DRI テレコムウォッチャー




取得業者(SFR、Orange)、付与者(フランス政府)がともに不満を持つフランスの3G免許

2001年10月15日号

 欧州諸国における3G(次世代携帯電話)免許の附与は2000年春から順次、実施に移されそのほとんどが2000年内に完了、1部は本2001年に持ち越したが現在ではほぼ終了している。
 おおむねオークション方式により決定された免許料の価格は、当初3G技術による音声・インターネットアクセス・画像のすべてのサービスを兼備した携帯マルチメディア・サービスの提供により、莫大な収入が得られるとの期待とこの絶好のチャンスを逃すと携帯電話事業者として脱落せざるを得なくなるとの焦りが両々相まって、高値を呼んだ。特に携帯電話市場が大きく、実施時期も早期であった英国(2000年4月実施)、ドイツ(2000年8月実施)では、落札価格は法外な高値を呼んだ。これにより英国政府は5業者から計225億ポンド(360億ユーロ)、ドイツ政府は同じく5業者から988億マルク(499億ユーロ)の巨額の免許料収入を国庫に納めることができた。

 ところで、今ひとつの欧州の大国フランスは英国、ドイツとは異なる方式を採用した。これは、英国やドイツと同様のオークション方式を取ってできるだけ多くの収入を確保すべきであるとする財務省と業界にあまりにも大きな負担を強いることになるとしてこの方式に反対する経済省、電気通信業界の主張が鋭く対立したことによる。多くの議論を経たのち、結局フランスでは免許枠を4つ設け、価格は固定する従来の審査方式(ビューティー・コンテスト方式)によることで決着した。
 ただ、しばしば誤解されているところであるが、上記の決定に基づきフランス政府が定めた免許料は、決して低い水準のものではなかった。免許料は、取得業者1社当り49.5億ユーロであり、確かに英国、ドイツの免許料より30%から50%程度低いが、それでも相当に高価なものであることは確かである。ただしフランス政府は次ぎのように15年間の延払いを認め、これにより免許取得者の実質的な負担軽減を計った(注1)。

  • 2001年:12.38億ユーロ(9月末、12月末にそれぞれ、6.19億ユーロ)
  • 2002年:12.4億ユーロ
  • 2003年から13年間:残額を均等支払(年額、1.77億ユーロ)

 2001年初頭、ビューティー・コンテストの締め切り時点で応募した携帯電話事業者は、フランスの1位、2位の携帯電話会社のフランス・テレコムおよびSFRだけであり(注2)、外国業者はもとより、フランス自国の3位、4位の携帯電話事業者であるBuigues Telecom,SuezLyonnaise des Eauxも結局、応募を断念した。このため免許料の国庫納入により、年金原資の積み立てを大きく充実しようと目論んでいたフランス政府はこの結果に落胆し、2002年初冬には、再度3G免許取得の業者を募る旨を宣言した。
 このようにフランスにおける3G免許の取得は、最初からフランス政府、取得業者ともに不満な形で一応結了し、フランス政府は2001年初頭に改めて免許取得者を募るとの声明を行った。
 ところが、2001年初頭から9月末に掛け3G実施の見通しが暗くなるにともない、第一回の支払時期の前後に免許を取得したSFR,フランステレコムから、またもや今後の免許料支払の減免を求めての要求が出されることとなった。
 以下、その状況、及び背景にある欧州諸国の財務状況について述べることとする。

強く免許料の減額を要求するSFRとOrange

 第一回免許料支払い期限の2001年9月末日、Vivendi Universal(SFRの親会社)のCEO Messier氏は、フランス政府に対し、3G免許料が免許取得以降の事態の変化につれて異常な高値になっているため、支払金額,支払期限についての再交渉を要求し、条件が改善されるまでは、第一回免許料を支払わないと主張した。また、Orange(フランス・テレコム傘下の携帯電話会社)は支払に応じたものの、支払金額の減免要求については、Vivendi Universalに同調した。
 フランス政府はが裁判に訴えても免許料を取り立てるとの強い姿勢を示したこともあり、結局Vivendi Universalは支払期限ギリギリに免許料を支払った。しかし同社は支払条件の改善を断念せず、2001年末の第2回免許料支払い期限までの決着を求めて、政府およびART(電気通信規制庁)との交渉を求めた。
 この案件に対するVivendi UniversalとOrange主張はおおむね、「技術上の難点、端末の商用化の遅れ、ユーザーの需要の把握の困難等により、サービス実施後の利益の確保の見通しがますます難しくなっている。免許料は12億ユーロ程度が妥当」という点で一致している。
 従来このような要求が出された場合、一般の欧州の官庁、規制機関はきわめて不寛容であり、一蹴するのが常である。事実、もっとも多額の免許料を課したドイツ、フランス政府に対し、一部の免許取得事業者から不満はあったものの正式な苦情申したてはなかった。ことほどさように、欧州では民に対し官が強いのである。
 しかしフランス産業省のピエレ(Pierre)次官は、当初条件を変更をするつもりはないことを示唆しながらも、両事業者、ARTとともに話合いを続けることに反対してはいない。
 フランス産業省とARTにとっての泣き所は、200年1月末の免許附与が2事業者に対するものとして終了してしまい、内外から寡占であるとの批判を受けていることである。このため既に述べた通り、2002年初頭に再度、免許取得希望の事業者を募る旨の声明を行った事情がある。
 免許条件改定に熱心なSFRは正に、フランス政府が第3の免許附与業者を指定せざるを得なくなるだろうとの読みにより、免許条件改訂の強い要求を打ち出した。フランス政府が、第3の事業者に対する追加指定を行わない限り免許料金が改訂される可能性がないことはSFR自体が認めており、同社は来年早期に第3の事業者に新たに免許が附与され、しかもその新免許の料金は引き下げざるを得ないとの可能性に賭けたわけである。
 SFRは免許料金を12億ユーロ程度にまで下げられなければ、新たに免許を取得したいとする事業者は出てこないだろうとして、フランス政府に圧力を掛けている。この金額は、ほぼFrance Telecom両社が2001年内に支払を求められている2回分の免許料金額に相当する。つまり、総額49.5億ユーロの免許料を約4分の1に値切って、2001年限りで免許料金支払のくびきから脱したいというのが、両社の本音であろう(注3)。

SFR、Orangeの主張の実現はまず不可能

 もっともSFR、Orange両社の主張は3G環境の条件悪化の点からしてもっともな点はあるにせよ、その実現はフランスのジャーナリズムでは不可能に近いと見られている。10月3日付けのル・モンド紙は、免許条件の変更にもっとも積極的なVivendi UniversalのCEO,Msssier氏の政府に対する免許所要件改訂要求を愚挙と断じ、同社の株値は、これにより2.56%下落したと評している。
 ル・モンド紙が論拠としているのは、第1に法的な理由であって、フランス政府が一度,行政行為として行った決定を修正することはあり得ないというものである。また法的な側面を仮に度外視しても、今にわかに免許料金を大幅に減額でもしたら、免許料が高いため、ビューティー.コンテストから脱落した他の携帯電話事業者―その典型はフランス第3位の携帯電話事業者のBuigues Telecom―からの訴訟提起を覚悟しなければならないと論じる。  もっとも、Buigues Telecom自体が新たな減額免許料のもとでの3G免許取得に意欲を示せば、問題はないはずであり、SFR,Orange両社はこの可能性を期待しているとも考えられる。もっとも、Byuigues Telecomは3G免許をあきらめたと同時に、3G技術なしに携帯電話事業を進めるとの決定を下しており、いまさら価格が大幅に安くなったという理由で、免許取得に飛び付くかいなかは疑わしい。
 第2に、この問題の根底に欧州各国政府の財務改善のニーズが大きく関係していたことを指摘しておく必要がある。
 1997年に、EU15カ国は「安定と成長のための協定(Stability & Growth Pact)」に調印し、4年間で政府負債をGDPの一定比率に納め、財政を均衡させることを約束した。2000年から2001年に掛けて実施された3Gのオークションは、欧州の財務当局にとっては、予算削減を遂行していく段階においての貴重な特別の収入源であって、それだけに、できるだけ多くの金額になることを期待したのであった。
 ところで、現在欧州諸国はわが国、米国ともに不況に悩んでおり、これら諸国の財務当局は、税収の減が予想される折から、これ以上の歳出の削減にはいささか自信がなくなっている。ところがEU中央銀行のドイセンベルク総裁は上記協定を緩める意図は全然ない模様である。
 米国はテロ攻撃後、自国が不況対策として、大幅な公定歩合の引き下げ、減税、これまた大幅な財政支出を行っていることもあり、欧州諸国も米国に倣った財政出動・金融緩和の政策をとって欲しいと考えている。この米国の要望は、10月上旬に行われたG7の会合において、議長役のオニール米財務長官が「各国がそれぞれの状況に応じて適切な政策をとることが重要だ」と何回も力説したことでも、明かにされている。
 フランスも、予想外の税収35億ドルの不足を埋める努力に懸命であって、当面1997年協定の一時停止を望んでいると伝えられる。
 このような情勢からして、フランス政府の財務面からしても、SFR.Orangeによる減免要求―まして、現に約束した支払を3分の1にするような大幅な減免要求―にはまず応じられないとの結論が出されるのではなかろうか。
 この案件に対するフランス政府の回答は、2001年末ーつまり、両社の第2回目の免許料支払期限前―までに出されるものと見られる(注4)。

(注1)2001.10.2付けFT Market Watchの"Reluctant Vivendi pays 3G instalment"。もっとも、この記事による免許料分割払いを足し算すると47.79億ユーロになり、免許料総額49.5億ドルを下回るが他に資料がないのでこれによった。
(注2) SFRはフランス最大のメディア・通信会社、Vivendi Universalが最大の株式を所有する携帯電話会社であるが、同社の直接の親会社はフランス・テレコムに次ぐフランス最大の総合電気通信会社、Cegetelである。SFRには、次図に示すように、Cegetelを介し、BT,Transtel,Vodafoneの諸社が複雑な形で資本参加している。



(注3)この項の記述に当っては、主として次ぎの資料を参考にした。
2001.10.2付けFT Market Watch,"Reluctant Vivendi pays 3G instalment" 2001.10.3付けル・モンド、Vivendi Universal renounce a son coup de force et s'acquitte de sa licence de telephonie mobile 2001,10.8付けAsian Wall Street Journal,"Vivendi Affiliate Backs Down From Standoff at Last Minute"
(注4)この項の記述に当っては、特に2001.10.1日付けBusiness Week,"When bad things happen to good agreements"および2001年10.8日付け朝日新聞「G7共同声明―財政政策へ期待にじむー」を参照した。




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