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  日本の無線LAN市場に切り込むプロキシム社  田村 修  不動産経済研究所 日刊不動産経済通信記者
2002年1月25日号


 米国・シリコンバレーに本社を置く無線ブロードバンド・ネットワーキング(無線LAN)分野のトップ企業であるPROXIM(プロキシム)社が日本での事業展開に力を入れている。
 プロキシム社は1984年に設立。当初は米国国防総省の下請け業務として、移動性を重視した軍事用の高性能無線データ・ネットワーク・システムを開発していた。規制緩和によって1989年に商用無線データ通信市場に参入以来、サプライヤーとしてホームコンシューマー(自宅でショッピングする人)や小規模オフィス、民間および公的機関、サービスプロバイダー向けに無線データ通信機器を提供している。
 1992年に900MHz帯使用DSSのLANアダプタを開発した後、1994年には他社に先駆けて2.4GHz帯使用FHSS方式のRangelLAN2ファミリを発表。1998年には家庭・SOHO向けコードレス・ネットワーク・システム商品Symphonyを開発した。2000年にはビル間無線通信システムのStratumファミリや複数の無線プロトコルを低コストに一括管理できるHarmonyファミリを加えるとともに、Symphonyをバージョンアップさせるなど製品の強化・充実を図っている。
 1993年にナスダック(米国店頭市場)に株式を上場した。2000年度(2000年1〜12月)の売上高は107ミリオンドル(1ドル=130円換算で約140億円)。2001年度は景気低迷に加えて同時多発テロの影響もあり、当初目指していた売上高倍増の計画は大幅に修正されたものの、対前年比での増加は確保した。
 無線LAN業界は上位を米国のメーカーが占めている。1位のプロキシム社をはじめ、4位までが米国企業で、5位のイスラエルの企業を含めた大手5社がシェアの大半を支配している。
 プロキシム社は1995年から代理店を通じて日本での事業展開を開始し、2000年3月に日本法人(東京・八重洲、松本重継社長)を設立した。昨年12月に無線通信機器大手の東洋通信機と日本での総代理店契約を結び、代理店を4社に拡大して営業体制を強化した。
 無線LANは電波を使ってネットワークを構築するシステムで、有限の資源である電波の用途は免許制によって規制されている。ただし、2.4GHz帯の電波は国際的に例外であり、ISM(Industrial Science Medical)バンドと呼ばれ、免許なしで使用できる。無線LAN以外では、電子レンジや移動体識別カード、産業用ロボットのアプリケーションなどで使われている。最近は無線LANを高速化するため、5GHz帯が新たに注目され始めた。5.2GHzは日米欧で免許なしで使用できるが、日本では屋内のみの使用に限定されている。
 無線LANのルーツは第二次世界大戦時の軍事通信技術にある。有線LANを無線技術に置き換えたのが無線LANのスタートだ。有線LANに比べると無線LANは高価で低速だが、ケーブル回線が不要であることが大きなメリットである。倉庫やスーパーなどの在庫管理や飲食店舗でのオーダー、医療現場、学校など、有線では困るというアプリケーションで利用されている。とくに日本では、消防法上の規制から学校の建物は新たな配線を敷設する工事がやりにくいことから、無線LANの需要は多い。数年前から法政大学がプロキシム社の無線LANを導入しているほか、現在、数校の大学からキャンパスLANに無線LANを導入したいという引き合いがきており、すでにいくつか契約が内定している。
 無線LANの製品は2000年以降、データレートが11Mbpsの802.11b仕様という製品が比較的低価格で登場し、米国では企業用途を中心に、日本では個人ユーザーを中心に使用されている。現在はこの製品が主流になっている。
 2.4GHzの無線LANには二つの方式がある。どちらもスペクトラム拡散方式と呼ばれるが、一つはFH(周波数ホッピング)方式。これはデータを幅が狭くて強い電波に変えて、周波数を次々に変更しながらデータを電送する方式で、干渉に強く、密度を高くできるのが特徴。もう一つはDS(直接拡散)方式。この方式はテレビのチャンネルのように周波数を固定して、データを幅の広い電波に変換して電送する。干渉に弱いため、お互いの干渉を避けるための区割りが必要になる。
 両方式ともデータを暗号化して飛ばし、受け手はそれを解読して受信することによって盗聴のリスクを回避する。DS方式はFH方式より盗聴されやすいため、データの暗号化をより強化している。
 伝統的な用途はFH方式(データレートは2Mbps)が中心。802・11bはDS方式だが、データレート11Mbpsの高速性がヒットしている。FH方式もデータレート10Mbpsの商品化が計画されており、無線LANは転換期にある。今後は家庭やSOHOでの普及が期待されている。
 無線LANはアクセスポイント(AP)とクライアントカードで構成されている。両者の関係はコードレス電話の親機と子機に相当する。APはクライアントカードとの無線インターフェース機能と有線LANとのインターフェース機能を併せ持つ。無線LANは@企業用途A家庭・SOHO用途Bサービスプロバイダー向け、の三つの市場を持つ。
 企業用途では、ネットワークを普及させることによるトータルとしての生産性の向上に応える必要がある。導入時、維持管理コスト、拡張時の費用対効果とスピード、管理のしやすさなどがポイントになる。家庭・SOHO用途は設置が簡単であることや使い勝手の良さ、価格、耐干渉性が求められる。サービスプロバイダー向けは有線と比べた初期費用とスピードが重要だ。
 日本では、2年前にソフトバンク、マイクロソフト、東京電力の3社が出資して設立した「スピードネット」という企業が昨年から、埼玉県を中心にプロキシム社の無線LANを使ったインターネット接続サービスを開始している。
 ビル間通信では、100Mbpsなら電波は1km飛ぶため、日本でも中小ビル・オーナーの無線LANの需要は増えている。ただし、無線LANは鉄筋を通さないので、建物の各階は有線でつなぎ、各フロア内のテナントごとに無線LANを構築するやり方になる。5GHzになると光に近くなり、見通しがきかないと使用できないため、無線技術は都心部より郊外や地方都市に向いているということになる。しかも東京は、光ファイバーやケーブル、ISDN、ADSLなど選択肢が多い。現在、地方公共団体からの需要がある。高い初期投資は補助金でまかなえるので、電気代だけという低いランニングコストが魅力となっている。
 NTTは2005年を目標に全国の光ファイバー網を完成させる計画だが、これは電柱までのインフラ整備である。そのため、「ラストマイル問題は無線LAN方式で解決するのが有効だ」とプロキシム社日本法人の松本社長はビジネスチャンスを伺っている。
 とくに狙っているのは、既存の分譲マンションへの無線LANを使ったインターネット・サービスプロバイダー。電柱や屋上などに基地局を設置してベランダから各部屋に電波を飛ばす方式が一般的だ。共用部分を工事しないで済むため、区分所有法の特別決議(集会で4分の3以上の賛成)が必要になるという規定にも触れないし、各住戸と個別契約もできる。
 このほか、企業向け製品Harmonyを使って大企業向けに無線LANの普及を図っていく。無線LANを全社的に使っている企業がまだないので、開拓の余地はあるとみている。来年度から本格的に営業展開したいクライアントも数社ある。
 プロキシム社の総売上高の10%を日本法人で売上げ計上するのが目標だ。

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