DRI テレコムウォッチャー



相次いで国際M&Aを遂行する欧州の4大ISP事業者

2001年1月15日号

 欧州諸国では、3000社ものISP(インターネットサービスプロバイダー)がインターネットサービスの急速な伸び、サービスの多様化の潜在性に賭けて激しい競争のなかでサービスを展開している。
 1999年後半から2000年前半に掛けいわばITブームの波に乗って、これらISP業者の株式も高値を呼んだ。しかし2000年後半に至ると、これら株式はいずれも大幅に下落した。この現象は米国、わが国で見られたIT株の急落と軌を一にしたものである。
 事実、大きな成長の潜在性があるかに見えたISPの事業展開は激しい競争、新規サービス展開(自前のポータルの運営、Eコマース、料金設定等)に当たってのビジネスモデル設定の難しさ、大規模な投資の必要性などの課題を克服しなければならず、現在、ほとんどの業者が採算割れである。
 このような情勢の下で、欧州市場では、特に2000年後半に国境を越えた事業者間のM&Aが大きく進行した。これは大手事業者が規模の経済を求めて他企業の合併を指向するのに対し、赤字の経営に耐えかねて事業を投げ出す業者も多く、買収側と非買収側の利害が一致したことによる。
 2001年以降も事業運営の困難を規模の経済、相手企業の持つノーハウ、技術を求め、大手ISPによる外国市場での他のISP取得の過程は引き続き進行するだろう。そのうちISP事業者の中からも、携帯電話事業者Vodafoneのような他を大きく抜き離した支配的な事業者が出現するかも知れない。
 以下、欧州の4大ISP業者ーT-Online International AG(ドイツ)、Wanadoo(フランス)、Terra Network AP(スペイン)、Tiscali(イタリア)ーについて、その概要、各社の業務活動・M&A(合併・統合)等について述べることとする。


ISP事業者4社の概要

 次項以下で、欧州の代表的なISP事業者4社の状況を個別に紹介するが、本項ではまずその概要を次表に示す。

表 ISP4事業者の事業内容・国外ISP取得の概要
事業者名
業務内容
2000年における海外取得
T-Online International AG(ドイツ)
AOL(米国)に次ぐ世界第2位のISP。インターネットアクセス、ポータルサービス(情報サービス、Eコマース)の総合サービスを提供。ISP加入者約700万。●Club Internet(フランス第3位のISP。加入者数約50万)を取得。
●Ya.com (スペイン第3位のISP)を取得
Wanadoo(フランス)
フランステレコム傘下の欧州第3位のISP。ドイツテレコムの同様、総合サービスを提供するが、事業の主体は電子電話帳サービス。加入者数は約400万。Indice Multimedia (スペイン第2位の電話帳出版業者)を取得。
Freeserve(英国第1位のISP業者、加入者数約200万)を取得。
Terra Network SA(スペイン)
スペイン最大のISP(加入者数200万)。スペイン全土はもとより、米国、中南米諸国のスペイン語を話す住民を中心にサービスを提供している。Lycos(Yahoo!、AOLに次ぐ米国大手ポータル会社)を取得。
Tiscali(イタリア)
イタリア最大のISP(加入者数約610万で)。しかし加入者数が多いのにもかかわらずサービス提供、財務基盤は弱いといわれる。●Nicoma(ドイツのISP)を取得。
●オランダ最大のISP業者のWorldOnline(加入者数約250万)を取得。

 なお、多少上記各社の特色、将来性について補足しておく。

 T-Online:T-Onlineの2000年の業務活動はやや鈍かった。特に海外市場でのM&A活動ではライバルであるフランスのWanandooの後塵を拝しているのではないかとすら思われる。それだけに、これまで欧州で隔絶した強さを誇った同社と他社との距離が多少縮まったともいえる。

 Wanadoo:Wanadooにとって2000年は海外進出開始の年であり、特にFreeserve取得による英国市場への進出は成功であった。しかし同社の弱点はT-Onlineの場合と同様に、ポータルを利用したコンテントの販売(実際には広告料収入として得られるものであろうが)が軌道に乗っておらず、2000年も収支均衡を維持できなかったことである。現状では総合ISP業者の理想から程遠く、大手の電子電話帳企業の色彩が強い、2001年には海外事業拡大と平行して、国内業務の財務基盤確立に努力する必要があろう。

 Terra Network SA:スペイン語圏(スペインも含め)のインターネットの普及率は低いため、Terra NetworkのISP加入者数は他の欧州主要業者より少ないが(200万程度と報じられている)、海外市場での基盤が強いので、将来は大きな発展が期待できる。

 Tiscali(イタリア):今後も海外進出を行う模様であるが、他の三大ISPに比すれば将来性は不安定。

 このように欧州の大手ISP4社のうち、Tiscaliを除く3社のいずれもが最大手の既存電気通信事業者傘下の事業体として発展してきた点が特色である。英国BTのISP部門(BTOpenWorld)は弱小であって、多分今後もフランステレコム傘下のFreeserve、AOL(英国子会社)に対抗できるとは考えられず、この面でもBTの凋落は明らかである。

精彩を欠いたT-Online International AG

 DT(ドイツテレコム)は同社子会社のT-OnlineがAOLに次いで世界2位、欧州では第1位の一貫したサービスメニューを備えたISPであって、最近ブロードバンド(DSLによる)接続、モバイルインターネット提供の体制も整えているとのPRを行っている。事実T-Onlineは市場からの評価も当初は高く、2000年4月同社の約20%の株式公開に当たっては株価は高値を呼び、DTは多額の資金を入手することが出来た。
 T-Onlineは汎欧州ISP業者になることを目標としており、2000年にはフランス、スペインで、次ぎの2件のM&Aを実施した。

●Club Internet(フランスの大手出版会社、ラガルディー傘下のISP。加入者数約50万でフランス第3位)の取得。株式交換により行われたため、ラガルディー社はT-Online株式5.76%を取得することとなった(2000年2月)

●Ya.com(スペインの高速光ファイバーの通信事業者であるJazztel傘下のスペイン第3位のISP。加入者数約50万)の取得。Ya.comはポータル会社でもあってポータルの登録者数約300万。ドイツ語の専門的なポータルを有しており、これらのコンテンツはT-Onloneに即役立つという(2000年9月)。

 上記2社を取得する頃までは、市場のT-Onlineに対する評価はまずまず良かった。しかし以降、一般的な市況の低落に加え次ぎのような批判が同社に加えられ、T-Onlineの株価低落が進んでいる。

●度重なるT-OnlineのCEO交代:それまでかなりの実績を挙げたと評価されていたT-OnlineのCEO Keunje氏が2000年8月に辞職し、その原因はDTのSommer会長との戦略不一致によると噂された。その後数名のCEOが入れ替わった後、長期間空席が続き、11月中旬にようやくHoltrops氏がCEOに就任した。ところがドイツ銀行出身の同氏はマーケティングの専門家ではあるもののインターネット、ITについては素人であって、氏の就任後もT-Onlineの株価低落は止まない。

●Freeserve取得の失敗:後述する通り、フランスのISP Wanadooは2000年12月、英国最大Freeserveを取得した。2000年春、T-Onlineは最初に同社と買収交渉を行ったが値段の点で折り合いが付かなかったこともあり、これまたT-Onlineが批判を受けることになった。CEOが不在であったことを他社にFreeserve買収失敗の原因に挙げる向きもあるが、真偽のほどは定かでない。

●アクセス収入への大きな依存:既に述べたようにT-Onlineは規模においても、サービスの面でも、欧州最大のISPであることを自負している。ところが単純なアクセス回線販売がまだ収入の80%を超えており、広告料・電子商取引の収入(言いかえればポータルの利用)が伸びていない。

 なお、本稿の事実に関する部分はおおむねT-Onlineのホームページの諸資料を利用した。同社の経営批判に関する部分については、幾つかの海外新聞の記事を参考にしたが、特にドイツ版ファイナンシャルタイムス紙の次ぎの2つの記事に負う所が多かった。2000.7.12 付け(Das Kapital:Gegen Wanadoo sieht T-Online ziemlich blass aus)及び、2000.12.18 付け( T-Online: Pink Panther nur noch ein Bettvorleger)」

Freeserve(英国最大のISP)の取得に成功し、海外進出活動でT-Onlineを凌いだWanadoo(フランステレコムの子会社)

 フランステレコムはミニテル(フランス独自の双方向情報サービス、特に電話番号案内を無料で提供したことで良く知られている)が発達したこともあり、インターネットとの取り組みは遅れたが、1996年からWanadooの名称(提供する事業名もWanadoo)でインターネットアクセスサービスを始めた。その後自社のポータルにより情報・電子商取引サービスの提供も行なっている。最近DSLによるブロードバンド加入者獲得にも力をいれている。後述する通り、海外進出にもきわめて積極的であり、ドイツのT-Onlineに対抗して汎欧州ISP業者になることを目標としている。
 Wanadooの業務の特色は、売上に占める電子電話帳のウェイトが大きいことである。少し資料が古いが、1999年の収入8.07億ユーロ(1999年度)のうち、電子電話帳が6.946億ユーロ(86%)、インターネットアクセス収入が0.976億ユーロ(12%)とそのほとんどを占めている。ポータルの収入0.116億ユーロ(1%)がこれに次ぐ。電子商取引(0.031億ユーロ)、コンサルタント収入(0.005億)は微々たるものである。この点、インターネットアクセス収入に大きく依存しているT-Onlineとは際立った対照をなしている。もっともポータルを利用してのコンテントサービスの拡大に力を入れているものの成果が上がっていない点はT-Onlineと同様である。
 2000年12月、Wanadooはスペイン、英国でそれぞれIndice Multimedia(スペインの大手電話帳出版会社)、Freeserve(英国最大のISP)を取得し、海外活動を大きく拡大させた。インターネットアクセス加入者数はFreeserveの取得により、一挙に倍の400万となり、同社はT-Online、Tiscali(イタリア最大のISP業者)に次ぐ欧州第3位のISPとなった。

●Indice Multimediaの取得:スペイン第2位の電話帳出版業者であるこの企業の取得は、Wanadooのスペインにおける加入者数の拡大、及びWanadooの主業務であるフランスでの電子電話帳業務の強化を狙ったものである。Wanadooは株式交換及び現金の双方でIndice Multimedia取得の対価を支払う。

●Freeserveの取得:Freeserveは1998年9月、電気製品チェイン店を経営する英国Dixon社が設立したISPである。同社は他に先駆け、アクセス回線の卸売りをするBTが従量制料金によっているのに、月額定額料金でインターネットアクセスを提供するという新しいビジネスモデルを欧州で始めて実行に移した。親会社Dixonの強固な販売網も大いに役立ち、短期間でFreeserveは利用者数を増やし、トップ業者のAOL(英国子会社)を抜いた。

 しかし2000年秋には、Freeserveの収支状況の悪化が明らかとなり、一時は人気株となっていた同社株式も急落、同社は買収先を求めるに至った。海外での取得対象企業を求めていたWanadooからすればライバルのT-Onlineを出し抜き、株価の下がった時期に英国第1のISPを取得できたことは成功であろう。
 本項の事実に関する部分はすべて、Wanadooのホームページによった。またWanadooによるFreeserve取得に関する情報については、次ぎの記事に負うところが大きかった。2000.12.7 日付けドイツ版フィナンシャルタイムズ "Provider Wanadoo plant weitere ubernahme", 2000.12.8日付けRed Herring "Wanadoo liberates Freeserve"。

スペイン語使用加入者へのアクセス拡大に成功しているTerra Network SP

 スペイン最大のISPであるTerra Network はTelefonicaの子会社である。同社は米国の大手ポータル会社のLycosを2000年10月に取得し、念願の米国市場進出を果たした(合併により社名変更はしなかったが株式名はTerra Lycos)。
 TerraNetworkは国内だけでなく40カ国、16言語で諸国の顧客に、インターネットアクセスポータルのサービスを提供している。特にスペイン語圏ポータルサービスを提供している諸国への進出が目覚しい(インターネットアクセスサービスを提供している諸国はブラジル、メキシコ、ペルー、チリ、グアテマラ、エルサルバドル、またポータルサービスを提供している諸国は上記諸国に加え、ベネゼラ、アルゼンチン、コスタリカ、エルサルバドル、米国がある)。因みに親会社のテレフォニカはここ数年来、固定通信、携帯電話の双方の分野での中南米諸国への投資を進めており、これら事業からの利益がテレフォニカグループの収益に大きく寄与している。Terra Networkの上記の海外進出活動は親会社テレフォニカの積極的な海外投資政策の一環である。
 これに対しLycos Networkは米国で急成長を遂げてきたISP・ポータル企業であった。Lycosのポータルは、Yahoo!、AOLに次いで人気のある米国のポータルである。南米を中心に世界16国でインターネットサービスを展開している。
 このようにTerra Nettworkはもちろんのこと、Lycos Neteworkもスペイン語圏(米国にはスペイン語を話すヒスパニックの人々の人口は6000万人)に焦点を合わせ、業務拡大を目指していたのであり、同じ市場を目指す両社の合併にはシナジー効果が大きいと考えられる。
 なお本項の執筆に当たっては、Terra Networkのホームページの他、Business.comのTerra Network.SA Profile(日付の記入無し)を使用した。

WorldCom取得で欧州2位のISPになったが、脆弱さを指摘されるTiscali

 Tiscaliはイタリア最大のISP業者である。2000年11月同社はオランダ第1のISP WorldComを株式交換で買収し、一躍約610万の加入者(Tiscaliの加入者350万にWorldCom加入者250万が加わった)を有する欧州第2位のISPとなった。また2000年3月には、ドイツのISP Nikomaも取得している。
 しかしTiscali、WorldCom両社はともに特色のないISPであるだけにこの合併はなんらのシナジー効果もないと酷評する向きもある。大体WorldComは2001年夏、同社の創業者である女傑のNina Brink氏が株式上場前に自社株を処分した汚職紛いの事件でジャーナリズムを賑わしたことがある。Tiscaliは悪名高い会社と知りながら、WorldComのキャシュ目当てで買収したとも噂されており、どうも合併前後の両社の評判はよろしくない。資料が少ないので正確な判断をする根拠が乏しいが、上記の情報が正しいとすると、今後この企業が大きく発展することは出来ないように思われる。
(本項についてはTiscaliのホームページの他、ファイナンシャルタイムズの次ぎの2資料を参照した。2000.11.6付け "Tiscali prepares formal WOL offer"及び、2000. 9.8付け "Tiscali buys out World Online")





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