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FCCのパウエル委員長、米国電気通信事業の危機管理対策を発表

2002年8月15日号

 粉飾決算により世界中に悪名をとどろかせてしまったWorldComは大方が予想した通り、7月21日に米国破産法第11章を申請した。この法律の本質は、一定期間を設けその間に対象企業の再建策を検討させるところにあり、その名称から想定されるように、即企業の廃止を意味するものではない。しかしかりに、大量の加入者が他の通信事業者に流出するというような最悪の事態が生じて、WorldComが特別融資を受けた20億ドルを使い果してしまうと、将来同社が自社ブランド名で事業を継続し得ないことともなりかねない。
 実のところ、電気通信バブルの崩壊(最近、この言葉を米国のジャーナリズムがよく使うようになった)の余波は引き続き大きく米国経済を揺り動かしている。電気通信株はもとより、他の株式も大きく値を下げており、まさに米国電気通信事業も米国経済も、危機の時代に突入している。
 パウエル委員長は、7月15日のウォールストリートジャーナルとのインタビューで、「地域電話会社がWorldComを買収して欲しいと考えている」と述べ、その率直な発言でテレコム関係者を驚かせた。
 さらにパウエル氏は、7月30日の上院商務委員会に出席し、FCCによる6点の電気通信復興策(業界再編策を含む)及び3点の議会への要請(2点は1996年電気通信法改正)を発表した。
 冒頭陳述でパウエル委員長は、「電気通信事業は今や荒海に乗り出している。米国で50万近くの電気通信従業員が失業している。過去2年間で、2兆ドルの市場価値が失われた。またある推計によれば、電気通信業界が抱えている不良債権の額は、ほぼ1兆ドルに及ぶ。しかし電気通信市場が崩壊しているのではないし、今後崩壊することはない。電気通信サービスは、全世界の消費者にとって必要不可欠なものであって、電気通信事業が復活し、市民の生活に新サービスを提供するのに最終的に成功することが全市民の利益となる」と今後の米国電気通信業界復活に向けての期待を表明した。
 米国において、電気通信事業についてこのような危機感が表明されたことは、多分1929年に始まった世界恐慌の時期にすらなかったはずである。FCCが今回の危機をいかに深刻に受けとめているかを示す証拠である。同時に、今後の米国電気通信政策の大きな変更(業界再編製を示唆しただけでも、その変化の兆しは充分に読み取れるのであるが)を示唆するものでもある。
 もっとも、上院商務委員会における討議は、委員相互の意見の相違(要は依然として自由化推進に重点を置く派と規制を強めるべきだとする派の差異)が明るみに出ただけで、とくに収穫は無かった。  以下、FCCパウエル委員長の危機管理策をできるだけ忠実に紹介する。

電気通信事業回復のための重要施策

 パウエル委員長が発表した重要施策6点を表1に示す(注1)。

表1 電気通信事業回復のための重要施策
項目
概要
1、サービスの継続性の保護電気通信業者の将来の破産から生じるリスクに的確に対処するため、サービスの継続性及び米国電気通信ネットワークの完全性、信頼性を確保することにより、消費者を保護する。
2、企業の詐欺行為の根絶米国政府は引き続き、米国民を騙すかたわらしばしば私腹をも肥やす企業の悪人共を摘発し、起訴し、投獄しなければならない。
3、財務の健全性の回復、貸借対照表のクリーン化電気通信会社は、貸借対照表をクリーン化し、財務の健全性と現実感を回復しなければならない。電気通信会社は、有している債務を大幅に償還するまで、所要資金の多くを得ることができない。
4、慎重な電気通信事業の再編成穏健かつ慎重な幾つかの業界再編を行わなければ電気通信事業の安定を考えることは難しい。また、品質の高いサービスを消費者に提供する長期的な見通しを考えることなしには、長期的な消費者の利益は考えられない。FCCは、競争機会を損なうことなく安定性を確保するという綱渡りを強いられることとなろう。
5、新規サービス提供を通じての新たな収入の確保ここで大きな成長が期待できる領域は、ブロードバンドサービスである。「真のブロードバンドインフラ」の構築こそが新サービス提供の機会を生みだし、ブロードバンドインフラをこれまで実現できなかった水準へと引き上げることができる。このためには、ラストマイル(市内通信網)を解き放たなければならず、規制政策が先導する要がある。
6、規制基盤の改革FCC及び州公益事業員会は、引き続き共同作業を通じて、実現可能な真の電気通信サービス、競争導入のための規制基盤の改革を行わなければならない。
これには、市内回線小売りサービスの料金の弾力化、競争業者の参入へのインセンティブ、高度ネットワーク設定の促進、周波数割当ての効率的使用を含む。

 上表について、多少の説明を付け加えて置く。
 第1項は、具体的には電気通信会社がサービス提供不可能に追い込まれ、顧客サービスを切断する場合は、会社は少なくとも31日前に顧客に予告しなければならないとの1996年電気通信法の規定を忠実に履行すると言う点が基本である。もっとも厳密には、ここでサービスとは電気通信サービスであって、インターネットサービスを対象としていないため、FCCはこの点について、次項で述べるように、議会の解釈を明確にして欲しいと要請している。
 もちろんこの項目は、破産法第11章に基づく申請を行い目下、再建途上にあるWorldComが不幸にして再建に失敗した時のことを想定したものである。
 第2項は、議会が最近、財務不正違反者に対する罰則強化を規定した法律を制定したことと関連する。すでにSEC、司法省の調査対象企業を幾つも(WorldCom、Global Crossing、Qwest Communications)輩出し、WorldComのCFO{財務最高責任者}が逮捕されている電気通信業界を監督するFCCの委員長としては、当然加えなければならない項目であった。
 第3項も第2項と同様の趣旨である。
 第4項は、これまで電気通信事業に対しレフリー的な立場を堅持していたと言われてきたパウエル氏が、積極的に業界再編の必要性を打ち出したものとして、きわめて重要な内容を持つ。
 パウエル委員長は、この方針発表に先立つ7月15日付けのウォールストリートジャーナル紙のインタビューで、さらに率直に業界再編の必要性を主張していた(注2)。
 このインタビューで同氏は、WorldComが再建に失敗し、2000万を超える加入者へのサービスに影響が及ぶ事態が生じては大変であるから、地域電話会社(例えばVerizonとかSBCCommunicationsとか)が、同社吸収の申し出を行ってくれないかとの希望を表明している。さらにパウエル委員長は、(1)WorldCom以外の電気通信事業者からさらに決算の不正が出てこないか(2)1996年電気通信法施行後、競争業者が多く出現し過ぎ、これが今日の事態を招く原因を作ったのであって、電気通信法自体が今回の電気通信バブルに責任が無かったとは言えない等、かなり立ち入った見解までも表明している。
 もっとも、かりにWorldComを地域電話会社の1社と合併すれば、競争力強化のため、業績不振に悩んでいるAT&T、Sprintも必ず他の地域電話会社と結ばなければ収まらないとの事態が生じ、米国電気通信業界は地域的にエンド・ツー・エンドのすべての電気通信サービスを提供する数社の巨大企業が電気通信事業を支配するという自体が生じる。1984年のAT&T分割の理念が目指した事態とは、全く逆の業界再編が実現することとなる。電気通信市場における完全競争の旗を掲げ、それに従って欧州、日本の電気通信政策の模範を作った米国がにわかにこのような180度転換を行うことができるかいなかは疑わしい。
 ただ今回の重要施策のなかで、「穏健かつ慎重な業界再編」と記したパウエル委員長の真意は、実はインタビューで明かなとおり、長距離電話会社と地域電話会社の巨大な業界再編であることは確かである。
 第5点は、事実上すでにFCCが実施しているブロードバンド実施の調査で議論されているところで、新味はない(注3)。また最後の第6項もFCCが具体的にどのような規制政策を掲げているか定かでないので、ここではコメントを避ける。ただ例示として上げられている最初の項目、「市内回線小売りサービスの料金の弾力化」は、アクセス料金を市内電話会社が設定し得る自由度を高めることを意味しており、地域電話会社に有利な内容である点が注目される。

議会の立法、決議を要請する項目

 パウエルFCC委員長が、FCCが現に与えられている権限だけでは処理できず、議会の立法権の力を借りたいとした項目は表2の通りである(注4)。

表2 FCCが議会に対し、強力要請をした項目
項目
要請の内容
1、サービス廃止対象の拡大1996年通信法では、業務不振のため継続が不可能になった場合のサービス対象は、「電気通信サービス」に限られている。これを例えばインターネットバックボーンサービスにも適用できるようにして欲しい。
2、罰金の増額電気通信会社に課されている罰金額を法律改正により、次ぎの通り増額、規律維持の裏付けを高めてほしい。
     初犯の場合:
12万ドル
(現行)
100万ドル
     累犯の場合:
120万ドル
(現行)
1000万ドル
3、ブロードバンドサービスの振興FCCは、2002年初頭からブロードバンドサービス拡大に向けての法の枠組み整備のため調査を継続中であるが、1996年通信法を改正し、特に住宅用加入者へのサービス拡大が促進しやすくなるようにして欲しい。

上院通信委員会での議論

 上院通信委員会で際立ったのは、委員とパウエルFCC委員長との意見対立であったようである。
 例えば、パウエル委員長がブロードバンド振興のため地域電話会社に対する規制緩和(この件はFCCが調査案件として審議中であるが、パウエル委員長はADSL実施のための市内回線を他業者に開放するしないの自由をも地域電話会社に委ねる意向を有しているようである)の必要性を強調し、議会の協力を求めた。これに対し上院商務委員会ホリングス委員長(電気通信行政の経験が長く、地域電話会社に批判的)は、「地域電話会社はあらゆるトリックを使って独占を継続しようと図り、私もFCC委員長も取り込もうとしている」と最初から感情的な反発を示している。
 またパウエル委員長は、他の民主党議員からの質問に関連し、「私は市場を信頼する強い姿勢を有している点は否定しないが、さればといってしばしば誤解されているように自由至上主義者(libertarian)ではなく、規制が占める地位をよく心得ている。そうでなければ、FCC委員長の地位を引き受けはしなかった」と自らの立場を述べている。確かに業界再編の必然性すら提案しているパウエル氏にして見れば、上記の発言は当然のことであるが、この件については論議はなかった模様である。
 この委員会には、WorldComのシジモア(Sidgmore)、Global Crossingのレジェレ(Legere)、Qwest Communicationsのモヘビ(Mohebi)の3人のCEOが出席し、今後財務上の問題からサービスの途絶をさせるような行為を行わないと誓った。3社ともに決算不正の件で調査を受け、それが原因で前任のCEOが最近辞職している点で共通している。しかも3社ともに、成り行きいかんによっては会社の存続が危ぶまれているほどに、財務状況は厳しい。パウエルFCC委員長からすれば、これら3社から将来のサービス確保について確言(精神的なものに過ぎないが)を取ったことはプラスであろう(注5)。


(注1) 2002年7月30日付けFCCのプレスレリース、"FCC Chairman Micael Powell outlines six critical steps for telecom industry recovery; calls for legislation in three areas"
(注2)2002年7月15日付けウォールストリートジャーナル、"FCC's Powell Says Crisis' May Allow a Bell to Buy WorldCom Tel"
なおこのPowell氏の見解に対するコメントの一例として、同日付けForbesの論説"Powell to Bells; Please Buy WorldCom"
(注3)FCCのブロードバンド政策については、2002年4月1日号のテレコムウォッチャー「FCC、ブロードバンドサービス規制緩和に向けての2件の調査告示を發出―具体化の第1歩を踏み出したパウエル委員長の新電気通信政策―」
(注4)注1と同じFCCプレスレリース
(注5)7月30日の上院通信小委員会の討議模様は、同日付けニューヨークタイムズ紙、"Telecommunications : Lament but Little Repair"によった。


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