BT、DSLの拡大を事業の中核に据える戦略を推進へ - DSL卸売り料金を大幅に引き下げ -
2002年3月15日号 BTは、2001年2月末から3月の初めに掛けて、DSL加入者の拡大、DSLサービス品質の向上を事業の中核に据え、同社の今後の成長の重要な柱にするとともに、ブレア首相が唱導する"Broadband Britain"実現に大きく貢献することを目的とした戦略を発表した。
BTのDSL戦略
BTはこの戦略に基づき、これまで高すぎるとの批判を受けてきたISPに対する卸売り料金の大幅引き下げを2002年4月から実施する。また、同社は同時にDSLの推進は他の関連業者と協力することなくしては不可能であるとして、小売業者であるISPさらにはコンテント業者とのパートナーシップを組む。
BTは2月26日に上記方針をプレスレリース("Sweeping Price Reduction As BT targets Broadband Million")に発表した。また3月上旬には、BTは同社のホームページをDSL販売(さらに広くはブロードバンドの意義の強調)に関するPRに重点を置いて刷新し、全社を挙げてDSL推進と取り組む姿勢を明らかにした。
BTがこのように従来の消極的な姿勢から今回の積極策に踏み切ったのには、次の2点が関係しているものと考えられる。
第1点はEU委員会、OFTEL(英国の電気通信規制機関)による圧力である。E-europeによりEUはブロードバンドの推進をEU加盟国における電気通信、IT分野における最大の課題として捉えている。OFTELも当然、英国のおける実施を督促する立場にある。ところがDSLインフラを所有するBTはDSLアンバンドリング、卸売り料金への高額設定に固執し、この結果、英国のブロードバンドの普及は遅々として進まず、OFTEL、ISPから強い非難を受けてきた。このためBTは早晩、料金引き下げに踏み切らざるを得なくなっていた。
現にBTが卸売り料金の引き下げに踏み切るわずか1週間前の2月20日にも、OFTELはBTに対し料金引き下げを強く要請していた(OFTELのプレスレリース、"OFTEL proposes cuts to BT's wholesale unmetered prices")。さらに、常にBTと経営比較の対象とされるDTが最近自社の低料金によるDSLサービスの推進により、2001年末に220万の加入者を取得したことも、BTの戦略変更に大きく作用したものと見られる。
第2点は、本年2月ボーンフィールド氏の後を継いで、BTのCEOに就任したフェアヴァーエン氏(BenVervaaen)の決断である。就任前Lucentの役員であった同氏は、広汎にわたる従業員との対話を実施するなど勢力的な仕事振りにより、すでに実力会長ブラント氏とは一線を画した存在感を高めているといわれる。今回のBTのブロードバンド戦略の実施は同氏が新生BTの成長を目指して開始した最大のマーケティング戦略であるといえる。
幸いBTは2001年に実施した大々的な資産売却の実施により、負債額は大きく減少、また2001年度の決算も赤字は継続しているもののアナリストたちの予想を超えており、同社の株価もやや上向きである。
以下、BTのDSL戦略の概要とその位置付け、今後の競争の進展等について述べる。
BTは2003年夏までのDSL加入者確保の目標を300万と設定し、この目標実現のため、DSL卸売り料金の大幅引き下げを含む、次ぎの諸施策を講じると発表した。
- 2002年4月1日から、DSL接続の卸売り料金を現在の25ポンド(48.58ユーロ)から、14.75ポンド(24.75ユーロ)に引き下げる。
- ネットワークの性能、サービス品質を改善し、卸売り相手の事業者、エンド・ユーザーにもっと良い経験をしてもらうようにする。
- ブロードバンドの便益を擁護するため、マーケティングを積極的に行う。これには BT卸売り事業部門(BTWholesale)と40超のISPとの共同プロジェクトを含む。
- すべてのサービスプロバイダー(BT小売部門のBTOpenworldを含む)に対し、卸売り料金引き下げによるコスト減分により、新たな住宅用・ビジネス用料金の設定、ブロードバンド勧奨キャンペーンへの費用に当てるよう促す。
- 商業的に採算を取りにくい地域へのブロードバンド普及を目的として積極的にパートナーを求める。
本年2月、BTのCEOに就任したフェアヴアーエン氏(Ben Verwaaen)は、「ブロードバンドは英国の将来のためのものであり、われわれはこれを英国大衆市場でBTが成長するための事業計画の核心に据えている。この計画の全市場への推進により、ブロードバンドはより安く、魅力的で、アクセスしやすくなるだろう」と述べ、DSLひいてはブロードバンドに賭ける同氏の大きな期待を表明している。
歓迎されたBTのDSL卸売り料金の引き下げ - 進展しないアンバンドリングによるDSL販売 -
BTWholesaleのCEO、レイノルド氏も、「われわれは今回の新料金でISPが小売料金を30ポンド以下にするのに必要な水準を達成できた。この新料金によってブロードバンドの需要が急進することを希望する。今やブロードバンドを大きく飛躍させる契機を生み出さなければならない。本日の声明はその重要な最初のステップである」とフェアヴアーエン氏の期待に唱和している。
さらに3月初旬に改訂されたばかりのBTホームページの「How Will Broadband grow?」は、冒頭に「Broadband Britainでは2005年までにG7諸国のなかでもっとも競争力が強く、普及が著しいブロードバンド市場を生み出すことを目標にする旨が宣言されている。BTは英国全土においてブロードバンドが幅広く使われることを誓っており、Broadband Britainに対する政府の抱負と考え方を1つにする。しかしこの目標は厳しいものであって、政府、公共部門、多くの民営部門のプレアーがパートナシップを組み、効率的に業務を遂行しないと達成できない」と国策としてのブロードバンドの意義とこの国策に対してBTの果す役割の重要性を強調している。
ISP、OFTELはDSL料金引き下げを歓迎
因みに欧州主要電気通信事業者のDSL卸売り料金(単位:ユーロ)は、現在次の通りである。
BT(英国) DT(ドイツ) FT(フランス) Telefonica(スペイン) Belgacom(ベルギー) Telia(スエーデン) 24.75 25 30.19 22.89 21.34 12.96 この資料からすると、欧州諸国では今回の料金引き下げで、BTの料金はDTと並び欧州諸国で中位、1番高いままで残っているのがフランス。低い部類の国はスペイン、ベルギー、スエーデンとなる。これまで48.58ユーロであった英国は群を抜いてDSL料金の高い国であって、BTに対する批判が高かったのも当然であった。またBTは今回の値下げは、同社のコスト削減への努力、将来の需要増大の見通しによって、始めて可能になったものであると宣言しているが、上表からすれば他の欧州事業者の水準に並んだだけのことであって、さほど新味はないともいえる。
BTの卸売りによるDSL市場形成に対する批判
ところで高い卸売り料金を背景にして、これまでの英国のDSL加入者数の実績は13.6万と非常に少なく、普及率でみて欧州諸国で最下位に留まっていた。しかもこのうちISPの占めるシェアは微々たるものであって、これまでドイツではDSLの卸売り市場は存在しないに等しかった。ISPは旧料金でDSLを購入し小売をしても採算が取れないとして、事実上市場参入していないのも同然だった。またBT自体も、子会社BTOpenWorldを通じISP事業を行っているが、英国におけるISP大手はFreeserveとAOLUKの2社であって、BTOpenWorldは2番手の業者に過ぎない。DSL加入者はまずなにより狭帯域でのインターネット・ユーザーからの移行であるから、インフラを有しているBT自体が多くの加入者を獲得できないという悩みがある。BTがこれら業者にパートナーシップ形成を働きかけるゆえんは、ここにある。
このような背景の下で行われたBTによるDSL卸売り料金の大幅値下げは、ISP業者からも規制機関のOFTELからも歓迎されている。
BTは料金値下げ発表に際し、この卸売り料金ならISP各社は小売料金を大きく値下げし、大量の顧客確保が可能であろうとその効果を強調した。事実、大手ISPのFreeserve、AOLUKの両社は、共に「これでようやく、DSLの小売を業として行うことができる」として、BTの今回の決定を歓迎している。OFTELもBT発表の時点では、「BTからの資料を見て、料金値下げ案を検討する」としているが、この料金値下げ案を歓迎しており、承認することは確実である(2001.2.26日付けOFTELのプレスレリース、"OFTEL welcomes BT statement on proposed new broad band")。
ただし、BTはDSL回線のアンバンドリング(コロケーションにより、相手業者に自社銅線のうち、ブロードバンドに必要なビットストリームのみを使用させる)を故意に無視し、卸売り方式により、DSL推進を計る戦略を打ち出したのについては、批判がある(BTとISPとのコロケーションがほとんど進展していない理由は不明である。高額料金以外に多分、BTが自社の構内でISP回線接続を難しいものにさせている何らかの理由があるようである)。
激化が予想される英国市場での競争 - 大手ケーブルテレビ業者2社の戦略 -
BTの今回のDSL戦略は、インフラを持つ同社が中心となって、自社がDSLサービスを提供するとともに、ISP200社もBTからサービスの卸売りを受けてサービス提供をする。互いにパートナシップで英国の国策である"Broadband Britain"の実現に貢献したいというのは、いわばBTを盟主とする一種の共栄圏を築こうという考え方であって、アンバンドリングによるインフラを所有する事業者(英国ではBT)もその他のISPも平等の条件、かつ競争によりDSL市場が形成されるべきだとするEU、OFTELの政策とは大きく異なる。
もっともこの現象は英国だけではなく、EU諸国に共通して見られるところである。また競争を通じ発展するかに見えた米国でも、昨2001年の過程で独立系のDSL業者が壊滅し、DSL事業はRHC4社の地域独占となっているので、経過はともかくとして欧州諸国と状況はさほど変わらない。ちなみにもっともアンバンドリングを忠実に実施している電気通信事業はわが国のNTTではあるまいか。この点はもっと評価されてもよい。
もちろんアンバンドリングがほとんど行われていない事実はEU委員会のみでなく、欧州の消費者団体からも痛烈な批判が浴びせられている。例えば、ECTA( European Competitive Telecommunications Associations)役員のEvins氏は、欧州のDSL回線総数は410万に過ぎず、しかもその97%をインフラを所有する既存キャリアが支配している事実を指摘し、EU委員会にこの事態の矯正を訴えたと述べている("EU local loop unbundling :A failure and a farce" http:www.broadbandand4bitain.co.uk/ttv.shtml)。
BTの本格的なDSL市場開拓の開始により、今後英国のブロードバンド市場が大きく発展していくことは間違いない。しかしすでに述べたように、BTが今後アンバンドリングの拡大を志向しない限り、他のISPは事実上BTに従属した形でユーザーに小売サービスを提供する他なく、ISPとの間では本格的な競争は進展せず、DSLではBTが独走するものと見られる。注目されているのは今後のDSL小売料金の水準であって、OFTELが許容するギリギリの水準までBTOpenworldが小売料金を下げれば、競争業者はBTに対抗することができなくなる。つい最近までDTが市場拡大のために用いた方法(いわゆる略奪的料金設定)であるが、ISP側はすでに今後のBTの小売料金引き下げを恐れている(DTのDSL戦略については、2002年2月1日付けDRIテレコムウォッチャー「急ピッチでDSLインターネット接続を推進するDT」を参照されたい)。なお、自前のインフラでBTに対抗する英国の独立業者としてBulldogがあり、ロンドンの住宅、企業に55万のDSLを架設する計画を立て孤軍奮闘している。しかし小企業であって最後まで資金が続くかどうかが危ぶまれている(2002.2.10付けFT.com "Bulldog to get j10m boost in struggle with BT")
むしろブロードバンド加入者の今後の拡大に当たってBTの真の競争業者となるのは、英国の大手ケーブルテレビ兼電話会社2社、NTL(加入者数14万)およびTelewest Communications(加入者数10万強)である。早くから両社はケーブルテレビ電話の提供については実績があり、この基盤を基礎にして、すでに両社ともにBT(DSL加入者数12万)をあるいは上回り、あるいは並ぶ加入者数を有している。英国では、ケーブルモデムによるブロードバンド加入者総数25万に対し、DSL加入者総数13.6万と前者が約2倍であり、ブロードバンドでは現在、ケーブルモデムが優勢である事実は注目しておく必要がある。
してみると、BTは最近のプレスキャンペーンでケーブルテレビ会社にはほとんど触れていないものの、同社の真の競争相手はNTLとTelewest Communicationsである。BTは同社とISP連合によってこれに対抗、早期目標としては、まずケーブルモデム加入者数を上回る加入者数を獲得を目指すであろう。
NTLとTelewest Communicationsは、両社とも借金の大きい点が弱点であるが、今後もブロードバンド加入者の獲得に意欲的であり、特にBTの提供するDSL方式より、伝送速度の速い点を大きなセールスポイントにする模様である(この部分については、2月26付けのFT.com "UK cable companies push ahead with broadband"に負うところが多かった)。
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