DRI テレコムウォッチャー




WorldComによる粉飾決算のインパクトの深刻さ

2002年7月15日号

 6月25日にWorldComが明らかにした粉飾決算の発表は、米国のみならず諸外国の電気通信業界、金融業界にも深刻なインパクトを及ぼしている。
 WorldComはSEC(米国証券取引委員会)の命令に基づき、さらに7月1日にも同社の決算見直し作業について発表を行ったが、その中で当初の発表にあった2001年、2002年次の決算数値の不正に留まらず、2000年次以前にも他の不正があり得る点を示唆した。6月下旬、詐欺容疑でWorldComを訴えたSECのピット委員長は、「今後、WorldComからほんの少しでも今回の報告書にない不正が発見されれば、責任者は厳重に処罰する」との強い監査姿勢を取っており、WorldCom問題は今後、不正経理の実体が拡大すれば、まだまだインパクトが拡大する不気味さを抱えている。
 経理の不正問題はWorldComだけの問題ではない。エンロンが関連会社を利用した経費の大掛かりな付替え(いわゆる飛ばし)の発覚が契機となり、企業倒産に追いやられた昨年末以来、数多くの企業があるいは経理不正を認め(例えばXerox、Adelphi)、あるいはSECの取り調べを受けている(例えばKPNCommunications)。しかしWorldComの場合、その電気通信業界に占める大きさ(米国第2位の長距離通信事業者、世界最大のインターネットバックボーン業者)、経理不正の単純な手口、その金額の大きさのため、たちまちジャーナリズムからエンロンと並ぶ悪玉だとの指弾を受けるに至った。
 皮肉なことにこれまで電気通信業界に触れることがなかったブッシュ大統領も、名指しでWorldComを「腐ったリンゴ」の代表であると攻撃し、米国民に対し、責任者の処断、米国企業における経理不正の除去を訴えた。
 今回はWorldCom粉飾決算の実体と、崩壊の危機に立つWorldComがどのように利害関係者(株主、金融界、ユーザー、競争業者)に負のインパクトを及ぼしているかの状況、今後の同社の見通しを中心に解説する。

まだその実態が判らないWorldComの粉飾決算

6月25日のWorldComの発表

 かねてから財務の不正が疑われ、Global Crossing、Qwest Communications等とともにSEC(米国連邦証券取引委員会)の調査対象となっていたWorldComは、2002年6月25日プレスレリースにより、過去5回の四半期決算に不正があることを認めた(注1)。
 その骨子は次ぎの2点である。

  1. 内部監査により、2001年次通年及び2002年次第1四半期の決算が不正確であることが判明した。即ち、この5期の四半期において約38億ドル(2001年次30.55億ドル、2002年第1四半期7.97億ドル)の経費が資本支出として計上されていた(注7)。
    別途、この期間の財務諸表を書き換え、再提出することとする。
  2. この不正な財務処理は、WorldComのキャッシュ・フローには影響がない。WorldComは現在20億ドルの現金を有しており、本年債務不履行に陥ることはない。今後も経費節減、従業員の削減、一部資産の売却を推進することにより、業務の改善に努力する。

 なおこの不正事件に関連して、WorldComのCFO(財務担当最高責任者)のサリバン氏(Scott Sullivan)は罷免され、コントローラーのマイアー氏は辞任した。サリバン氏は長年、数多くのWorldComが実施した企業合併に伴う経理事務をこなしてきた。CEOのシジモア氏は今回の粉飾決算はすべてサリバン氏が企画し、同氏配下の従業員が氏の指揮の下に実行行為を行ったのであり、他の役員はこの件を知らなかったと主張している。

WorldCom、7月1日の発表で2000年以前にも不正の可能性があることを示唆

 SECのピット委員長は、6月25日にWorldComの粉飾決算をしていたとの告白が報告されるとただちにより詳細な報告書を速やかに報告せよとの厳命を同社に下した。
 WorldComは7月1日、SECに対する回答を提出したが、同社プレスレリースによれば、同社は文書により総計38億ドルの不正経理がどうして生じたかの原因、経緯を詳しく説明した模様である(注3)。
 しかし7月1日の発表で最も重要なことは、WorldComが現在2000年次及び1999年次の決算の見直しも行っており、今後この期間の不正を発見したら、ただちにSECに報告するとの見解を明かにしたことである。この発表は、WorldComの経理不正の奥が深く、今後まだ幾つもの粉飾決算の事実が出てくることも伺わせるものだった。

SECのピット委員長、WorldComに厳しい姿勢を取る

 SECのピット委員長は7月1日の、WorldComの報告書を評価しなかった。さらに1999、2000年の両年の経理について問題が生ずる可能性があると認めた点についても、ますますWorldComの経理実態への批判を強めた模様である。氏は、「この報告書は、株主への資料開示の意欲の欠如とSECへの協力の不足を示すものである」と総括している。
 SECがWorldComに対し訴えを起こしていることでもあり、今後WorldComは苦しい対応を迫られることになる。焦点は、シジモア氏が主張するように経理不正の事実を前会長で創業者のエバーズ氏(本年4月に退職)、シジモア氏をも含めたWorldComの現幹部が本当に知っていなかったのか否かにある。

当面、利害関係者にもたらしているインパクト

(1) 株主、社債の所有者、金融機関

 7月初旬におけるWorldComの株価は6セントであった。僅か2年ほど前、同社の株式は64ドルの価を付け、ウォール街で文字通りブルーチップとしてもてはやされていた。劇的な崩壊というべきであろう。なお7月5日、ナスダックはWorldCom株式の上場を取り止めた。
 WorldComはまた、320億ドルに及ぶ負債(26.5億ドルが金融機関からの借金、300億ドル近くが社債)を負っている。社債の価格も10数パーセントに落ち込んでいる。金融機関からの借金は、シジモア氏によれば心配ないというが、今後どれだけ償還されるかは問題である。
 このように株式、社債が反古同然まで下がったことにより、多くの投資家が被害を受けている。すでに米国の幾つかの州政府(最大の年金寄金を持つカリフォルニア、ニューヨーク、テネシーの州政府等)は、大きな損害を受けており、その総額は10億ドルに及ぶといわれる(注4)。
 総額26.5億ドルに及ぶ金融機関の借金が今後全額戻る可能性は低いと考えられるが、その影響は邦銀にも及んでおり、日経(7月3日)は3社の邦銀の債権額を400億円程度と報じている。昨年末エンロンへの融資で損失を蒙った邦銀もあったことではあり、国内の不良債権に悩まされている邦銀には、痛い損失である。

(2)ユーザー

 ユーザーは当面、WorldComの破綻懸念から、サービス上の悪影響を受けてはいない模様である。しかし、同社からサービスを受けることに懸念を抱き、すでに一部加入者の他社への流出が起こっている。通信コンサルタントは、この相談で繁盛しているというし、ユーザーが将来のサービス提供について、大きな不安を感じている模様である。
 今後、WorldComをめぐる環境が一層厳しくなれば、本格的なユーザーの流出が生じ、また同社のコスト削減、従業員の切り詰めによって、WorldComサービスの低下の問題が生じる可能性もあろう。
 FCCはこのような問題に関心を持ち、なんらかの指針を打ち出すべきだとの意見も出ているが、今のところパウエル委員長は、例の如く「市場原理に委ねる」とのレッセフェールの方針をつらぬく様子である(注5)。

(3)競争業者

WorldComが信用を失墜し、加入者が逃げれば、一番得をして喜ぶのは他の競争通信事業者であろうと考えるのが常識である。しかし、一番利益受けるはずのAT&T、Sprintの株価は依然として緩い低落を続けている。
 これは、WorldComの粉飾決算により、さなきだに評判が落ちていた電気通信業界全体の信用がさらに低下したこと並びに最近の全般的な米国野株式市況の落込みの影響によるものである。
 ニューヨークタイムスのある記者は、AT&Tは粉飾決算による最大の被害者であったとの記事を掲載している(注6)。
 この記事によると、AT&Tは1999、2000年の両年にWorldComが発表した決算における利益率の高さに脅威を抱き、当初ビジネスサービス部門の長のケイス氏を更迭したが、それでも及ばず、結局、分割の決定を余儀なくされたという。
 多分にAT&Tの意向を代弁したかに見える記事であるが、AT&Tが最大の競争業者の失墜を好機と捉え、着々とシェア争奪の戦略を練っていることは間違いない。ただ、当面は「通信事業者は信用できない」といった一般的な批判の前に依然として、防衛的な姿勢を続けている

将来について楽観的なシジモア氏と厳しい利害関係者の態度

 このように崖淵に立ったWorldComを率いるシジモア氏は、7月2日ワシントンにおける記者会見の席上、以下に示す同社再建の5つの基本方針を発表した。

  1. WorldComは、分割するには大き過ぎる。国家の安全はわが社に依存している。
  2. WorldComは、「新たな経営チーム」を有している。悪人たちはいなくなった。
    どうかわれわれを信頼して欲しい。
  3. いわゆる詐欺行為は、サリバン氏の段階で起こったものである。
  4. 債権者が破産を望むのなら、それに応じたいと思う。
  5. われわれは今後、前向きの態度で資料開示を行う。

 事実シジモア氏は、決算報告改竄を発表した以前と同様に、経費節減、リストラ、資産売却を推進することにより事業を継続したいと考え、融資会社と話し合いを続けている。
 しかし、市場、利害関係者の信用を完全に失墜した最中にあって、旧来の事業形態をそのまま維持するのは、まず不可能ではないかとのアナリスト達の意見が圧倒的に強い。
 ただ、上記基本方針の4項に見られる通り、シジモア氏自身、WorldComの破産法申請を否認していない。幸い、IDC社(中堅の長距離電気通信事業者)がWorldComの2部門(中・小ビジネス部門を対象としたMFS部門とBrooks Fiber部門)を50億ドルで買収したいとの申し出をしている(注7)。
 ただ、シジモア氏が、基本方針第一項で「国家の安全がわが社に依存する」と豪語したのについては、実際の根拠が存在する。WorldComは、米国の官庁のネットワークに深くコミットしており、国防総省、国務省、米国総務庁(GSA)のネットワークの運用にあたっている。2002年月にも、国防総省の研究者用ネットワーク構築の受注(10年間、4.5億ドル)を取得したばかりである。シジモア氏は記者会見の席で、「WorldComへの政府機関の依存がわが社の存続の助けになるかもしれない」といっており、いわば政府機関を虜にすることにより、同社再建での有利な条件を勝ち取る姿勢を明確にしている(注8)。

 結局、WorldComは今後、(1)破産法第11章を申請する(破産目的ではなく、有利な債権条件を求めて、禊をする)。(2)破産法第11章の下で、債権処理(多分、債務の減額の実現)、資産売却(IDCに対する2部門売却がその中核になろう)の計画を固め、新体制の下での、再発足とのコースを辿る公算が高い。


(注1) 2002.6.25付けのWorldComのプレスレリース、"WorldCom Announces  intentions to restate 2001 and First Quarter 2002 Financial Statement"
(注2)WorldComが行った不正経理は、本来「経費」に計上すべきであるラインコスト(他の電気通信事業者に支払うアクセス回線料等の回線使用料)を「資産」に計上したという初歩的な手口であった。
 これにより、当該年度に計上されるべき経費は「償却」の形で、幾年かにわたり、繰り延べ償還されることとなり、「経費(本来計上されるべき)」−「償却」の分だけ、利益が大きく計上されることになる。
(注3)2002.7.1付けWorldComのプレスレリース、"WorldCom Delivers Requested Explanation to SEC"
(注4)2002.6.28付けYahoo! Finance、"State Pension Funds Take WorldCom Loss"
(注5)2002.7.3付けTech News "FCC Leaves WorldCom Hold"
この記事によると、シジモア氏は7月初旬にFCCを訪問したが、当人に会う事ができずに終ったという。
(注6)2002.6.30付けニュークタイムス、"Trying to Catch WorldComユs Mirage"掲載のSeth Schiesel氏による記事
(注7)2002.7.2付けIDTのNewsLibrary、"IDTCorp, Makes Offer for Two Units of WorldCom"
(注8)2002.7.2付けYahoo! Finance、"Struggling WorldCom sees little risk to government"


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