DRI レポート
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      インターネット対応マンション - デベロッパー各社の戦略
田村 修  (不動産経済研究所、日刊不動産経済通信 記者)

2002年11月25日号

 マンション購入の決め手として、ここ2〜3年とくに重視されるようになったのがインターネット対応。面積が広くて、最寄り駅から近く、価格も手頃、というのが従来のマンション購入を決めるオーソドックスな原則だったが、最近はインターネット対応という新たなスタンダードが追加された。住宅のインフラ環境として不可欠なものとなったインターネット対応だが、その定義は曖昧だ。「インターネット対応マンション」という宣伝文句もマンション販売会社のチラシ広告などに登場するようになったものの、その中身は各企業、あるいは個々のマンションごとに異なるため、一般消費者に誤解を与えかねない。

 国土交通省では、デベロッパーなどがインターネット対応マンションを供給する際の基本的な考え方を策定し、インターネット対応の内容について整理した。常時接続による高速・超高速インターネットアクセス環境を分譲マンションや賃貸マンション・アパートなどに整備していくことを目的とし、現時点での「インターネット対応マンション」を定義付けたものだ。はじめに新築の共同住宅の情報化標準としてまとめ、次に既存の共同住宅のための事項を追加した。
 新築共同住宅の情報化標準は、(1)電気通信設備の仕様、(2)サポート体制、(3)管理、(4)情報提供、の4項目からなる。
 まず、電気通信設備の仕様については、団地敷地内へのアクセスラインや住棟内および住戸内ネットワークを構成する機器・配線などが定額による常時接続を確保し、ネットワークを構成する機器が将来の機能更新に対応しやすいことと規定している。サポート体制に関しては、必要なインターネット接続サービスや適切なサポート体制などが整えられたサービスを居住者が選択できることとし、居住者が相談しやすいヘルプデスク(問い合わせ窓口)が設置されていることを条件としている。
 管理については、インターネット接続環境が安定的に維持され、将来の更新がスムーズに実施されるように、日常の維持管理やセキュリティ対策、分譲住宅における適切な規約の整備、電気通信設備の仕様情報の保管に十分配慮していることを挙げている。情報提供では、分譲住宅や賃貸住宅の契約で入居予定者が電気通信設備や提供されるサービス内容を検討できて、入居後すぐにインターネットを利用できるように、広告をはじめ、契約から引っ越しまでの各段階での必要な情報が提供されることと定めている。
 建物を新築する際にインターネット対応にすることは、今日では標準仕様と言ってもいいが、既存の共同住宅にインターネット対応の環境を導入するためには、新たな工事を行うことに伴って、クリアしなければならない特有の課題がある。

 既存住宅の場合、建物の構造や設備仕様にある程度の制約が生じるほか、分譲マンションの場合は、区分所有者間の合意形成手続きなどが必要となる。
 既存住宅の情報化標準として追加したのは、「区分所有の既存共同住宅における管理組合による合意形成の進め方」と「既存共同住宅における高速・超高速インターネット接続環境の整備工事に関する配慮事項」。
 管理組合による合意形成の進め方については、接続環境の整備に関して理事会で検討を開始するとともに、必要な情報を収集し、敷地・建物の状況や工事費、建物・設備への負荷、インターネット接続サービスの内容などに関する予備的な調査を行った上で最終的には総会で決議することと規定している。
 接続環境の整備工事では、(1)共用部分の変更、付加工事(2)既存設備の接続工事・機器などの取り替え工事(3)ネットワーク機器の安定稼働、を配慮事項として挙げている。
 既存共同住宅に関しては、情報化標準のほかに、「インターネット接続環境の整備に係る合意形成マニュアル」と「インターネット接続環境の整備に係る技術指針」を定めている。
 合意形成マニュアルは、インターネット接続環境を整備する各段階で管理組合が行う具体的な事項を手順として取りまとめている。技術指針はインターネット接続環境の整備工事を行う際の適用技術や施工に関して配慮すべき事項を整理した。具体的には、アクセスラインや住棟内および住戸内ネットワークの各電気通信設備工事について、工事内容や共用部分の変更・付加工事、既存設備との接続工事、既存設備の取り替え工事、ネットワーク機器の安定稼働に配慮した留意事項を整理している。

 国土交通省では、今回策定した共同住宅の情報化標準および合意形成マニュアル、技術指針を都道府県や政令指定都市、都市基盤整備公団などの関係団体に通知したほか、民間住宅事業者やマンション管理組合などへの普及を進めていく方針だ。

デベロッパー各社の対応

 インターネット対応は新築の分譲マンションにとっては最低限のインフラ。差別化していくためにはサービスの内容が問われる。既存マンションへのIT化も進められるようになってきた。主なマンションデベロッパーによる取組みを個別にみていく。

 「ライオンズマンション」のブランド名で全国展開しているマンション供給最大手の(株)大京は2000年1月から、新規発売のすべてのライオンズマンションにインターネット常時接続サービスを標準化した。同年10月にはNTT-MEとの共同出資により、集合住宅向けインターネットサービス提供会社「(株)ファミリーネット・ジャパン(FNJ)」を設立。翌2001年4月から、一部の光ファイバー提供エリア外などを除いて、光ファイバーなどによるブロードバンドでのインターネットサービスを標準化し、同年9月からは、建物の棟内配線に光ファイバーを使ったブロードバンドマンションの供給も開始した。
 ブロードバンドマンションには、FNJがインターネットサービス「サイバーホーム」を提供している。建物内をインターネット専用のLAN配線で結び、共用部にネットワーク機器を設置しており、インターネット回線使用料や設備費をマンションの居住者で共有できるため、定額・低料金で24時間常時接続が可能になった。月額の利用料金は2200円、保守費用は600円前後で、これらはマンション管理費に含まれる。
 FNJのサイバーホームでは、マンション入居者の家族全員に最大10個までEメールアドレスを提供するほか、インターネットに関するフリーダイヤルによる年中無休の無料相談や外出先(国内外)からのダイヤルアップ接続によるインターネット接続、容量50Mbpsのホームページ作成などを行う。サイバーホームのトップページでは、マンションライフに役立つコンテンツも紹介している。

 リクルートコスモスはNTT東日本と提携し、専用の光ファイバーで最大毎秒100Mbpsの高速通信回線を使ったインターネット対応仕様を2001年11月からすべての新築分譲マンションで標準化した。建物に専用の光ファイバー回線を引き込み、棟内にインターネットLANを構築する方式で、共用回線・住戸内回線はギガビット対応が可能。
 加入方式は「全戸加入・均等負担方式」ではなく、「任意加入・受益者負担方式」を採用しており、価格は月額2800円。ただし、物件特性に応じて、料金をより安く設定できる「全戸加入方式」も一部のマンションで採用している。
 同社は今年3月に(株)有線ブロードネットワークス(USEN)と提携し、マンション向けブロードバンド通信事業を開始した。同社が首都圏で供給している新築分譲マンションに対し、USENが回線局からマンションまで最大1ギガの光ファイバー網を引き込み、各住戸に最大100Mbpsの超高速インターネット通信網を整備し、この通信網を利用して約5000のブロードバンドコンテンツ(一部有料)やIP電話などの各種ブロードバンドサービスを入居者向けに提供している。IP電話通話料金はマンション内サービス加入世帯間の通話は無料、そのほかは市内が2分4円、市外(2分)が距離に応じて8〜24円となっている。

 藤和不動産(株)はNTTコミュニケーションズと包括提携して、2000年12月から同社が新規に分譲するマンションへのインターネット接続サービスを開始しているが、すでに分譲済みのマンションに対しても2001年6月からブロードバンドインターネット専用線接続を推進。関連会社である管理会社の藤和コミュニティ(株)と連携し、各マンションの規模や環境などに応じた最適なインターネットシステムの導入を提案している。
 インターネット回線はマンション管理組合ごとのニーズに対応するため、インターネットバッグボーンからマンションまでの通信速度を常に保証する「帯域保証型」、通信速度を一定範囲内で確保する「帯域確保型」、速度保証はないが大容量の回線を低コストで利用できる「ベストエフォート型」の3種類を提案。建物内の環境では、棟内に新たに通信線を敷設する「LAN構築型」と既設の電話線を利用する「HomePNA方式」を提案し、費用負担については「組合負担型」「受益者負担型」「併用型」の3種類を用意している。加入方式は「全戸加入方式」と「任意加入方式」がある。
 提供するサービスは、インターネット常時定額接続環境に加えて、24時間365日フルタイム有人対応のヘルプデスクサービス、1住戸に最大4個までのEメールアドレス付与、容量10Mbpsまでのホームページの開設。
 また同社は2001年7月から、独自のブロードバンドプロバイダサービス「With e Net(ウィズイーネット)」の運用を開始した。同社の新築マンションだけではなく、既分譲マンションはじめ、他のデベロッパーが供給した分譲マンションや賃貸マンションなどを対象としている。料金は自社の新築物件は月額2300円程度、他社物件は月額3500円程度。
 ウィズイーネットが提供するサービスは、インターネット接続サービスと各種コンテンツサービス。インターネット接続サービスでは、ブロードバンドの接続環境を物件の特性や顧客のニーズに応じて幅広く提供するため、従来から採用している光ファイバー1.5Mbpsとデジタル専用線128kbpsの帯域保証型(一部帯域確保型)回線に加えて、帯域保証型SDSL回線512kbps〜1.5Mbpsも取り扱っている。また、最大容量100Mbpsと同10Mbpsの光ファイバーブロードバンドアクセス回線を利用している。
 コンテンツサービスでは、有線放送事業会社であるキャンシステム(株)と提携し、同社が全国の商店街に張り巡らせた営業網を活用した地域情報や管理会社の藤和コミュニティとの共同による各種の生活関連情報を提供している。

 総合商社でマンションデベロッパーでもある丸紅(株)は、大手総合デベロッパーの三菱地所(株)、東京建物(株)と共同でマンション専用の高速インターネットサービス事業を手がける専門会社「(株)つなぐネットコミュニケーションズ(TNC)」を2001年5月に設立し、マンションのIT化を幅広く進めている。
 TNCは丸紅、三菱地所、東京建物の新築・既存の分譲マンションのほか、他のデベロッパーや管理会社に対しても広く門戸を開放し、業務提携パートナーとしてマンション業界の大同団結を呼びかけている。通信事業者や機器メーカーに対しては、「キャリアフリー」「メーカーフリー」の立場を利用してマンションごとに最適な通信サービスや情報提供を行っている。
 具体的には、マンションの入口までの通信事業者を選択する権利を同社が持つことにより、光回線やADSL、無線などのラストワンマイル方式を問わず、マンションの規模や利用状況に応じたサービスを提供。現在利用している回線は、東京めたりっく・KDDI・e-accessなどのADSL回線や光回線、22GHzのFWA(無線)方式など。
 また、マンションの入口から各住戸までの配線・通信方式に関しては、特定のメーカーや方式にとらわれず、その時々の最適な技術を利用している。新築マンションでは、イーサネット方式(100Mbps)を中心とし、各住戸まで光ファイバーを引く方式も採用している。既存のマンションには、棟内電話線を利用するHomePNA方式(1Mbps)やxDSL方式(〜15Mbps)を中心とし、棟内テレビ回線を利用するcable modem方式(〜30Mbps)や2.4GHzの無線方式(〜10Mbps)を活用するなど、あらゆる形状のマンションに対応できる体制を整えている。大規模な複数マンション群の棟間接続については、ビル間レーザー通信を応用することも計画中。
 通信サービスの料金は、通信料・プロバイダ料金の合計で常時接続サービスを新築が月額2000円程度、既存が月額3900円程度、高速接続サービスを月額6000円程度で提供している。
 コンテンツのサービスとしては、地元半径2km程度の生活情報を提供する地域ポータル「まちぷら」や全国の開業医団体との提携によるネット上での健康相談サイト「バーチャルドクター」、医師・薬剤師・助産婦・セラピストなどの専門家による妊娠出産育児専門サイト「ベィビーパラダイス」などを提供している。



データリソース社では、「インターネット対応型の建築物」関連のレポートとして、

米国プローブリサーチ社の「米国の競争的サービス市場(USCSM)」サービスのレポート、

レジデンシャルブロードバンド/Residential Broadband

インスタット/MDR社の「Residential Connectivity」サービス「MTU & Emerging Broadband Verticals」サービスなどのレポート

MTU、MDUとホスピタリティ市場:世界のビルトイン型ブロードバンド技術
MTU, MDU & Hospitality Markets Global Analysis of In-Building Broadband Technologies(米国アライドビジネス社)


住宅用ゲートウエー:ネットワークに接続している家庭にサービスを提供する
Residential Gateways: Delivering Services into the Networked Home - Technologies, Architectures, Players and World Forecasts(米国アライドビジネス社)


などがあります。




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