| T-MobileとSprintの合併 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.182) |
2019年7月23日号
モバイル通信市場では3位のT-Mobileと4位のSprintの合併はその規模上、容易ではない。過去に2回、2013年と2017年に話があったが、まとまらなかった。三度目の正直で、2018年の交渉は進み、2社は合併に合意した。しかし、期限の7月29日が迫っているが、まだ認可を得られていない。FCCも、司法省も否定的であり、譲歩無しでは承諾は得られない。さらに、ニューヨーク、カリフォルニア、ワシントンD.C.等13の州も合併に反対をし、提訴している。
懸念は合併により競争が減り、通信料金が高くなることである。FCCはSprintの子会社でプリペイドのサービスを販売しているBoost Mobileを手放すことを条件の1つにしている。Sprintには880万人のプリペイド・プランへの加入者がおり、その殆どはBoost Mobile経由である。Boost Mobileの売却に加え、いくつかの無線帯域も手放す必要がある。
買い手として、衛星放送事業者のDish Networkが出ている。同社は2011年から周波数帯域を買い占めているが、まだネットワークは構築していない。Boostの買収で得られるMVNO契約を使い、ネットワークを作る間に事業に参入する事が出来る。Dishは帯域は買ったものの、サービスを開始していないことで、FCCに睨まれているが、Boost買収はこの問題の解決にも効果がある。
DishはT-Mobileに対して、Boostと無線帯域を含め$60億を提示しており、これは推定額をかなり上回る物である。Dishにも、T-Mobileにもメリットがあるが、T-Mobileは躊躇している様である。それは、本当に強力な第4の勢力が出来てしまう可能性があるからだ。Dishは帯域を買っているがモバイル通信の経験は無い。衛星放送の加入者を失っており、新たな事業を始める資本金の問題もある。しかし、別の会社がDishを買収し、積極的にモバイル事業に乗り出す可能性がある。
T-Mobileがもっとも恐れているのは、ComcastがDishを買収することである。Comcast等のケーブルTV事業者はビデオサービスの加入者を失っているが、ブロードバンド加入者が増える。ブロードバンド市場におけるケーブルTV事業者のシェアは65%であり、増加している。しかし、通信事業者は5Gを使った固定ブロードバンドで、シェアを奪い戻そうとしている。競争に備え、ケーブルTV事業者もモバイル通信への参入を始めており、ComcastもすでにMVNOでサービスを提供している。
DishにT-MobileとSprintの資産を買わせ、ComcastがDishを買収すると、多チャンネルサービス、ブロードバンド、コンテンツ(NBCUniversal)、そしてモバイル通信も提供する巨大な競合が出来てしまう。T-MobileもLayer3 TVの買収で多チャンネルサービスに参加し始めているが、コンテンツ資産は無いSprintと合併が出来ても、それによりComcastをモバイル通信市場に参入させることになれば、マイナス面のほうが強いであろう。
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