
部門間調整
‐505
-450
-
10,575
9,276
14.0

 上表によれば、AOLTimeWarner各グループの収入はいずれも前年同期に比し好調な伸びを示してはいるものの、AOLグループの伸び率が最も低い。このため同グループは前年AOLTimeWarnerのなかでトップの収入を占める部門であったが、映画部門に首位を奪われ第2位に転落した。しかも第3位のケーブルテレビとの差も僅かである。今後、AOL、ケーブルテレビグループの現行の成長率が持続すれば、ケーブルテレビグループの後塵を拝することともなりかねない。
 なお表で示すことは省略したが、AOLTimeWarnerは部門別のEBITDA(税引き前、減価償却前の利益)も発表している。これによるとAOLのEBITDAは4.73億ドルであって、前年の8.01億ドルに比し41%減少した。他の部門のすべてが昨年同期に比しEBITDAを増大させたのにもかかわらず、AOLだけが業績を向上させることができなかったのは特筆に価することであった。こうして2年前のAOLとTimeWarnerの統合時点において、AOLはインターネット技術を駆使して、ますます増大する加入者数、新規サービスを提供する成長部門としてTimeWarnerを牽引することを期待されていたのであるが、この期待は大きく外れAOLグループはTimeWarner社の問題児へと転落した(注2)。

AOLグループの転落の原因―広告料収入の急落とブロードバンド分野参入の遅れ

 AOLグループは2650万の国内加入者数(グローバルには900万の国外加入者を加え約3510万の総加入者数、2002年6月末現在)を有する米国最大のISP業者である。
 AOLTimeWarner社は、AOLグループの加入者数が過去一年間で10%強(米国内で47.7万、国外で1.5万)増えたのにもかかわらず収入が伸び悩んだのは、主として広告料収入が激減したためであると説明している。
 AOLグループの加入料からの収入は一部地域での料金値上げもあり20%増加したが、オンライン広告収入は42%減った。しかもAOLグループの広告・営業収入4.12億ドルのうち約半分に当る2.2億ドルは、年次をまたがる長期契約のうちの2002年次分収入によるものであり、新規契約取得によるものは意外に少ないという(注3)。
 確かにインターネットによるバナー広告については、米国経済低迷下の企業の広告費節減ムードのなかでその効果が疑問視されていることもあり、AOLグループだけでなく他のISPでもその収入は大きく落ちている。つまりISP各社は、今後これまで収入の太宗を占めてきた広告料収入に頼れないという共通の悩みを抱えているのである。

 将来を展望した場合、広告料収入の減より深刻なのは、AOLグループが1部のISPグループに比し、付加価値に見合う高い料金が得られると期待されるブロードバンドISPの分野で立ち遅れていることである。
 これまでAOLはダイアルアップによる安いインターネットアクセスの提供により多くの加入者数を獲得してきたが、ブロードバンド(地域電話会社が提供するDSLにせよ、ケーブル会社が提供するケーブルモデムのいずれを利用するにせよ)への熱意の入れ方は充分でなかったと批判されている。これはAOLグループが属するAOLTimeWarner自体が米国最大のケーブルテレビ部門であるTimeWarnerCableを所有しているだけに、まことに奇異であるという他はない。そもそもTimeWarnerとAOLの合併自体が、1企業内でマルチメディアのコンテント(TimeWarnerが所有)とこのコンテントを通す管路(AOLが所有)を結合して競争業者を圧倒する高速ブロードバンドサービスを提供することを大きな目標の一つとしていたはずだからである(注4)。
 米国の大手ISPであってイノベーションに富むYahoo!とMSNの両社はAOLのブロードバンドへの立ち遅れを好機として捉え、共に自社のブロードバンド加入者数を伸ばすに当り、AOLのダイアルアップ加入者に狙いを当ててマーケティング活動を行っている。両社ともAOLに比し、機能面でもサービスの種類の面でも自社サービスが優れている点をセールスポイントにしているという(注5)。
 なお、米国におけるブロードバンドの伸びが韓国やわが国等に比較して鈍い点はよく指摘されるところであるが、あまりにもスピードののろいダイアルアップサービスに嫌気を覚えたインターネット加入者の他、ブロードバンドによる動画、音楽に惹かれサービス加入を求める顧客(主として若者)の確固たる層がブロードバンドを支持しているとの論調も見られる(注6)。このため米国におけるIT、電気通信サービスの不振にもかかわらず、ブロードバンドの加入者増は堅調の模様である。Forrester Researchによれば、2002年末にはブロードバンド加入者の総数は1880万と2001年末(1280万)に比し85%増加するという(注7)このように、米国でも需要、供給の双方の側面からブロードバンドは離陸を始めたのである。

AOLTimeWarnerのAOLグループ、ブロードバンドISPサービスを中心に販売強化を目指す

 AOLTimeWarnerの会長ケース氏は、2002年10月2日、Communicopia会議(慈善団体のCommunicopia.netが開催する会議)で同社の経営方針、特にAOLグループの経営戦略について講演をした(注8)。
 同氏はかなりの部分をAOLグループの戦略(11月にはその細部が取りまとめられる予定である)の説明に割き、その基本点は次の4つであるとした。

1.ダイアルアップサービス分野における利益追及の継続
2.強力なブロードバンド製品、ビジネスの開発
3.海外事業の収支均衡
4.広告、eコマースに対するアプローチの再検討

 上記第1点についてAOLグループのCEOであるミラー氏は、従来のような多くの経費を掛けてのダイアルアップサービスの加入者増キャンペーンは止め、むしろ他社への契約切り換え(いわゆるchurn)の減少に努めるという。
 また第2点について、同社は最近新機能(オンラインラジオサービス、楽曲の購入、オンライン写真サービス等)をパッケージで提供できる新サービス「AOL8.0」の提供を10月15日から行うと発表した。AOLTimeWarnerはすでに本年8月末、AT&T、Comcastと両社に対するブロードバンドサービス・コンテントを再販する契約と提携しており、さらにブロードバンド・コンテントの販売先を拡大する意向を明かにしている。
 第4点は、従来のバナー広告に多くを頼ることができず、またこれまでeコマースの実績に乏しいAOLグループの最大の問題点であるが、観測筋は必ずや独自のeコマースのサービスを展開するものと見ている(注9)。
 なおAOLグループは、海外に900万ほどの加入者を有しているが、海外子会社ではいずれも地元ISP業者の力が強く、加入者数は伸び悩み、利益は上がっていない。

こうしてブロードバンド時代に対応してのAOLグループの経営体制は一応整ったものの、実のところYahoo!とMSNの2社はサービスの多様性、料金の低廉さの面でAOLを抜いており、それぞれブロードバンドの管路についてはDSL(それぞれYahoo!SBCCommunications、VerizonCommunicationsと提携して)を主体としてAOLを急追している。AOLTimeWarnerが今回の体勢の整備により、AOLグループの逆調を救済できればともかくシェアの浸食が続けば、再度AOLとTimeWarner合併のメリットが取られる事態が生じることにもなりかねない。


(注1) ここで「ネットワーク」とは、CNN、HBO等のペイテレビ料金(基本料外の)による収入が主体となっている模様である。
(注2)この項の記述は2002.7.24付け、AOLTimeWarnerのプレスレリースによった。
(注3)2002.7.26付けニューヨークタイムズ、"AOL Falls 15% as Analysts Express Concern Over Ads" 及び 2002.8.22付け"CBSMarketWatch、"Analyst: AOL Losing broadband market"
(注4)現在AOLグループの支配権は、おおむね旧TimeWarnerの出身者が握っている。従って同グループの公式発表では、ブロードバンドへの進出とそのために不可欠なソフトの整備の遅れは、長年AOLグループの最高責任者であったPittman氏(2002年7月に自発的に退職したが経理の不正に関与していたとの疑いも掛けられている)の好みの問題だとされているようである。しかしTimeWarnerとAOLの合併当初、一部論者が危惧していたような合併に伴う両グループの不調和、縄張り争いが影響しているのではないかと推測したくもなる。
(注5)2002.7.25付けCBSMarketWatch, "Analyst:AOL losing broadband market"
(注6)例えば2002.7.22付けニューヨーク・タイムズ、"Investors May Have Repudiated the Internet, but Consumers Have Not"
(注7)(注5)で紹介した資料
(注8)2002.10.1付けAOLTimeWarnerのニュースレリース、"Remarks by Steve Case at this yeas' Communicopia Conference" ところでAOLとTimeWarnerの合併以来、合併の立役者であったケース氏に対するジャーナリズムの風当たりは強く、AOLTimeWarner内部でも同社の実権はCEOのパーソン氏に大きく移行しており、ケース氏は早晩辞職を余儀なくされるではないかとの観測が流れたほどであった。しかし久々にAOLTimeWarnerの経営方針について説明した今回の講演は「合併は成功であった」とする氏の発言も合わせ考えると、氏の社内での力が依然として強いことをうかがわせるに十分なものであった。
(注9)ケース氏の発表したAOLグループの4点の基本方針実施についての補足説明については、おおむね10月4日付けのビジネス・ウィーク、"AOL is relerning its ABCs"によった。また同グループのeコマース進出への動きについては、"AOL Enters ebay's Turf With Online Shopping Service"


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