| SinclairのTribune買収 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.170) |
2018年7月18日号
AT&TによるWarnerMediaの買収、そしてComcast、あるいはDisneyによるFox、それにSkyの買収が注目を浴びているが、もう1つ、重要な買収がペンディング中である。放送局会社のSinclairは昨年の5月に同業者のTribuneを買収する事を発表したが、結論が出ないまま1年以上が過ぎている。
この買収金額は$39億で、AT&T/WarnerMediaの$854億の5%でしかないが、インパクトは大きい。合併後のSinclairの世帯リーチ率は66%を超える。Sinclairはすでに全米で173のテレビ局を持つ放送会社の大手で、合併後は216局を持つことになる。Sinclairは次世代放送規格のATSC 3.0に積極的であり、この買収に加え、アライアンスにより全米をカバーし、広範囲でATSC 3.0を開始する予定である。Sinclair多チャンネル向けネットワークのTennis Channel、そしてTribuneはWGN America、それにFood Channelの30%を持っており、コンテンツ業界へのインパクトもある。
各地域には複数の放送局が存在するので、独占にならないとは言え、1社がこれほどのリーチ率を持つ事への反対も多い。本来であれば、この合併は規制違反である。FCCの規制では1つの会社の持つ放送局がカバーする地域の世帯合計が39%以上を超えることは出来ない。Sinclairのリーチ率はこれを大きく上回ることになる。
この規制には例外条項がある。それはUHF局はその地域の世帯数を半分に計算出来るというもので、アナログ放送時代の遺物である。前FCC委員長はウィーラー氏はこの条項を無効にしたが、パイ委員長は就任直後にこれを撤回した。UHF局地域の世帯数を半分割り引け、39%に収め得る事が出来るおかげで、SinclairのTribuneの買収が可能になった。
世帯リーチ率上は合法であっても、同地域で複数局を持つなど、メディア集中規制に触れる事に加え、反対意見も多く、FCCの決定は保留になっている。Sinclairは多チャンネル事業者との再送信契約の際に、強気の交渉をする事で知られており、多チャンネルサービス事業者はSinclairの勢力が拡大するのを危惧している。
これに対して、Sinclairは買収後に23局を手放す事を提案している。この23局の内、7局はFoxが買う予定である。この売買により、Foxがトップ20地域の内、19地域で放送局を持ち、そのリーチ率も50%に近づくことになる。しかし、それ以上の問題は、Sinclairはいくつかの局に対しては売約後も運営し続ける契約をしている事である。名目上のオーナーが変わるだけであり、運営は同じで、この買収には協力的と思われていたパイ委員長もこの契約は違法である可能性を指摘している。
Sinclairはさらなる譲歩をすることになるであろうが、放送局の力は弱まっており、業界の統合は避けられない。6月には67局を持つGray Televisionは46局を持つRaycomを買収する事を発表している。放送局の生存は厳しくなっており、地上波放送局のM&Aは増えるであろう。特に、ATSC 3.0への移行を進める上では、地域拡大が必要になってくる。買収額は小さいが、放送業界のトレンドとしては重要である。
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