DRI レポート
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      光通信デバイス組立の今後を考える - PhoPack 2002 より -  中島 和宏  K-NETS コンサルティング社長
2002年7月31日号

 去る7月14日から16日にかけて米国カリフォルニア、シリコンバレーに位置する名門、Stanford大学キャンパス内にて、Photonic Devices and Systems Packaging Symposium (PhoPack) 2002が開催された。 一つの市に匹敵する広大な敷地を持つ同大学キャンパス内の一角にあるAnnenberg 記念講堂で行われた同会議は、IEEEおよび関連団体IEEE LEOS (Lasers & Electro-Optics Society)、CPMT (Components, Packaging & Manufacturing Technology Society)、SEMI (Semiconductor Equipment and Materials International)、およびMEPTEC (Micro- Electronics Packaging & Test Engineering Council) 主催による、今年で二回目を迎えた小規模な学術会議である。 参加者はおよそ150名強で、主催者側の期待していた200名強には届かない数字となった。 CiscoやJDSUといった関連大手企業からの参加者が昨年には各社十名近くであったのに対し、光通信関連市場の低迷 (もしくは米国市場全体の低迷?)の影響を受けたためであろう、今年は各社1〜2名であったことが要因であると、主催者側の一人、Bette Cooper, MEPTECの弁。

 会議は初日に三つのショートコースと、以後二日間にわたるシンポジウム、8セッションによって構成されていて、32の報告が行われた。 内訳はデバイス・パッケージングと製造技術に関わるもの14件、熱解析、シミュレーション関連4件、デバイス信頼性関連4件、MEMS関連4件、市場動向その他6件となっていた。 主催者団体の顔ぶれを見てもわかるように、この会議の主体は長年の経験を積み成熟してきた半導体パッケージング産業界が、それらの技術を光通信デバイス産業に導入していこう、すなわち同産業に進出を図ろうという目論見(?)をベースとしている。 したがって、報告内容もそのような視点に立ったものが多い。 セッション詳細は、同会議のWEBサイトwww.cpmt.org/phopack/ に譲るとして、ここでは主に、光通信デバイス組立の今後の見通し等に関してまとめてみたい。

 まず、マクロな視点からネットワーク・トラフィックの推移を振り返ってみる。 僅か三年前Telcordiaの予想したインターネット・トラフィックの成長率は100〜200%/年であり、人々はこれを控えめな数字と捉えていた。  しかしながら、2001年にはこれが正しい予測であったことに気づき、2002年には何とかこの数値を達成するべく努力をしなければならなくなっていた。 一方、このような人々の予測に対応するべく技術革新も行われた。 1995年にはDWDMの本格的実用化により、光ファイバーの許容トラフィック量は飛躍的に拡大して1Gbpsから10、40、そして100Gbpsへと向かい、ハイエンド・テレコムのトラフィック量の成長に十分対処できるかそれ以上の能力を得ることになった。 また、98年にはEthernetの改良により、いわゆるGig Etherが実現してハイエンド・データコムの担い手として注目された。 ところが、現在はトラフィックの成長率が予測以下であり、また通信業界は予測以上の許容量を与えられたネットワークをもてあましている。  40Gbps (OC-768)を必要とするはずであった市場は完全に鈍化。 その下層では光通信デバイスが大きな価格競争に巻き込まれている。 Gig Etherは大量消費を呼ぶであろう市場として期待されているが、当然ながらその価格設定は非常に低い。

 次に光通信デバイスの視点から眺めてみる。 実際、ネットワーク産業からのプレッシャーに応じて、デバイス産業は手作業組立による様々な弊害からの脱却を目指す革命期にさしかかっている。 従来からの組立工程は、自動化率が著しく低く、収率、生産効率ともに悪い、大量生産へ移行しにくいプロセスが主流をなして、もっぱら労働力に頼っている部分が多い。 例えば、Ignis Optics社のMichael Lebby社長の示したデータによると、JDSU社では82%の社員が生産労働力に携わっていたという。

このような背景から、労働力を「安く」確保するために多くの組立メーカーがこぞって中国へと進出してきた。  製造現場のワーカー・クラスが、月給約100USドル程度とは魅力的である。 しかしながら、中国進出はそんな労働力コスト・メリットだけではない。 TechSearch社のJan Verdaman社長によれば、彼等はまじめ、勤勉で熟練工に向いている。 国民の識字能力率は約81%にまで向上してきた。 また、多くの大学が国家予算で研究・開発に取り組み、優秀で才能豊かな卒業生を輩出しているという。 すなわち、コスト・パフォーマンスが高いのである。 最近では、WTO参加による貿易障壁の軽減、投資対象としてもホットであり、半導体産業も続々と進出してきている。 例えば、半導体製造用施設は2005年までに15箇所の建築が予定されており、Intel、IBM、Motorolaといった半導体メーカーをはじめ、Amkor、ASEなどのサブ・コン、Flextronics、Solectron、Sanmina、JabilなどのEMS企業が各地に工場を展開している。 GDPはここ数年7〜8%と成長。 中国は、「世界の生産工場」というだけではなく、「人材のシンクタンク」であり、大きな「潜在的市場」でもあるということだ。

 このような状況の中で、光通信デバイス産業は着実に変革期にさしかかっている。 技術的な面では、これまでのディスクリート、マルチチップ、ハイブリッド・タイプの構造から、導波路形態を目指した平面集積型へと開発が進んでいる。 さらに、標準化やそれによって飛躍的に進展すると思われる組立の自動化への試みが進んでおり、低コスト・大量生産化に向かっていると言ってもよい。 もちろん半導体産業に比べれば、未だ天と地の差ではある。 AgilentのLee Ng博士によると、例えば、市場規模を見ても、半導体が1750億ドル(2001年)、うち装置関連は230億ドルであるのに対し、光通信デバイス市場は50億ドル、うち装置関連は5億ドルに過ぎない。 これは、半導体産業のエンドユーザーが我々消費者であり、光通信デバイスは我々消費者層からは遠い存在にあるためである。 と同博士は言う。 いわゆる大量生産と呼ばれるシステムが必要となるには消費者により近い市場構造となる必要がある。 これを裏付ける最近の良い例は、高周波関連部品の技術革新、大量生産化、低コスト化に見られ、携帯電話等の無線モバイル製品の一般消費対象化が引き金となった。 光通信デバイスにおいても同様の流れが必要となり、実際ネットワークシステムは徐々に我々消費者に近づいてきていて、伴ってデバイス価格の低下が顕著となってきた。 しかしながら、残念なことに爆発的に大量消費可能なコストまでには下がっていない。 量産効果を生み出すためのデバイス・パッケージングの標準化や組立技術が追いついていないのが現状である。 ちなみに現在、例えばLong Haul等のコア・ネットワークに用いられるトランシーバーの平均価格は10Gbpsで10,000〜25,000ドル程度、メトロ用途では2.5Gbpsで1,000〜2,000ドル、アクセス用途では155Mbpsで〜500ドル程度である。 これらの価格差は主に許容データ量・スピードといった技術面から来るものであり、量産効果によるものではない。

 今後は、光通信用デバイス産業全体におけるパッケージングの標準化をより一層推進していくと同時に、量産を念頭に置いた新しい構造と組立プロセスを十分に検討して開発していく必要がある。 すでに米国ではIPCが標準化委員会を設置してドラフトを作成した。 日本でも、JPCAがこれに同調・協力推進していくという。

 最後に、Edward Palen博士が光通信デバイス・パッケージングに際して陥りやすい状況を十か条にまとめたのでご紹介したい。報告では、この十か条を博士はさらに細かく説明している。

1. 製品の光学設計における位置誤差許容範囲を把握していない。
2. 接着材と接着方法を十分に吟味せずに選択・採用している。
3. 高容量・スピードデバイス設計の特徴を理解していない。
4. 初期設計品(Proof-of-Concept)、開発品から光学カップリングの許容誤差と安定性データを実験的に収集していない。
5. 部品メーカーの品質管理を過信し、部品スペックを十分吟味せず採用している。
6. アウトソーシング・パートナーを十分吟味せず選択・採用している。
7. Design For Manufacturing (DFM:製造易さを考慮した設計)を実施していない。
8. 品質評価用組立に際し、デバイス設計、部品組立プロセスに対するデバッグを実施していない。
9. パッケージング設計やプロセス決定の際、組立収率も一つのパラメータとして考慮していない。
10. 初期設計品(Proof-of-Concept)から最終製品組立にいたるステップが順序正しく適切に実施されていない。
 確かに、当然のように思われることばかりかも知れないが、皆さんはどのような対処策を検討されているだろうか。



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中島 和宏   (K-NETS コンサルティング社長)

電気通信大学(東京都 調布市)大学院材料科学専攻 修士課程 1985年修了
住友金属鉱山株式会社電子材料研究所入社以来、電子・光通信事業部門に17年間在籍
1993年から2001年まで米国nCHIP社・Flextronics社にて業務従事
光通信デバイス、半導体パッケージング部材、アセンブリ、基板実装技術の研究開発、事業化、およびマーケティング活動に従事
現在は独立、技術マーケティングおよびコンサルティングとして米国シリコンバレーにて活動中
これまで、大河内記念技術大賞、日経産業新聞優秀製品賞受賞
関連特許30件以上、学術論文・雑誌記事等執筆30件以上

主な執筆論文(記事)等

* Observation of the bend of garnet thick films in LPE growth; The 47th Autumn Meeting of Japan Society of Applied physics, Sep. 1986
* Optical Isolator using an improved type of (YbTbBi)3Fe5O12 thick film; The 12th Annual Conference on Magnetics in Japan, Oct. 1988
* New design of a Polarization-Independent Optical Isolator with High Performance; The 5th MMM-Intermag Conference, IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 27, No. 6, 1991
* Characterization of Thermally and Electrically Conductive Epoxy Adhesive on its Silver Concentration; The 8th International Microelectronics Conference, Apr. 1994
* Thermal Analysis of Plastic Encapsulated Multi-Chip Packages; The Micro-Electronics Packaging & Test Engineering Council Report, Vol. 1, No. 5, 1997
* CSP Primer for Original Equipment Manufacturers - CSP Trends In On-board Productions; Chip Scale Review, Vol. 2, No. 4, Sep. 1998
* Why Use Bare Chip-On-Board Technology? ; Electronic Packaging & Production - The Premier Resource for Electronics Manufacturing, Mar. 1999
* CSP On-Board Assembly: Implementation and Qualification; SMT - The Magazine for Electronics Assembly, Jul. 1999
* A Novel Localizable HDI-PWB Solution; Conference Proceedings of SMTA International, Sep. 2000 and HDI - The Magazine of High-Density Interconnect, Vol. 3, Dec. 2000
* ファイバアレイ: V溝不要で自由にファイバを固定、高い位置精度と信頼性を両立, Electronic Journal 8月号 (2002年)



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