DRI テレコムウォッチャー




2001年のテレコムウォッチャーの記事への補追、訂正

2002年1月1日号

 昨2001年は電気通信業界には最悪の年であった。ジワジワと景気低迷の動きが出てはいたものの年初から4、5月ごろまでは、年末に掛けてこれほどサービス、機器生産が落ち込むと予想した者はほとんどいなかった。ところが、7、8月に掛けて景気減速が明らかになり9月の中旬にニューヨークへのテロ事件が起こるや、実態面の経済の悪化に心理的な影響が加わった。米国、日本のリセッション入りが明らかになり、これに東南アジア諸国、欧州の景気後退も続いた。こうして世界同時不況の様相が色濃く現れ、現在に至っている。
 一番大きな打撃を受けたのは、他ならぬ電気通信産業であった。なにしろ、新技術に駆動され、ブロードバンド、携帯電話等の需要が指数関数的に伸びると予測して猛進し、大量の設備投資競争に走ったのが祟った。山が大きかっただけに、現在落ち込んでいる谷も深くかつ険しく、再び成長軌道に復するのは容易ではない。
 正に、ITのみならず、電気通信(実は電気通信とITは現在、同体なのである)もバブル崩壊への調整過程にある。現在、ある企業は廃業、リストラに追い込まれ、比較的運が良かったその他企業もバブル後遺症の修復(リストラ、設備投資削減、資金源を求めての奔走等々)に追われる始末である。
 もっとも、最近、機器、サービスの需要が持ち直しつつあるとの幾つかのニュースが見られるのは心強いことである。これだけ設備を縮小し、投資を抑制しているのだから、早晩、再び、需給均衡→需要拡大→投資の増大といった景気回復に向かっての動きが始まるのは間違いない。ただその時期が何時になるかが議論を呼んでいる。現にシスコは2001年第4四半期で同社の製造は底入れしたと宣言している。ただ、日々の株式市場の動きに一喜一憂し、事実少し悪材料がでるとたちまち関連する電気通信株の価格が下がるといった昨今の情勢では、とても将来に対し明るい見通しが持てない。本2002年のできるだけ早い時期に景気の立ち直りが始まってほしいものである。

 さて2001年のテレコムウォッチャーの記事を振り返ってみると、予想が的中したものもあるし、自信満々に将来予測をしたものも、僅か数週間でその予測が見事に外れた例(1件)もある。その他の案件の予想はこれら両極端の2件の間に位置するわけであるが、ともかくIT・テレコムの変動が激しい昨今である。この程度の予測のブレが生じることについては、読者の皆様のご寛容をお願いしたい。
 まだお屠蘇気分が抜けない年初のことでもあり、すぐさま記事に取り上げなければならない重要ニュースは「ComsatとAT&T Broadbandの合併についての合意」ぐらいのものである。今回は通常のホットな解説記事に代えて上記の予想が的中した事例、外れた事例についての補足説明を行って、責めを塞ぐこととしたい(ComsatとAT&T Broadbandの合併の意義、それが及ぼすインパクトはきわめて大きいので、後日レポートリストの「分析レポート」(データリソース社発行)で取り上げることとする。

Vodafone、日本テレコムの支配権を獲得

 2001年初頭に、筆者はAT&TおよびBTが日本テレコムに有している株式をVodafoneが取得する可能性が強いことを指摘した「テレコムウォッチャー2001.1.1、"20世紀末におけるグローバルテレコムの点景"」。2001年の期間中に事態はこの予想を上回って大きく進展し、Vodafoneはわが国電気通信市場で外資系では最大の存在となった。即ち、Vodafoneは予想通り、AT&TおよびBTからこれら2社が日本テレコムに有する株式15%ずつの計30%を買収した。それにとどまらず、2001年9月にはTOB(株式公開買い付け)によりさらに株式取得数を増やし、結局日本テレコムの66.7%の株式を所有することにより、同社の支配権を握った。Vodafoneは日本テレコムの携帯電話子会社、J-Phoneにも45%の株式を持ち、2001年8月には社長にダリルE.グリーン(Darryl E.Green)氏が就任している。2001年末の12月21日には、日本テレコムの新社長として、ウイリアム・モロー氏(William Morrow)が就任した。これは過去1年間におけるVodafoneによる日本テレコム、J-Phoneの支配権取得過程の一応の決着を示すものである。

 Vodafoneによる日本テレコムの支配権取得は、わが国通信市場開放後の外資参入が当初の予想とは異なった形で終了したことを意味する。つまり、(1)本命と見られていたAT&T、BTがいずれも負債返済策の一環として、日本電気通信市場への大掛かりな進出政策をあきらめ、新興携帯電話会社のボーダフォーンに日本テレコム株を売却せざるを得なかったこと、(2)(1)の結果、日本電気通信市場における大規模な外国通信事業者勢の直接投資は、C&W(IDCをTOBにより取得、以来IPベースの固定通信事業を展開する100%子会社のC&WIDCを運営)とVodafoneの2社になったことである。両社とも、英国企業であって、この結果わが国電気通信市場において、米国勢の急速な退潮が注目される。
 電気通信会社の持株に対する外資の参入規制撤廃はWTOがここ数年来推進し、WTO加盟国でおおむね、国内法制にこの要件を取り入れてきたところである。わが国ではNTT(外資参入の限度比率は株式の20%未満)以外、とりわけ外資の持ち株比率に対する制約はない。従って、今後、外国からの資本参入攻勢が再び起こり、外資参入がさらに進む可能性も十分にあり得る。むしろ、電気通信会社の株式が軒並み下がっている現在、割安で企業買収ができる魅力は大きい。ただ当面、電気通信会社の財務力が軒並み弱っているため、買収側に回る電気通信事業者がなかなか現れないという事情はあろう。
 因みにVodafoneは日本テレコムの固定通信事業について、今後効率を高め収益の向上に努めるとの方針を発表している。ただしCEOのGent氏は確信的な携帯電話信奉論者(つまり、将来携帯電話が完全に固定電話に代替するとの見通しを有する)であって、状況のいかんによっては、Vodafoneによる日本テレコムの固定電話部門再編が起こる可能性は否定できない。

フランス政府、3G免許料の大幅引き下げを決定

 フランス政府は2001年10月中旬、すでに1社当り49.5億ユーロと定めていた3G免許料を大幅に引き下げる意向を表明し、同年12月始めにその具体的な内容を明かにした(注1)。
 この改正によると3G免許取得2社(Orange、SFR)の支払額は次の通りとなる。

  • 免許料は6.19億ユーロ(引き下げ前の49.5億ユーロに比し8分の1)
  • 免許料に加えて3Gサービス収入1%の特別税

 フランス政府がすでに1年以上も前に決定を下し、しかも免許取得企業であるフランステレコム、SFRからすでに第1回目の支払を受けていた免許料について、その大幅な減免を認めたのは全く異例の決断であった(注2)。
 今回の決定をもたらした最大の理由は、当初4社の免許枠を用意していた3G免許への応募が免許料の高さから、人気を呼ばなかった点にある。結局、応募したのは、オレンジ(フランステレコムの携帯電話子会社)とSFR(Vivendi Universalの携帯電話関連会社)の2社にどどまった。外国の携帯電話業者はもとよりのこと、他の国内携帯電話事業者2社、Buigues Telecom、Suez Lyonnaise des Eauxは共に高い免許料に恐れをなして、免許取得を断念したという経緯がある。この状況では、フランスの3G市場が寡占になってしまい競争上問題が生じる。また採算の面でも、免許料変更により期待される4社分の免許料収入および年々の特別税の累計が当初決定の場合の2社からの3G収入に相当するとの考慮(少なくとも机上での計算では)に基づき、フランステレコムは今回の決定を行ったものであろう。
 さらに、ENA(国立行政学校)出身でありかって経済・財政省に勤務した経験もあり現在、もっとも注目されているフランスの経営者の1人Messier氏(SFRの親会社であるVivendi UniversalのCEO兼会長)の強い政府への説得も力があったと考えられる。
 フランスの経済・財政相のファビウス氏は今回の決定に当り、「2001年2月のビューティーコンテストで売れ残ってしまった2免許に対し、速やかに新たな応募企業が現れることを期待する」と述べた(注3)。2免許についての公募手続きは新年早々に開始され、フランス政府は2002年の9月末までに、新免許2件の承認を期待している(注4)。応募がまず確実と見られているのはフランス第3位の携帯電話事業者Buigues Telecomである。同社はかねてから、NTTDoCoMoのiモードを高く評価しており、できれば同社と共同で応募したいと考えている模様である。また、イタリア、ドイツ等の諸国の携帯電話事業者からの応募も期待されようが、Buigues Telecomの他に応募業者が現れるか否かはまだ不確定である。現在、将来における3Gサービスの潜在性に関しては未だ多くの議論が行われている。他の業者が出現するか否かは、これから応募締め切り期限までの期間、3Gの将来が一般的にどのように評価されるかによって定まるところが大きい。
 また今回の決定により、特にドイツ、フランスなど高い3G免許料を課した諸国に比し、フランスの携帯電話会社がコスト面で大きく有利な地位に立つこととなった。従って、他の免許賦与国における3G政策にもインパクト(フランスのように遡って免許料減免は行われないにせよ、例えば3G網構築に際しての設備の共有についての有利な取り扱い等)が及ぶものと見られる。

(注1) 2001.10.15付けテレコムウォッチャー「取得事業者(SFR、Orange)、賦与者(フランス政府)がともに不満を持つフランスの3G免許」」で筆者はフランス政府が当初の免許料の改定を行う可能性はまずないだろうと予測をした。この予測はフランスと英国の2、3の新聞記事によったものであるが、フランス政府の英断により、まったく外れてしまったことをお断りしておく。
(注2) 2001.11.16付けFT.com, "France cuts upfront cost of 3G mobile licenses"
(注3) 2001.11.15付けBusiness Week Online, "Commentary : why France May HIT the Wireless Jackpot"
(注4) 2002.1.1付けFT.com, "Sonera opens 3G network as France restarts licence bids"




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