DRI テレコムウォッチャー




急ピッチでDSLインターネット接続を推進するDT(ドイツテレコム)

2002年2月1日号

 DTは2001年に精力的にDSLによるブロードバンドインターネットのアクセスサービス提供を推進し、2001年末には220万の加入者(契約ベース)を獲得した。他の事業者の獲得数は総計数万に過ぎず、DTのシェアは98%に達している。またこのDTによる大量架設により、ドイツは韓国、米国に次いで、一挙に世界第3位のDSLインターネットアクセス国に踊り出たことになる。
 しかしDTによるこの成果はあまりにも強烈な他事業者に先行して顧客を囲いこんでおこうとする同社の戦略に基づき達成されたものであって、競争業者から強い非難、規制機関(郵電規制庁のRegTP)への苦情提出が為された。さらにDTは欧州委員会、RegTPから料金の値上げ、競争会社に対するDSL回線接続料金の値下げを迫られている。

 以下、DTのDSL架設の経緯と現状、DTのDSL料金値上げ提案、競争業者の状況、ドイツにおけるDSL接続サービスの将来展望について解説する。

DTのDSL架設の経緯と現状

強力な架設の推進

 DTは、2001年初頭に年末までに260万のDSL架設の目標を掲げた。また2001年から2002年にかけて22億ユーロの投資を行い、90%の世帯に対するDSLインターネット接続を可能にする計画を推進中である。
 すでに2001年3月、ドイツテレコムは85.5万の申し込みに対し、約50%の40万の接続を行った。またネットワーク推進の責任者である役員のテンツァー氏は「インターネット利用は大きく増大していてブロードバンド推進の方向が要請されており、ドイツはブロードバンドの分野での地位を高め、国際的に遅れを取ってはならない」とDSLに賭ける決意のほどを述べた。
 さらにドイツテレコムは2002年初頭の1月17日に、ドイツテレコムの2001年における各事業部門での成果がきわめて大きかった事実を誇示するニュースレリースを発表しており、この中でとりわけブロードバンド(DSLによる)の急成長を特筆大書し、次のように述べている。
 「2001年を通じ、ブロードバンドアクセスの需要はブームとなった。2000年末、60万に過ぎなかった加入者数は2001年末に220万に達した。ドイツテレコムのこの数字は米国のプロバイダーの数字を大きく引き離している」(2002.1.16付けDTのプレスレリース "2001 a year of strong growth for DT")

RegTPの勧告とDTのDSL料金値上げ

 ただし、DTによるこのようなDSL架設の推進は、規制機関RegTPからの再三にわたる警告、勧告を受けるに至っている。
 RegTPが問題にしている論点は2点ある。1点はDTが提供するDSL料金の水準は安過ぎてコストを下回ってはいないか(つまりダンピング料金でないか)という疑惑である。もう一点は、競争業者に対するDSLの卸売りサービスの水準の問題である。

(1)DT、DSL料金引き上げ提案を行う

 DTは2002年1月15日、ADLインターネット接続料金の引き上げを含む通信料金の大幅な改定申請を行った。実施期日は2002年3月1日。
 この提案はDTの当日のプレスレリースによれば、2001年11月にRegTPからの「脅迫」に対応して行ったものであり、同社は自発的に料金引き上げ提案を行わなければ、RegTPから一層多額の料金値上げを強制されることを恐れたための行動であると述べている(DTのプレスレリース "DT legt Regulierer neue T-DSL-Preise vor")。DSLインターネットアクセス料金の新・旧料金は、次表の通り。

表1 DTのインターネットアクセス新旧料金額(月額、単位ユーロ)

項 目
電話によるDSL
ISDNによるDSL
電話使用料
ISDN使用料
提案料金額
19.99
12.99
13.33
23.60
現行料金額
20.40
10.18
12.86
22.95
(上表は、フランクフルターアルゲマイネ紙の1.16付けの記事、"Telekom verteuert schnellen Internet-Zugang"から作成した)

 DTのDSL料金引き上げは、競争業者からの強い反発を受けRegTPが審査に乗り出し、ようやく同社から提案されたものであった。上表から判る通り、国際的に安いといわれているわが国の料金よりさらに安く、これでは規制機関からの審査対象にされても止むを得ないかと思われる。  
 それにしても提案料金、現行料金共に、電話、ISDNのいずれを利用しようと、DSL利用に要する使用料の差が少ないのに注目すべきである(たとえば、現行料金でISDNによるDSLサービスが33.13ユーロであるのに対し、電話回線によるDSLサービス料金は33.26ユーロ)。1000万を超えるISDN加入者を有するドイツテレコムにおいて、将来ISDNサービス加入者がどれだけ解約するかは興味がある問題であるが、上記の料金から見る限り、現在はISDN加入者の大半はそのままDSLサービスを付加サービスとして使用するであろうし(電話回線使用より安い)、DTの料金改定が認められれば、電話回線への大量の加入者移行は起こらないと考えられる(事実、DTの2002年におけるISDNチャネル数は2001年末の1730万から2040万へと17.9%の増を示しており、相当数のISDN利用者がそのままDSL接続を付加サービスとして利用していることを示している)。
 ところで、DTのこの料金提案に対しRegTPのクルス長官は、DTは正しい方向に向かったと評価しながらも、同庁の判断は別途下すとしており、DTによるDSL料金をそのまま認めるかいなかは定かでない(注1)。

(2)折り合いが付かないDTと競争業者間のDTによるDSLアンバンドリング料金(シェアリング料金)

 RegTPは2001年3月30日に、DTに対し2ヶ月以内にDSLのアンバンドリングサービスを提供するよう命令を下した。しかしDTはこの命令に反対し、法廷で争った。同年8月中旬、DTはミュンスター控訴審における判決で敗れ、10月までにアンバンドリングのタリフ、条件を提出することを約束した。ところが料金額についてDTと競争業者との折り合いが付かず、解決は今後の問題(多分、RegTPによる仲裁)に残されている。
 RegTPのクルス委員長は2002年1月中旬に「競争業者に対しDSL接続を容易にする仕事が残っている。この問題は2002年春には解決したい」と述べている。
 つまり、わが国でNTTが低料金により競争業者に提供しているDSLインターネットのアンバンドリングを現段階ではDTは実施していないのであって、これではDTが独走するのは当然至極である。

DT競争業者の状況
表2 DSLによるインターネット提供会社の接続条件

提供会社名
DSL料金
インターネット提供料金
サービス提供範囲
DT
19.98ユーロ(電話回線)
25.2ユーロ
(T-Onlineによる。電話回線利用込み)
全国
Arcor
30.63ユーロ(ISDN)
25.05ユーロ
(ISDN回線利用込み)
50都市
QSC
59ユーロ(ISDN)
前記DSL料金に込み
44産業都市
Freenet
50ユーロ(電話回線)
前記DSL料金に込み
40産業都市
Mobilecom
不明
30.17ユーロ(ISDN)
ベルリン、ハングルグ等8都市
NGI
55.73ユーロ
前記DSL料金に込み
44産業都市
Streamgate/Yahoo
40.80ユーロ
25.51ユーロ(電話回線利用込み)
ローゼンハイム、ミュンヘン
(2002年上半期には40都市へ)
(なお上表の料金はすべて月額である。またDTは電話回線、ISDN回線により、それぞれDSLサービスを提供しているが、ここでは電話回線利用の料金のみを掲示した)

 上表に掲げた企業は、それぞれ自前の電話回線あるいはISDN回線により自社のインターネット回線と接続し、一貫したブロードバンドのインターネットアクセス回線を提供している。このほか、DTからDSL込みの電話回線を丸ごと借用し、実質的にDTのDSL提供再販業者となっている会社も幾社か(AOL、Synergetic、Tiscali等)ある。
 ところでDTのDSLインターネットアクセス加入者数が220万(2001年末)であるのに対し、競争業者の加入者数はきわめて少ない。
 フランクフルターアルゲマイネの調査によれば、一番加入者数が多いQSCがようやく40,000、これに次ぐのがArcorの15,000加入であって、その他加入者の総計は5000程度に過ぎず、競争業者の占めるシェアは2%程度だという(2002.1.26付けフランクフルターアルゲマイネ、"Auf schnelle Internetanschlusse hat die Telekom ein Monopole")。
 要するに、ドイツにおけるDSLインターネット接続はDTの独占体制下にあるのであって、他の業者は手も足も出ない状況にあることは疑いない。

ドイツにおけるDSLインターネットアクセスの将来

 DTが今後もDSLインターネットの大量架設を進めることは明らかである。同社は今後、子会社のT-Online(ドイツ最大のISP。加入者数880万、市場シェア82%)を通じ、利用者に対し、利用者端末からインターネットアクセスまでの一貫サービスを推進する路線を踏襲し、利用者数を増やして行くであろう。多分2002年には、アクセス料金の引き上げ(先に述べたように、RegTPはDTが申請した料金をさらに上方に査定する可能性がある)、競争業者に対するアンバンドルDSLの販売開始によって、DSL架設のスピードは鈍ることがあるにせよ、2002年のうちに先制攻撃により築き上げた同社の優位性がゆらぐことは到底考えられない。ドイツのアナリスト達は今後3年間で、ドイツのDSL加入者数は500万に達するものと見ている。
 さらにブロードバンドDSLにより、サービス内容も大きく高度化する可能性がある。DTはインターネットブロードバンドの有する映像・高速データ配送の潜在性をフルに生かしたコンテンツの提供分野にも進出し、ドイツテレコムに大きな収入をもたらすビジネスに育て上げようと試みている。すでにシステムハウスであるDT子会社のT-SystemはDSL用インターネットのソフトの作成を企画している模様である。

 周知の通り、わが国ではDSLインターネットはNTTの競争業者がその実施に先鞭を付け、その後大手ISPのYahoo!ジャパンが低料金、日本全土カバーを合言葉に対抗し、このような民間企業の活発な参入の動きに触発されて、NTTが2001年から本格的に市場参加して急増するという経過を辿ってきた。この間、NTTが格安のDSLアンバンドリング接続料金を設定し、これが競争企業参入に大きなインセンティブを与えている。
 このように見るとドイツ、わが国のDS発展の仕方はまことに対照的であるが、いずれさまざまの観点(顧客サービス、普及度合等)から、両国の取り組みの長所、短所を検討してみる要があろう(注2)。

(注1) ドイツテレコムが1月15日に提出した料金改定申請の対象は「DSL接続」だけでなく、「DSL架設料」、「電話回線使用料」、「市内通話料」にわたる広汎なものであり、まだ申請段階でもあるので取り上げなかった。それでも、例えば市内通話料の引き上げ申請(料金にキャップシステムが適用されている以上、物価上昇率に応じ料金引き上げ申請がおこなわれるのは当然であるが)がなされているのを見るとデフレ下に事業者間の競争により、ますます通信料金が引き下げられているわが国の現状との格差を感じさせられる。
(注2) 本論中の事実に関する個所については、幾点かのDTおよびRegTPの資料を利用したが、煩を避けるためいちいちの引用は省略したことをお断りしておく。




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