今月のMarket Snapshotでは、米国におけるVoIP市場に焦点を当てる。VoIPはパケット化した音声をIPネットワーク経由で伝送する技術(Voice over Internet Protocol)で、その代表的な規格には、国際電気通信連合電気通信標準化部会(ITU-T)が承認を行ったH.323やNOTASIP等が挙げられる。近年、多様化の一路を辿るIPネットワークと技術革新を背景に、VoIPの構築費用は以前に比べ低下しており、ネットワークとの統合により、その活用方法にも幅が出てきた。特に、運用効率が高い反面、音声の遅延や途切れといった通話品質が問題とされてきたが、最近では、低遅延で質の高いデジタル信号技術の出現で商用サービスとしても十分なクオリティを確保できるようになってきた。
米国の通信事業者は現在、こういった技術の進展を利用し、低コストでの電話サービスの実現と、IPインフラの他にIPメディアを駆使した新規サービスの創造を積極的に目指している。事実、Synergy Research Group社の調査結果では、2002年から2006年にかけてのVoIP市場の成長率は48%で、その規模は2003年で30億ドル、さらに2004年には50億ドルに到達するものとされている。また、Frost & SullivanでもVoIP機器市場は、2000年の13億9000万ドルから2007年には140億3000万ドル規模へ拡大すると見ている。従って、総資本支出の縮小に拍車がかかる昨今の景気低迷にありながらも、キャリア向けVoIP市場はネットワークおよび電気通信時業界において成長速度を維持していると言える。
こういったキャリアの積極的な動きは、VoIP技術の浸透率にも反映している。InfoTech社が2001年第3四半期に実施したIPLANテレフォニに関する調査結果では、500人以上の従業員から成る米国企業の4割以上が、これまでのPBXを利用したシステムからIP LANテレフォニへと転換していることが明らかにされている。同調査ではさらにその需要傾向について:(1)ハイエンド企業間では低下したが、中規模企業間では増加、(2)データネットワーク業界の意思決定者間で下降しているのに対し、電気通信業界では高まっている、(3)IPに対応した現行のPBXに対する需要の高まり(特に1000台以上の電話機に接続された大規模なシステム)、(4)40台から1000台の電話機を利用する企業からの需要が減少した、と報告している。これは、複数の調査会社による「フォーチュン1000社の7割が2002年中にVoIPを導入」といった見込みに同調するものだ。上述のInfoTech社が調査を行った企業の8割強が、IPLANテレフォニの初期導入において音質および信頼性の高さに満足感を表している。さらに全体の9割が導入以前に期待していたコスト削減が具現化されたとし、既にシステムの拡張を計画している企業は4割に達している。
VoIP市場の素地が確立され成長速度が高まるにつれて、当然のことながらメーカー間の競争は激化してくる。Synergy Research Group社の発表によると、世界全体で見た場合、企業向けIP LANテレフォニ市場は上位からCisoco社(68%)、カナダMitel社(14.3%)、3Com社(12.9%)、Avaya社(1.8%)がシェア。同じく企業向けのIPに対応した統合型PBX世界市場のシェアはNortel社(39.4%)、Avaya社(21.5%)、仏Alcatel社(15.4%)、Vertical社(8.1%)、独Siemens社(7.4%)がそれぞれ獲得している(いずれも2002年第1四半期の統計結果)。今後、VoIPへの移行を背景に、同市場は激しい競争を繰り広げるデベロッパと、経費削減および新規サービスの開拓を目指すユーザで更に活気づいていくものと予想される。VoIPは、これまでの回線交換網では実現しえなかった部分、例えばサービス供給の迅速化をはじめ、運用効率や柔軟性の高さ、コストカット、延いては事業収益性の拡大に至るまで数多くの利点が包含されている。こういったVoIPのメリットに着眼し、導入を検討している風潮は通信事業者に留まらず、ソフトウエアや通信機器のメーカー各社など通信業界全体に拡充してきている。
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