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新3ヶ年計画推進で生き残りを図るBTグループ―2002年次決算は黒字を計上―

2002年6月1日号

 欧州の電気通信事業者のなかで2001年にもっとも果敢なリストラ、構造改革を行ったのはBT Group,Inc(以下、略称のBTを使用)であった。新任のブラント会長は2001年春以来、放漫な海外投資、3G免許取得、3G網構築等より生じたBTの巨額の赤字を清算するため、思い切った事業部門、資産の売却を実施した。さらにBTは、固定ネットワーク部門(BT Wholesale、BT Resale)、国際通信部門(BT Ignite)、インターネット提供部門(BT openworld)の事業部門により、新たな戦略の下に生き残りを賭けた事業運営と取り組まざるを得なくなった。
 ボーンフィールド氏の後を受けて2002年2月にCEOに就任したフェルヴァーエン氏(Ben Vervaaen)は同年4月8日、BTの新3ヵ年計画を発表した。この計画は、(1)顧客の満足度を高めることを経営の基本に据えること(2)収益向上を図るための施策に焦点を絞ること(3)DSLによるブロードバンドの拡大、さらに再販による携帯サービス分野への進出に力を入れること(4)3年後の業績目標を数値で示したことに特色がある。つまり、BTとしての「選択」と「集中」の戦略を明らかにしたということができよう。
 BTは1ヶ月後の2002年5月16日、同社の2001年次第4四半期および2001年次通期の決算(暫定)を発表した。この決算は予想よりも好調であり、収入は8%増加しわずかながら黒字を計上した。また負債は1年間で279億ポンドから137億ポンドへと半分以下に縮小した。
 市場はこの業績に敏感に反応し、4月初旬の3ヶ年計画発表の時点でもなお下がっていたBTの株価は現在上昇を続けている。
 欧州の3大通信事業者としてBTはFT(フランステレコム)、DT(ドイツテレコム)といつも比較されている。1年前の今頃は3社のうちで最も財務状況が悪く、また市場から最も強い批判を受けていたのはBTであった。しかし今ではFT、DTともに2002年に赤字決算を発表、巨額の債務(1年前より増大している)を抱え、市場、アナリストからの批判にさらされている。FTのボン会長、DTのゾンマー会長は共に両社の民営化時点で、民間企業のトップから転進し、就任後はそれぞれ名経営者と称えられた実績を有している。
 しかし同じ悩みを抱えていたBTがいち早く、負債の大幅な軽減、新たな戦略の策定と鮮やかな実績を示している以上、FT、DT両社の大きなアクションの遅さを指摘されても止むをえまい。すでに両会長の責任を追及する声(特にゾンマー氏に対して)も高まっている(注1)。
 以下、BTの新3ヶ年計画と2001年次決算の概要を紹介する。

BTの新3ヶ年計画の概要

 BTが2002年4月8日に発表した新3ヵ年計画の概要を表1に示す(注2)。

表1 BTの新3ヶ年計画概要

重点項目
施策の概要
達成目標
顧客の満足度の充足
  • 顧客の満足度充足を最重要の目標とする。
  • 顧客との接触に当たり、一層多くインターネットを使用する。
顧客のクレームを年間、25%減少する。
財務規律各事業部門の自主努力による収入増、コスト、キャッシュの管理
  • 年間収入を6-8%増大
  • 収入に対するEBITDA(税引き前、資産評価前、原価償却前の利益)を28-30%にする。
  • 負債を100億ポンド以下にする。
(この他、事業部門ごとのEBITDAの目標が明示されている.本文参照)
ブロードバンドの拡大ブロードバンドを事業の中核に据え、その拡大を図る。
  • 2006年までに、ブロードバンド加入者数を500万にする。
  • BT Retailよるブロードバンド“ダイレクト”サービスを推進
BT Igniteの重点政策欧州で事業を展開し複数の事業所を持つ企業顧客に対し、ネットワーク・ソリューション、付加価値サービスを提供する。2003年までにEBITDAベースでの収支均衡を図る。
ネットワークの統合
  • BTが有するすべてのネットワークは、BT Wholesaleの下で管理する。
  • 旧来の音声・データネットワークへの投資は行わない。
  • 付加価値サービス、ネットワーク管理、アウトソーシングの業者に機会を提供する
 
BTブランドの浸透BTブランドが有効と認められる現行サービスの隣接領域(通信の解決とか、ビジネスユーザーへの無線サービスの提供等)への浸透を図る。 
従業員のモティベーション従業員のモティベーションを高める。特に、ソリューション、ブロードバンド、アプリケーションの分野における新たな要求に応じられるよう技術基盤を強める。 

 上表について、数点の補足を付け加えて置く。

  財務規律:財務指標に対する達成目標は表1に示したものの他、14項目が列挙されている。
うち、各事業部門の目標を示した部分は次の通り。
BT Retail-新サービス導入を軸として、2004/2005年次まで、年間成長率3%
BT Wholesale-2004/2005年次まで、他社よりの収入(筆者注:BTWholesaleの最大の顧客はBT Resaleである)の年間成長率を5-7%
BT Ignite-これまでの事業について、2004/2005年次まで年間成長率15%
BT openworld-2004/2005年次まで年間成長率35%
  ブロードバンドの拡大:表中の「ダイレクト」はBT Retailがインターネットへのアクセスのみのサービスを直接、顧客に提供するものである(通常のインターネットサービスは、ISPがBT Wholesaleから卸買いしたサービスを顧客に販売する)。このサービスは、ISPからの強い反対を押し切って、すでに提供されている。なお、BTによるDSL販売強化策は、すでにこの重点方策発表時点の前の2002年3月に策定、実施されている(2002年3月15日号のテレコムウォッチャー「BT、DSLを経営の中核に据える戦略を推進へーDSL卸売り料金を大幅に引き下げー」参照)。
  BT Igniteの重点政策:BT Igniteは先に解散したAT&Tとの多国籍事業者向け合弁国際通信事業者のConcertのBT部分(欧州が主なサービス提供区域)が主体である。BT Igniteは後述するように、まだ赤字が大きく一層の業務拡大、コスト節減、リストラ実施に迫られている5月中旬BTはこの部門での2,200名の従業員削減を発表した)。
  ネットワークの統合:英国での電気通信分野の競争は激しいが、BTは依然、80%を越える顧客基盤を有している点は強みである。BTはこの加入基盤をべ―スにした英国最大のネットワークを武器にし、これの高度化推進することにより、BT Wholesaleによる回線卸売業を事業の中核に据える不退転の決意を固めている。
  BTブランドの浸透:この項は、「新規分野へのサービス拡大」と読み替えてもよい。特に注目されるのは、無線通信分野への進出である(注3)。

BTの2001年次第4四半期および2001年通期の業績(暫定)概要

 BTは2002年5月16日、2001年次第4四半期および、通期の同社業績(暫定)を発表した。表2にその概要を示す(注4)。

表2 BT Groupの2001年次通期および第4四半期の業績(単位:100万ポンド)

項目
2001年次及び2000年次通期(括弧内)の実績
2001年次及び2000年次の第4四半期(括弧内)の実績
収入
18,447(17,141)
4,735(4,509)
EBITDA
5,748(5,774)
1,431(1,478)
営業利益
2,771(3,082)
650(713)
利払い
1.417(1,196)
301(393)
税引き前利益
1,273(1,763)
371(259)
1株当たり利益
8,8ペンス(19,3 ペンス)
2,6ペンス(3,7ペンス)

 本表を読むに当たり注意すべき点は(1)2000年次との比較の便を図るため、2000年次の数値から2001年次に継続しなかったものは除外されていることである(例えば、2000年次決算発表当時のBT Groupの収入額は20,427百万ドルであって、この数値と表2の2000年次通期の収入額17,141百万ポンドを比較するとBTの事業規模は、約10%程度、縮小したことになる)。(2)この表からは、株式の評価損、資産の減価、資産売却等の特別項目が除外されている。しかしBTは決算報告の本文において、2001年次においてこの特別項目で753百万ポンドの黒字(資産売却によって得た利益4,357百万ポンドと評価損等の赤字3,604百万ポンドとの差額)を出したことを明かにしている。つまり上表にこの数字を加算すれば、BTの利益は50%以上増えるはずであり、BTは表示された数字より含み利益を有していることを意味する。これも市場がBTの今回の決算を好感した理由の一つになっているのかもしれない。の2点である。
 さらに、表3に各部門別の収入、利益(2001年次通期)の状況を示す。

表3 2001年次通期におけるBT Groupの各事業部門の業績(単位:100万ポンド)

事業部門
収入
EBITDA
営業利益
資本支出
BT Retail
12,085
1,301
1,102
143
BT Wholesale
12,256
4,156
2,242
1,974
BT Ignite
4,476
146
-353
609
BT openworld
222
-102
-116
10
部門間の調整
-10,965
 
 
 
18,447
5,948
2,711
3,100

市場から好感をもって迎えられたBTの新戦略と2001年次決算―BTの前途はなお多難―

 前項のBT Groupの2001年次の暫定決算から、次ぎの3点のBTの動向が読み取れる。

  • BTの収入の成長率は2001年次に総体として、8%と堅調であった。また、BTの経営は危ないとのジャーナリズムの報道がなされたのにもかかわらず、利益も実質、昨年並みに留まっている。
  • これは、BTの収入の80%を占めるBT Retail、 BT Wholesaleの両部門(すなわち、BT固定通信の根幹を占める部門)が他社との激しい競争にもかかわらず、従来並みの利益を生み出していることによる点が大きい
  • 将来が案じられ、売却の噂も1時出たBT Igniteも2001年第4四半期(即ち2002年1月から3月)にEBITAベースでの赤字を減らして(前4半期の1400万ポンドから1200万ポンドへと)おり、将来展望が明るくなっている。

 このため、英国シティーのアナリストたちは、おおむねBTの今回の業績を高く評価し、BTは確実に欧州大陸のライバルFT、DTの2社に差を付けたとの見方を発表している。たとえば、JP Morgan Chaseのアナリスト、David Brundish氏は「他の欧州電気通信事業者の固定通信事業の収益が横這いあるいは低下しつつあるなかにあって、BTはある程度の収益増を生み出している数少ない事業者である」と述べている(注5)。
 このように、BTの2001年におこなった果敢な戦線縮小と資産売却作戦、2002年4月の新3ヶ年計画、5月の2001年次の暫定決算発表は、市場からの支持を得ており、BTのブランド会長、フェアバーエンCEOをトップとする新生BTは幸先のよいスタートを切った。
 しかし、BTが示した将来に向けての財務目標はかなりチャレンジングなものであって、その達成には相当の困難を伴うものと考えられる。
 結局、BTの将来のオプションには次ぎの3つのいずれかとなろう。

オプション1:年間、6-8%程度の適度の成長率を示すハイテク総合電気通信事業者
オプション2:年間、数パーセントあるいは横這いの成長率の公益事業的な電気通信事業者
オプション3:減収減益に追い込まれ、新たにビジネスモデルの再構築を迫られることとなる。

 もちろんBTは表1に示されている通り、オプション1を目標に掲げたわけである。しかしオプション2に甘んじなければならぬ事態、さらにはオプション3(可能性は少ないと考えられるにせよ)の事態に追い込まれる可能性もありうるわけである。いずれのオプションに辿りつくかは、今後1、2年のBTの業績により定められることになろう。

(注1) FT、DT両社ともに旧来の経営方針(収入の伸びに期待し、抜本的政策を策定、実施ないことなかれ主義のやりかた)が限界に来ており、経営の刷新を図らなければならないことがそれぞれ2001年次の決算であきらかになった。テレコムウォッチャーでは、近々、両社の経営状況についても(多分、DTは次号)紹介する予定である。
(注2)2002年4月8日付けBTのプレスレリース“Verwaayen sets out new strategy for BT”
(注3)BTは、3ヶ年計画を発表した翌々日の2002年4月10日のプレスレリース"New Mobility Strategy could be worth 500Million pounds extra Revenue in five years"を発表、BT Resaleによる無線サービス分野への進出により、5億ポンドの収入を期待するむねを明かにした。この文書はBTが携帯電話会社のmm02をスピンアウトした後もなお、固定通信、無線通信の組み合わせサービスで収入拡大を計ることを意図しているものとして注目される。
 その重要点は(1)ワイアレスLan分野への進出(2)BTブランドによるビジネス顧客向けのモーバイルサービス(GSM、GPRS、3Gの各プラットフォームについて)を提供する。エアタイムの供給は、mmO2から受けるというものである。
(注4)2002年5月16日付けBTのプレスレリース“BT announces fourth quarter and full year results”
(注5)2002年5月17日付けFT.com,”BT pleases City as it bucks trend”


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