KPNQwestは解体へ ーすでに2業者が同社設備買収で合意ー
2002年8月1日号 2002年5月31日、欧州の大手IPネットワーク業者のKPNQwestが資金繰りに行き詰まり、破産申請を行った。同社は現在サービスをまだ提供しているものの、あくまで同社の実権は債権を有する管財団の手に委ねられており、すでに同社ネットワークの部分買収の契約が成立している状況である。
KPNQwestの破産申請と管財団側(同社の金融筋)のサービス維持に向けての努力(前半期)
KPNQwestはその名称が示すとおり、オランダの電気通信会社のKPNと米国の電気通信会社のQwest Communications Internationalが、IPベースのネットワークによりビジネスユーザーの高度な通信事業に応じようとする目的で1998年に設立された。
KPNとQwestはそれぞれ47%、40%と同社株式の大半を有しており、しかも共に同社の大口ユーザーでもある。本来ならばKPNQwestの救援に当たるべき立場にあることは当然である。事実、両社ともに管財団側からの強い要請もあり、6月中KPNQwestの運用資金に多少の寄金をした。しかし、特に強くKPNに期待されたKPNQwestの丸ごと買収は実現しなかった。
実のところKPNCommunicationsとQwestは、2001年の末頃から、KPNQwestの将来に見切りを付け、同社に対しこれ以上の資金援助は行わない旨を表明していた。これは両社がそれぞれ大きな負債を抱えて、自社の存亡を賭けた努力を続けており、KPNQwestの救済に進めば共倒れになってしまうとの事情があったからである。
当初管財団側は、KPNQwestを丸ごと購入してくれる事業者の出現に期待を掛け、幾つかの交渉を重ねてきた。当初、AT&Tを始め数多くの事業者が同社買収に関心を示した模様であるが、まとまらなかった。KPNQwestのあまりにも急な倒産の経緯からして、二の足を踏んだためである。結局7月2日、スエーデンのTeliaがKPNQwestの回線の一部(TeliaはKPNQwestの大口ユーザーである。従って、買収対象は自社がリースしている回線が主になった模様)購入を発表することによって、KPNQwestの切売りの方向が定まった。さらに7月中旬には、英国に拠点を置く汎欧州ネットワーク業者のInterouteがKPNQwestのバックボーン回線、Eboneの買収で合意した。
従って、25,000キロの光ファイバー網により18カ国の諸国と事業を展開し、10万人ものビジネスユーザにサービスを提供していたKPNQwestは近い将来同社の資産、サービスは幾つもの企業(すでに同社の大口ユーザとなっている企業を含む)に切り売りされることとなろう。
なおKPNQwestは、ほんの数ヵ月前まで資金繰りに問題はないと言明しており、キャッシュの枯渇による突然の倒産はいかにも唐突であった。債権者側からは、どうしてこのような事態が生じたかの調査を求める意見も強く出されている。たまたま同社に資本を有するKPN Communications Internationalが経理不正の疑いで、SEC、司法省の調査を受けているさなかでもある。ここでも米国で最大の問題となっている経理不正処理の影が色濃く影響している。
以下、KPNQwestがこのような事態に立ち至った経緯とその影響について、解説する。
2002年の5月中旬、KPNQwest が資金繰りの悪化を訴え、同社金融機関からの支援を求めるSOSを発してから、同社の資産・サービスの切り売りが進行している現在までの期間は、前半期(管財団が同社の一括買取先を求めて努力した時期、2002年7月初旬まで)、と後半期(Teliaが管財人団とKPNQwestからの一部回線区間の買取りについて合意した7月初旬以降)の2期に大別できよう。
ここではまず前半の時期について、この案件に関して生じた主な出来事をクロノロジカルに記述する。TeliaのKPNQwest回線区間の一部買収さらに、Interouteも同社のEboneを買収(後半期)
- KPNQwestは、資金繰りがきわめて苦しい状況に陥っており、金融会社から新たな融資が得られない状況にあって、これが得られなければ株式も債権も反古になりかねないとの意見を発表した。同日親会社であるKPN、Qwest Communications Internationalの両社は、KPNQwestを支援する意図がない旨を表明(2002年5月15日)。
- KPNQwestの融資会社は再融資に応じず、KPNQwestは破産申請を裁判所に提出。事実上、同社の運営は、融資資金(額は不明であるが、2001年末22億ユーロであるという)の回収を狙う管財団の手に移った(2002年5月31日、注1)。
- KPNQwestは、日々のサービスを運営するのに必要な現金にも事欠く状況になっていた。従って管財団は、第1に同社親会社KPN及びQwest Communications International からの 資金の拠出、さらにはユーザーからの売り掛け料金の徴収に 力を入れると共に、第2にKPNQwestを丸ごと購入してくれる企業との売買交渉に力を入れた。第1の努力はかなりの効を奏し、ともかく6月一杯KPNQwestによるサービス運営を可能にすることに役立ったが、第2の努力は実らなかった(注2)。
- 6月末に至り、管財団はKPNQwestを丸ごと購入してくれる「白馬の騎士」の登場に見切りを付けた。7月2日に、同社の基幹バックボーン回線のE-Boneがサービスを停止したのが、KPNQwestの切り売りへの政策変更への転換を決定的なものとした。
Telia International Carrier(スエーデン電気通信事業者Teliaの国際ネットワーク部門)は、2002年7月8日、KPNQwestの設備の一部分を購入した。購入したのは当面、パリとリール(フランス北部の都市)、パリとケール(ドイツ南部の都市)の区間の設備であるが、現在と同様の安い条件で保守契約が受けられれば、フランス、イタリア両国内のKPNQwestの設備を購入する気があるとしている。Telia International Carrier自体は赤字に悩んでいるが、親会社のTeliaの財務は健全であり、今回の買収に当たり、何ら財務上の問題はないという。Teliaは購入金額を明らかにしていないが、かなり安値であったようである(注3)。
今後の問題―不正経理疑惑の解明とサービス確保
今回、Telia Internationalが購入した区間は、もともと同社がQwestからリースしていたものであって、リースを自社設備による直営に切り換えを中心とした模様である。今後、多くの通信事業者、企業が、(1)自社がリースしている回線を買収する、(2)自社のネットワークの補完をする区間だけに限り買収する、というような形で、自社に都合の良い部分だけの購買を行う事態が進行していくことが予想される。
現在、KPNQwestがどのような状況にあるか定かでないが、ベルギーに本拠を置く同社のEbone net(同社IP基幹回線ネットワークの1つ)が運用休止に入っている(注4)。
さらに7月15日には、英国の光ファイバー利用によるベンチャー通信事業者、Interouteが、KPNQwestのEbone netの買収を発表した(注5)。
ところで一括購入を希望した企業としては、当初からAT&Tが名乗りをあげ、期待されたが、同社はKPNQwestの状況を調査した結果、辞退した。その大きい理由の一つとして、同社を巡る権利関係があまりにも複雑であったと判断したことがあげられる。
KPNQwestは欧州各地に事業所を持っているが、それぞれが現地で免許を取得しており、法律関係をクリアするのに多くの手数が掛かることが予想される。また、同社が機器メーカからの多額のローン(アルカテルからが最も多額のようであるが)を有している点も懸念材料である。そもそも親企業のKPNとQwest Communicationsとの貸借関係の実態すら不明である。
KPNの側は、このように設立当初は、KPNMobileと共に将来のKPN事業の中核を担う成長部門と位置付けていたKPNQwestにあくまで全くの第3者的なビジネスライクな冷めた対応をしている点が特徴的である。しかし現在でもKPNQwestの設備、回線の部分買収には意欲があるようである。KPN、Qwest Communicationsの両社は、KPNQwestの最大の顧客であったのだから、これは当然のことである(注6)。
不正経理への疑惑
管財団側は資産の売却と並行して、KPNQwestの経理、特に同社と親会社2社(KPNとQwest Communications)との間に、不正がなかったかを専門家に調査させたいと望んでいる。
サービスは確保されているか
少しでも多くの債権回収を計りたいと考えているのであるから、これは当然のことである。しかも当の利害関係者でなくても、確かにKPNQwestの突然のキャッシュ切れによる破綻には疑問が多い。なにしろ同社が同業他社であるGTS(Global Tele System)を6.45億ドルで買収をしたのが2002年1月と半年前のことである。また最近まで同社のCEOであったマスターズ氏(Jack Masters)は、同社が破綻宣言をする一月ほど前まで、KPNQwestに充分な現金はあると主張していた。
疑惑は、(1)KPNQwestは2001年次の決算において粉飾決算をしていたのではないか(同社は公式に決算数値を発表していないが、すでにその内容は外部に洩れている)、またKPNとKPNQwestの貸借関係において両社の言い分が食い違うが、どちらが正しいか、(2)光ファイバー容量のリース料金を年払いでなく一括前払いで受け取る慣行とからんで、売上が水増しされていたのではないか、の2点に集約される。
現在のところ、SECが米国で行っているような公的機関による調査は行われていないが、上記の疑問は今後、欧州流の方法で解明(或は、未解決)進んでいくだろう(注7)。
すでにEbone netが閉鎖され、今後短期間に幾つものKPNQwestのネットワークが閉じていくなかにあって、インターネット・アクセスをはじめとする同社のサービスが、途切れることなく他社に継承されていくかという懸念がある。
なにしろKPNQwestは欧州で有数のIPネットワーク企業であって、その顧客には、KPNQwest、Nokia、Sonera、HP、Dell Computer、Microsoft等大手企業を含む10万もの顧客を有している。従ってサービスの途絶は顧客企業に深刻な被害が生じかねない。
現在のところ大きな問題が顕在化していないのは、(1)大手顧客は常日頃からバックアップ回線を備えていること、(2)ブロードバンド回線が豊富なこともあり他社への回線切り換えが順調に進捗していることによるものであろう。ただバックアップの備えもない中小企業のサービス途絶による事業の一時途絶の例はすでに生じている模様である。
逆にいうと、KPNQwestの顧客の引き取りは、競争業者にとって思わぬ収益をもたらすこととなろう。先に、KPNQwestの一部施設の取得を発表したTeliaも利益を得ている企業の1つに考えられているようである(注8)。
なお、WorldComの破産法申請が予測されたとおり7月21日夜に行われ、欧米、日本のジャーナリズムはその記事を大きく報じている。WorldCom破綻の意義については、前回に詳しく述べた通りであるが(注9)、ただ事態の進展のあまりの早さ(不正経理発表の6月25日からは破産申請の7月21日までわずか1ヶ月弱)に驚かせられるばかりである。このテンポだと、WorldComがシジウィック氏の希望するように、同社のブランド名を保持して(多少の資産、サービスの切り売りを行い、規模が縮小しても)ブランド名を保持できるか、あるいはKPNQwestのように解体の運命を辿るか、そのあらましの方向は案外、早期に定まるのではないかという気がする。
(注1) 2002年5月31日付けKPNQwestのプレスレリース、"KPNQwest NV files for bankruptcy" (注2) KPNQwest側は、KPNに対し売掛け金2.3億ユーロがあると主張し、これを根拠にして管財団側がこの債権の取り立てを通告したところ、KPNはこの金額を認めず、「むしろ債務を負っているのはKPNQwestの側だ」と反論する始末であった。この問題は管財団側を怒らせ、経理疑惑を惹起する大きな原因になっている。2002年6月7日付けYahoo! Finance, "KPNQwest trustees in scramble to save network" (注3) 2002年7月8日付けファイナンシャルタイムス・ドイチュランド、"Telia kauft Teile von KPN Qwest "及び、同日付けYahoo!Finance "Telia grabs first parts of KPN Qwest Unetwork" (注4) 2002年7月4日付けエイシャン・ウオールストリート・ジャーナル、"KPNQwest Shuts Ebone Network, Disrupts Web Links" (注5) 2002年7月15日付けのInterouteのプレスレリース(題名なし)。なお、Interouteは、18,000キロの光ファイバーケーブル、45都市を結ぶi-21ネットワークを通じ、欧州各国のビジネスに各種高速サービスを提供する通信事業者である。2002年初頭からは、パリ、フランクフルト、マドリッド、チューリッヒ、ロンドン、ウィーン、ミラノ、アムステルダムでMAN(大都市市内通信網)の運用を行っている。株式は公開されておらず、最大の出資者はSandez family foundations。 (注6) KPNと管財者側が、KPNQwestの買収について、話し合いを続けてきたのは確かであり、まだこの件についての交渉は継続している模様である。例えば、2002年7月2日付けのYahoo!Finance、"KPN emerges as potential KPNQwest bidder"
しかしこれは筆者の見解であるが、管理者側が特にKPN、KPNQwest間の経理の透明性の欠如を表面に出している以上、これがKPNQwestの売買案件に影響するのではないかと考える。(注7) この件について、資料は多いが主なものとして、2002年6月24日付けYahoo!Finance、"Banks want probe of KPNQwest account" (注8) 2002年7月4日付けエイシャン・ウオールスリート・ジャーナル、"KPN Qwest Shuts Ebone Network, Disrupts Web Links" (注9) 2002年7月15日号のDRIテレコムウォッチャー「WorldComによる粉飾決算のインパクトの深刻さ」
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