巨額の負債に喘ぐDT(ドイツテレコム)、株主総会でも明確な財務再建計画を打ち出せず
2002年6月15日号
DT(ドイツテレコム)の最大の問題は672億ユーロもの巨額の負債の返済計画が進捗していないことである。株主総会を間近に控えた2002年の4月から5月にかけて、DTは2001年通年、2002年第1四半期の決算を発表した。しかしこれら決算の内容は、DTが総体的に収入増を続けながらも、損金計上、主業務である固定電話事業部門の収入減少傾向(2002年第1四半期に顕在化)等により赤字が増大しており容易にこれの解消ができないことを示した。
DT会長のゾンマー氏は、株主総会の冒頭説明のなかで、(1)DTの業績低調、負債の増大は新規分野への先行投資によるもので将来大きな収益をもたらすものであること(2)固定通信の重要性は、DSLサービスの拡大、携帯電話との補完機能等によりその重要性はますます高まっており、今後もDT事業の中核となることは確実であること(3)3G(第3世代携帯電話)サービスの将来性については絶対の自信を有しており、この分野への投資は今後も拡大していくこと(4)今後、経費の節減、従業員の削減、資産の売却等の措置を講ずることにより、巨額の負債を2003年末までには、500億ユーロに圧縮すること等の点を強調し、株主の了解を求める努力をした(注1)。
しかし、株主、利害関係者が懸念しているのは、DTの経営体力が弱り収益からの負債返済能力が困難になってきた今日、利子負担がますます嵩み(DT格付け低下によって、年々の利払いがますます増えていき(.現に2002年4月初旬S&Pは同社格付けを投資適格最下位のBBBに落としている)、将来DTの財務が破綻することはないかということである。
ゾンマー会長の株主総会における冒頭説明は、このような懸念に対し十分に応えていない。ただ自社のこれまでの成果を誇示するのみで、DTおよびDT利害関係者のDTの将来性に対する見方のギャップの大きさを露呈することとなってしまった模様である。
始めて市場に公開された1996年当時、DT株は個人投資家層が薄いドイツにおいて、新たな大衆株式市場の始まりとして大きくもてはやされた。事実、2001年初頭のピーク時には発行時価格の12,25ユーロの8倍を越える104,5ユーロに達した。しかしその後、業績悪化、特に負債増大の発表とともに、DTの株価は低落を続けている。2002年6月11日現在、遂に10ユーロを割った。
ドイツのシュレーダー首相とゾンマー会長の仲は親蜜であり、やる気満々のゾンマー会長が周囲からのブーイング大合唱の最中にあっても、にわかに辞任することになるとは考えられない。ただ株価低落が今後も続くとなると、ゾンマー氏にとっては、本年の夏(ドイツ語でSommerは夏を意味する)はとりわけ暑いものとなりそうである。
以下、DTの2001年、2002年第1四半期決算の概要、DTの負債返済のための諸施策について解説する。
DTの2001年および、2002年第1四半期の決算概要
最初に、BTの2001年および2002年第1四半期の決算の主要項目を3つの表に示す(注2)。
表1 DTグループ決算の主要内容(単位:100万ユーロ)
項目 | 2002年第1四半期 | 2001年第1四半期 | 2001年通年 |
総収入 | 12,770 | 11,082 | 48,309 |
国内 | 8,518 | 8,793 | 35,109 |
国外 | 4,252 | 2,289 | 13,201 |
EBITDA | 3,782 | 3,622 | 18,025 |
純利益 | -1,808 | -358 | -3,430 |
表2 T-Com(固定通信部門)決算の主要内容(単位:100万ユーロ)
項目 | 2002年第1四半期 | 2001年第1四半期 | 2001年通年 |
総収入 | 6,278 | 6,337 | 25,028 |
EBITDA | 2,467 | 2,681 | 10,124 |
税引前利益 | 694 | 1,322 | 4,614 |
従業員数 | 154,983 | 147,771 | 148,247 |
表3 T-Mobile(携帯電話部門)決算の主要内容(単位:100万ユーロ)
項目 | 2002年第1四半期 | 2001年第1四半期 | 2001年通年 |
総収入 | 4,115 | 2,318 | 12,994 |
EBITDA | 1,211 | 590 | 3,137 |
税引前利益 | -840 | -662 | -6,399 |
従業員数 | 37,769 | 29,349 | 30,124 |
上記の諸表から、次ぎの主要事実が読み取れる。
- DTグループの2002年第1四半期の総収入は、前年同期比15.2%と大きく増大している。しかし、これは国外での85.6%もの増(米国携帯電話VoiceStreamの合併によるところが大きい)によりもたらされたものであって、国内では3.2%減少している。
- DTグループの2002年第1四半期の赤字は、前年同期に比し大きく増大している。これには不良資産の償却10億ドルが含まれている。DTグループのEBITDAは僅かながら、前年同期に比し増えている(税・利益・減価償却前の利益を示すEBITDAは経常収支の度合を示す指標と見ることができるので、DTはこの指標により、同社財務の潜在的な健全性がある点を強調している)。またDTの財務担当役員のエッキー氏は2002年にも、DTは2001年同様の300億ユーロ程度の赤字を出すことは確実であり、2003年にも黒字を確保することは難しいと述べている。
- 2002年第1四半期におけるDTグループのT-Com(固定通信部門、まだDT収入の主柱である)の収入は前年同期に比し、0.8%減少した。また減少はEBITDAのレベルではより大きく、減少幅は約8%に達した(注3)
- 2002年第1四半期におけるDTグループのT-Mobile(携帯電話部門、T-Comに次ぎDT第2の収入をもたらしている)の収入は、前年同期に比し、66.5%と大きく増大した。これは、2001年6月のVoiceStrem統合によるところが大きいが、米国以外の地域でも加入者数を伸ばした。収益は税引き前で既に赤字となるほどに悪いが、向上しており、2003年末には税引き利益ベースでの黒字は確実とされている。
- 表2、表3には、T-ComおよびT-Mobileの従業員数をも示した。T-Mobileの場合、米国携帯電話会社、VoiceStream吸収分の従業員数が含まれていることから、従業員数の増は当然であるとしても、本来、合理化を徹底すべきである部門のT-Comでも従業員数がかなり増加している点が際立つ。DTには、組合との協定等で従業員減を難しくする要因があるのではないかとも推測されるが、これでは、コスト節減がこれまで進まなかったのも当然である。
なお、表2、表3には、DTの主要部門として、T-ComおよびT-Mobileの収支を紹介するに留めた。DTの各部門別の収入およびその構成比を表4に示す。
表4 DTグループ部門別収入とその構成比
項目 | 収入(単位:100万ユーロ) | 構成比(%) |
T-Com(固定通信部門) | 6,283 | 49.2 |
T-System(データ通信) | 1,874 | 14.6 |
T-Mobile(携帯電話) | 4,115 | 32.2 |
T-Online(ISP業務) | 427 | 3.3 |
その他 | 111 | 0.7 |
総計 | 12,770 | 100 |
表4に示すとおり、DTの業務の中核は、旧来の固定通信業務および携帯電話事業であり、両業務で総収入の80%以上を生み出している。T-Onlineはドイツのみでなく、欧州における最大のISP事業体であるが、DTグループに占める収入の比率は3,3%と意外に少ない。
DTグループが打ち出した債務負担軽減対策と将来展望―果断なBTの諸対策との比較―
DTのゾンマー会長は、5月28日の株主総会の演説の後半で、債務負担軽減するための諸施策を打ち出した。その概要を表5に示す(注4)。
表5 DTグループの債務負担軽減対策
項目 | 目標 |
経費の節減 | 極力、経費節減に努める(第1着手は、すでに2002年3月に決定、5月末に実施した株式配当40%削減)。 |
不動産、所有企業の株式売却 | 2002、2003年の両年で50億マルクを調達する。たとえば、フランステレコムに所有する3%株式の売却等 |
経費の節減 | 2002年に前年に比し、10億ユーロの削減 |
従業員数の削減 | 2004年末までに、22,000人の従業員数を純減する。 |
すでに、観測筋は今後にDTが取るべき対策について様々な評論を行っている。ここでは個々に詳しく紹介することを避けるが、上記の対策でDTが今後、大幅赤字を予定通り削減することは難しく、たとえばT-Online(すでに株式上場されている)の株式の1部を他社に売却するとか(緊密な関係にあるマイクロソフトへの売却が噂されている)、さらには転換社債による資金調達等が実施される(BTはこの措置により、資金調達を行った)とかの策を講じざるを得まいとの声も聞かれる。
資金調達の点でDTがつまずいたのは、携帯電話部門T-Mobile株式の市場公開(100億ユーロの収入を期待)であった。これは、当初は2000年秋にでも行われる予定であったが、その後VoiceStreamの取得、そのうちに市場環境の悪化等により繰り延べが相次ぎ、結局2002年における売却も不可能になった。さらに当事者間で合意ができていた米国のケーブルテレビ会社、Librty CableへのDTケーブルテレビ6社の売却(55億ユーロの収入を期待)は、ドイツカルテル局の反対により差止められてしまった。双方が実現すれば、500億ユーロへの負債減少は2002年末にでも可能と見られていたために、この大きな2件の株式、資産売却プロジェクトが中止あるいは繰り延べになったことは、DTにとって大きな打撃であった。
現在、DTの株式は不気味な値下がりを示しており、6月11日現在、9,96ユーロにまで低下している。株式総会後も続く市場からのこの不信任投票は結局、利害関係者がゾンマー会長の独善的な考えかたに基づいた微温的は対策では、DTの負債が容易に軽減しないと判断していることによるものであろう。
すでに前回の本欄で紹介した通り、BTは昨年初頭から、1年有余りの期間で、(1)経営陣の刷新(2)固定電話事業以外の内外資産の売却を実施した上、最近、各事業部門ごとの財務目漂を明示した政策の策定を行った(注6)。この結果、BTの株価は現在もわずかながら上昇軌道に乗っている。
DTの負債軽減のためには、BT経営陣が示したのと同様のドラスティックな決断とその決断に基づく実行が求めらよう。(注5)
(注1) |
2002年5月28日に開催されたDTの株式総会は8,000人の株主が集まり、13時
間継続するという異例の展開となった。ゾンマー会長は75分もの大演説をぶったが、後半、野次のため、立ち往生する始末であった。
株主の不満は、(1)株価低落の原因と今後の見通し(2)役員報酬の大幅引き上げの2点に集中した。
ゾンマー会長は、株価低落について、「DTの業績評価に対する不当な過小評価によるものであって、理解できない」との姿勢を取ったが、この独善的な態度(市場の判断より自分の信念の方が正しい)も、出席者から大きな反発を買った模様である。
株主総会の模様については、例えば、2002.5.29付けフランクフルター・アルゲマイネ・ツアイツングの"Aktionare pfeifen Telekom - Vorstand aus"。
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(注2) | 文中の4つの表は、いずれも2002.5.22付けのDTのプレスレリース、" DT with double digit increase in revenue in the first quarter of 2002" によった。
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(注3) | DTは固定通信部門不振の主要因として、競争業者に対するアクセス料収入を挙げている。しかしアナリストたちは、今回のDT決算の特徴は、(1)DT固定通信の成長が国内ではストップしたこと(2)主業務である固定通信に期待できない以上、今後3Gサービス(このサービスも果して離陸できるかいなかがそのそも問題なのであるが)、その他の新サービスがDT業績の牽引者となるまで、DTの今後の成長、業務改善は期待できない点で一致している。例えば、2002.5.22付けファイナンシャルタイムス・ドイチュランドの"Kommentar:Telekom hat sich in Festnez Verheddert" |
(注4) | 2002.5.28付けDTのプレスレリース"Statement of Dr.Sommer on the occasion of the shareholder's meeting on May 28, 2002 in Cologne" |
(注5) | 「新3ヵ年計画推進で生き残りを計るBTグループ」―2002年次は黒字を計上―(6/1/2002) |
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