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破綻に向かうFT(フランステレコム)の発展至上主義戦略―ボン会長への批判強まるー

2002年7月1日号

 決算(2001年の通期および2002年第1四半期)の数字等からの分析によると、FT(フランステレコム)は、DT(ドイツテレコム)と共通の難問を抱えている。まず両社ともに、その負債額は欧州企業で最大(FT670億ユーロ、DT672億ユーロ)である。また両社は、2000年次までは両社は事業の中核を占める固定通信の成長を続けてきたが、2001年後半からさしもに激しい競争、料金引き下げの圧力の影響を受け、固定通信部門は減収に転じた。両社にとってドル箱であった固定電気通信収入の将来に翳りが出てきた以上、年々の企業収益のなかから負債の償還ができるだろうかといった懸念が生じており、両社とも株価は大きく低落傾向を続けている。
 ただ、これまで経営層への風当たりは、DTに対する方がより強かった。この理由の1部は、(1)フランスにおいて固定通信分野におけるFTのシェアがきわめて高く、将来も固定通信の収入増が続くと見られていたこと(2)FTの固定通信外の携帯電話事業部門、国際データ通信部門、ISP部門の伸びもきわめて高かったことによるものであろう。
 しかし、FTがかかえている負債はその絶対額こそDTとほほ同等であるが、FTの売上高がDTに比し少ない(DTの約90%)ことからすると、収入対比の負債比率はFTがはるかに高く、その償還を危ぶむ声が急速に高まって来た。またこのような危機的な状況の下で、FTのボン会長は従来通りの拡大市場路線を変更する気がないため、同会長の退陣を望む声も強まりつつある。5月のWorldComのエバーズ氏、つい最近のQwest Communications会長ナッチオ氏など、経営不振の責任を取らされ、辞任を余儀なくされる大手電気通信事業者のトップの数が多くなっている。FTのボン会長に対する辞任圧力の高まりは、このような電気通信業界におけるトップの受難の風潮により増幅されていることも否めない。
 以下、最近のFT財務の特徴と同社の成長市場主義路線の破綻、ボン会長に対する強い批判等について解説する(注1)。
 なお、テレコムウオチャーはこれまで2回にわたり、BTおよびDTの財務状況の分析を行った。当初に予期したわけではないが、今回の記事を含め、欧州3大電気通信事業の財務、経営を研究したトリロジー(3部作)が完成することとなった。本稿に合わせ、2002年6月1日号「新3ヵ年計画推進で生き残りを図るBTグループー2002年次決算は黒字を計上―」、2002年6月15日号「巨額の負債に喘ぐDT(ドイツテレコム)、株主総会でも明確な財務再建計画を打ち出せずー」を参照されたい。

FT決算の概要(2001年通期、2002年第1四半期)

 2002年の3月中旬および4月下旬にそれぞれ発表されたFTのプレスレリースに基づき、同社の2001年通年、および2002年第1四半期の業績のポイントを以下の表1、表2に示す(資料は主として2002.3.21付けFTのプレスレリース、"France Telecom Posts its best-ever operating income in 2001 but net income is negative"、2002.4.14付けFTプレスレリース、"France Telecom reviews up 5.6% for the first quarter in solid growth in wireless ,internet and information business"によった)。

表1 FT決算(2001、2002年通年)の概要(単位:100万ユーロ)

項目
2001年通年
2000年通年
増率(%、2001/2000)
総収入
43,026
33,674
+27.8
EBITDA
12,320
10,807
+14.0
営業利益
5,200
4,856
+7.1
一時支出、特別損失
-10,210
不明
不明
純利益
-8,280
不明
不明
(上表で、支出項目の多くを省略し一時支出、特別損失のみをクローズアップした点をお断りしておく)

 上表によれば、FTは2001年通年において、前年に比し27.8%増と大きく収入を伸ばし、利益も営業利益段階では前年比7.1%増と好調であった。それにもかかわらず多額の損失を計上しなければならなかったのは、主として投資対象企業の多くの株価が低落したため、減価分を特別損失に計上したことによるものである。
 上記特別損失の内訳は次ぎの通り。

  • Mobilecom(ドイツの携帯電話会社)への資本参加に伴う特損:31.9億ユーロ
  • NTL(英国最大のケーブルテレビ会社)への資本参加に伴う特損:45.8億ユーロ
  • Equant(スイスのデータ通信会社)への資本参加に伴う特損:20.8億ユーロ
  • Telecom Argentina(アルゼンチンの電話会社)の株価低落に伴う特損:3.6億ユーロ

 つまりFTは相次ぐ関連会社への資本参加により、確かに収入は大きく伸びた(後述するように特に国外の収入が増加した)ものの、昨年の全般的な電気通信株低下の影響を大きく受け、大幅な特別損失計上に踏み切らざるを得なかった。
 FTは投資の拡大に伴う費用の捻出の多くを借金に頼ったため負債は大きく膨らみ、2001年末、その金額は607億ドルユーロに達した。
 さらに注目すべきことは、FTが総体で大きな成長を示しているのにもかかわらず、収入の過半を占める固定通信分野の収入の伸び率が−1.8%とわずかながら減少したことである。これは同社で始めて生じた出来事であった。
 固定通信分野の収入減はDTについても同時期に生じており、DT、FTともに電気通信サービスの主軸が固定通信から他の分野(携帯電話、データ分野、インターネット分野)に移りつつあることを示す。
 さらに、以下に示すFTの2001、2002年第1四半期の決算では、FTの全般的な収入の伸びの鈍化傾向特に固定通信サービス収入の低下傾向がより明確に看取できる。


表2 FT決算(2001年・2002年第1四半期の概要(単位:100万ユーロ)

項目
2002年第1四半期
2001年第1四半期
増率(%、2001/2000)
総収入
10,604
10,043
+5.6
Orange
   Orange France
   Orange UK
   その他
13,850
1,689
1,409
752
3,351
1,442
1,253
656
+14.9
+17.1
+12.5
+14.6
Wanadoo
   アクセス、ポータル
   Eコマース、電子電話帳
375
215
160
290
112
178
+29.3
+92.0
−10.1
固定通信(フランス国内)
   音声通信
   企業サービス
   放送・CATV
   その他
4,766
3,536
738
263
225
4,989
3,757
719
244
269
−4.5
−5.9
+2.6
+9.4
−16.4
固定通信(国外)
   Equant
   国際通信
   その他
1,613
775
348
470
1,413
274
600
539
+14.2
+182.8
−42.0
−9.1
Equant
775
274
+182.8

 上表について、FTはOrange(FTの携帯電話提供子会社、株式済み)、Wanadoo(FTのISP、ブロードバンド、情報サービス提供会社、かつて国際的に名声を博したミニテルサービス「電子電話帳を始めとする情報サービス」の1部も継承しており、電子電話帳サービス分野の収入もかなりの金額に達している。また英国最大のISPであるFreeserveを傘下に置いている)、Equant(多国籍企業を対象としたデータ、IPプロトコルによるサービスの提供会社、旧GlobalOneとオランダに本拠を置く航空会社を主たる顧客に持つネットワーク会社のEquantが合併したもの)の成長率の高さとこれら携帯電話・情報サービス・インターネット関連分野がFTに有するシェアの大きさを強調している。確かにFTでも固定通信の比率が約3分の1(上表から計算すると2002年第1四半期63.9%)となっており、サービスの多角化は進んでいる。
 ただ上記と裏腹の出来事であるが、FTでは少なくとも2001年第4四半期から固定通信分野での低落傾向が続いている点が注目される。この傾向が期を同じくして、DT、FTの両国で生じていることは、欧州委員会の強い指導もあり、ドイツ、フランスの両国で、固定通信における独占から競争への傾向がようやく軌道に乗り出した事実を示すものといえよう。さらに詳しく、FTの固定通信収入の動きを追ってみると次ぎのようになる。
 固定通信総収入(インターネットアクセス、ブロードバンドを含む)の前年同期に比しての減少率は、2001年第4四半期には−4.9%であった。これは2002年第1四半期には−5.9%へと高まった。このうち音声サービスの減少率はさらに高く、−3.9%(2001年第1四半期)から−6.1%へと落ち込んでいる。
 その主な理由として上げられるのは、2001年の初頭からフランスで進行した電気通信事業者に対するイコールアクセス(ユーザが通信事業者に対し同桁数のアクセス番号によりアクセスすることを認めるものであって、わが国でも"マイライン"として2001年に実施された)の進行である。この他、競争の激化に伴う料金の下落も固定通信収入の原因だとされている。
 また、FTはイコールアクセスの実施により、市内トラヒックの取り扱い数量のシェアが前年に比して96.9%から86.6%に低落したと発表した。低落したといってもこの数字はきわめて高率であって、FT市内通信市場は未だFTの独占に近いといってよい。FTの業績はこれまでこの事実上の市内通信独占により、大きく支えられてきたのである。


批判が強まるボン会長の成長至上主義戦略

 ボン会長は2002年第1四半期の決算を報告した際、FTの2002年通期の展望についても触れ、「FTは電気通信市場のすべての成長分野でダイナミックな成長を続けてきた。2002年にもプラス成長を達成できることをここに確認するものである。第2四半期には、TPSA(フランスの衛星通信会社、放送会社のTF1が大株主(50%)であって、FTは現在16.5%の株式を所有している)をFT傘下に収めることによって、4年連続2桁の収入増を期待できる」と自社の成長率の高さを誇示している。
 しかしボン会長の声明は、「M&Aを駆使しての収入の増大→株式市場での株価増大による差益の獲得→さらなるM&Aの実施」という数年前から実施され、現在それが失敗し、世界的なIT・電気通信分野の不況を招く元凶となった株式資本主義のビジネスモデルを失敗が露呈した現在、今後も継続することに他ならない。FT自体も2001年次通年、2002年第1四半期において、取得した多くの企業の株価低落による特損の計上により大きな赤字を出し、また特に固定通信部門の収入減により、今後の事業の成長に赤信号がともっている最中である。このような状況の下に事業実体を無視した成長至上主義路線を誇示するとは、全くのアナクロニズム以外のなにものでもない。
 しかも、ボン会長が触れるのを嫌がっているかに思われるFTの多額負債についても償還がなかなか難しいとの見方が強まっている。このためFTの株価は続落、6月21日には11.70ユーロとなった。これまでFTの株価はDTに比しかなり割高の水準であったが、この株価水準は10ユーロを切ったDT株価(6月21日現在、8.74ユーロ)とさほどの差はない。
 FTの負債処理に当たっての問題はおよそ、次ぎの諸点に要約されよう。

  • まず絶対額が大きいこと。現在、FTの負債額は670億ユーロに近いと見られている。この額はDTの負債額(672億ユーロ)と同等であり、欧州企業で最大の規模である(注1)。
  • 期を追うに従って負債が増大してきたこと。FTの負債額は2000年末には、507億ユーロであった。それが2001年末には、607億ユーロに増大し、さらに数ヵ月後の現在は670億ユーロに増えている。つまりFTに対する負債減少の実績に対し、信頼がなくなっている。この間、FTは「負債を軽減する」と主張してきたのであって、この約束不履行もFTの信用を大きく損なっている。
  • 債務償還のための大きな売却財源がなく、あるいは交渉が難航していること。FTはイタリア第3位の携帯・固定電気通信のWindに所有している27%の株式を売却する旨の意思表示をしているが、この売却交渉は難航している模様である。しかもこの売却自体がFT携帯電話事業、Orangeの弱体化(さらにいえばFTの汎欧州携帯事業計画の放棄)を招くという批判を受けることとなる。FTは不動産の売却も考えているというが、それにより得られる収入はさほどのものではないと見られている。
  • 関連会社の株式売却の余地がないどころか、ドイツにおける株式所有関連会社、Mobilecomの経営不振に関連し、FTが近々さらに資金供給を行わざるを得ないことは明かになっている。その額は定かでないが、これによりFTの負債額は現在よりさらに増えるであろう(注2)。
  • さらに満期到来による社債、銀行からの融資等で借入れている負債の年々の償還を行わなければならないが、借り換えにはFTの社債各付けが低下しつつある折から(現在、FTの格付けは"適格"の最低位にまで下がっているが、早晩さらに引き下げられるとの見方が強い)困難を伴うし、今後高い利率の下で利払い負担はますます増えるだろう。

 上記のような情勢から、FTがボン会長の下での旧態依然たる拡大至上主義路線で事態を乗り切ることは到底不可能になっている。ファイナンシャルタイムズ紙のある論説は、(1)早晩、FTは負債返還のため、BTが行ったのと同様の転換社債発行を行わざるを得なくなる(2)ボン会長は、負債額は十分FTが処理できる範囲のものである」と主張しているのであるから、この大きな政策転換を主導することはできない。結局、辞職(大株主であるフランス政府の強い意向も反映された上で)に追い込まれると見ている。当を得た観測であろう(注3)



(注1) 現在時点でのFTの負債金額、670億ユーロの数字は、2002.6.14日付けFT、"Debt troubles dog European telecom giants"によった。なお、FTの負債の現状にいての説明は他の点でもこの記事に負う点が多い。
(注2)2000年3月、FTは汎欧州携帯電話ネットワーク構築のための重要な布石として、ドイツの携帯電話会社Mobilecomの株式、22.8%を37.4億ユーロの巨額で取得した。その後、同社の経営は事業不振、3G免許の支払いで破綻状況なり、Mobilecom問題の解決はFTにとって、最も頭の痛い問題となっている。2002年6月中旬、FTに過大な出資要請をし続けてきたMobilecom会長シュミットの退陣、Mobilecomに融資する金融会社17行とFTとのMobilecom再建の構想がまとまった。細部は明らかでないが、FTの増資による株式を金融会社に割当てる方式で、60億―70億ユーロのMobilecom負債のかなりの部分を肩代わりすることとなる見込みである。FTが直接、現金を支出しないで済むように配慮された解決策である模様であるが、今後FTの財務基盤を弱める要因となることは避けられず、この件もFT株価低落に1役買っている。なおFTとMobilecomのこれまでの関係については、2002年4月15日号、「携帯、統合への兆しが見え始めたドイツの中堅携帯電話事業者―駆動力として期待されるiモードサービスー」。
(注3)2002.6.14日付けFT、"European telecoms chiefs under threat"、なおこの記事によると、同様の負債増大問題で似通った批判を受けているDTのゾンマー氏については、「当面、後継者が見当たらない」として、生き残れる可能性を示唆している。


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