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米国電気通信業者の経営不振、長期化の見込み ― 業界再編不可避の情勢へ ―

2002年5月1日号

 懸念された世界経済の景気は急速に復調に向かっており、4月20日のG7でも世界景気の回復が確認された。米国では、2002年第1四半期にはGDPの伸びが4%程度に達したのではないかとも言われている。
 ところが欧米の電気通信事業界では、事業者の業績悪化、株価の低落が相次いでおり、景気回復どころか、いつ事業者、機器メーカの業績悪化に歯止めが掛かるのかの先行きが不透明な状況である。「山高ければ谷深し」。ほんの2年ほど前には成長産業の花形としてもてはやされていた電気通信会社が続々と社債引き受けの格付けを引き下げられ、金融筋から最も要注意の業種だとの烙印を押されるようになってしまった。多くの事業者があるいは、資金調達に苦労し、あるいは負債利払不能の悪夢に怯え、さらに命運つきて倒産の苦杯を嘗めるといった現象が続いている。
 振り返るとバブル崩壊の端緒は、いわゆるドットコム(インターネット上のポータルを利用したビジネスモデルにより業を営む企業)の経営破綻がキッカケとなった。経営破綻は2000年春頃から始まり、同年末から2001年半ばに掛けて多くのドットコム企業が市場から姿を消した。
 2001年下半期から2002年に掛けては、CLEC(代替競争事業者)が軒並み経営不振に陥り、破産申請を行う事態が生じた。この事態はなおも継続中である。これと平行して、これら業者に機器を提供している機器メーカ(米国の大手機器メーカは、Lucent、Nortel、Ciscoの3社である)も深刻な需要減に直面し、現在、その対策に苦慮している。
 事態をさらに悪化させる契機となったのは、明らかに2002年2月に生じたGlobal Crossingの米国破産法11章による破産申請である。さらに、同年1月に経営破綻した米国大手エネルギー会社エンロンの破産を契機とした会計不正調査がGlobal CrossingさらにはQwestCommunications、WorldComへと波及し、電気通信業界の経営不振は大手の光ファイバーによる回線卸売り事業、長距離通信事業にも及ぶこととなった。
 最終的に、米国電気通信事業の不況が並々ならぬものでないことを確信させたのは、最近ほぼその全貌が明らかになった2002年第1四半期の決算である。ほとんどすべての電気通信業者、機器メーカが前年同期に比し減収、減益の数字を出した。また2002年全期について、悲観的な見通しを示している。
 特にショッキングであったのは、RHC3社(決算の発表を行っていないQwest Communicationsを除く)の決算で、3社中の2社(SBCCommunicationsとBellSouth)が前年同期に比し減収となったことである。これにより、これまで米国電気通信業界のなかで唯一業績維持が期待されていたRHCすら事業収縮の段階に陥ったのではないかとの疑惑が生じた。
 電気通信業界の不況は米国に限られたものではない。欧州電気通信業界でも米国と共通の原因あるいは別箇の原因(3G免許料の多額の支払い、巨額の3G網構築に要する投資の電気通信事業者に及ぼしているインパクト等)により、米国同様、電気通信事業は多大の負債償還に喘いでいる。また機器メーカも需要の減退により、経営が悪化している。このような情勢から、アナリストの1部では特に米国電気通信業界について、再編必至との見方も出始めている。
 欧州の電気通信業界の実情については、別途紹介することとして、本稿ではとりあえず米国電気通信事業者の経営不振の最新の状況、今後の見通しを解説することとする。

米国電気通信事業の不振を示す局面(その1) ― 依然として続くCLECの破綻 ―

表1 最近に破産申請をした3社の状況

事業者名
事業内容
経営破綻の状況
Adelphia Communications光ファイバーを利用してのビジネス・ユーザーに対する総合電気通信サービスの提供2002年3月27日に米国破産法11章に基づく破産を申請。1.35億ドルの負債返却の目途が立たなくなったため。現在、債権者と再建策を協議中
Flag Telecom Holdings Ltd国際通信事業、ISP、ASPに対する通信回線の卸売り2002年4月2日に米国破産法11章に基づく破産を申請。回線需要の低落と重い負債が破綻の原因となった。現在、金融機関、債権者と再建策を協議中
Williams Communications光ファイバーによる市内・長距離・国際通信回線の卸売り。年商は10億ドル超親会社のWilliams Communications Groupを通じ、2002年4月22日に米国破産法に基づく破産を申請。巨額の負債(同社は明かにしていないが、60億ドルを大きく上回ることは確実)の返還について、これまで債権者側と話し合いを続けてきた。

 破産申請をした上記の3社がすべて実際に破産をすると定まったわけではない。特に、つい最近に破産申請をしたWilliams Communicationsは、すでに債権者筋との間で同社再建の手はずはのすべてを整えている点を強調している。米国破産法11章はすでに内部的に定まった再建に向けてのステップを進める最初の手続きとして利用される例もあるようである(注1)。
 この3社以外に最近、メトロメディア(Metromedia Fiber Network)が実質的に破産状態に陥っている事実にも注目するべきである。同社はRHCに対抗し、米国主要都市で企業向け高速光ファイバーケーブルを提供してきた大手CLECである。同社はほんの6ヶ月前に6.11億ドルの融資パッケージを受けたばかりであるが、その後急速に資金繰りが悪化し、株価は5セントの水準(ピーク時の98%減)に下がっている。
 メトロメディアは4月中旬、債務の利払いができなくなり、完全な債務不履行状況になった。Verizon(メトロメディア株式6.6%を所有)等の株主、債権者と再建策を協議中であるが、同社自体、今後の破産申請の可能性を否定していない。
 このような状況からすると、米国電気通信業界ではまだまだ破産申請の予備軍が控えているものと思われる。

米国電気通信事業の不振を示す局面(その2) ― 収入減の傾向が現れたRHC各社 ―

 RHC3社の2002年第1四半期の業績を表2に示す。

表2 2002年第1四半期決算におけるRHC3社の主要指標

事業者名
主要指標(利益、売上高の単位は億ドル)
利益
売上(前年対比)
アクセス回線減少率
BellSouth
-11.6
55.3(-6.5)
-1.8
SBCCorp
-0.81
67.6(-8%)
-1.4
Verizon
-0.501
164(0から1%)
不明

 以下に多少、表2の解説を付け加えておく。

  1. 3社の利益が赤字になったのは、それぞれ資本参加した企業の株価減少分の損失を計上したためである。たとえば、Verizonは25億ドルもの多額の損失を計上した。
  2. 3社とも、売上げ高落ち込みの主たる理由を「一般的な米国経済の低迷」、「アクセス回線の減少」(Verizonのアクセス回線も減少していることは間違いない)としている。しかし米国政府の発表では、第1四半期にGDPの成長率はかなりの上昇(ある発表では4%)を示したと見ており、どうして電気通信サービスの売上がこれだけ落ち込まなければならないのか疑問が残る。
  3. RHCのアクセス回線減少は1年前から始まった現象である。これまで米国の家庭では、2本目、3本目の電話を持つ傾向が続いてきた。この傾向はインターネットへのダイアル回線のアクセスによりさらに促進されていた。(注2)。

米国電気通信業界の不振を示す局面(その3) ― 落ち込みの激しい長距離電気通信事業者の業績 ―

 長距離電気通信事業者のうち、WorldComは危険水域の5 ドルを割った後も株価が日々下がっており危機的状況にある。また、他社に遅れて決算数値を発表したAT%Tの業績も惨憺たる内容であり、関係者に衝撃を与えている。以下、長距離通信事業者3社の概況を述べる。

WorldCom-Group:負債(約300億ドル)、SECによる疑惑調査、同社が最近発表した2002年全期の悲観的な業績見通しにより、株価は不気味な値下がり(4月24日、3.48ドル)を続けている。すでに同社の経営破綻を示唆する報道すら出ているほどである(注3)。

AT&T:損失9.75億ドル(前年同期は1.92億ドル)、収入120.2億ドル(前年同期8.4%減)を計上した(2002年第1四半期決算)。AT&Tは料金値下げ競争、RHC市場参入による競争、顧客の需要のeメール、携帯電話サービスへの移行による影響を業績悪化の主原因としており、第2四半期にもさらに収入減が続くとしている。
 実のところ、最近、アームストロング会長が比較的自社に有利にAT&Tブロードバンド部門とComcast社の統合を成し遂げたこともあり、AT&Tの復調、長距離通信事業者としての生き残りを予測するアナリストも出ていた(注4)。しかし今回の決算はAT&T業績への幻想を完全に打ち砕いてしまった。発表のあった当日、AT&Tの株価はこれまでで最低の13.75ドルを示した。

Sprint Corp:長距離通信事業者のなかで比較的良好な決算を行ったのはSprintCorpであった。同社の利益は1.4億ドル(前年同期は0.96億ドル)、収入は69.6億ドル(前年同期比8%の増)と好調であった。同社は市内部門を有している強みを生かし、市内、長距離のパッケージサービス販売によるユーザーの囲い込みに成功したとしている。この説明が妥当するなら、市内+長距離の混合事業の存在がAT&T、WorldComとの差異を付けたと言い得るかもしれない。
 WorldComが最強の長距離電気通信事業者として評価され、SprintCorp買収についての合意を発表した2年前の当時は、3大長距離通信事業者の順位は、WorldCom、AT&T、Sprintであった。皮肉にも、現在の順位は1位と3位が逆転している。

将来の展望―予想される業界再編成

 最近の米国における電気通信会社の業績の悪化とそれに伴う株式の低下により、当の電気通信事業者もまたアナリスト達も、2000年末までにこれら企業の業績が回復することはあるまいと見ている。また、それでは2003年以降いつ回復するかについても明確にその時期を予告する論者はいない。それほど将来が不透明になってしまっている。
 いずれにせよここまで電気通信事業者の業績が落ち込むと業績の不振は長期化(2003年中に回復の兆しがみえるか、あるいはさらに2004年にまで回復がずれこむか)することは必至と見られる。

 業績悪化の原因は、一口で言えば将来需要を過大評価するあまり事業者も金融機関もアナリストもこぞって電気通信バブルの御輿を担いだのであって、そのバブルの夢が消え去った今、その清算を迫られているからだということになる。
 清算過程のなかでM&A(企業の合併・統合)が行われ、業界再編が進むことは避けられまい。ただ、巨額の負債(2001年末の基本電話サービス事業者の負債は2,480億ドルに及ぶという数字もある)の処理があるため、規制緩和、競争原理に委ねるといった自由放任政策でこと足りるかいなかは疑わしい(注5)。米国の電気通信業界は、不良債権の多くを生んでいるわが国の建設、不動産、流通の諸社と同様の状態に陥っている。米国の電気通信企業の問題はいまや不良債権処理の問題であって、金融機関、政府が大きく関与せざるを得なくなろう。すでにこのような前提に基づく調査会社の将来予測が生じつつある。

 CIBCWorld Marketsは、米国電気通信事業者の将来の姿として、3RHCが他の長距離、携帯電話会社を吸収してそれぞれの地域で統合サービス(電話、データ、携帯電話の諸サービス)を提供することとなる可能性が強いとしながらも、FCCの通信政策、規制の方向いかんによっては、別のシナリオが生じる事態もありうるとの見通しを示している(注6)。

 また米国のある大手電気通信コンサルタント会社は、将来の米国電気通信事業再編について次ぎの3つのシナリオを描いている。

  1. 電話会社は私企業として生き残れず、すべて国営化もしくは公社化される。
  2. RHC3社だけが生き残り、長距離、国際、ISP、携帯電話すべてを吸収する。
  3. 携帯電話のうち3社が生き残り、他部門をすべて吸収する(注7)。

 実のところ、上記の2つの予測はさほど異なったものではない。RHCが将来に統合通信サービスの担い手になる可能性があると見ている点では双方の意見は一致している。
 また、米国調査会社は電話会社が私企業として生き残れない視点を大胆に打ち出しているが、CBIC World Marketsの側も第2のシナリオとして政府の介入を否定していない。
 米国電気通信業界はここ数年間、バブルとその崩壊という激動の時代を迎えてきた。
 バブル清算とそれに伴う業界再編制という形で、激動の時代はさらに幾年か継続することとなろう。


(注1) 破産法11章の本質はいわば会社更生法なのであって、破産申請をした会社がすべて倒産するわけではない。一定期間の間に特定の好条件(債務の減免とか、税金についての特別措置とか)の下で、債務返済の見通が立った企業には再建の機会が与えられる。Williams Communicationsのように、あらかじめ再建計画を関係金融機関等と定めた上で破産(この用語自体が適当でない)申請を行う例があるのである。
(注2)2002.4.15日付けFT.Com "BabyBells hit by a series of wrong number"
(注3)WorldComに関する記事は数多いが、同社の将来についてもっとも厳しい評価をして いるものとしては、2002年2月23日付けFT.Com "WorldCom plunges as analyst changes stance"
(注4)もっとも好意的な意見は、2002.2.23日付けのEconomistに掲載された "AT&T May Hit Debt Rating"
(注5)Simon Flannery氏(Morgan Stanley社)の数字。2002.4.10日付けYahoo!Financeの"SmartMoney.com-Eaaning Watch Telecom: A Matter of Life and Debt" からの孫引き。
(注6)2002年4月22日付け、CBS.Market Watchの "Phone firms face whirlwind of change Commentary:New Report gives glimpse of radical future"
(注7)データリソースの佐々木社長が、最近米国のある大手電気通信コンサルタント会社の首脳から受けた聞き取りによる。


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