DRI テレコムウォッチャー




株価低落が止まらないWorldCom ― エバーズ氏は会長、CEOを辞任 ―

2002年5月15日号

 前回にも紹介した通り、欧米の電気通信業界はバブルの時期とは逆の強烈な負のスパイラルに見舞われている。いわば、ジェットコースターが下りのコースに入ったかのような感すらある。最近特に株価を下げ、テレコム関連の他の株価にも下降圧力を及ぼしているのは米国においてAT&Tに次ぐ長距離電気通信事業者のWorldComである。(注1)。
 創業者のエバーズ氏(Bernie Ebbers)は、WorldComの将来について最後まで強気であったが、株価の低落に伴う株主からの批判に耐えられず、4月30日(この日WorldComの株価は3ドル台を割った)に会長、CEOの職を辞した。
 後任には、副会長のシジモア氏(John Sidgmore、51才)が就任した。氏はかってWorldComに吸収された長距離通信会社のMFSの出身であり、腕利きの経営者として業界での評価は高い。
 しかし、これだけ市場から見放されているWorldComが業績の立て直しを行っていけるかどうかについてアナリストたちはおおむね否定的である。事実、経営者の交代した当座は少し値を戻した同社の株価は、その後また値を下げたし、さらに格付け会社のムーディーズは5月9日、同社の格付けをBa2に引き下げ、同社社債をジャンク債(投資危険が甚だ高い)に位置付けた。株価はさらに下がり、5月10日には1.58ドルとなった。これはまさしく破産申請あるいは企業解散をする企業の株価水準であり、将来も利益(わずかながら)を生み出して行けるとのWorldComの主張を市場、格付け会社が認めず、同社の先行きに見切りをつけた結果である。
 以下、WorldComの財務状況、同社が転落した原因について解説する。

減収減益傾向を明らかにした2002年第1四半期決算および2002年通期のガイドライン

2002年度第1四半期決算の数値

 WorldComは2002年4月23日、2002年第1四半期における同社の決算を発表した。以下その資料に基づき、同社の収入、純利益の数値を表で示す(注2)。

表1 2002 年第1四半期におけるWorldCom, Incの収入、純利益
(単位100万ドル、括弧内は前年同期の数値)

項目
WorldCom, Inc
WorldCom Group
MCI Group
収入
8,120(8,825)
5,078(5,203)
3,042(3,622)
純利益
220(670)
274(579)
-54(91)

 周知の通りWorldCom, Incは、それぞれ米国長距離通信業界の大手事業者であったWorldComとMCIが統合してできた企業である。1999年から、おおむね旧WorldComとMCIの業務区分に添った事業部(WorldCom GroupおよびMCIGroup)単位でトラッキング株を発行している。上表は両事業部門およびWorldCom, Inc(即ちWorldCom Group+MCIGroup)についての数値を示したものである。
 上表からすると、WorldCom, IncではWorldCom Groupが全収入の約3分の2(62%)、MCI Groupが約3分の1(38%)を占めている。純利益となるとMCIGroupは赤字を計上しており、その赤字をWorldComGroupの黒字でカバーしている。
 もっとも、上記の数値は決算資料の表の部分から抽出したものであるが、本文のなかではNews Corporations株式の損失を計上したとして、WorldComGroup、WorldCom, Incについて、それぞれ表より0.9億ドル少ない数値が計上されている。
 いずれの数値を使おうと、2002年第1四半期におけるWorldComの利益は売上に比しきわめて低く、辛うじて黒字になったという程度のものである。株式低落の最中でもあり黒字計上だけはしておこうとの思惑が働いていたと見られても仕方がない。

表2 2002年第1四半期におけるWorldCom Groupの収入内訳
(単位100万ドル、括弧内は前年同期の数値)

項目
収入
増減率(%、2002/2001)
音声
1,518 (1,726)
-22.2
データ
1,963(2,043)
-4.0
国際
811(710)
+8.9
専用インターネット等
786(722)
+14.2
5,072(5,203)
-2.5

 上表では、サービス内訳ごとのWorldComGroupの収入の増減が明確にされている。減少の著しいのは音声であるが、今期はデータも減少した。昨年まで、データは2桁の勢いで伸びており、減少する音声を補って余りあるものと見られたが、今期は最も成長が期待されるデータも赤字となった。後述する通り、昨年まで年率2桁の比率で成長を続け、WorldCom業務の中核になるものと期待されていたこのデータサービスの落ち込みが利害関係者のWorldCom,Incに対する評価を大きく下げることとなった。
 また、国際、インターネット等はかなりの成長を示しており、この分野での依然としたWorldCom,Incの強さを示している。

 次ぎに、同様にMCIGroupの収入内訳を表3で見てみよう。

表3 2002年第1四半期におけるMCI Groupの収入内訳
(単位100万ドル、括弧内は昨年同期)

項目
収入
増減率(%、2002/2001)
消費者
1,595(1,807)
-11.8
卸売り
584(695)
-16.0
代替回線・小企業
525(695)
-24.5
ダイアルアップ・インターネット
338(425)
-21.5
3,042(3,622)
-16.1

 上表が示すとおり、WorldComGroupはすべてのサービス品種について2桁台の収入の落ち込んでおり、救いがない。
 このように、WorldCom,Incを構成する二大事業部門の決算を比較すると収入面でも、利益面でも消費者主体のMCIGroupの劣勢が顕著である。この事実は、WorldCom,Incの将来の立て直しのオプションについての手掛かりを与えることとなる。

先に発表したWorldCom Groupについての2002年財務見通し(Financial guidance)を下方修正

 WorldCom,Incは、2002年次第1四半期決算を発表する前の4月19日、WorldCom Groupについての2002年通期の財務見遠し(修正)を発表した(注3)。その要旨は次ぎの諸点である。

  • 収入は210億ドル-215億ドル(前回の見積もりは222億ドル-226億ドル)
  • EBITDA(利子、税金、資本償却前の利益)は70億ドル-75億ドル(前回の見積もりでは84億ドル-85億ドル)
  • 資本支出は約45億ドル(前回の見積もりでは50億ドル-55億ドル)

 この発表は、WorldCom Groupが2002年に2001年に比し、縮小した規模の下で、事業運営を行わなければならないことを示すものであり、発表後の株価持続的低落を大きくプッシュする主原因となった。

WorldCom,Incの財務危機の原因―大きい負債、財務に対する信用失墜、業績悪化の直撃―

 WorldCom,Incの最大の問題は負債の大きさである。同社は308億ドルの負債を抱えており、米国電気通信業界でもっとも負債額の高い企業となっている。これまで、巨額の負債により、先行きを懸念されていたAT&Tはその後、企業分割、資産売却の努力により、負債の減少に努めた結果、現在負債額は173憶ドルとWorldComに比しほぼ半額である。このためAT&Tの株価もじわじわと下がっているものの13ドル台を維持しており、WorldComに差を付けている(注4)。
 第2は、WorldComがエンロン破綻に伴うSECの大掛かりな経理不正事件の調査に関連して、Qwest Communicationsと共に3月中旬から調査を受けていることである。SECの具体的な調査対象がなにであるかは明かでなく、諸種の噂が流れているが、幾つものM&Aを通じて成長して来た同社の資産計上の経緯のすべてが調査されているという。またエバーズ元会長がWorldCom社から3.86億ドルもの巨額の借金をしている事実も判明し、同氏の清廉さにも傷がついた。このようにして、同社がこれまでに発表してきた会計諸表が果して信頼できるものかどうか(つまりWorldComの経営実態は見掛け以上に悪いのではないか)についての疑念が生じている。
 第3は、上記と関連してWorldComに債務不履行の懸念が生じるか否かという点であるが、実のところアナリストたちは2002年内に同社が信用危機に陥るとは見ていない。同社は手持ちのキャッシュは十分持っているから負債のほとんどを占める社債の利払いに困難を感ずることはない。また新たにCEOに就任したシジモア氏は、最近、同社の取引銀行団から電気通信収入を担保にしての20億ドルの信用枠を新たに設定したばかりである。
 ただ、長期的な展望からするとWorldComの将来は暗い。「300億ドルの巨額の負債を抱えているのに、収入は年間、10億ドルも落ち込む。基幹事業のはずであるデータサービスからの収入の伸びは、今後期待できない(2002年第1四半期の伸びは前年同期の27%から3%に低落してしまった。しかも電気通信市況には回復の兆しがない)というのが、代表的なアナリストの判断なのである(注5)。

 5月9日には、ムーディーズがまた翌5月10日にはS&Pと米国の代表的な格付け機関がWorldCom,Incの社債ランキングを三段階下げて、ジャンク株(投資不適格)に指定したのは上記のような背景によるものである。
 すでにアナリストたちは、WorldCom,Incの対応策について議論を行っている。大別すれば、(1)資産売却、あるいはMCIGroupの売却で切り抜けられるか(2)破産法11章の適用により、禊を受けた上で債権に乗り出すかの2つのコースが議論されているが本稿ではその中身に触れない。
 もっとも、WorldCom,Incより先に信用危機を報道されたQwestCommunicationsInternationalが今のところ、WorldCom,Incよりやや、市場評価がましである(社債各付けはジャンク債より1ランク上、株価は4ドル台)点が注目される(注6)。同社に関する3月1日の拙稿でも述べたところであるが、(1)大幅収入減の2002年見通し(2)SECよりの会計調査による財務面の疑惑とWorldCom,Incと共通の弱点を抱えながら、評価がやや上位であるのは、同社が1,800万加入の市内電話加入者を所有しており、将来もこれら加入者からのキャッシュフローに期待できる長所を有していることによるものである(注7)。
 ところで、WorldComは米国第2位の長距離電話事業者であるばかりか、世界ではトップの国際電気通信事業者であって、グローバルに大規模な国際事業を展開している(注8)。すでに、同社株式の転落は同業他者にもインパクトを及ぼしているばかりか、債券市場、金融市場にも影響をもたらしている。今のところ、つい2年ほど前、Sprintを吸収し、そのうちAT&Tを抜いて世界最大の電気通信事業者に成長するのではないかというのが大方の論調であった。いかに、変化の激しい昨今の電気通信業界の予測が難しいかを歎ずるのみである。


(注1) 最近の米国電気通信業界の経営不振の状況および見通しについては、2002年5月1日号テレコムウォッチャー「米国電気通信事業者の経営不振、長期化の見込みー業界再編不可避の情勢へー」で解説した。本稿は前号のこの記事のいわば続編としての意味を持つ。
(注2)2002年4.25日付けWorldCom,Incのプレスレリース、"WorldCom Group Releases First Quarter Results"
(注3)2002年4.19日付けWorldCom,Incのプレスレリース、"WorldCom Group Revises 2002 Guidance"
(注4)WorldCom,Inc、AT&Tの負債額については、幾つかの資料の数値があるが、ここでは5月6日付けビジネスウィーク誌の"Woe is Worldcomモ掲載の数字を使った。もっともこの数字では、AT&T負債額は同社ブロードバンド部門とComcastとの合併後のもの(厳密には推計値)となっているようである。
(注5)5月3日付けのビジネスウィークオンラインに掲載されたCharles Haddad氏の見方。
(注6)2002年3月1日号テレコムウォッチャー「資金繰りに苦しむQwest Communications International」
(注7)2002.5.12日付けのYahoo! Finance "Qwest5Troubles Worry Employees" に引用された1部アナリストたちの意見。しかし、Qwestには将来がないとする厳しい見方もある。
(注8)Telegraphy2001によれば、2000年のWorldComの国際トラヒックは前年度より49.5%と大幅に増加し、AT&Tを抜いた。この傾向はその後も変わりがないと考える。


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