Market Snapshotでは指紋照合法(9月号)や虹彩認証法(10月号)など米国における生体認証市場の検証を行ってきたが、今月はその3回目として顔認識によるバイオメトリクスをテーマとする。International Biometrics Group(以下:IBG)が近年発表した調査結果によると、顔を使った生体認証技術の収益額は2000年の1310万ドルから2005年には1億9960万ドルへ達すると予測されており、その急速な成長には犯罪鑑識をはじめ、旅行および航空産業での需要が背景となっている。また、この顔貌による生体認証法は、米国におけるバイオメトリクス市場全体の約10%(2005年)に相当するとも見込まれている。
この顔認証技術は、顔の輪郭や凹凸等をあらかじめ撮影した顔貌の画像データと照合することで認証する方法で、犯罪などの治安や刑事問題、家出人の捜索等への活用として関心が寄せられている。この他、米国内の州によっては、運転免許証を発行する際にも利用されている。例えば、ウエストバージニア州では2002年1月よりIdentix(2002年6月:Visionics社と合併)の顔認証装置を試験後、導入に踏み切った。同州では、運転免許証に初申請する人の顔をスキャンし、州のデータベースに保管された200万人の顔データと照合させることで、申請の重複を避け、身元偽装の確率を低減することに主眼を置いている。
指紋照合と比較した場合、顔認証技術では直接装置に接触する必要が無いなど衛生面でのメリット(これは虹彩認証にも該当する)がある上、遠隔操作も可能なため、利用者を意識させずに実行できるなど心理的負担の軽さや利便性を特長とする。その反面、様々な生体認証技術の中でも顔認証技術は、プライバシー問題とより密接な関連を持っている。それは、前述したように対象者の気付かない、あるいは意識しない場所で実行されるケースが大半だからである。欧米地域(特に米国)ではプライバシーを重視する傾向があるため、これまでのところ利用者から理解を得た上での導入でなければ、後々あらゆる問題が発生してくるようだ。例えば2001年1月、米国フロリダ州Tampa市で開催されたスーパーボウルの試合中、犯罪者のデータベースと照合する目的で、観衆の顔認証を行っていたことが事後判明した。以前までは、フットボールや野球の会場内にセキュリティ担当員を配置させ、双眼鏡を通して肉眼で行っていた作業を機械が行うに過ぎない、という見方もできるが、観衆や市民団体はこれをれっきとした「プライバシーの侵害」として憤慨、Tampa市に対して抗議する形を採ることとなった。
The USA Patriot Act(米国愛国者法)ではNational Institute of Standards and Technology(NIST:米国商務省標準技術局)を通じて、バイオメトリクス技術の確度を測定するよう規定されている。その一環として、2002年7月上旬から約1ヶ月の間、16箇所の政府機関より支援を受け、顔認証技術の性能などを審査するよう14社の参加ベンダの協力と共にFacial Recognition Vendor Test 2002(FRVT)が実施された。このように、911テロ事件以降、プライバシー擁護団体をはじめ市民団体や政治指導部、生体認証装置のメーカ等は、顔認証技術を広範囲で活用すべきか、現実的にどこまで可能なのかを真剣に検討してきた。同時に、公共の場において同技術を設置する際のプライバシー保護問題へ対する規制方法にも関心が寄せられてきた。その可能性を探究するため、Logan 空港(ボストン)をはじめFresno空港(カリフォルニア)、Palm Beach国際空港(フロリダ)など複数の空港では現在、同システムの試験を実施しており、今後の導入については慎重に決定を下すと見られている。つまり、欧米諸国では、今後セキュリティを強化するためにプライバシー問題を二の次にするのではなく、認証技術の導入を決定する際には、セキュリティとプライバシーの均衡をいかに上手く調整するか、に議論の焦点が当てられているようだ。
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