前回のMarket Snapshotでは、指紋照合市場について報告したが、今回はその続編として米国における虹彩(アイリス)認識技術の現状を検証する。2002年9月、Frost & Sullivanが発表した調査結果では、世界のバイオメトリクス市場が2001年の9340万ドルから、2006年には20億5300万ドルに急成長すると見込まれている。一方、International Biometrics Group(以下:IBG)によると、2002年における世界の産業収益は全体で6億ドルとされているが、バイオメトリクス技術の公共部門における大規模な導入をはじめ、新たな取引形態の誕生や、統一の生体認証インフラおよびデータフォーマットの整備が進むにつれ、2007年には40億4000万ドルへ到達すると予測されている。また、今後5年の間に考慮される主な用途は、市民の身分証明およびPC/ネットワークへのアクセスで、2007年の年間収益は総額20億ドルとされており、入退出時のアクセス/時間管理では2億4500万ドル、監視システムの分野では4900万ドル(それぞれ2004年まで)に達するとの見込みだ。特に、連邦政府の各種機関における生体認証技術の導入は2007年までに垂直市場の中でも最大規模とされており(12億ドルの年間収益)、次いで金融部門(6億7200万ドル)、旅行・交通部門(5億5600万ドル)の順となっている。911テロ事件後、さらに重点が置かれるようになった本土防衛市場だけでも、短期間で10億ドル以上の収益が見込まれている。種別で見た場合、2002年には指紋照合が4億6700万ドルの収益を上げ、他の生体認証技術へ大差をつけて最大のシェアを誇っている。また、顔貌による認証およびミドルウエアの2005年における年間収益は2億1500万ドルに、虹彩認識技術のそれは2007年で2億1000万ドルへ達するものと見られている。
この虹彩認識技術とは、虹彩(アイリス)と呼ばれる黒目の中央にあるリング形状の筋肉部分を利用した認証方法である。最近の映画『マイノリティ・レポート』では、あらゆるシーンでこの手法が見られたが、本人拒否率(本人を誤って他人と見なす)と他人許容率(他人を誤って本人とみなす)の両方に優れたアプローチとされ、映画の世界に限らず実世界での活用例は徐々に増加している。その性能は、英国のNational Physical laboratory(NPL)が6種の生体認証システム(顔貌、指紋、手、静脈、音声、虹彩)を対象に実施した、照合アルゴリズムにおける確度と処理速度の研究で実証されている。対象者約273万人で比較した結果、虹彩認証技術では他人許容率0.0%、本人拒否率1.8%と6種の中で最も低い割合を記録した。また、残り5種のうち顔貌などによる4種の生体認証技術では、本人拒否率が10~25%となっている。一方、処理速度に関しては1分間に150万件の照合を行い、他の手法に比べ少なくとも20倍の高速度を実現している。
前述したように虹彩認証技術への関心と普及率は、旅行・交通産業におけるセキュリティ分野を中心に増加しているが、米国では近年、日常生活での通信活動やコンピューティング環境への広がりも見られるようになってきた。例えば、増改築のヒントを紹介するテレビ番組等では、ホームコンピュータ・ネットワークへのアクセス制御を実行する虹彩スキャナーの設置を促すものもある。特に、走査テンプレートが、比較的簡単に磁気帯へ実装できるため、運転免許書のようなIDへ組み込む方法も検討されている。また、ユーザが携帯電話に向かって自身の虹彩を走査し、購入手続を行う等オンラインによる各種トランザクションにも対応できるようになる。指紋照合技術と比較した場合、この虹彩認証技術は導入コストの高さなどが原因で、まだまだ浸透率は低いものの、幅広い領域でのアプリケーションが考慮されるため、徐々にではあるがあらゆる場面で受け入れられていくであろう。事実、IBGの調査報告によると、米国における虹彩認証技術への投資額は2001年には1200万ドルであったが、2005年にはその約8倍に当る9700万ドルまで増加すると予想されている。
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