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小売業におけるRFIDの行方

(ITアナリスト 志賀竜哉氏)
2003年12月25日号

概要

無線タグ、いわゆるRFID(Radio Frequency Identification)は我々の生活や幅広い産業で状況を一変させるほどの影響力があると言われており、またユビキタス・コンピューティング、イコールRFIDと言われるほどに注目されている。今、特に流通業界はRFIDに熱い視線を寄せている。仕入れ、販売、消費者の行動を一変させるインパクトがあり、流通革命の可能性も秘めている。しかし、現実問題として導入にあたってはさまざまな障害がわかってきた。ここでは流通業に注目し、現実にRFID導入にどのような問題があるのかを考えてみたい。

■バーコードと10年間は共存

最近のウォルマートなどの研究では、膨大な導入コスト、読み取り精度の問題、システムやタグ情報の標準化などが簡単に解決できないことがわかってきたことから、少なくとも、あと10年はバーコード・システムとの併用になり、二つのシステムへの重複投資が必要になる模様だ。さらに最初の段階では、極く僅かな商品アイテムがRFIDタグをつけるに過ぎない。つまりその間はタグリーダーなどの導入コストは回収できないことになるわけだ。

■電波特性の問題

次に電波特性の問題だ。金属や比重の高い液体が介在すると読み取り精度に影響を及ぼす。これまでマイクロプロセッサを搭載したRFIDは高速でスキャンしたときについていけるかどうかがテーマであったが、むしろスーパーマーケットのような種々雑多な商品を一緒に扱うケースでは、電波の特性に悪影響を与える要因の方が大きな問題であることがわかった。読み取り精度を確保するために商品ごとにタグを貼る位置を工夫したり、さまざまな角度に読取装置を置かなければならないような事態も想定される。
また、流通サイクルの速い食料品や雑貨品と、ファッション品、電化製品などでもRFIDのアプリケーションソフトが違ってくる。まず、サイクルの速い製品、たとえば缶詰などはケース・レベルでタグを貼るが、衣服、電化製品などはアイテムレベルで貼るだろう。
つまり、在庫管理のアプリケーション・ソフトが異なる。特に単価の高い商品は在庫管理の失敗で値下がりによる損失を蒙らないような管理が主眼になるが、雑貨品は在庫面もさることながら、売り場スペースの効率活用に主眼が置かれる。

■経営情報としての活用

要するにこのことは、RFIDで得られたデータをどのように活用するかの明確なポリシーと関わってくる。流通業におけるRFIDのメリットは、(1)サプライチェーンの効率化(2)リアルタイムな在庫管理(3)POSデータ入手(4)顧客サービスの向上、に大別される。
特にサプライチェーンでは、出荷/納品などの「タイムスタンプ」、「ロケーションスタンプ」「取扱者情報」「パレット番号」「トラック番号」あるいは「生産者情報」など、実は膨大なデータの取得が可能になる。もちろん取得データを何に使うかで不要なデータも出てくるが、当面は膨大なデータが蓄積されることになるため、データウエアハウスの増強のコスト負担も考慮する必要があるだろう.
基本的にRFID情報はリアルタイムであり、経営者のリアルタイムな意思決定に活用されて初めてRFIDがエンドトゥエンドで生きたことになる。それ以外にもこれまで紙とバーコードベースで行われていた在庫管理で、現場と在庫情報に乖離が出ると人海戦術で処理していた重労働から従業員を解放する。また、在庫が危険レベルに近づくと警報が鳴ったり、時間どおりに入荷されないと、あらかじめ知らせてくれるRFIDならではのビジネスロジックを取り込んでいく必要がある。

■RFIDとプライバシー

最後に、乗り越えなければならない壁が消費者の意識である。
欧米での調査によると3分の2以上の買い物客がRFIDによってプライバシーが侵害される懸念を抱いていることがわかった。しかし、同時にRFIDでショッピングが快適になり、サービスが高度化し、商品がもっと安く買えるようになることを望んでいることも判明しており、明暗相半ばする複雑な様相を呈している。
大半の買い物客は小売業者側がRFIDタグで小売店を出た後の行動経路を追跡されると思ったり、また購入時に商品の供給元に与えた個人情報によって、多くの広告メールに悩まされるのではないかと思っている。買い物客に安心感を与えるには、店を出るときにあらゆるRFIDが除去されるか、壊されるかする必要があるかもしれない。
2003年春に欧州のアパレルメーカー・ベネトン社は、RFID導入計画を見合わせることを決定したし、夏にはウォルマート社がジレット社と共同で、アイテムレベルでのRFIDタグによる商品管理の実験を行ったが、消費者の反対からアイテムレベルではなく、ボックス・レベルで貼り付け、当面サプライチェーンでのみ利用することを明らかにするなど、欧米では早くもRFIDの小売業界での利用を巡ってプライバシー問題が浮上している。
しかし、顧客が求める商品の在庫を切らさないことは、小売店を選定する上で最も重要な指標であるということもわかっており、最終的にはプライバシーの問題は時間をかけることによって正しい知識が広まり、大きな障害にはならないだろう。むしろ流通業界サイドににおける解決すべき問題が多く、期待とは裏腹に本格的なユビキタス化は現実問題としてあと10年近くかかるかもしれない。


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