C&WのExodus(米国最大のネット・ホスティングサービス)取得が意味するもの
2001年12月15日号 C&W(英国のグローバル通信企業)は2001年11月30日、米国最大手のネット・ホスティング会社Exodusの資産、事業、加入者を取得することとしたと発表した。
Exodus・C&WによるExodus取得の概要
Exodusは米国最大のネット・ホスティング会社であって、毎年大きく事業を伸ばして来たが、同社自身も認めているように事業の拡大に力を入れ過ぎて金繰りが悪化し、米国破産法11条の規定の適用により更正の道を模索していた。
他方C&W(ケーブル・アンド・ワイアレス)は社名が示すとおり、19世紀末以来英国帝国の威信を背にして国際通信サービスの提供、東南アジア、中近東、カリブ海地域等の諸国における電気通信事業の運営を行い繁栄してきた英国の通信事業会社である。戦後1980年代に入ると、英国における民営会社BTの設立に伴い、同社に対抗する第2通信事業会社のマーキュリーを設立、さらに携帯電話会社のOne2Oneにより英国本土の電気通信事業に参入した。
ところが1990年代の後半に至り、C&Wは将来の通信網の主体がIPベースのパケット交換に移行するとの確信に基づき、自社の主業務を(1)事業はIPベースの電話・データ・インターネットアクセスの提供、IPおよびAPプロバイダーとしての業務、(2)業務提供の相手は事業用加入者、(3)サービス提供エリアは英国、欧州、米国、アジア(日本を含む)、にするとのドラスティックな事業計画を定めた。同社はこの目的遂行のため、香港テレコム、One2One(英国)、C&WOptus(オーストラリア)等の固定通信、携帯通信会社を次々に売却、その資金によってIPベースのネットワークの構築に力を入れた。
現在、ほとんどの電気通信企業は通信バブルの崩壊の余波を受け、借金の返済に追われている状況である。上記の子会社、関連企業の売却により、豊富なキャシュフローを有しているC&Wはこの点では例外的に恵まれた地位にいる。
C&WによるExodusの買収はこのような状況のなかで生じたものである。C&Wがウェブ・ホスティングも自社事業の重要な部分として有していること、米国での事業基盤が弱いこと等からして、今回のExodus取得は当を得た措置であると考えられる。
ところが市場は必ずしもC&Wによる今回の企てを高く評価しておらず、これまで継続的に低下を続けている同社の株価は一向に上がる気配を見せていない。これには10月末に発表された同社の2001年第3四半期の決算が予想以上に悪かったことが影響している。
また転換期にある今日の電気通信環境の下にあって、C&Wの動きは今後の電気通信業界の動向を示唆する内容を幾点か含んでいる。
以下C&WによるExodusの取得、C&Wの財務状況(2001年上半期決算資料をベースにして)、C&WのExodus取得の意味するもの等について解説する。
IPプロトコルをベースにした諸種のサービスのうちでここ数年来脚光を浴びており、また成長率が高いと見込まれているのは、ウェブ・ホスティングサービスである。このサービスは自社のデータセンターを通じ、顧客の要望に応じてウェブサイトの設計・構築・現行維持に関する大掛かりなアウトソーシング業務を行うものであって、付加価値はきわめて大きい。しかし資本投資(IPネットワーク、データセンター、優秀な技術者の確保等)も巨額に上り、競争が激しいためリスクも高い。
C&Wの決算(2001年第3四半期)が示すもの
Exodusは米国最大手のウェブ・ホスティング企業である。業務は年々伸びているものの、増え続ける資本投資(2001年第2四半期には収入の82%)が重荷になり財務が悪化し、負債は44億ドルに達した。このため2001年9月に米国破産法11条に基づく会社更正の申請を行なわざるを得なくなった。
Exodusは米国(44)、欧州(4)、日本(1)にそれぞれデータセンターを持ち、従業員数は約4,500名、業務のほとんどは米国内である。米国内4,500の加入者のなかには、Yahoo!、Microsoft、Merryll Lynchといった巨大企業も含まれている。また同社は米国のホスティングサービスの約3分の1、世界のウェブ・ホスティングサービスのトップ加入者150のうちの46を有する世界最大手のホスティング企業である(注1)。
11月30日の仮協定によると、C&Wは従業員、顧客との契約、データセンター等の設備を5.8億ドルで引き取る、同社はデータセンターの取得を計30(米国26、英国2、日本、ドイツ各1)に絞った。さらにC&Wは負債のうち、2.7億ドルを肩代わりした(注2)。
C&Wは「ビジネス顧客を対象とするIP/データサービスのリーダー」を目指しており、同社業務のなかには、当然ウェブ・ホスティングは重要な業務の1部である。米国における業務強化を目指し2001年3月にはすでに同じくウェブ・ホスティング企業であるDigITal Irelandを取得したC&Wにとって、今回のExodusの取得はきわめて自然な事業行動であったということができる。
2001年2月に発表された2000/2001年次の年次報告書における「会長声明」のなかで、C&Wのロビンズ会長(Ralph Robins)は「1999年にC&Wが行った思い切った方向転換により、新技術を駆使し市場を限定したサービス提供を戦略は着々と所定の効果を収めている」と自讃した上で、「多くの電気通信会社の株式価格が下がっているが、これはわれわれにとって利用できる好機である」と述べ、今後の同社によるM&Aの推進を示唆した。今回のExodus取得は、C&Wのこの基本方針に添ったものであった。もっともC&Wは上記取得金額のほか、Exodusにさらに2.5億ドルの投資を要し、営業利益が黒字になるのは2003年の期間となり、Exodus取得が当分の間はC&Wの財務にとって重荷を増やす要因になることを認めている(注3)。問題は、C&WがこのようにIPベースのグローバル企業を目指し猛進しても、市場がこれに反応せず同社の株式が長期的な低落傾向から脱することができていないことである。
次項で2001年第3四半期のC&W決算の検討を通じ、同社財務の問題点を一瞥してみよう。
C&Wの最新の財務数値を次表の通り。
表 C&WPLCの主要財務数値(2000・2001年上半期決算よる。単位億ポンド)
項目 2001年上半期 2000年上半期 2001/2000(%) (収入) C&W Global 18.46 19.40 -5 C&W Regional 7.17 6.46 +11 C&W Digital Ireland 0.36 Group間の相殺 (0.76) (1.06) 経常収入 25.23 24.80 +2 企業売却による収入 7.89 19.45 -58 総収入 33.12 44.25 -25 EBITDA C&WGlobal 51 245 -78 C&WRegional 310 275 +13 税引前利益 9 515 純利益 (291) 4832 C&Wはその事業を(1)企業の中核であるIPベースによるビジネス対象のサービスを提供する部門であるC&WGlobal、(2) 中近東、パナマ、カリブ海諸国等における電気通信事業運営(100%資本取得または合弁会社方式による)を行う部門のC&WRegionalの2部門に編成している。
将来を予見させるC&WのExodus合併
上表の収入でまず際立つのは、本命のGlobal部門の収入が5%減と大きく落ちこんだことである。C&Wはその主な原因は、欧州、米国、日本の3市場のうち、特に米国ではドットコム企業の破産、不振によって大きく収入が減少したこと、また日本においては激しい競争により、長距離、国際料金が減少したことにあるとしている。
これに対し、C&Wにとっては二次的な業務であるはずのC&WRegionalの業績は好調である。前年同期に比し、11%と大きく収入を伸ばしている。しかも収入がGlobal部門の約40%弱に過ぎないのにもかかわらずキャシュフローも大きく、Global部門を大きく引き離している。
今回の決算でC&Wが巨額の赤字をだしたのは、多分にこの機会に取得会社の損失経常等のすべての不良資産を計上してしまうとの意図もあったものと思われるが、その点は別としてもアナリスト、証券業界がC&W社の経営陣を批判するのは、基軸であるIT事業の収益性に対し疑念を抱いている。
上記の点については、かねてからC&WのIPベースによる戦略の推進に批判的なファイナンシャルタイムス系の記事が辛口批評を載せている。例えば2001.11.14付けFTMarket.com、 "Why should POTS be pants?" で執筆者のChris Nuttall氏は、英国最大の通信機メーカのマルコニー社がIP関連機器への特化を計ったあげく深刻な経営危機に陥っている点を引き合いに出して、「C&Wが早急にまた短期間にデータ革命にのめり込みすぎた点を認め、方向転換をするのならまだ遅きに失したとはいえない」と論評している。
電気通信業界は、現在IT、電気通信バブル崩壊のさなかにあって、新たな環境への対応に懸命である。上記のC&WによるExodus取得はこのような事業環境における新たな事態の幾つかを予想させるものであろう。
第1にC&W自体についていえば、グローバルな直接投資による通信事業の展開(第2次大戦前から1980年代中期) → 旧来の事業を1部保存しながら英国本土(マーキュリー、One2One)、香港(香港テレコム)での電気通信事業を主軸とした事業展開(1980年代中期から1990年代後半) → 回線交換網に関するすべての資産を売り払ってIPベースでのビジネスモデルを追及している現在、と過去3回にわたり企業戦略を大きく変換してきた同社が、今後この3度目の路線を踏襲してグローバルITプレイヤーとしての存在を保持していけるかどうか。これは今後2、3年の近い将来に掛かっているということである(この期間にさしもに潤沢なC&Wのキャッシュフローも枯渇する)。
第2に、ITベースの専業通信事業者を目指しているのはC&Wだけではない。例えば、米国のQwestCommunications、オランダのKPNも同様であって、いずれもITバブル崩壊(KPNの場合はこれに加えるに子会社KPNWirelessを通じての3G網構築へのコミット)により、業績が悪化している(注4)。従って今後、IPネットワークを使ってのビジネス対象の事業がビジネスモデルとして成り立つか否かの成否はこれらの企業すべてについて問われることになろう。
第3に、今後のM&Aがどうなるかの問題である。電気通信各社の株価が軒並み低下しており、しかも早晩、電気通信に対する需要の底打ちが起こると予想される現在こそM&Aを行う絶好の機会であって、まさにC&Wはこの思惑に従って行動した先駆的企業である。ただ企業買収を行うに足るだけの資金を有する企業が少ないため、この動きはまだ少ない。ただ2002年、2003年は市況の好転に伴い、大幅なM&Aが次第に進行していくだろう。(注1) Exodusの業務に関する記述のほとんどは、2001年10月号のTelephonyの "Exodus jumps on reorg bandwagon" によった。
(注2) 2001.11.30付けのC&Wのプレスレリース "Cable&Wireless Agrees to Aquire Exodus"
(注3) 2001.11.30付けFT.com, "Cable and Wireless confirms $850m Exodus deal"
(注4) 2001年第3四半期に収入は前年同期と横ばい、EBITDAは4.5%減の不良な決算を出したQwest CommunicationsのCEO Nacchio氏は10月末、ジャーナリズムに対する横柄な態度も災いして、経営成果について大きな批判を受けた。同社の決算報告ではインターネット関連事業と旧USWestの国内電気通信業務との分計がないが、ここでもC&Wの場合のように、後者の財務の方が健全ではないかとの推測が成り立つ。 2001.10.31付けCBS MarketWatch, "Qwest's Nacchio draws heavy fire" で筆者のJeffry Bartash氏は、端的に「USWestがなかったならQwestの株式は紙屑箱入りになるほど下がっていただろう」と推測している。
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