Verizon、テロ攻撃後のニューヨーク市の通信設備復旧に貢献
2001年10月1日号 2001年9月11日のニューヨーク市におけるテロ攻撃がもたらした惨事は、文字通り世界を震撼させている。
マンハッタン南部地区の電気通信回復に努めるVerizon
ハイジャック犯により乗っ取られた自国の旅客機によって、米国ビジネスの繁栄の象徴としてその偉容を誇ってきた世界貿易ツインタワービル2棟が次々に爆破され、火炎に包まれついには崩壊したあの衝撃的なテレビ映像は、私も含め幾億人もの世界の人々の脳裏に長く刻み込まれるものとなろう。正に、SF小説ですら想像し得なかった出来事が起こってしまったとの感が強い。
ところで今回のテロ事件発生に伴い、当然のことながらニューヨークの通信設備も大きな被害を受けた。ビル倒壊の舞台となったマンハッタン島南部地域では、Verizon Communications、AT&T、WorldCom、Sprint等の市内、長距離通信事業者、さらに幾社もの携帯電話事業者、さらにはClecs(競争市内事業者)数社が各種電気通信サービスを提供している。しかし主導的なシェアを持つ事業者は、この地域で最大の市内加入者、専用線加入者を持つVerizonである。
惨事発生後、上記の通信事業者はいずれも被害を受けた設備、回線の復旧、一時的に輻輳したトラヒック疎通への対策に忙殺されたのであるが、復旧作業の主役になったのもこの地域のWest Street交換局設備が大きく被害を受けたVerizonであった。
特に一時期、閉鎖に追い込まれたニューヨーク証券取引所を9月18日に再開するためには、その時期までに所要の通信設備、回線を復旧しておかなければならず、Verizonは期日通りの証券取引所の再開に果した功績を大きく評価された。
FCCのパウエル委員長は、9月20日に出した回線復旧に対する通信事業者に対し謝辞を表した声明の中で、「Verizonが機器の修理、ケーブルが破壊された個所のサービスを復旧するためのトラヒックのルート変更に費やした労苦、献身、超人的な努力に敬意を表したい」とVerizonに最大限の賛辞を送った(注1)。
Verizonはまた無料による公衆電話の開放を行い、通信手段を奪われた人々の便宜に供するとともに、従業員に対し寄付、献血を呼びかけ、地域巨大事業としての応分の社会的責務を果した。
緊急事態に大きく団結し強く相互扶助の精神を発揮し合うのは、米国人の優れた特性であり、私たちは9月11日以降、テレビの画面でそのような場面を幾つか目にしているところである。
電気通信分野の分野にも、特にVerizon(AT&Tを始めとする他の通信事業者も規模は小であるにせよ同様の活動を行ったことはもちろんであるが)にこの善意に基づく献身的な行動を見出し、暗い事件の中で多少の光明を見出した気がする。
以下、9月11日以降、Verizonがどのような電気通信活動、社会奉仕活動を行ったかを紹介する。
1.初期復旧はニューヨーク証券取引所の再開に向けての努力が中心
被害を受け収容回線がすべて不通になったのは、相次いで倒壊したビル群の至近距離にあったためガレキに埋もれ、また浸水が甚だしいVerizonのWest Street交換センターであった。このセンターには約30万の音声回線(ビジネス用10万、住宅用20万)、約350万のビジネス用専用回線が収容されていた。音声回線は南部マンハッタン地域の全電話回線の40%に当たり、また、ニューヨーク株式市場のトラヒックの20%はこの交換センターの設備によりまかなわれていた。
2.テロ攻撃後約2週間内に3分の2の回線を復旧
通信の復旧は17日に予定されたニューヨーク証券取引所の再開に必要な通信回線、端末の確保に重点が置かれた。Verizonは各企業の通信回線に対するニーズを逐一聴取した上、主として、West Street外の交換センターへの回線切り替えにより、この突貫工事を遂行した。同社はすでに16日の日曜日にテストを行った結果、17日の証券取引所再開は通信面で問題はないとの確信を得たという。事実、17日、ニューヨーク証券取引所は通信面でのトラブルなく再開された。11日(火曜日)の証券所の不本意な閉鎖は丸4日続いたが、次ぎの週の初日の17日(月曜)までには取引を再開したいというのは、米国証券関係者だけでなく、ニューヨークのジュリアーニ市長自身の切実な念願であった。ニューヨーク取引所は米国資本主義のシンボルである。再開が遅れることは、テログループに対する屈服を意味するからである。再開に向けての最大の難関の1つである通信設備の応急復旧に成功したことで、Verizon は米国民からの付託に応じることができた(注2)。
Verizonは9月24日、同社の回線復旧の作業は急速に進捗している旨の発表を行った。まず、音声回線30万回線の約3分の2を使用できる状況にした。元のまま復旧したののもあるし、また顧客の勤務場所が変わった場合には、新たに新勤務場所における顧客の要望に応じ、新回線、新端末機器の提供を行ったという。
3.被害による影響を少なくし、復旧を早めるのに貢献した2つの要因―顧客のバックアップ回線とVerizonの他の交換センターの余力―
同社はWest Streetが収容していた35万回線の専用線のうち他の交換局に終端する20万回線の復旧は完了したが、同局に終端する残りの15万回線の復旧状況についての詳細には触れていない。
結局、現在も復旧工事は進捗中であって、最終復旧はガレキの山が除去された後に行い得るのであって、今後、相当の期間がかかるとみなければなるまい(注3)。
Verizonsが回線の復旧を進めるにあたり、被害を受けたWest Street交換センター以外の交換センターの回線容量が大きく貢献した。この容量を利用して、顧客回線の切り替えを行うことができたからである。
Verisonが実施した公衆電話の無料開放、奉仕活動
また、企業は緊急時に備え、おおむねバックアップ回線を有している。従って、この回線により、West Street交換局収容の加入者も当初からバックアップ回線利用により、通信手段の確保ができていたケースが多かったと見られる。
1.顧客への公衆電話利用の無料開放
Verizonは9月11日の夕刻から早速、無料公衆電話の利用を公衆に開放する措置を取った。その数は、通常の公衆電話が400個、臨時に設置した携帯電話公衆電話が220である。すでに述べたように、VerizonのWest Streetの普通回線は30万回線に上り、早急な復旧の目途は立っていない。
2.従業員による寄付・献血活動
上記の無料による公衆電話の開放は、主としてこれら利用者に対する措置である。Verizon公衆通信部門のフリーマン社長は、「この公衆電話は家族、上役、友人、企業にとってのライフラインである」と述べている(注4)。
Verizon CommunicationsとVerizons Wirelessは、9月14日、テロによる災害救済のため、みずから寄付金を拠出するとともに、従業員に対しても寄付を行うよう次ぎのように奨励した。
上記2の募金額は、9月21日現在で400万ドル(従業員分、Verizons Foundations分がそれぞれ、300万ドル、100万ドル)に達した。
- 赤十字等3機関に100万ドル以上を寄付
- September11th Fund(Verizonsが今回の惨事に対する寄付実施の目的のため、設立した組織)を通じ、従業員の醵金および献血を勧奨。Verizonsは自社の慈善団体、Verizon Foundationsを通じ、従業員の3倍の寄付金を付加する。期間は9月13日から10月13日まで。
この他、Verizonは従業員に対し、献血活動も呼びかけている(注5)。 今回の惨事で見直されたインターネット、携帯電話の価値―ただし、株価は上がらずー
ところで、ニューヨーク、ワシントンにおけるテロ事件発生以降の関係者の連絡、救護活動等のトラヒック増で米国において評価が高まったのはインターネット、および携帯電話のサービスであった。わが国においては、1995年の阪神大震災の折に政府首脳が災害を知らないうちに、インターネットによりユーザーの1部により国際的に災害発生情報が伝わっていたという事態が生じたこともあり、非常事態時におけるインターネットの効用が評価されていたことは、周知の事実である。
ニューヨーク、ワシントンでは、特に(1)インターネットでは、通常の電話の不通、異常輻輳の事態における企業サイドでの従業員の安否の確認、仕事(というよりも、一時休業時の作業の段取りの打ち合わせ)(2)携帯電話では爆破されたビルあるいはハイジャックされた旅客機内の人々の肉親、知人に対する最後の挨拶(特に、ハイジャックされた第4番目の旅客機の1部乗客は携帯電話による交信により、ハイジャック犯の意図を感じ取り、これがこの旅客機の大地への墜落―それ事態は惨事であるにせよ、少なくともハイジャック犯の犯行を未然に防いだーを導いたと推察されている)に大きな効果があったと評価されている(注6)。
もっとも、さればといって、インターネット関連企業、携帯電話会社の株値が上がったというわけではない。ニューヨーク証券取引所の再開後、1部から、テロ犯の攻撃に対抗する米国民の愛国心の高揚により、却って株式は上がるのではないかとの期待も1部にはあったが、この期待は裏切られ、米国だけでなく欧州、わが国の株価もジワジワと下がっている(9月28日の金曜日、株価はグローバルにかなりの値上がりを見せたが、その後、値上がりが持続すると見る向きは少ないようである)。
インターネット、携帯電話に関連する企業の株式も依然、低迷あるいは低下が続いている。結局、サービスの効用は認めるにせよ、バブルに便乗した過剰投資による業績悪化により、とても持続的な株式の買出動に入るインセンティブはないというのが、市場の厳しい見方なのであろう。(注1)2001.9.20付けFCCプレスレリース、"Statement of FCC Chairman Powell Following tour of New York telephone facilities and discussion of repair efforts with telephone officials"
(注2) VerizonのWest Street交換」局の被害状況については、例えば、2001.9.14付けファイナンシャルタイムスの"New York markets to get limited telecoms service"
(注3)2001.9.21付けのVerizonのプレスレリース、"UPDATE from Verizon Media Relations"なお、類似の社会奉仕活動として、AT&Tは救助関係機関に計1000万ドル分のプリペードカードを寄付している。
(注4) 2001.9.21付けVerizonのプレスレリース、"Verizon's Free Payphones Help Disaster Area Residents Connect 80,000 Times a Day"なお、AT&Tも米国赤十字社に1000万ドルの寄付を行っている。
(注5) 2001.9.14付けVerisonのプレスレリース、"Verizon Employees Encouraged to Provide Aid, Blood To Victims of Sept.11 Terrorist Attacks"
(注6) 関連する記事は数多いが、例えば、2001.9.12付けのウォール・ストリート・ジャーナル、"Internet Was Critical For Worried Freiends"および2001.9.19付け同紙の"Mobile-Phone Sales Sales Surge After U.S. Disaster"
弊社取扱レポートを掲載した「レポートリスト」を年4回発行し、無料で郵送配付しています。
送付をご希望の方はご一報ください。
株式会社 データリソース
東京都港区赤坂4-5-6-701(〒107-0052)
Tel: 03-3582-2531
Fax: 03-3582-2861
e-mail: info@dri.co.jp
| ホーム | レポート検索 | 委託調査 | 書籍・雑誌 | セミナー | 会社案内 | DRフォーラム | ホームページ利用方法 | お問合せ |
(c) 1999 Data Resources, Inc. All rights reserved.
このサイトのすべての内容に関する著作権は、(株)データリソースに帰属しています。
データの無断掲載および無断転載は禁止しています。