DRI レポート
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      米国LAで実感するコリアン・パワー − 光通信コンベンション OFC2002 雑感
定成 寛  (有限会社オプトマーケティング代表取締役 光業界専門経営コンサルタント)
2002年4月24日号

What's OFC?

 OFC(Optical Fiber Communication Conference and Exposition)は米国光学会(OSA:Optical Society of America)が主催し、米国電気電子学会(IEEE)の委員会(下部学会)であるCommunications Society (ComSoc)やLasers and Electro-Optics Society(LEOS)の協賛によって米国で開催される世界最大の光通信コンベンションである。同様のイベントとしては同じく米国のNFOEC、欧州のECOC、そして日本のInterOptoなどがあるが、OFCは展示会出展社数、学会発表数、そしてなによりもその注目度において他を圧倒しており、「名実ともに世界最大」といえるだろう。
 本年のOFCはは3月17日から22日までの6日間、LA郊外のアナハイム・コンベンション・センターに於いて開催された。開催地は本来、米国内各地の「持ち回り」なのだが、諸般の事情から'01、'02年は2年連続でアナハイムでの開催となった。本文のタイトルで「光通信コンベンション」と表記したのは、OFCが単なる展示会ではないからである。19日からの展示会に先駆けて17日からスタートする学会発表は実に数百セッションにも及び、基調講演、一般講演のほか、ショートコースやワークショップなどその形態も多岐に渡っている。
 本年の展示会出展社数は昨年の977社から一気に1204社まで増加。開催27回目にして初めて1000社を越えた。入場登録者数は約33000(32836)人であったが、これは昨年の38000人からマイナス5000人、約13%の減少である。
 詳しい数値は別表に譲るが、こうした数字の推移を光通信業界の景気指標として見る者もいる。確かにそうなのだが、背景は少々複雑でもある。展示会申込みは遙か昔、前年の春から夏にかけて行われるが、入場は(当然の如く)リアルタイムであり、そして光通信業界の景気サイクルがその「時差」を下回る非常に短いものであるからだ。そうした点を考慮すると、'01年は「開催時点での予想以上の好況に入場者多し。しかしながら'00年には出展を決断しきれなかった企業もあり1000社には至らず」、'02年は「'01年の好況から出展社は急増。しかし肝心の開催時点までに市場が下降し、入場者は振るわず」と解釈出来るかもしれない。出展社と入場者のギャップはこのように読み取れるが、すると来年は?誕生以来ひたすら成長の一途を辿って来た光通信業界が停滞、下降局面にある今、非常に気になるところである。

Why go to the OFC?

 技術的なレポートは国内外の各専門誌で膨大なページ数を割いて発表されるので、本文ではOFCの性質的な側面について記して行きたい。まずはOFCに出展、参加することの「意義」は何だろうか?オリンピックではないが、OFCほど「参加すること」の意義が大きなコンベンションも珍しいだろう。ネット経由で行われる提携ホテルの予約は前年11月の時点で会場に近いところから"Sold Out"が出始め、日本からの直行便も会期直前のフライトは予約開始直後に埋まってしまう。そして空港、機中、ホテル、会場から付近のレストラン、バーに至るまで日本の光業界内人がうじゃうじゃと出没。「いや、こんなところで」と挨拶で暇がない。日本のある大手電線メーカーの関係者に聞いたところでは、「説明員も含めて70人位」も渡米していたとか。不況時下でその人数なのだから、景気回復時にはどうなってしまうのだろうかと、他人事ながら心配になってしまう。さながら日本の光業界関係者の「集団大移動」といったところか。
 これは「ワールドワイドビジネスである光通信への積極的マーケティング戦略の実践」ともいえるが、正直なところ「海外市場も視野に入れた事業戦略を行っていることの意志表示」の感も強い。しかしこれはネガティヴな意味ではない。そうした意志こそが重要であり、熾烈な光通信業界の中でレギュラー・プレイヤーたりえる条件であるからだ。OFCでは会場内外での日本人同士のビジネス・ミーティングや情報交換も珍しくはない。わざわざ海外に行かなくてもとも思わえるが、上記のような意欲的なプレイヤー達が一同に会したOFCは、非常に効率良く、ビジネス・オポチュニティを獲得出来る貴重な場なのだ。もっともこれは日本人特有の「アメリカまで行って、同じ釜の飯を食った仲」的なシンパシーも大きく作用しているようにも思えるが。

Next generation of Korea

 なにしろOFCは巨大である。今年の出展は1204社、自分なりの明確な「テーマ」を設定して見学先のチョイスを行わないと、散漫な印象しか持てず十分な成果は得られない。筆者の場合は韓国の光メーカーと、専門分野であるインターコネクション関連企業を集中的に訪問した。
 さてその韓国の光メーカーだが、ひとことで言えば「メジャープレイヤー不在の北米」という感じだった。北米の光通信業界はネットワーク装置のシエナ、シスコ、ノーテルの他、ファイバーの巨艦コーニング、測定器のアジレント、各種コンポーネントのJDSUといったメジャー企業があり、そのボトムを数々の新興ベンチャーが固めているという構図がある。それは北米が光通信に対し長い歴史を持ち、成熟した巨大企業と、そこからのスピン・アウト組が興したベンチャーの並立という過程に至っているからである。韓国はその光通信の歴史に突如出現。巨大光企業の成長なしに、光トランシーバーなどのアクティブデバイスを主力製品に据えた新興ベンチャーが「暴れまくっている」という状況となった。もちろん韓国にもLG、SAMSUNG、ILJIN、JINROなどの光関連企業があり、古くからビジネスを行ってはいたのだが、幹線系製品を中心とした彼らに時代の風は吹かず、NEOPTEK、TRADIAN、KET、K-Techなどの新興ベンチャー(一部大手企業からの分社化も含む)が−実際のところ売上的にはなれなりに苦境なのかもしれないが、マインドとしては−前述した「海外市場も視野に入れた事業戦略を行っていることの意志」、レギュラー・プレイヤーであることをブースで、そして直接的に言葉で表明していた。
 それにしても彼らの「若さ」には驚く。なにしろスピン・アウト組なので、マネージャークラスでも30歳代前半。日本では若手とされる筆者(36歳)よりも年下なのだ。多くは米国留学経験を持ち英語も流暢。LG、SAMSUNGの情報通信部門からの転職者が多く、その技術力をもって新興ながら巨大なWDM(波長多重伝送)中継装置などを開発してしまうのだから驚かされる。今回のOFCで韓国新興組のL社と面談する予定にしていたのだが、事情により彼らが出展を取り止め、「せめて訪問する誰かと会えないか」と打診したところ、「社長が行く」との返答。エンジニアや海外セールス・マネージャーとの面談を希望していた筆者は、「社長ではビッグすぎる」と辞退。ところがあとで、社長といっても筆者とひとつしか年齢が変わらないということが判明。「それならば会えばよかった」と後悔してしまった…などというこぼれ話もある。
 しかし、そんな韓国ベンチャーにもある種の岐路が訪れているようだ。スピン・アウト時の技術力でユニークな製品を創り出してはいるものの、企業の寿命は長く険しい。研究開発に対し人も、カネも、組織も、施設も限界のある彼らが、変化の激しい光通信市場で最新のソリューションを提供し続けることは容易ではないだろう。その点について、さりげなく持ち出すと、いずれのベンチャーの人間も、「そこが問題だ」と語った。そして同時に「しかし、どうにかやって行くつもりだ」とも。
 ベンチャー側だけのヒアリングでは面白くない(?)ので、韓国の巨艦であるSAMSUNGのブースも訪問し、暫くの間、同社のセールス・マネージャーとディスカッションを行った(こうしたことが極めて容易に出来てしまうのが国際的な巨大展示会ならではの醍醐味である)。彼はまず「この不況時にベンチャー達が持ちこたえられるか疑問だ」と言い、「今後、市場が回復し、オーダーが具体化すればカスタマイズ要求が厳しくなる。主要部品を外部購入品に頼っている新興ベンチャーには対応出来ないのではないか」との見方を示した。研究開発の問題については「SAMSUNGでも商品化まで数年かかっている。(リソースに限界のある)彼らはそんなサイクルで事業が成り立つのだろうか」と語った。
 ベンチャー側、大手メーカー側双方の見解とも市場が低迷している現在では単なる仮説にすぎない。その結果がどう出るのか、市場回復までしっかりとウォッチングしてみたい。

Next OFC !

 次回のOFCは'03年3月23日から、アトランタのジョージア・ワールド・コングレス・センターで開催される。冒頭で述べた出展社数、入場者数の推移は?そして若き韓国ベンチャー達の1年後の姿は?…期待と不安を抱きながら、来年も必ず訪れるつもりである。


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