DRI テレコムウォッチャー




FCC、ブロードバンドサービス規制緩和に向けての2件の調査告示を發出
     ― 具体化の第1歩を踏み出したパウエルFCC委員長の新電気通信政策 ―


2002年4月1日号

 FCCのパウエル委員長は、2002年の2月から3月にかけてブロードバンドの中核をなすDSL、ケーブルインターネットの両サービス自由化に向けてのそれぞれの調査告示を發出した。
 同委員長は、すでに2001年10月末にブロードバンド展開に当たっての政策方針を発表している(2001.11.15付けDRIテレコムウォッチャー「パウエルFCC委員長、ブロードバンド展開に当たっての政策方針を発表」)。
 今回の調査告示は、FCCがいよいよブロードバンド推進のための新たな規制の枠組み作りに乗り出した点で注目される。今後、利害関係者からの意見を徴し、年末までには裁定の形で結論が出されるものと見られる。
 その背景としては、DSLサービス、ケーブルインターネットサービスの規制を緩和しなければこれらサービスの主たる推進事業者であるRHC4社、ケーブルテレビ会社のサービス拡大のモチベーションが掛からず、加入者の増加、サービスの拡大が急速に進まない。ひいてはIT推進の最大の起爆剤であるブロードバンド分野での国際競争で遅れをとるとのFCC、米国政府の危機感がある。
 現在米国の議会では、1996年電気通信法でRHCに課された競争業者への回線アクセス提供義務の条件を撤廃する趣旨の法案(いわゆるTauzin-Dingell法案)が審議されている。ただこの法案は、2002年2月下旬に下院で可決されたものの、年末までに上院で可決される見通しはないと見られている。
 従って、政治的には上記の調査告示は、上記法案の意図の一部をFCC規則の改定により成し遂げようとする側面がある。
 今回の調査告示では、その目的の1つに「ブロードバンドをより規制の少ない環境下に置く」との表現が使われている。ここで誤解がないよう注意して置かなければならないのは、規制緩和の恩恵を受けるのは既存のRHC、大手ケーブル事業者なのであって、新規事業者の市場への参入は制約される可能性が生ずることである。つまり今回のFCC調査は、明らかにケナード前委員長時代の市場への参入者を増やす政策を180度転換しようとするものである。
 従って、この調査告示は今後すくなくとも数年間、バブル崩壊にともなう振興通信事業者の崩壊の後を受けて、大手の既存通信事業者(その中心は4RHC)および大手ケーブル業者(TimeWarner、AT&TBroadband、Comcast等)の独占、あるいは寡占の時代を予告するものだといってよい(3.18付けBusiness Weekの"Broadband Policy; did somebody say oligopoly")。
 以下、両調査告示の内容、FCCが求める方向で実施に移された場合にもたらされる意味、賛成、反対の意見について述べる。

FCCによる2件の調査告示の概要

 2件の調査告示のうち、1件はDSLサービス(FCCの用語を使えば有線の高速インターネットアクセスサービス)もう1件はケーブルインターネットサービスの規制の位置付けに関するものである。比較の便を図るため、まず両調査告示の概要を表1に示す。

表1 DSL・ケーブルインターネット両サービスを情報サービスに位置付ける趣旨の2件の調査告示の概要
項目
2002.2.14日の調査告示
(DSLサービスに関するもの)
2002.3.14日の決定および調査告示
(ケーブルインターネットサービスに関するもの)
調査の目的
  • 米国人すべてに対するインターネットアクセスの勧奨
  • 異なったプラットホーム相互間のブロードバンドアクセスの競争促進
  • 投資、イノベーションを促進するため、ブロードバンドを最小の規制環境に置くこと。
  • 複数のプラットホーム相互間の首尾一貫した分析の枠組提供
  • 米国人すべてに対するインターネットアクセスの勧奨
  • 投資、イノベーションを促進するためブロードバンドを最小の規制環境に置くこと。
  • 複数のプラットホーム相互間の首尾一貫した分析の枠組提供
サービスの位置付け有線の高速ブロードバンドアクセスを「情報サービス」と位置付ける旨を提案ケーブルインターネットサービスは「情報サービス」であるとの結論を裁定する。具体的にはこのサービスを次ぎのように取り扱う。
  • ケーブルインターネットサービスは州際サービスであって、FCCの管轄に属する。
  • ケーブルインターネットサービスは、電気通信法で定義される“ケーブルサービス”ではない。
  • ケーブルインターネットサービスは、別個の“電気通信サービス”が含まれておらず、公衆電気通信事業規制に服しない。
他の調査項目
  • 現にDSL提供業者に課されている他の業者に対するアクセス提供義務を修正もしくは、撤廃するかどうか。
  • DSL提供業者に、国家機密保持、ネットワークの信頼性、消費者保護の義務を課するかどうか。
  • DSLサービスに関するFCCと州との規制権限の分配をどうすべきか。
  • DSL、ケーブルインターネットの両調査での情報サービスの位置付けの取り扱いの差異
  • ケーブルインターネットに関するFCC規制の所掌範囲
  • 複数のインターネットに対するアクセスを義務付けるべきか。
  • 州、地方自治体のケーブルインターネット規制に関する役割

なお、上表は以下のFCCプレスレリースから作成した。

 2002.2.14 付け、"FCC launches proceeding to promote widespread deployment of high-speed broadband internet access services"
 2002.3.14付け、"FCC classifies cable modem services as メinformation service"

以下、両告示について多少のコメントを付け加えて置く。

DSLサービスを振興するための調査告示

 FCCはプレスレリースの冒頭で、DSLアクセスサービスを情報サービスと位置付ける点について、「有線のブロードバンドインターネットアクセス(訳者注:即ちDSLサービス)は、第3者の設備に対するものであろうと自前の設備によるものであるかを問わず、電気通信サービスではなく、電気通信サービスの要素を含んだ情報サービスであるとの結論を提案する」と述べている。
 FCCはこの提案に基づき、上表に掲載した諸点(「他の調査項目」)についての調査を開始した。ここでもっとも重点が置かれているのは、第1項の{DSL提供業者に課されている他のアクセス業者に対するアクセス提供義務を修正するかもしくは撤廃するか}の点であると思われる。パウエル委員長はRHC4社(即ちDSLを含む市内のラストマイルの保有者)が他事業に対するコロケーションによるDSLの開放が重荷になっているとの意見に同調する姿勢を示していたからである。
 特に、大手のDSL業者が相次いで破産に追い込まれている現在、DSLサービスの分野での競争(4RHC対独立DSL業者)の軍配は完全に4RHC側に上がっている。このような状況の下でFCCがこの提案を行った意図は、もちろんDSL(ひいてはブローバンド)普及のための効率の向上という大義名分を掲げてのものであるにせよ、(1)4HHCの勝利の公認、(2)さらに(1)を踏まえての4RHCの独占あるいは高々復占(AT&Tを始めDSLの競争業者は幾らかは存在する)によるDSL大量架設を期待したものであると受け取るべきである。


ケーブルインターネットサービスを情報サービスと位置付けた裁定およびその他の調査告示

 FCCはケーブルインターネットサービスについては、調査段階をスキップして一挙に「情報サービス」に位置付ける結論を出した。これは、DSLサービスの場合にすでにこのサービスを電気通信サービスとみなして、他業者に対するコロケーションの義務付けが課されている(つまりそれだけに情報サービスに位置付けるとの結論を出すには手続きを要する)のに対し、ケーブルインターネットサービスについてはそのような事情がないとい点が影響しているものと見られる。
 しかし、FCCが2001年にAOLとTimeWarnerの合併を認めた条件として、新会社に対しケーブルインターネットのISPに対する利用を開放する義務を課したこともあり、大手ケーブル業者は自発的にケーブルインターネットの利用を開放する動きが強い。
 しかし今後の調査によって、大手ケーブル業者のケーブルインターネットサービス提供が制約を受けないことになれば、拒否される中小ISPが淘汰されていく事態も起こりかねない。


注目されるコップスFCC委員の少数意見

 現在のところ、RHC4社および大手ケーブル会社は、直接上記FCCの調査告示について意見を発表していない。両陣営ともに、FCCおよび議会の場において有利な条件を勝ち取ろうと目下運動を行っている最中(議会に対するロビーング活動は凄まじいものだといわれている)であり、当面調査告示の内容は好ましい方向への展開だとみながらも、おおむね結論が今後出されることからして(ケーブルインターネットサービスの情報サービスへの位置付けを除き)静観の態度を取っている模様である。
 消費者2団体(Consumer Federation of AmericaおよびCenter for Digital Democracy)は、ケーブルインターネットサービスの調査告示について、将来大手ケーブル会社の力がますます強くなる結果、コンテンツ、料金がコントロールする点を懸念している(2002.3.14付けFT.com "FCC says no extra broadband rules for US cable group")。
 またアナリストたちはおおむね、FCCの調査が終了しその結果が実施に移されれば、DSLもケーブルインターネットも大量架設に向けての障壁が除去され、米国のブロードバンド化は大きく進展するだろうとの点で一致している模様である。これは正にFCCが調査を開始した目的と同様である。  

 しかし1996年電気通信法の枠組みから見た場合、さらにDSL、ケーブルインターネット両サービスを情報サービスと位置付ける点についての法的な矛盾については、民主党FCC委員のCopps氏が鋭く指摘している。同様の考え方を持つ者(筆者も含め)は数多いと見られ、この調査が終了するまでに多くの批判(特に議会民主党筋)がFCCに発せられると考えられる。
 Copps氏の意見は幾点かにわたっているが、ここでは氏が根本的に疑問を呈している点だけを紹介しておく。

  • ブロードバンドは伝送の要素(transmission component)を含むのであって、そのため情報サービスと定義してしまうと電気通信サービスと定義した場合の規制要件(プライバシー規則の遵守、消費者保護要件、ユニバーサル要件等々)が適用されないことになる。果してこれでよいのか。このような結論を提案することは極めて危険なことではないだろうか(DSLの調査告示について)。

  • FCCは再度しかも調査段階をスキップして裁定という形でケーブルインターネットサービスを情報サービスにするという過ちを犯している。本当にケーブルインターネットサービスを情報サービスと定義し、電気通信に課される規制を撤廃してよいものだろうか(ケーブルインターネットサービスを情報サービスであると決定した裁定について)。
 結論として、Copps氏は「FCCは本日、核となる電気通信サービスを議会が定めた電気通信法の枠組みから取り除き、FCCの判断を議会の判断に置き代えるという道程に向かって大きく飛躍してしまった」と同僚FCC委員連を強く批判した。

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