1. 序
最近、人工知能 (AI, Artificial Intelligence)への注目が高まっている。今回は、そのAIの近況に関する洞察を提供する。
まず、ここでは、人工知能を以下のように定義する。
– コンピュータとは、与えられた作業手順 (プログラム)に従って入力された情報を処理し、答えを出力する仕組み
○ プログラムがコンピュータの動作を決定する
– 人工知能とは、「入力された情報を処理し答えを出力する仕組み」という点ではコンピュータと同じだが、その作業手順は与えられたルールに従って自分で作成する。しかも、その作業手順は、同様の処理を繰り返すことで自動的に改善される。
○ ルールが人工知能の動作を決定する。
○ルールは、出力結果をフィードバックされることでプログラムを改良する。
– 入力機構もまた、キーボード (データ)に代わって画像情報や音声情報になる。ここでも、ルールが情報をデータ化し、入力データに変換するというプロセスが使われている。
2. 大手各社の取り組みの軌跡
IBM、Microsoft、Google、Amazon、facebook等の大手ベンダーのここ数年の動きをまとめたのが、以下年表である。
一つの流れが、Virtual Personal Assistant (VPA)である。
2011年頃を見ると、AppleのsiriのiPhone実装をきっかけにして、GoogleがGoogle Nowをアンドロイド端末に、MicrosoftがCortanaをWindows Phone端末に実装し、Virtual Personal Assistant (VPA)、もしくはIntelligenct Reminderの実用化が進んできた。
次は機械学習である。2012年のGoogleによる「コンピュータが猫を学習」という出来事に刺激されて、ディープラーニングが一気にひろまった。
2014年までは、各社の発表は技術開発が中心であったが、2015年になると事業化・実用化が発表の中心になってきた。
3. 各社の取り組みの違い
大手ITベンダーの動きを見ると、二つの流れがあることに気づく。
一つはGoogle・Microsoft・Amazonである。こちらは、機械学習システムをクラウドに展開し、API公開・開発キットのオープンソース化を進め、素材・要素技術提供に徹している。もう一方はIBMである。IBMはWatsonを中核技術としつつも、コンサルタント・SEが顧客 (開発会社、サービスプロバイダ)と協力し、エンドユーザ向けサービスの開発・提供を行っている。この差を図にすると、下図のようになる。
例えば、自前主義が強く社内にシステム部門を持つ自動車会社は、パートナとしてGoogleを選択する。そして、GoogleのAPI/開発ツールを使って、社内システム部門が自律走行車を開発することになる。ここではGoogleは黒子ではあるが、自社人員の稼動は最小限になっている、(パターン1-2)
一方、内部に強力なシステム部門を持たない組織、例えば、大学病院はIBMをパートナとすることになる。そして、開発をIBMに委託することになる。ここでは、IBMは自社人員の稼動をかけているが、そのかわり、市場で一定のプレゼンス・ブランドを維持している。(パターン2-1、2-2)
収益モデル・社内リソース・顧客接点の歴史を考えるならば、どちらの動きにも合理的な理由はあると思われる。
今後、人工知能を使ったサービスが、各種サービスプロバイダから色々と出てくるであろうし、Start-upも出てくるであろう。
人工知能の実装方法が複数あるということは、サービスプロバイダにとってもありがたいことであろう。
4. 日本ITベンダーの課題
日本でも、富士通・NEC・日立・NTTコミュニケーション、その他のITベンダーも、人工知能を使ったソリューション・サービスを考えていることであろう。
どのようなパターンになるにせよ、つまるところ、どこで収益を確保するか、自社のプレゼンスの確保が重要ポイントである。
自分の強みにあった形で、収益の確保・プレゼンスの確保ができることが期待したい。
5. データリソース社が提供する人工知能関連調査レポート
● 人工知能(AI) 市場 | Venture Scanner | 年間サービス |
● 仮想個人秘書とスマート顧問 | Mind Commerce | 2016年1月 |
● 世界の消費者向けロボット | Juniper Research | 2015年12月 |
● 世界のスマートインフラ:スマートシティと人工知能 (AI) | BuddeComm | 2015年9月 |
● ロボティクス2016-2026年 | IDTechEx | 2015年12月 |
年表
時期 | 出来事 |
2011年 | |
2月 | IBM「Watson」、TVクイズ番組「Jeopardy!」で勝利し、注目を集める |
10月4日 | Apple、Siriを発表。動作環境はiPhone 4S以降 |
2012年 | |
7月 | Google、コンピュータが猫を学習と発表
(ディープラーニングを使った画像認識。以降、本技術が注目を集める) |
8月 | Google、自律走行車プロトタイプ「fleet」が48万kmを走行と発表 |
10月29日 | Google、Google Nowが使用可能に。動作環境はAndroid 4.1 以降 |
2014年 | |
4月2日 | Microsoft、Cortanaを発表動作環境はWindows Phone 8.1 |
6月7日 | 13歳少年をモデルにした人工知能、チューリングテストを合格 |
7月14日 | Microsoft、画像認識技術を発表 (ディープラーニング方式) |
9月 | Google (トヨタ)、メルセデスベンツ、アウディの三社それぞれが、米国で自動運転車両の公道走行認可を取得 |
2015年 | |
1月 | Facebook、ディープラーニング技術のオープンソース化を発表 |
2月20日 | Microsoft、Azure Machine Learning正式版を発表
(機械学習機能をクラウドから提供) |
4月10日 | Amazon、Amazon Machine Learning を開始
(機械学習機能をクラウドから提供) |
5月 | Microsoft、Project Oxford APIを公開 (β版)
(機械学習で顔認識・音声処理•画像解析・言語理解を提供) |
6月 | Amazon、Amazon Machine Learningをオープンソース化 |
8月7日 | 日本マイクロソフト、女子高生AI「りんな」を正式リリース
(12月中旬現在、180万人のLINE友達を持つ) |
10月6日 | IBM、コグニティブ事業部門設立を発表。
「Watson」応用に関するコンサルティングサービスを拡大へ |
10月26日 | Google、Rank Brain導入済みを発表
(AIをベースにした検索エンジンアルゴリズム) |
10月30日 | IBM、CognitiveApplicationの新規パートナ6社を発表。
Engage (音声分析ソリューション提供)、Macaw Speech (音声認識アプリ提供)、Opentopic (マーケティング技術開発)、StatSocial(ソーシャル・データ分析)、Vennli (アンケート回答分析ソフト提供)、Domus Semo Sancus (金融リスク管理ソフト提供) |
11月2日 | 富士通、AI活用コンサルティング部設立と、Human Centric AI Zinrai(AI技術体系)を発表 |
11月12日 | Google、TensorFlow (人工知能・機械学習ソフト)をオープンソース化 |
11月12日 | Microsoft、機械学習ツールキット、DMTKをGitHubにプッシュ
(Distributed Machine Learning Toolkit) |
12月3日 | Google、Cloud Vision APIを提供開始 (機械学習ベースの画像認識技術) |
12月10日 | Facebook、AIハードウェアのオープンソース化発表
(Open Compute Project規格準拠でDC内での稼動を想定) |
12月11日 | Open AIが設立 |
2016年 | |
1月6日 | IBM、Under Armour社とはフィットネス・健康アプリで、Softbank RoboticsとはPepperで、Watsonの戦略的提携を発表 |
1月18日 | 米Yahoo、各サービスで収集したデータを大規模機械学習用データセットとして研究者向けに公開 |
1月25日 | Microsoft、CNTK(機械学習ツールキット)をGitHubに載せMTライセンスを適用 (Computational Network Toolkit) |
1月28日 | Google人工知能ソフト、囲碁で、ヨーロッパチャンピンに勝つ |
今後 | |
2020年頃 | 自動車メーカ各社、自律走行車を発売 (程度や方向に差分あり) |
2030年 | 多くの職種でAI/ロボットが導入
(2015年12月、野村総研が代替可能性の高い職種、低い職種を発表) |
2045年 | Singularityに到達 (AIが全人類の知能を超える) |