DRI テレコムウォッチャー



断固としてグローバル携帯電話網の構築に向かうDT(ドイツテレコム)

                - 米国市場でVoiceStreamに次ぎPowertelも取得へ -


2000年10月1日号

 昨年までDTの国際戦略はイタリアの電気通信会社Telecom Italiaとの合併、米国の電気通信会社Qwestの取得がいずれも失敗に終り、混迷を続けていた。しかし同社は最近、米国GSM標準携帯電話会社のVoice Stream、Powertel両社の取得について合意したことにより、ようやく念願の米国市場への参入を果たした。当初に意図した形ではないにせよ、DTは海外戦略を鋭意実施に移す段階に入ったといい得よう。
 DTの海外戦略遂行の柱は2つある。1つは持株会社、T-Mobil International AGが推進するグローバル携帯電話事業である。今ひとつはすでに株式の上場を果たし、最近スペインのISP Ya.comの買収、日本のニフティーとの業務提携等で国際活動を強めている欧州最大のISP兼ポータル会社のT-online International AGである  本稿では、上記のうちDTの携帯電話事業について、米国携帯電話会社Powertelの取得、T-Mobile International AGの3G(次世代携帯電話)に対する取り組みについて解説し、併せて米国議会、規制機関のDTによるVoiceStream取得に関する最近の姿勢についても触れることとする。
 DTの今ひとつの柱であるT-Online Internationalの活動状況については、また折りを見て紹介することとしたい。


Powertel の取得

 DTは8月下旬、米国の携帯電話会社のPowertelと同社の取得について合意した。DTが同じく携帯電話会社であるVoiceStreamの取得について合意してまだ1月後のことであった。この連続した2社の携帯電話会社取得により、DTが念願としていた米国市場進出は完了した。(DTによるVoiceStream取得については8月15日付けテレコムウオッチャー「ドイツテレコム、VoiceStreamの取得について同社と合意」を参照)。
 次表にPowertelとVoiceStreamの事業規模を示す。

項 目
Powertel
VoiceStream
加入者数
72万
260万
332万
売上高(1999)
2.8億ドル
3.7億ドル
6.5憶ドル
欠損(1999)
1.3億ドル
1.2億ドル
2.5億ドル
営業地域・潜在加入者数
米国南東部の12州に2500万
米国北部を中心に2億2000万
2億4500万
従業員数
2500
8200
10700

 アナリストたちは両社の営業地域がほとんどオーバーラップしておらず相互に補完し合うので、DTにとって大きなプラスをもたらすとしてDTのPowertel取得を高く評価している。
 DTのPowertel 買収はVoiceStream買収の場合と同様に、新株を発行しその新株とPowertelの株式を1対2.6353の比率で交換する株式交換の方法で行われる。DTは1億4730万株の株式発行を予定しており、これは金額にして58.9億ドルに相当するという。VoiceStreamの場合のDT交付株の評価額が507億ドルであったのに比すると格段に少ない金額である。これは、Powertelの株式発行数が少ないことのほか、最近のDT、Powertelの株価下落によるところも大きい。Powertel 1株当たりの買収価格はVoiceStreamの場合の約3分の1だという。この他、DTはPowertelの負債1.2億ドルも引き受ける。
 ところでGSM標準を使う米国の携帯電話事業者数は約30社。加入者数600万、従業員は約14000人だという。上表から明かな通りVoiceStream、Powertel両社で加入者の過半数を占めているわけであるが、最近のDTによる引き続く携帯電話会社の取得に刺激されて、米国市場におけるGSM携帯電話業界の統合が促進されると見る向きもある。買い手として再びDTが登場する可能性もあり得よう。
 DTはPowertel取得の時期をVoiceStreamの場合と同様に2001年第1あるいは第2四半期と見ている。T-Mobil International A Gに両社を組み入れるための準備、特に思い掛けず反対の声が米国の一部上院議員、CIA等から挙げられたことでもあり、これら機関による審査が長引くと予想したものであろう。
 なお、表の作成も含め本項の執筆に当たっては、次の資料を利用した。8月27日付けファイナンシャルタイムズ、Deutche Telekom to buy Powertel for $5.89bn、8月28日付けFrankfurter Allgemeine ZeitungのTelekom knupft umfassendes GSM-Mobilefunknetz in Amerika(DT、米国で全土にわたるGSM網の接続へ)及び8.29日付同紙のIm Netz der Telekom(DTのネット)。



3Gに賭けるT-Mobil Internationalの事業計画

 T-Mobil Internationalのリッケ会長は8月末、記者会見の席で今後数年間の同社の事業計画を明らかにした。8.28付Frankfurter Allgemeine Zeitungの記事、Telekom strebt UMTS-Lizenzen in zehn weiteren Landern an(DT、さらに10カ国で3G免許取得を狙う)によれば、その概要は次ぎの通り。




欧州主要諸国での3G免許の取得:

 ドイツ、英国、オランダの3国ではすでに免許を取得済み。フランス、スエーデン、ベルギー、ポルトガル、デンマークでも適当なパートナーとともに申請を行い免許を取得する(イタリアでDTは先に合弁携帯電話会社、Windから資本を撤収し、適当な3Gの提携先が見つかっていない。大国であるだけにT-Mobil Internationalにとってイタリア進出を断念することは痛手である。リッケ氏はまだ提携先を模索する旨の発言をしているが、見つかる可能性は低い)。さらにリッケ氏はオーストリア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、クロアチア、ロシア、スロバキア、ウクライナの地域でも、これまでD-Mobilがなんらかの形で現地の電話会社に資本参加もしくは提携して来た企業と組んで、将来は3G免許の取得をする決意を述べた。
 汎欧州ネットワーク構築を目指す世界最大の携帯電話会社のVodafone(英国)、New Orange(フランス)、KPN/NTTDoCoMo/Huchison Whampoa連合の他の3グループと3G分野での競争を断固やり抜くとのDTの決意表明と受け取るべきであろう。



3Gの開始期日、投資:

 3Gのサービス開始は2003年第1四半期。当初は主要都市から始め、逐次全国に拡大する。投資金額は今後3年間、現在の年間15億マルク(約7200億マルク)の投資額を少し増額する必要があるが、それ以降は逓減する。ちなみにT-Mobil最大の国内におけるライバル、Mannesmann Mobilfunk(Vodafone傘下のドイツ最大の携帯電話会社)は2002年末には3Gサービスを提供すると言明している。
 国内におけるT-Mobilのシェア低下:現在、T-Mobilが国内で有しているシェアは30%程度であるが、3Gの開始により、参入業者数が増え競争がさらに激化する結果、国内シェアは20%に下がる。



携帯電話需要の長期予測:

 2010年に人口の85%は携帯電話を持つようになる。複数の携帯を利用する人がいるから、電話機の普及率は100を超える。
 威勢のよい需要予測、経営計画であるが、DTのゾンマー会長と経理担当役員のエック氏は同時期の記者会見の席でDTの財務の厳しさを洩らしている。「8月29日付けFrankfurter Allgemeine Zeitungの記事、(Telekom-Chef Rom Sommer; Die Anleger werden bald wieder unsere Chancen sehen、DTのゾンマー会長:投資家の皆さんにはまもなくわが社がチャンスを捉らえる様を見てもらう)を参照」
 エック氏は企業買収、免許料支払い、ドイツ、英国におけるマーケティング費用の増大等により携帯電話事業の収支の悪化は避けられず、すでにT-Mobil Internatonalの所掌する携帯電話事業全体で赤字になっており、さらに国内分野の運営会社 T-Onlineも本年度は赤字になる旨を言明している。
 またゾンマー会長は、DTの株価が最近下がっており、本年6月当時より3分の1も値を下げている状況に対し「投資家の皆さんに迷惑をお掛けしており申し訳ないが、長期的にはグローバル電気通信事業者としてのDTの実力が発揮され、株価も上がるはずである」という苦しい答弁をしている。
 事実すでに1999年のDTの決算ではドイツの電気通信市場が10%伸びたのにもかかわらず、DTの売上高は4%を超える減少を示しており、同社が携帯電話、インターネット等の新分野(ニューエコノミー)で競争によりシェアが減少する固定電話サービス(オールドエコノミー)の分野をカバーし切れていないことを示した。
 本年におけるDT最大の成功は、同社が所有するT-Online Internationalの株式10%の初株式上場が当時の電子商取引に対する欧州前半の強気の思惑から成功裏に終り、30億ユーロ(約2800億円)の資金を獲得できたことである。このように、これまでの基本事業の地盤沈下が生じているという同様の状況の下にありながら、DTは経営者の適切な判断と果断な実行力により、少なくともこれまでは、BTより優れた評価を市場から得てきたといえことが出来る(9月15日付けテレコムウオッチャー「守勢に立つBT」を参照)。



DTはVoiceStrem取得について米国の審査をクリアできる可能性が高い

 DTがVoiceStreamの取得で合意すると米国の上院から政府が58%もの株式を所有している同社に米国の通信企業を買収させるわけにはいかないとの反対が起こった。民主党の実力者Hollings氏による法案を含め、この両社合併を阻止するための法案が幾つも提案され、現在審議されている。
 しかしDTのゾンマー会長は先に紹介した8月29日の記者会見の席上で、両社合併については満々の自信を示した。事実その後の経緯を数少ない外紙でフォローした限りでは、次ぎの諸点からして、ハプニングが起こらない限り、米国側は終局的には(幾つかの要件が付されるにせよ)合併を認めるものと思われる。



WTOの立場を代弁するFCC:

 FCCのケナード委員長はは9月7日、下院の電気通信・貿易・消費者保護小委員会に呼ばれて証言した。この証言のなかで、氏は(1)WTO加盟国相互間ではまず企業合併は公共の利益に添ったものとの推定を受ける。この推定を覆す場合は厳密な調査に基づかなければならず、仮に合併が米国の利益を大きく害すると判断した場合でもそれを排除する歯止め条件(safeguard)を付することが出来ないかどうかを先ず検討する。申請を却下するのは歯止め条件が設定できない場合に限ること(2)FCCは合併の是非を論ずるに足る十分な資源を有しており、他機関に頼る必要はないことを強調した。(FCCのケナード委員長の説明は9月7日付けFCCのプレスリリース)
 ただし公安、法執行上の理由から、企業合併に問題があるかどうかはFBI等の関連する行政機関に判断を委ねるとしている。



強硬論が下火になった議会での法案審議:

 7月末の議会での審議は「外資に米国の企業を取得させるな」という高揚した気分が高まったが、8月の休会明けの論議はにわかにかに温和なものになったという。いち早くファイナンシャルタイムスは法案に対する反対票は賛成票を上回るだろうと報道している。(9月5日付けファイナンシャルタイムス メBattle of the giants over Deutch Telekom dealモ参照)



司法省はDTのVoiceStream取得を認める:

 麻薬、犯罪の取り締まり等の捜査のため、米国の警察 FBIが通信の傍受を最大限に活用していることは良く知られている。NTTコミュニケーションズのVerio取得に関連して外資系企業に対する国内企業並みの通信傍受に関する要請の強さが明らかになった。NTTコミュニケーションズ、Verioの場合と同様、DTのVoiceStream取得にかんしても類似の協力要請があろう。これに関連し、米国司法省は8月末、いち早くDTによるVoiceStream取得を認めた。この事実からすると案外、上記の折衝はすでに機密裡に相当進んでいるのではないかとの憶測すら可能である。(このほかFCCが企業情報の傍受の必要、米国企業情報流出の危険性について強い関心を抱き、事実グローバルな規模で他国情報の収集に当たっている事実もよく知られている。この問題が今回の合併案件でどれほどのウェイトを占めるか否かは不明)
 最後に、米国がDTによるVoiceStream推進を強行することに対する最大の抑止力はWTOに対する同国の義務であろう。すでに欧州委員会は、米国がこの案件を拒否すればWTOの場での米国との協議を拒否する旨を警告している。米国がこの案件を拒否すれば、もっとも強力にサービスの自由化を推進している当の米国が強い保護主義の立場を取ることを意味し、自殺的行為となる。米国政府も議会もこの状況を良く理解しているはずである。





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