DRI テレコムウォッチャー


仏・独両政府、それぞれFT、MobilCom財務危機への支援を確約
 ―法外な3G免許料のつけの1部が徴収した政府に回る―


2002年10月1日号

 米国の電気通信産業はバブル崩壊後の後遺症から抜けきれず、多くの事業者が業績不振に喘いでいる。
 欧州の電気通信事業者も同様に多くの負債を抱え、また評価損の計上で赤字決算を行うところが多く、現象面では米国の場合と似たような状況である。
 しかし大手欧州通信事業者の経営不振の最大の原因は、2000年の春から進行した各国における多額の(今から振返ると「法外」である)3G免許料の賦課、及びその後の3Gネットワーク構築の投資であるところに米国、欧州諸国の差異がある。
 2002年9月中旬、ドイツ、フランス両国の政府はそれぞれ、財務の破綻あるいは財務破綻の危険性があるMobilCom(ドイツ第3位の携帯電話事業者、固定電話事業も運営)、FTに支援を約束した。 
 両政府ともフランステレコム、MobileComから2年前に多額の3G免許料を徴収している(注1)。もちろん今回の財務支援確約は、諸種の要因を勘案した高度の判断からなされたものであろうが、両企業から既に高額の免許料を徴収しているとの後ろめたさも影響しているように思われる。
 MobilComの場合、同社が支払った3G免許料は84億ユーロである。これに対し、ドイツのミューラー経済相が約束した融資保証額は4億ユーロである。この額はMobilComのドイツ政府への納入額からすればリベート程度のものに過ぎない。FTは、時期遅れに発表した2002年上半期の決算で121.8億ユーロという空前の赤字を出した。これは諸種の投資の株価下落分を特損に計上したことによるものであるが、MobilCom分の78億ユーロが最大であって、特損計上総額の64%を占めている。FTの会長兼CEOのボン氏は莫大な赤字を計上した責任を取って辞任を表明、フランス政府はこれを受理した。もっとも後継者が定まるまではボン氏は現職に留まる。先にゾンマーDT会長が、9月を待たず夏季に同様の理由で辞任した。こうしてドイツ、フランスの両国で、既存の巨大な官営独占電気通信事業体を効率の良い競争民間企業に育成する任を担った両巨頭が電気通信業界を去ることとなった。

 このように3Gの多額の免許料支払いとそれに引き続く欧州各国の激しい投資合戦の歪みは、フランス、ドイツ両国に劇的な形で顕在化した。敢えて言えば、欧州の場合あまりにも貪欲な3Gのオークション(欧州委員会もこのオークションを指導した責任を免れない)による法外な民間資金の吸収がブーメランのごとくフランス、ドイツ両国政府に跳ね返って来たのである。
 さらにFTがMobilComへの一層の投資から手を引くと宣言したため、FTとMobilComとの対立はフランス、ドイツ両国政府の対立にも波及しかねない情勢になっている。
 以下、上記の点についてさらに詳しく解説する。

2002年上半期のFT決算が示すもの ―成長のなかでの過大投資政策の破綻―

表1 FT決算による収入と利益(単位:億ユーロ)
項目
2002年上半期
2001年上半期
増減率(2002年の2001年対比、%)
総収入
224.7
204.2
10.0
EBITDA
68.7
60.7
13.2
営業利益
31.8
27.1
17.3
純利益
‐121.8
17.8

 上表をみると、2002年上半期、FTの収入も利益も2桁台の伸びを示しておりまことに業績好調である。ところが純利益の項にくると、にわかに121.8億ユーロという一企業として類を見ないほどの欠損が表示され、まことに異常な決算となっている(注2)。
 FTによればこの大半は、MobilCom(73億ユーロ)、NTL(英国の大手ケーブルテレビ・電話会社、17億ユーロ)等への投資の失敗あるいは目減り分を特別損失として計上したことによるという。
さらに表2で、FTの部門別の収入を見てみよう。

表2 FTTの部門別決算(単位:億ドル)
項目
2002年上半期
2001年上半期
増減率(2002年の2001年対比、%)
Orange(携帯電話)
80.59
70.82
+13.6
フランス国内の固定通信(音声、企業サービス。放送・ケーブルテレビ、その他を含む)
111.27
115.42
−3.6
フランス国外の固定通信(音声、企業サービス、放送・ケーブルテレビ、その他を含む)
46.02
30.78
+49.5
Wanadoo(ISP)のサービス
9.18
6.89
+33.2

 FTのサービスでは、Orange(携帯電話)、フランス国外の固定通信、Wanadoo(ISP)がともに伸びており、フランス国内の固定通信が多少減少している。これは将来の固定通信サービス、国内通信サービスの減少を見越して、携帯電話サービス、外国への投資、IPへの投資に力を入れたFTの戦略そのものは、正しく効を奏していることの現れだと見ることができる。ただ、投資にあまりにも多額の金額を投じすぎ、また株価の低下のために、膨大な負債(6月末現在697億ユーロ)を抱えてしまったため、将来の財務不安を予測させることとなった。
 負債もこれだけの金額になると返済するのが容易ではないし、利子がかさんでその利子額が業績の足を引っ張るという悪循環が生じる。そのうちに金融機関も付き合いを渋るようになる。表1で仮に2001年上半期にFTが上げた純利益のすべて(17.8億ユーロ)を投じたとしても(実際にFTが今後これだけの継続的な利益を上げることは不可能なのであるが)、負債償還には約40年もかかってしまうというほどの金額である(注3)。

FTの全面支援を発表したフランス政府

 フランスのメア財務相は、FTの2002年次第四半期の決算発表、ボン氏の辞表提出後、ただちに次のようなフランス政府のFT救済策を発表した(注4)。

  • FTはフランス産業、技術の成功のシンボルである。政府は必要があれば、FTが財務上の問題を回避できるようにする手段を講ずる。
  • 具体的な手段は、ボン氏の後任者が定まって後にFTの方針確定後行う。
  • 後任者が定まらない間の期間であっても、問題が生ずれば措置を講ずる。
  • ボン氏の後任者が少なくとも2002年末までに任命することとし、目下選考中である。

 フランス政府は、FT株式の55%を所有している。メア財務相の声明は、FTの大株主として、フランス政府がどれだけFTを大切にしているかを改めて再認識させたというべきであろう。
 具体的なFT支援策は、今後定められることとなろうが、(1)政府資金の投入による増資(2)BTが2001年に行ったような転換社債による資金調達(3)劣後債の発行などが、検討されるだろう。(1)がもっとも簡明、直裁であるが、民営化の方向に対する逆行となる点が難点である。
 さらにFTの財務再建策は、フランスのMobilComへの今後の投資の中止をベースにしているのであるが、次項で述べる通り、ドイツ政府の方はFTの約束(MobilComによる3Gサービス提供支援)履行を前提にしたMobilCom支援を最近確約したところに、今後ドイツ、フランス両国にまたがる難問を残している。このように3G免許付与とそれに引き続く欧州各国の3Gの推進が残している爪あとは大きい。

ドイツ政府は、MobilComを支援へ

 MobilCom(ドイツ第3位の携帯電話会社、固定電話サービスも提供)は、最近、ますます財務状況が悪化したため、2002年9月15日(月曜日)には破産宣告をするかどうかというところまで追い詰められた(注5)。
 しかし5500名の従業員を有する携帯電話事業を破産させるというのは、雇用安定を大きな政策の柱に掲げているドイツのシュレーダー民主党政権にとっては大きな痛手となる。
 しかも10月20日に投票を控え、シュレーダー首相が当選を狙って激しい選挙戦を展開している最中のことだっただけに、MobilComの救済はきわめて政治的な色彩を帯びたといえる。
   こうして9月14日の日曜日に急遽開催された緊急会議により、MobilComに対し、政府保証により4億ユーロの融資を行う決定がなされた(注6)。MobilComのCEOであるグレンツ氏(Thorsten Grenz)氏は、この融資で危機は乗切れると強気であるが、2002年上半期、前年同期に比し売り上げを10%以上減らし、1.7億ユーロもの赤字を出した同社がこれで立ち直れるかどうかは疑わしい。
 シュレーダー首相、ミューラー経済相が、MobilComを支援している理由の1つは、FTが同社への株式28.5%獲得したとき、「3Gネットワーク構築について100億ユーロまでの支援」を約束したという事実である。FT側はこの約束を否定してはいないが、MobilComのシュミット前CEO兼会長があまりにも大株主であるFTの意向を無視して行動したため、約束履行の必要はないと主張している。
 シュレーダー首相自体が、「裁判に持ち出せばMobilComは勝訴する」と述べている(注7)。もっとも、FTが役員会において明確に理由を付して、今後のMobilComへの関与を拒否する決定を下している以上、この決定をFTが翻すことはあるまいと読んでいる模様である(注8)。
 結局、ドイツ側はFTに当方が訴訟にかければ、敗訴するぞと脅しをかけて、和解により幾らかの賠償金を取る作戦を考えている模様である(注9)。


(注1) MobilComがドイツ政府に支払った3G免許料は78億ユーロであった。またフランス政府は、2000年にFTに対し、年賦払いによる49.5億ユーロの免許料支払いを命じた。ところが予定しただけの免許希望業者が生じなかったこと、免許料が高過ぎるとの批判に配慮し、フランス政府は2001年10月、急遽6.19億フラン(一回分の支払)へと大幅な免許料減額を行った。
(注2)FTの決算については、2002.9.13日付けのFTのプレスレリース、"France Telecom :First-Half2002 Marked by 17.3% Increase in Operating Income And Net Loss Due to Non-Recurring Provisions"
(注3)辞表を提出したFTのCEOのボン氏はこの件について、「FTは2002年末までに、使用されていない金融機関の融資枠70億ユーロが残っているので、負債が当面問題になることはない。しかし長期的には、FTはどこからも融資が受けれなくなり、逆に負債の返済を迫られ、解決できない問題となる」と核心に迫った説明をしている。
2002.9.13日付けのYahoo!Finance, "France Government Springs to Defense of Beleaguered Frnce Telecom"
(注4)注3で紹介した資料の他、Yahoo!Finance, "French Government Pledges Support to Bon's Successor at France Telecom"
(注5)MobilComについては、他のドイツの携帯電話5社と並んで、その経営状況、FTとの関係を本年春に紹介した。2002.4.15付けテレコムウオッチャー「提携、統合への兆しが見え始めたドイツの中堅携帯電話事業者 - 駆動力として期待されるiモードサービス - 」
(注6)2002.9.16付けFinancial Times Deutchland, "MobilCom:EU-Kommission pruft Staatskredit"
(注7)2002.9.16付けYahoo!Finance, "Schroeder :MobilCom Has Good legal Case Versus France Telecom"
(注8)FTは2002年第2四半期決算報告書のなかで、部外に委嘱した特別報告書も参考にし、次の2点の理由からMobilComへの今後のコミットメントを断つことにしたと述べている。
  • 顧客基盤が弱く、単独で3Gサービスを収支均衡ラインに持って行けない。
  • ドイツの規制風土からして、2001年末当時に予想した携帯電話会社の統合が進展するとは考えられない。
(注9)注6で紹介したFinancial Times Deutschlandの記事


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