DRI テレコムウォッチャー




資金繰りに苦しむ Qwest Communications International

2002年3月1日号

 Qwest Communications Internationalは1999年7月中旬、売上が同社より4倍も大きい地域電話会社のUSWestを新株発行による株式割当方式により買収し、世間を驚かせた。この買収はニューエコノミー論が華やかであった当時、Global Crossingとの買収合戦に打ち勝って成し遂げられたものであり、回線交換の既存電気通信事業よりもIPベースの高速通信サービスを提供する新興通信事業者が飛躍的に成長するとの市場の評価をバックにした壮挙であった。これにより、Qwest Communications InternationalのCEOであるNacchio氏(元AT&Tの役員)はニュービジネスの輝ける経営者として大きく脚光を浴びた。
 約2年半が経過した今日、事態は大きく変わった。Qwest Communications International は2001年度の決算で、前年を上回る大幅の赤字を計上し2002年内も業績の好転が期待できない旨を報告せざるを得なくなった。さらに、これに追い討ちを掛けたのは、Global Crossingの粉飾決算容疑にからんでの同社に対するSEC(米国証券取引所委員会)の調査開始である。これはエンロンの大掛かりな粉飾決算、詐欺容疑に端を発したものであるが、直接にはGlobal Crossingの内部告発者が同社の売上高水増しを行った(回線販売のスワッピングによる)相手方企業として、真っ先にQwest Communicationsを名指ししたことによるものである。
 業績の悪化、会計処理の疑惑により、Qwest CommunicationsはCP(コマーシャル・ペーパー)を発行することができず、金融会社からの借金に大きく頼らざるを得なくなった。株価も大きく下がっている。上記のUSWest買収合意時の株価は69ドルの高値であったが、最近は7ドル程度まで下げており、まだ下げ留まりになっていない。
 このように、米国の4つの地域電話会社(Verizon、SBC Communications、Bell South、Qwest Communications International)のうち、皮肉なことに1、2年前までもっとも成長性が高いとしてその将来を期待されていたQwest Communicationsの落後が明らかになった。
 Qwest Communications International が USWest 統合時に描いていた成長への図式は「斜陽になってはいるがまだ、大きい利益を上げている地域通信事業(旧USWest)から高速IPネットワーク企業に脱皮するための投資資金を調達する→高速IPネットワーク部門が離陸する(利益を生む)→高速IPネットワーク部門を主体とした世界有数のグローバルIP企業に飛躍する」というものであった。しかし、上記の3段階での成長図式は第1段階で頓挫し、第2段階の高速IPネットワーク部門の離陸に至らなかったと見て良かろう。
 以下、Qwest Communications International の2001年の決算の状況、2001年秋以来の同社の収支改善に向けての努力、同社が疑惑をもたれている回線相互販売の問題点について説明する。

RHC 4社の2001年度業績、Qwest Communications International の資金調達の努力

収入は伸び悩み、大幅な減益となったRHC4社の2001年度業績


表 米国 RHC (地域電話会社)4社の業績(2001年通期・2001年第4四半期、単位:億ドル)

事業者名
売 上
利 益
2001通年
2001第4四半期
2001通年
2001第4四半期
Verison
671.9(4%)
170.1(1%)
5.9(-95%)
-20.26(19.0)
SBC
459.1(-11%)
119.0(2%)
72.6(-9%)
12.5(-4%)
Bell South
241.3(-8%)
62.1(1%)
25.7(-39%)
7.9(-29%)
Qwest Com
197.4(4.2%)
47.0(-6%)
-39.4(-34.4)
-5.10(-1.16)

  1. 本表の括弧内の数字は、原則として対前年(2000年)同期比の増減率である。ただし、Verison の2001年第4四半期利益およびQwestの2001年通年の利益、2001年第4四半期の利益には実数を使った。
  2. 企業名はスペースの関係で略称を使ったが、フルの名称は次ぎの通り。Verison Communications、SBC Communications、BellSouth Corporation、Qwest Communications International。
  3. 本表作成に当たっては、上記4社の決算に関するプレスレリースの他、2002.2.25付け Business Week誌の"Corporate Scoreboard-Fourth Quarter & Full Year2001"を使用した。

 上記の4社の決算で共通して見られるのは、2001年通期、2001年第4四半期ともに、(1)売上が前年同期に比し、減少したか、増加しても伸び率がたかだか数%と低いこと、(2)Qwest Communicationsを除く3社の利益は前年に比し大きく落ち込んでいるものの、通年で黒字を確保していることの2点である。
 このように決算が不調であった共通の原因としては、(1)米国の経済成長の鈍化、特に2001年後半期のマイナス成長、(2)データ、インターネット、携帯電話の伸びは順調であったものの、基本電話サービスからの収入が減少したことが挙げられている。(2)の端的な現れとして、4社ともにアクセス回線数が減少した点が挙げられる。この減少はおそらく、ここ数10年間で始めて見られた現象であろう。また、4社はともに2002年にも業績は容易に回復しないとの厳しい見方をしている。ついでながら、この事実は地域電話会社がM&Aの主役として登場し他社の買収を試みると噂されているが、少なくとも2002年度中にはその実行に移るだけの財務的基盤を地域電話会社が有しないことを示すものと考えられる。このように、IT・電気通信バブルの影響は、負荷耐力が大きいと見られた地域電話会社をも直撃した。

資金調達に苦労するQwest Communications International

 Qwest Communicationsの決算は、2001年通年における収入増はRHC4社中でもっとも大きかったものの、2001年第4四半期の収入減、2001年次通期で前年同期を上回る赤字を計上した点で他の3社と異なった内容になっている。このように異なった決算となったのは、同社がIPベースの高速電気通信分野を狙う新規サービス、光ファイバーの卸売分野(旧Qwest)と地域電気通信分野(旧USWest)から成り立っており、前者の分野が決算に反映されているためである。
 Qwest Communicationsの業績は2001年9月ごろから急速に悪化し始めた。同社のNacho会長は、同社が米国経済の不況、それに伴う光ファイバー卸売りの売上高の減少により同社の将来は容易ならざるものになっていると警告を発し、経費節減、従業員削減、資産の売却等収支の改善に努めたがその効果は実らず、2001年決算では前表に示した通り、前2000年を上回る赤字を計上する結果となった。しかも、決算発表後まもなくGlobal Crossingの違法な回線スワッピングに関与したとの疑いをかけられ、2001年2月8日にはSECの調査対象に指定された。
 さらに、同社は2月13日にCP(コマーシャル・ペーパー、無担保で短期資金を調達するための約束手形)の発行を拒否され、すでに設定している銀行(24行)からの40億ドルの融資枠に頼らざるを得なくなった。CPを拒否されることは、信用度が相当に低い企業の場合のみに起こることであって、Qwest Communications International にとっては大きな痛手である。
 同社は249億ドルの借金を有しており、今後、収支悪化が続くと借金の借り換えが難航することが予想され先行きは不安になる。
 Nacho氏以下、Qwest Communications International の幹部は、ウォールストリートに対する説得材料として、同社が他の高速IP企業とは異なり、2000年に吸収した旧USWest部門からの堅実な収入基盤を有している点を強調するとのことである(注1)。
 しかし、このことは同社がこれまで基本電話サービスの分野に依存し資金援助を受けている事実をはしなくも告白したことを示すものである。敢えて忖度すれば、もしUSWestを統合していなかったならば、すでに米国破産法第11条に基づき経営破綻した同一業態のGlobal Crossingと今頃は同じ運命を辿っていたかも知れない。

SECの Global Crossing、 Qwest Communications International に対する売上高水増し容疑 - 焦点は架空のスワッピング(hollow swapping)が行われたかどうか -

 SECは現在、Global Crossing、 Qwest Communications International、360Networkの3社について、これら光ファイバー回線卸売り事業者が光ファイバー回線の相互売買を行うに当たり不正な会計処理を行ったか否かを調査中である(注2)。
 内部告発をした元Global Crossing副社長のOlofson氏は、Global Crossingが明らかに、売上を水増しするだけの目的で、360Networkとは1.5億ドル、Qwest Communicationsについては、1.0億ドルの回線の相互売買(スワッピング)を行ったと陳述している。
 これに対し、Global Crossing側は、業務上、回線区間のグローバルな整備が必要であったために行ったものであって、正当な商取引であり、監査法人のアンダーセンからも検査を受けた上、承認されたものだと主張している。
 光ファイバー回線の売買契約は、法的には通常、数10年間の長期にわたるリース契約なのであって、原則として当事者が契約廃棄が認められないIRU(indefeasible right of use)に基づくものであるが、SECは違法の有無を故意に売上の水増しを目的とした相互売買の取引 - いわゆる「架空のスワッピング」(hollow swapping) - の摘発に求めている。当初報道された一時払い支払金の繰り入れ方法 - 取引が行われた年にするか、リース期間にわたっての計上にするか - の問題はその後、立ち消えになった模様である。
 この調査の決了にはまだかなりの日数を要すると見られるが、ウォールストリートジャーナルインターナショナルによれば、Qwest Communicationsの業務において、回線販売業の占める地位がかなり高いことが指摘されている。
 即ち、2001年1月から9月までの間のQwest Communications Internationalの回線販売の金額、および販売者から購買した回線の金額はそれぞれ、8.7億ドルおよび8.68億ドルに上るという。(両者の数値がほぼ均衡している点はきわめて特徴的であって、これからだけでも架空の回線販売相互売買の存在を想定したくなる)。
 またこの9ヶ月間におけるQwest Communications Internationalの総売上高は150億ドルであって、前年同期の139億ドルに比し8%増となったが、この回線販売分を除くと3%に留まっていたという。つまりこの部門における売上は、同社全体の売上にかなりの影響を与えていたのである。
 先に表で示した通り、Qwest Communicationsの2001年第4四半期の売上は前年同期より6%減少している。この減少には、同業卸売り業者の業績不振、あるいは倒産による売上の減少も影響したものと思われる(注3)。

 なお、今回の論説は、前回(2002年2月15日号)のテレコムウォッチャー「経営破綻したGlobal Crossing」で書き漏らした部分の補足および同一テーマ(グローバルIP通信事業のバブル崩壊)をさらに追及したものであって、いわば前号の続編であるといってよい。是非とも2月15号の記事もあわせて参照願いたい。

(注1)2002.2.15付けYahoo!News "Qwest Moves to Shore Up Its Finances"
(注2)360Network(カナダのバンクーバーに本拠を置く企業であり、すでに昨2001年に破産法による保護の申請をしている)に対するSEC調査の開始は2月21日であって、Global Crossing、 Qwest Communications Internationalより、少し遅れた。
(注3)この項の執筆に当たっては、2002.2.24付けAsian Wallstreet Journal紙の "Global Crossing Used "Swaps" to Enhance Revenue" による点が多かった。




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