DRI テレコムウォッチャー



NTTドコモ、AOLと提携

                - AOLジャパンを実験台に新インターネットサービス開発へ -


2000年10月15日号

 NTTドコモとAOLは9月27日、ここ数ヶ月間にわたり両社間で行われてきた交渉に決着をつけ提携に合意した。
 いうまでもなくNTTドコモは世界有数の携帯電話会社である。同社が提供しているiモードサービスは世界初のモバイルインターネットサービスであって、この分野では独走体制にある。加入者数は現在毎日5万人のペースで増加しており、最新のデータでは1230万(9月26日現在)に達した。ドコモはまたISPとしても2位のニフティーを大きく引き離し、わが国で最大の業者となっている。
 これに対しAOLは世界最大のISPであり2400万の加入者数を有している。本年2月、米国最大手のメディア会社 Time Warnerと合併について合意し、現在FCCで審理が行われているところである。(両社の合併についての批判は強いが、大方のアナリストたちはかなり厳しい条件が付くにせよ両社合併はここ1、2ヶ月のうちに本決まりになるものと見ている)。合併後のAOLは強力な加入者基盤のもとに、多彩なサービスを顧客に提供する世界で群を抜いたISP、メディア会社となろう。
 このようにそれぞれの分野で世界トップの地位の座にある両社が提携した意義はきわめて大きい。提携の最大の目標は固定端末(PCが主体)によるインターネットと携帯端末によるインターネットの垣根を取り払い、双方で同一のインターネットサービス提供を狙った新サービス(NTTドコモの命名によれば、Fixed Mobile Convergence、FMC)の開発である。携帯電話サービスがここ数年で3G(次世代携帯電話)に向けて移行しつつある今日、また欧州で統一標準として開発されたWAP(携帯電話にインターネット接続機能を付けるための標準)のサービスが提供されてはいるものの離陸していない現在、両社の提携は世界の電気通信業界に大きなインパクトを与えることとなろう。
 なおAOLは米国のほか世界主要諸国でもISPサービスを展開しており、米国外で200万を越える加入者を有している。わが国でも合弁会社のAOLジャパンによりサービスを提供しているが、同社の加入者数(現在約50万弱)は低迷しており業績は上がっていない。今回の提携ではNTTが筆頭株主になり、AOLジャパンの経営に参画する。つまりAOLはNTTドコモの強大なマーケティング力により、AOLジャパンのてこ入れを期待している。また同時に両社は当面、AOLサービスの1部(電子メールサービス、AOLインスタントメッセンジャー)をNTTドコモの携帯電話で取り扱うとともに、AOLジャパンをFMCサービス開発の実験場にする。
 以下両社の提携の概要とその意義、さらに今回の提携の背景として欧州のモバイルインターネットのWAPの現状、WAPとiモードとの比較について解説する。(なお、本論は内容的には2000年4月15日にテレコムウオッチャーに掲載した「インターネット携帯電話は日本の独走」の続編としての意味を持つ。この機会に是非前回の論説も参照されるようお願いする)。


NTTドコモとAOLの提携概要

 モバイルマルチメディア事業のフロンティア開拓を目指すNTTドコモはインターネットビジネスの豊富なノウハウを有する世界最大のISP企業であるAOLと移動通信と固定網通信を融合する新たなインターネットサービス(Fixed Mobile Convergence、FMC)を共同で開発し、そのグローバルな展開を目指す。
 この目的を遂行するため、次のことを行う。

  • 戦略委員会の設置 : 技術、サービスの両面からFMCをキーワードとする新サービスの共同開発とFMC分野における海外での事業展開の検討を行う。当面アプリケーション分科会、テクノロジー分科会の2部門を設置し推進する。

  • 共同委員会の設置 : FMCを実現するための技術、アプリケーションを有するベンチャー企業等への共同投資をワールドワイドに検討する。

  • AOLジャパンへの経営参加と共同サービスの開発、提供 : NTTドコモはAOLジャパンの筆頭株主として経営に参画し、FMC分野での新たなインターネットサービスを実現することにより最先端のサービスを提供する。その第1弾としてiモード版「AOLインスタントメッセンジャー」及び「AOLアカウントの無料電子サービス」の開発と提供を行う。

 またNTTドコモはAOLの日本における事業展開会社のAOLジャパンに出資し、また増資に応じる。NTTドコモ参加後のAOLジャパンへの出資比率(カッコ内は現在の出資比率)は次のとおり。



  • 株式会社ドコモ : 42.3%(0%)

  • America Online : 40.3%(50%)

  • 三井物産株式会社 : 13.224%(38%)

  • 株式会社日本経済新聞社 : 4.176%(12%)


 AOLジャパンはNTTドコモの参画(NTTドコモの株式取得は平成12年11月中旬の予定)後、可及的速やかに総額110億円の増資を実施する。この場合NTTドコモの追加出資は最大57億円となる見込み。
 今回の提携に賭けたNTTの意気込みがよく表わされているため、ここではNTTドコモのニュース資料(2000.9.27)をほぼそのまま引用する。


 NTTからすれば、今回の提携は3Gの世界標準を目指しての固定・携帯融合サービスの開発、提供に向けて最重要の布石を打ったところに最大の意義がある。もちろん21世紀初頭の最大の市場になると予想される3G市場争奪のためのサービス、機器の標準化には世界の機器業者、通信事業者、ベンチャー企業が目の色を変えてこれと取り組んでおり、この目的実現のため多様な提携の実施、模索を行っている。NTTドコモのライバルである世界最大の携帯電話会社、ボーダフォン(英)の動きは特に著しい。9月初旬にはマイクロソフトと携帯電話のネット接続のため提携を結んでいるし、つい最近の10月4日にも中国最大の携帯電話会社のChina Mobileと戦略的提携を結んだ。この提携によりWTO加盟後電気通信オペレーションの分野でも開放が予想され、世界主要電気通信業者、携帯電話業者から熱い視線が注がれている巨大な中国電気通信市場市場への進出でボーダフォンは他の事業者に1歩先んじた。
 世界最大のISPであり、近く予定されるTime Warnerとの合併後は世界最大のメディア会社ともなるAOLが有するグローバルなプレステージはきわめて大きい。今後NTTドコモが米国、欧州で事業を展開して行く上でこの提携は大きなメリットとなろう。(この点は幾つかの外紙も指摘しているところである。(例えば2000.9.22付けFT.com, DoCoMo agrees AOL wireless internet alliance)。さらにNTTドコモが米国市場に進出するためには、AOL以外の他の事業者との提携が当然に必要となる。今後特に米国での携帯電話会社、ベンチャービジネスとNTTドコモとの提携が推進されることは確実である。
 AOLジャパンは固定、携帯の両サービスを融合するための実験場として利用される。同時にNTTドコモは筆頭株主として事実上AOLジャパンの経営に深くコミットすることとなり、経営不振のAOLジャパン(加入者数はわずか45万で日本ISP業者中9位)のてこ入れが期待されよう。NTTドコモが大きな加入者基盤を有し、しかも加入者のうちPCをこれから購入する者も多いはずであるから、今後のマーケティングによってAOLジャパンの加入者数の増大が期待されるだろう。
 NTTドコモは欧州においては、オランダ最大の携帯電話会社のKPN Mobileと提携し欧州主要諸国へのiモードサービス、3Gサービスの提供を計画している。この計画は着々と進んでおり、2001年初頭には両社は合弁会社を設立しiモードによるポータルを開設、いよいよ待望のiモードサービスの提供に乗り出す。当初のサービス提供予定国としてオランダ、ベルギー、ドイツが挙げられている(2000.9.29付けTechWebのDoCoMo In European Portal Partnership)。
 NTTドコモとAOLとの今回の提携はすでに先行している上記の欧州市場進出の実施に続いて、米国市場進出計画を実施を開始したものとしてきわめて重要な意義を持つ。



欧米モバイルインターネットサービス(WAP標準)に対する厳しい評価

 従来のGSM標準にWAP(Wireless Application Protocol、携帯端末にインターネット機能を付加するための標準)による機能を付加した電話機によるモバイルインターネットサービスはNTTドコモよりやや遅れはしたものの、ここ半年から1年の間に欧州主要諸国で提供されるようになった。また米国でもさらに欧州より導入は遅れたものの、最近Verizon、AT&TMobileなど大手携帯電話会社もWAPによるモバイルインタネットサービスの提供を始めた。
 しかしユーザーからの反応はきわめて厳しく、加入者数は伸び悩み、大方の携帯電話事業会社は加入者数を公表していない(多分少なすぎて公表できない)状況である。
 ついでながらWAP基準によるモバイルインターネットを提供しているChina MobileもWAPはサービスの速度が遅く、コンテンツも少ないので加入者の利用が少ないという。同社は本年の5月、10月の2回にわたり加入者からの料金徴収を見送った。(2000.9.18付けTechWeb, Slow Access, Poor Contents Hinder WAP In China)   サービス不振の理由として(1)伝送速度がきわめて遅くいらいらする、(2)画面が小さくてテキストが見づらい、(3)出荷が遅れ電話機が手に入らない、との三点が大勢を占めている。
 こういった状況からしてここ数ヶ月来WAPの現状、将来見通しについて辛口の批判をするアナリスト、コンサルタントも出てきた。その2、3を以下に紹介する。


  • WAP端末はミゼラブルという他ない。WAPは「携帯に対する間違ったアプローチ」(Wrong Approach to Portability)のイニシャルだろう。(米国カリフォルニア州のコンサルタント会社 Nielsen Norman Group代表のNielsen Norman氏、2000.9.20付けTech Web, At allNet Devices 2000, The Way Is Wireless)

  • WAPのプログラム言語のWMLは難かし過ぎるし、WAPのアクセスサイトも少ないから、iモードに対抗できない。(コンサルタント会社Gartner Groupのアナリスト Toal Hart氏。2000.8.11付けTechnology News, Phone Battle Brewing Between iMode and WAP)

  • 9.6Kbitsの周波数帯では小さすぎる。3Gになれば飛躍的に加入者数は増えるが、その時は別の端末を要しこれがユーザーを遠ざける。(コンサルタント会社のアナリスト Mackenzie氏、2000.7.2付けPC World.com,Will WAP Wireless Live Up to Hype?)

 不振なWAPに比し絶好調のNTTドコモによるiモードのが引き合いに出され、WAPは将来ドコモに勝てるのかという趣旨の論調も増えている。その好例としてファイナンシャルタイムズのホームページで最近Will imode conquer the world?(iモードのは世界を征服するか)という題名の討論がネット上で行なわれ、かなりの数の外国人(日本在住者も含まれている)が参加した。現状でのWAPサービスに対するiモードの優位性を認めながらも、(1)終局的にWAPのサービスは向上し、テイクオフする、(2)iモードは日本独自の標準であり、また日本の特殊の条件(同質の社会、若者の独自の文化等)に支えられて飛躍的に発展したものである。しかしWAPは開かれた世界標準だから、将来かならず成功する。iモードは独自標準で日本だけでしか通用しないものだから、欧米諸国で成功しないというのが参加者の最大公約数的な意見であった。そこでさらに項を改めて、WAPとiモードのどこが異なるのか、またiモードの海外への浸透の可能性はどうかを検討してみる。



WAPとiモードの比較、iモード国際進出の可能性

WAPとiモードの性能を比較したのが次表である。



項 目
WAP
iモード
伝送スピード
9.6Kbps
9.6Kbps
回線方式
現状は回線交換が主体。今後、早期にGPRS利用のパケット交換に移行する予定。パケット交換
課金方式
時分制。パケット交換の導入時に情報量課金に移行。情報量課金
コンテンツ料金の徴収
不明。NTTドコモの場合とコンテンツ提供業者の関係が全く異なるようである。携帯電話会社がISPから、コンテンツを最初に一括購入する場合がある模様。NTTドコモは「公式サイト」を提供できるコンテンツ業者を指定。これら業者については、ユーザーから通信料と込みでコンテンツ料金分も請求書により込みで徴収。コンテンツ提供者にはその後、手数料収入を除いた分を支払う。つまり料金徴収事務を代行。
記述言語
WML(HTMLからの書き換えに専門技術を要する)cHTML(HTMLの縮小版であり、書き換えは容易であって、コンテンツ提供業者が自前で出来る)


 上記項目のうち、「回線方式」と「課金方式」はパケット交換のGPRS(General Packet Wireless Service) サービスが導入されればiモードと同様になるはずであり、サービスは向上する。 パケットになれば24時間つなぎぱなしとなるから、インターネットへの接続は早まる。また課金も情報量に応じて行うことが出来る。最近のファイナンシャルタイムス紙によると、英国のモバイルインターネットの加入者数は、英国4社の携帯電話会社の中でもっともモバイルインターネットに力を入れているBTCellnetが40万を超え好調であるという。BT Wireless(BTの携帯事業部門)の長 Erskine氏は加入者増の基調は強く、サービス開始が本年6月であったことからすると、このサービスの離陸は間違いないと将来に強い自信を示している(2000.9.28付けファイナンシャルタイムズ、BT Wireless chief defends WAP move)。BTCellnetは多分、モバイルインターネットサービス提供と同時かあるいは少し後で、恐らく欧米業者のなかではきわめて早期にGPRSサービスの提供を始めたはずである。 「コンテンツ料金の徴収方式」は、標準の問題というよりビジネスモデルの一種であろう。従がってWAPであっても、iモードの場合と同様に当然に行い得るわけである。ただ従来からの携帯電話事業者とコンテンツ提供業者との関係がどのようなものかによって、実施に難易が生じるであろう。
 最後の「記述言語」は、WAPとiモードの標準で明確な差異が残る部分である.。WAPはPCの記述言語であるHTMLとは異なったWML標準を採用した結果、HTMLの書き換えに手数を要する。このため専門業者に依頼せざるを得ず、コンテンツ提供業者からの評判を落とし、コンテンツが貧弱になるという結果となった。これに対し、NTTドコモが採用した独自規格のcHTML(Compact HTML)はHTML規格から携帯電話に必要な部分を引き出して作られたものであって、基本的にHTMLと同じである。従がってコンテンツ提供業者が自前でPCホームページから作れる手軽さが評判を呼び、コンテンツ内容が豊富に提供されることとなった。しかも、なおコンテンツの増加は著しい。

 さてここで注目すべきなのは、欧州でもcHTMLを携帯電話会社に売り込もうという業者がすでに出ていることである。
 英国の有力通信コンサルタント会社のLogica plcは本年6月、WAPの代替技術としてcHTMLのゲートウェイを開発するという。(WAPがcHTMLの記述言語を使用するにはインターネット上にHTMLからcHTMLに変換するサーバーを設ける必要がある。Logica社はそのソフトを組む模様)。Logica社の試みはWAP基準をべースにしてcHTMLを導入するとの考え方である。すでに説明した通りWAPがパケット交換に移行した場合には、WAPとiモードとの標準上の差異は記述言語にしぼられることからして、Logica社のこの動きは注目されよう(上記のLogica社の動きは2000.7.17付け、CWI on, line. Mobile&Satellite : DoCoMo success furls debate over WAP)。  要はWAPがパケット交換機能を備えた後はWAPとiモードの標準上の差異はさほどない。欧州携帯電話事業者が3G実施の免許取得料の支払い、今後生ずる3Gネットワーク構築の費用で軒並み資金不足に悩み、大きく下がった株価を回復するためにもWAPサービスの早急なサービス改善策を計らざると得なくなっている。このためこれら業者は早期にNTTドコモのiモードも重要な検討項目に入れた上で、サービスのあり方の総点検を迫られるだろう(iモードサービスの定義は幾通りにも出来ようが、上述のWAP、GPRSとの比較の流れからすれば、記述言語にcHTMLを使い、焦点をビジネスよりも一般消費者に当て、マーケティング主導に徹して開発したサービスモデルというようなものになろうか)。すでに述べたように、欧州諸国は今後半年から1年ほどでパケット交換のGPRSサービス(2世代のWAPに対し、2.5世代のモバイルインターネットサービスだともいわれる)に切り替わるので、その時期もサービス総点検の好機であろう。
 iモードの日本での成功を評価しながらも「iモードは日本の独自基準であるから、国際市場では世界基準のWAPに勝ち得ない」との意見は欧米だけでなくわが国でも強い。しかし欧米でのモバイルインターネットサービスの向上を期待する声はきわめて大きく、携帯電話業者は3G導入前にでもこの要望に応ぜざるを得なくなっている。莫大な潜在加入者を持つインターネットモバイルの市場でNTTドコモが世界を制覇できるかはともかくiモードサービスを相当の程度欧米市場に浸透させ、この分野で確固たる地盤を確保できる可能性は高いと考える。



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