DRI レポート
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      注目される通信網業者のSANサービス進出
風間  仁  (海外調査コンサルタント、技術士、DRI顧問)

2002年5月28日号

 IT業界の不況は世界的な趨勢であり、電気通信の業界でもキャリアー、ベンダーの別を問わずに業績悪化や株価低迷のニュースが続いている。過当競争による収益率低下と多額の債務負担に苦渋する各企業の経営不振は、結果論ではあるが、「ITバブル」とか「ネットバブル」といわれた好況に踊らされた、世界的な過剰投資がその遠因である。経済の回復は「下期から」とか「来期には」などと一般的に期待されている。だが、電気通信業界の苦境は、通常の循環的な経済不況とは異なり、バブルの遺産が整理しきれない状態---いわば構造不況---の最中にあるので、本格的な業績回復の時期は不透明であろう。
 これまで、電気通信業界の不況打開の牽引車役として3G携帯電話(次世代携帯電話)、VoIP(インターネット電話)、DSL(ディジタル加入者線)、ワイヤレスインターネットなどの新方式が取りざたされてきた。これら新方式のサービスに期待して各通信網業者がそれなりに努力を傾けてはいるものの、免許料や初期設備などの投資負担に見合う期待収入がいま一つ厳しい様子が窺える。これらの新方式に共通していえるのは「新しい需要を取り込む新サービスというよりは、サービス料金の低下やサービス内容の充実が可能であっても、本質的には従来サービスの提供を新技術方式で代替するに過ぎない」という印象を拭い切れない感じが残ることである。 これまでの既存サービスでカバーしてきた需要(顧客層)の取り合いの無い新事業によって通信網業者のパイが膨らみ、業界全体が成長局面に移るという構図に早く移って欲しいものである。そのような形にまで成長するか否かは予断できないが、いま注目すべき動きの一つとして通信網業者によるSAN(Storage Area Networks)のサービスがある。

 SANは、企業内データの貯蔵方式の一つで、これまで主流であったDAS(Direct-attached Storage)に代って今後の採用が進むと見られている一種の "網分散型貯蔵システム" である。後述のSNIAでは「企業内の複数データ貯蔵庫、並びにこれらとコンピュータ・センターなどの各サイト間のデータ伝送を主目的とした通信網からなる複合インフラの総称」として定義しており、"広域に分散された情報貯蔵網 " に相当する。米国陸軍では、個人情報の貯蔵方式をこれまでの光ディスクを使った集中貯蔵からSANに切替える計画がある。
 現代社会の経済活動の多くがコンピュータ情報に依存していて、個別企業が情報管理用の自社インフラを必要とするのは勿論であるが、ドットコム企業の事業、金融ビジネス、さらには多国籍企業の活動など、事業展開を広地域に展開するならば対象地域をカバーする大規模で無障害のSANは不可欠のインフラである。将来、個人や家庭のレベルでも電子商取引や電子マネー決済が普通に行なわれる時代になれば、公共インフラとしてのSANも出現するのではあるまいか。1997年にはSANの普及と関連技術標準化の共同検討などを目的とした業界団体のSNIA(Storage Networking Industry Association)が発足した。コンピュータ機器、データ記憶機器、ソリューション提供、通信網サービス、通信機器、ソフト開発など、関連諸企業からなるSNIAの加盟メンバー数は年々急増しており、現在では世界の約三百社が加盟している。

 SNA向けデータ蓄積装置の代表的なプロトコル(通信規約)として利害得失の分かれるFCP(ファイバー・チャネル・プロトコル)とIP(インターネット・プロトコル)がある。最近では、IBMとCisco がIPプロトコル環境で稼動する方式を共同開発したり、BT Ignite, AT&T, KPNQuest, Cable & Wirelessなどの通信網業者がSANサービスの提供に動き始めたことなどが注目されている。アナリストの間では「大企業がはたして自社の中枢神経であるSANをアウトソーシングするか?」「 SANサービスは非常に複雑で、未経験の通信網業者にそれがどこまで可能か?」などについて否定から肯定まで意見が分かれている。だが、「所要の通信容量や通信距離の条件が企業のSAN構築の(経済的)可否を事実上左右する」という見方は定説である。設備容量に余裕があり、広いサービス対象地域をカバーしていて、オン・デマンドベースの通信要求や設備共用の希望に対応できる既存の通信網インフラの存在は通信網業者の大きな強みであることが誰の目にも明らかであろう。

 従って、SAN方式の決定版は容易に定まらないにしても、通信網業者による商業SANサービスは何らかの形で徐々に増えて行くものと考えられている。因みに、英国の調査会社 Ovumは通信網業者がSANサービスから得る収入が次の程度になるだろうと予測している。

 
2002
2003
2004
2005
2006
世界合計
1,774
2,452
3,203
4,035
4,947
North Amer.
1,123
1,455
1,741
1,973
2,156
West. Europe
375
567
819
1,124
1,463
Others
276
430
643
938
1,328
( U.S.$ millions )

 また、米国の調査会社 Instat/MDR社の発行したレポート「New Backbone Networks: InfiniBand & SAN Market Analysis」によると、SANの技術ごとの収益予測は下記の通りであるという。


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データリソースではSAN関連のレポート/サービスとして、
米国プローブリサーチ社の「Storage Area Networks: Employing the MAN/WAN for Disaster Recovery」

米国エレクトロニキャスト社の「ストレージエリアネットワークの光ファイバ」

米国カレントアナリシス社「Data Warehousing」サービス

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