DRI テレコムウォッチャー




提携、統合への兆しが見え始めたドイツの中堅携帯電話事業者
     ―駆動力として期待されるiモードサービス ―


2002年4月15日号

 ドイツでは次表に見る通り、3G免許を取得した携帯電話事業者6社が事業を展開している。

事業者名(所有者)
事業概要
T-Mobile
(ドイツテレコム)
ドイツでは第1位の携帯電話事業者。欧州では、ボーダホンに次ぐ事業者として、フランスのオレンジと第2位の地位を狙い激しく競争している。
Mannesmann Mobile
(ボーダホン)
ドイツ第2位の携帯電話事業者。ボーダホンの完全子会社。
E-Plus
(オランダのKPNMobileの完全子会社)
ドイツ第3位の携帯電話会社。2002年2月下旬にiモードの携帯電話サービスを欧州で最初に開始した。また、KPNMobileは最近ベルサウスからE-Plusへの持分を取得し同社を完全子会社とした。
Mobilcom
(フランスのオレンジが資本参加)
ドイツ第4位の携帯電話会社。オレンジは当初22.8%の資本を取得していたが、33%の株式買い増しを行い支配権を持つ予定。
Viag Intercom
(英国のMO2)
ドイツ第5位の携帯電話会社。MO2の完全子会社であり、まもなく社名もO2に改称される予定。
Quam
(Telefonica/Sonera)
Telefonica(スペイン)とSonera(フィンランド)の合弁会社。3G事業の展開を目的として設立された合弁会社。

 上表が示すように、ドイツの携帯電話市場は(1)欧州最大の規模であって、3G免許を所有する事業者が6社あり過当競争になっていること、(2)6事業の所有者はそれぞれドイツ、英国、フランス、オランダ、スペイン、フィンランドの携帯電話業者であって、欧州携帯電話事業者に典型的な国際競争の場を提供していること、(3)第1位、第2位を占めるT-MobileとMannesmannの両社の力が圧倒的に強く、両社だけで全市場のシェアの約80%を占めていること、(4)3位以下の中堅事業者に対しては、親会社が揃って100%子会社化(E-Plus、Viag Intercom)あるいは支配権取得(Mobilcom)などの動きによりコントロールを強め、業績強化に努力してはいるものの、全般的に加入者数は低迷、業績停滞が続いているという点が特徴となっている。
 当然、市場規模に比し携帯電話事業者の数が多く、早晩、合併、統合過程の進展により、業者数が淘汰されざるを得ないとの観測が従来から行われている。
 最近、オレンジとMobilcomの3G導入を巡っての確執とその結果としてのオレンジによるMobilcomの経営権取得、さらにP-Plusのiモードサービス開始とKPNMobile(E-Plusの親会社)のドイツ携帯電話事業に対する積極的発言(多分にiモードの成功確信を根拠にしたと思われる)により、ドイツ携帯電話事業統合の兆しが見え始めた。
 以下、フランステレコム(オレンジ)とMobilcomの3G戦略を巡っての対立とその結末、KPNMobileの将来についての強気の姿勢等の最近の情勢について述べる。

フランステレコムとMobilcom、3G戦略を巡っての対立の末、新たな関係を設定へ

背景

 フランステレコムは2000年3月、ドイツ第4位の携帯電話会社であり果敢な市場獲得戦略を遂行することによりシェアを伸ばしていたドイツの携帯・長距離電話会社、Mobilcomの株式28.5%を37.4億ユーロの巨費を投じて獲得した。その狙いは、欧州最大のドイツ携帯電話市場で将来大きな発展が予想される3G事業の拠点を確保することにあった。
 ところがMobilcomの経営は2000年次から次第に悪化を続け、2001年次の決算では約2億ユーロの赤字(2000年次は0.8億ユーロの赤字)となった。また47億ユーロの巨額の負債を抱え、その1部の返済を2002年7月に控え、その金策に追われる状況である。
 このような状況の下でMobilcomのシュミット会長は、フランステレコムが同社に資本出資したときの契約をたてに取り、フランステレコムに対し3G網構築の経費として当面11.4億ユーロの支出を要求した。出資に関してのフランステレコムの契約内容についてはフランステレコム側とMobilcom側で意見が対立し、Mobilcom側はその内容確定のため裁判所への提訴も辞さないと迫った経緯もある。しかしフランステレコムが3G網の構築、3Gサービス提供のため、2010年までに100億ユーロまでの資金提供を約したことは確かなようである(たとえば2002.3.20付けドイツ版フィナンシャルタイムズ、"Mobilcom: Schmid ubt Verkaufsoption aus")。
 ところがフランステレコムにしてみれば、最近Mobilcom分をも含め2001年次決算に株式取得にともなう損失額を計上し、大幅な赤字決算(83億ユーロの赤字)を行ったところである。さらに同社自体、欧州企業として最大級の650億ユーロに及ぶ負債に苦しめられているさなかである。その上Mobilcomの業務、ひいてはドイツの3G携帯事業の将来について懸念を抱いていることもあり、到底Mobilcomの要求に応じることはできなかった。
 フランステレコムは、(1)提供できる資金はたかだか数億ユーロであること、(2)3G遂行については、他の携帯事業者(例えば、E-PlusあるいはViag Intercom)との提携を考えることのコメントを付し、Mobilcomの要請を拒否した(2002.2.26付けドイツ版ファイナンシャルタイムス、"Mobilcom finanziert UMTS auf vagem Grund")。

フランステレコムはさらにMobilcom株式の33%を取得、Mobilcomのシュミット会長は辞任へ

 このように手詰まりになった状況は、(1)フランステレコムがさらに33%のMobilcom株式を購入し、同社のマジョリティーを握ること(フランステレコムの株式は61.5%となる)、(2)Mobilcomの創立者であるシュミット会長が辞任することで決着した。
 ここで注目されるのは、フランステレコム側が決して積極的に、Mobilcomの株式取得に動いたわけではなく、Mobilcomとの3Gへの資金供与の約束履行の訴訟に巻き込まれるよりは、被害が少ないとのセカンドベストの策としてこの方策を選んだと考えられることである。
 従って次項でも述べる通り、同社はこれを機会にさらに資金を投じてでもドイツ携帯電話市場での積極策を推進しようとの気迫はさほどなく、当面、Mobilcomが有している47億ドルの負債の背負い込みを少しでも減らそうとの自社防衛の方向が読み取れる(2002.3.26付けFT.com, "Mobilcom and France Telecom agree "ceasefire")。

見え始めたドイツ中堅携帯電話会社の提携、統合への兆し

 先に述べた通り、フランステレコム(Mobilcomの親会社)は将来のMobilcomのありかたとして、強大2社(T-Mobil、Mannesmann)を除く中堅携帯電話会社の提携、統合を望んでいる(2002.3.22付けファイナンシャルタイムスのドイツ版、"France Telecom will Partner fur Mobilcom")。さればといって、実際に提携、統合に向けて大きくイニシャティブを取るつもりはない模様である。
 業界第5位のViag Intercomも加入者数360万、市場シェア6%と弱小であり、加入者増は進んでいない。最近、親会社のMO2は今後5ヵ年間で市場シェアを倍増し12%に高めるようにとの強い指導を行っているが、他社との提携、統合の可能性については言及していない(2002.3.13付けドイツ版ファイナンシャルタイムス、"Britiche mmO2 knebelt Viag Interkom")。これに対し、ドイツ市場での動きがもっとも活発なのは、中堅携帯電話事業者グループでもっとも業績が良く、また親会社(KPNMobile)の活動が活発であるE-Plusである。同社はフランステレコムの意向をも受けて、ドイツ中堅携帯電話事業の統合を実現する可能性は十分あると考えられる。以下、KPNMobileおよびE-Plusの動きを追って見る。

E-Plus、iモードのサービス開始に満足と発表

 周知の通り、E-Plusは2月下旬、ドイツにおいて欧州初のiモードサービスの提供を開始した。わが国ではジャーナリズムもiモードサービスの創始者であるNTTDoCoMo自体も、ドイツにおける欧州最初のサービス成果については慎重のようであるが、E-Plusは3月上旬、サービス開始後2週間後に「これまでのところ、われわれは成果にきわめて満足している」と発表した(2002.3.4日付けドイツ版ファイナンシャルタイムス、"E-Plus mit i-Mode Start zufrieden")。同社は獲得加入者数は示していないし、E-Plus外の供給源からの情報が今のところないので、サービスがどのように加入者から受容されているかの真相は不明である。しかし次項で紹介するようなE-Plusのドイツ携帯電話市場についての強気の姿勢からすると欧州携帯電話市場におけるiモードに賭けた関係企業(NTT、KPNMobileを始めとして)の夢が実現する可能性が強いのではないかと考える。

E-Plus、強気の市場シェア拡大とM&A戦略を発表

 E-Plusは3月初旬、今後12ヵ月で40万から60万程度のiモードの加入者数(E-Plusの加入者層数は約750万)を獲得し、ドイツ市場での第3位の携帯電話業者の地位を強化すると発表した(2002.3.12付けファイナンシャルタイムス、"E-Plus: Abshied vom subventionierten Handy zahlt sichi aus")。
 ところで4月に入るとE-Plusによるiモードへの期待、ドイツ携帯電話市場でのシェア拡大の楽観的な見方はますます大きなものとなった。2回にわたり、ファイナンシャルタイムスが報道したKPNMobileおよびE-Plusの新方針を以下に列挙する。

  • 3Gのサービス提供は急がず、当初予定より遅れる。2003年末までにオランダの1都市に導入する程度

  • 理由は、iモードの導入をまず行い、iモード加入者を3G加入者へと誘導するのが自然だからである。3Gの主要アプリケーション(電子メール、ウェブ検索、その他インタアクティブサービス)は、iモードでできる。

  • iモードはウェブ利用のモバイルサービスを欧州のユーザーがどれだけ求めるかを定める試金石となる。KPNによるiモードの離陸が難航するようなことになると欧州の携帯電話業者は3G導入の予定時期を再検討しなければならなくなるだろう。(以上は、KPMMobile役員のRasterhoff氏の発言要旨であり、2002.4.4日付けファイナンシャルタイムス、"KPN scales back 3G ambition"から引用した)

  • E-Plusは今後、携帯電話加入者数のシェアを倍増(現在の12ないし13%から25%へ)する能力がある。

  • ドイツの3G免許を所有する携帯電話事業者のうち、3社(Mobilcom、ViagIntercom、Quam)は市場から撤退せざるを得ないだろう。

  • われわれは、ドイツにおける携帯電話事業の統合で大きな役割を果たすことができる。(上記は、KPN会長Scheepbouwer氏のハーグにおける談話の1部であって、2002.4.7付けファイナンシャルタイムス、"KPN to double E-Plus market share"から引用したものである)。

 上記のKPNおよび、E-Plusの代表者の発言から見る限り、KPNの携帯電話事業の将来は洋々たるものであり(多分に新サービスiモードに支えられて)、特にドイツ携帯電話市場では、今後4位以下の中堅事業者3社を統合する強い意欲を見せている。
 iモードの欧州における成功は、わが国のNTT、携帯電話端末メーカー各社にとってきわめて重要な意義を持つ。ここに紹介した情報はiモードの成功を判断するにはまだまだ不充分であるが、KPNのこの楽観的な予測が的中することを期待したい。

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