2002年第2四半期の電気通信各社の業績は、おおむね惨憺たるものであった。
長距離電気通信会社、地域電話会社ともに目立ったのは、減収減益傾向である。この期に減収傾向が明確に地域電話会社にも現われ、バブル崩壊後、電気通信業界はかつての成長産業から一挙に転落、未曾有の業務縮小の事態に直面することとなった。ゼロ・サム・ゲームならぬマイナス・サム・ゲームに耐え抜くため、各事業者ともに益々激しい生き残り作戦を余儀なくされている。
AT&Tは他社に先んじて、2000、2001年の両年、特に住宅用通話の急激な落込みに対処するため、従来の携帯電話、ブロードバンド部門への進出を断念し、本来の電気通信部門に専念する思い切った撤退作戦を実施中であり、2002年末に予想される同社ブロードバンド部門のComcast社への売却により、組織改革は終了することになる。
毀誉褒貶合い半ばしている同社のアームストロング会長は、AT&TComcast(Comcast、AT&TBroadbandの合併により設立される予定の米国最大のケーブルテレビ会社)の会長に就任する予定で、後任のAT&TのCEOには現社長のドーマン氏が定まっている。ドーマン氏は明かに次期ポストを意識して行動をしており、対外的な発言も目立っている。
最近のAT&Tは、(1)経営破綻と会計不正で戦力が衰えた最大のライバルWorldComの業務を奪えるとの期待(2)長年の念願であったRHCからのアンバンドリング利用による市内サービス市場への参入が急速に現実のものになってきたこと(3)これまた、AT&TのライバルであるRHCの経営体力が大きく弱まってきたこと等により、将来に1条の光明が見え始めた。1部アナリストには、AT&Tを再評価する動きも出ている。
AT&Tの市内通信市場への再参入は、2002年5月に最高裁判所が下したFCCによる(1)アクセス料金算出方法のTerelic(長期増分コスト)(2)アンバンドリングによるアクセス回線の販売についての規則を共に合法と認めた判決が大きく影響している。長年にわたるこの裁判に終止符が打たれたため、州公益事業委員会は本腰を入れて、上記(1)、(2)の内容を織り込んだ裁定を下し始めたのである。
皮肉なことに、批判が強い1996年通信法の1つの基本的な狙いであった「RHCと長距離通信事業者の本格競争」が、正にこの法律に対する批判がもっとも強まりつつあるこの時期に実現に移されたということができる。
このようにして、2002年初頭以来下がり続け、一時は9ドル台まで下がったAT&Tの株価も現在2桁台を維持している。しかしAT&Tに集まった多少の人気が持続するかいなかは、未だ時間の推移をみなければなるまい。
以下、上記の点についてより詳しく解説をする。
収縮を続けるAT&Tの収入
AT&Tの2002年第2四半期の総収入は121億ドルで、前年同期比6.2%の減、その内訳の主なものは「AT&Tビジネス」が67.4億ドル(前年比‐6.2%)、「AT&Tコンシューマー」が29.1億ドル(前年比-3.8%)、「AT&Tブロードバンド25.3億ドル(前年比+9.8%)」であった。
欠損は127億ドル、評価損計上が131億ドルである。欠損と評価損との関係からすれば、評価損計上がなければ利益は4億ドルあったということであって、この1点だけにAT&Tのプライドが込められているといった程度の劣悪な収支状況である(注1)。
唯一2桁近い成長率を示しているAT&Tブロードバンドは2002年末に他社に移ってしまう。その後のAT&Tの事業運営は益々、困難となろう。
さらにAT&Tは、2002年通年の業務見通しについても、(1)ビジネス部門については、収入減を4.5%から5.0%に押さえる。(2)コンシューマー部門については、減収を20%台前半に留めるとの控えめな目標を設定している。
上記のような実績と見通しだけからすると、まことに冴えない決算であったとしか批評の言葉がない。
自社ネットワークの容量の大きさ、品質の良さを売り込む
AT&Tは、ライバル企業のWorldComの経営破綻を好機として捉え、地道に同社に比べての自社ネットワークの優秀さの強調に努力している。
この点でAT&Tを代表し発言をしているのは、AT&T研究所のEslanbolchi社長である。 同氏は、WorldComがたとえ連邦破産法11章の下での再建に失敗し、UUNET(世界最大のインターネットアクセス回線)の管理を放棄しても、AT&Tには充分、このネットワークを運営することができると述べている。
AT&Tは現在、IPベースのネットワークの拡充に努めており、すでにUUNETに匹敵する大容量の回線を有していると主張している(注2)。
Eslanbolchi氏の発言は、7月中旬にFCCのパウエル委員長が報道関係者とのインタビューの席上、「場合によっては、orldComをRHCにでも買いとって欲しい」と述べていたのに対するAT&T側の見解表明とも受け取れる(注3)。多分、AT&TはWorldComから、UUNETの設備、顧客を同社の負債を引継ぐことなく、安い価格で引き受けたいのであろう。
市内電話市場への再参入に成功したAT&T
多くの長距離電話会社の破綻が相次ぐニュースに埋もれていたが、2002年始め以来、10を越える州において静かにAT&T等の長距離電話会社、さらにTalk America、Z-Tel Communicationsなど1部のCLEC(競争市内通信事業)によるアンバンドリングによる地域通信事業への参入が進んでいる。
数年前にもAT&Tは市内通信市場への参入を図ったことがあるが、主としてRHCとアクセス条件について折り合いがつかず敗退した。今回は、参入業者に有利な市場参入であるため、成功する公算が高い。
AT&Tのアームストロング会長によると、2002年の末までに14州から17州の公益事業委員会がアンバンドリング料金の引上げをRHCに指導する見通しであり、これら州のすべてにサービスを提供すれば、米国人口の約半数がAT&Tのこの通話にアクセスできるという。
現在、AT&Tが市内通話をパッケージで(地域電話会社からの設備のリースによる市内通話に自前の長距離通話を様々なサービスオプションに仕組んで販売)提供しているのは、つい最近にサービスを提供したカリホルニア州を合わせ6州であり、獲得した加入者数は約150万であるという。
周知の通り、米国のVerizon、SBC CommunicationsはすでにFCCに地域電気通信市場開放の引き換えに長距離通信市場に進出している。他の2社、BellSouthとQwest Communications Internationalも現在、FCCに長距離通信市場への進出を申請している段階にある。
長距離通信事業展開の規模が一番大きいのは、すでに900万の加入者を獲得し、米国第4位の長距離電気通信事業者にのしあがったVerizonである。ただ2002年からの参入でAT&Tが獲得した150万と言う数もかなり大きい。地域電話会社とAT&Tは相互に市内、長距離加入者の争奪を巡って激しく、競争することとなろう。
ついでながら、CLEC2社が獲得している加入者数もかなりのものである。第2四半期に、Supra Telecom12万、Talk America Incは5万の加入者を伸ばした(注4)。
1部アナリスト、AT&Tを高く評価
2002年8月20日、ウォールストリートの2人のアナリストが、AT&Tの株式を推奨、地域電話会社の株式の評価を下げた。
J.P Morganのクロスマン氏(有線サービスの専門家)は、ビジネス需要の上向き、弱い住宅用需要への影響度が少ないこと、WorldComの経営破綻からの好影響を理由として、AT&T株は買いであると推奨した。
AT&Tは70%をビジネス需要に依存しているが、ビジネス需要は回復しつつあり、これは同社に有利に働く。もっとも、AT&Tは住宅用需要の影響も残り30%分受けるが、住宅用需要が主である地域電話会社ほどではない。
また現在は、品質の高いサービスへの顧客の逃避(flight to quality)が生じている。こういう状況のとき、最大のライバルの体力が弱っていることは、AT&Tに有利である。同氏は、すでに、AT&Tは多くのWorldComからの流出加入者を受け入れ、シェアを高めていると述べている。
さらに、氏はサービス品質に対する意識が高まるにつれ、競争業者も品質をなおざりにした競争に訴えるわけにはいかず、これにより料金歯安定化していくのではないかと観測している。もっとも、同氏は、WorldComを始め連邦破産法11章の禊を受けて、利子負担が軽くなった通信業者がますます低料金を打ち出して、競争に挑む可能性も否定してはいない。
これに対し、UBSWarburgのホダルク氏(Hodulk)氏は、主として競争に際しての地域電話会社の弱点を説明し、地域電話会社の売りを奨めている。
ホダルク氏は、RHC4社は18の州でEBITA(利子、税引き前、減価償却前の利益)が赤字になっているという。2002年第2四半期のRHCの決算は、軒並み減収減益で関係者にショックを与えたのであるが、このように純利益なら未だしも、ほぼキャッシュフローの水準を示すといわれるRBITAの段階で赤字になる州が米国で3分の1以上というのは、ショッキングな数字である。
氏によれば、この財務悪化の大きな原因はアンバンドリングによるアクセス料金引き下げ(州公益事業委員会の指導による)によるものであって、2002年下半期にはこの料金引下げがさらに他の州に実施されるので、地域電話会社の収入にはさらに影響が及ぶことになる(注5)。
(注1) |
2002.7.23付けAT&Tのプレスレリース、"AT&T Earns 7Cents Per Deluted Share from Continuing Operations, Excluding Other Expense, Income and 2002 Goodwill and Franchise Impairment Charges" |
(注2) | 2002.7.23付けYahoo Finance, "AT&T Addresses concerns about Potential Telecom Disruptions: Says it Can Accommodate Customers if WorldCom NetWork Shuts Down" |
(注3) | 2002年8月15日のテレコムウオッチャー「FCCのパウエル委員長、米国電気通信事業の危機管理対策を発表」 |
(注4) | 注1で紹介したプレスレリースの他、2002.8.29日付けBusiness Week, "What's alarming the Bells" |
(注5) | 両アナリストのコメントについては、同日付けCBSMarketWatch, "MaBell upgraded, but Babies get cut" |
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