| T-MobileとSprint合併とその放送業界への影響 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.168) |
2018年5月21日号
T-Mobileは$265億でSprintを買収する予定である。これにより加入者数1.2億人のモバイルキャリアが誕生する。Verizonの1.5億人、AT&Tの1.4億人に匹敵する規模である。この合併は5Gを見据えたものであり、VerizonとAT&Tには非常に大きな影響を与えるが、そのインパクトは放送業界にも及ぶ。
5GはケーブルTV事業者のブロードバンド市場での地位を脅かすものにもなる。ブロードバンド市場ではケーブルTV事業者が今は勝者である。ケーブルTV事業者と通信事業者のブロードバンドにおけるシェアは2010年では55%対45%であったのが、現在では65%対35%になっている。通信事業者はFTTHの普及は諦めており、ケーブルTV事業者との差は広がっている。
しかし、通信事業者がブロードバンド市場を捨てた訳ではなく、固定5Gでカムバックを狙っている。Verizon、AT&T共に2018年末には固定5Gのサービスを開始する予定である。固定5Gで1 Gbpsの速度のサービスを提供できれば、ケーブルTV事業者への大きな競合になる。T-Mobileは5Gに積極的であるが、持っている周波数帯域は600 MHzと言う事で、予定しているサービスは450 Mbpsの移動体である。しかし、Sprintの買収で2.5 GHzの周波数帯域を得ることで、固定5Gにも参入し、ブロードバンド市場でケーブルTV事業者に競合する可能性が出る。
より確実な事は、多チャンネルサービス市場での競合である。T-Mobileはブロードバンド回線でケーブルTVサービスを提供しているLayer3 TVを昨年末に買収しており、多チャンネルサービスを開始する。どの様なサービスをT-Mobileが計画しているかは不明だが、AT&TのDirecTV Nowの様なOTTベースの多チャンネルサービスであり、モバイル性を強調する事は確実であろう。
AT&TはDirecTV Nowに加え、AT&T Watchと言う、DirecTV Nowよりチャンネル数は少ないがAT&Tのモバイルサービス加入者には無料の多チャンネルサービスを計画している。Verizonも5Gの開始に合わせ、多チャンネルサービスを準備している様である。そうなると、AT&T、Verizon、T-Mobileの3社が年内にモバイル対応の多チャンネルサービスを開始する事になる。自前のモバイル網を持っていないケーブルTV事業者にはこれは大きな問題になる。
モバイルキャリアが多チャンネルサービスで争う事は地上波放送局にも影響を与える。地上波放送局はカムバックとして、次世代放送規格のATSC 3.0に賭けている。ATSC 3.0の売りの1つは移動中でも高品質の映像を受信が可能な事だ。しかし、5Gでの多チャンネルサービスはATSC 3.0と競合する。モバイルサービスが三つ巴の争いになる事で、5Gでの多チャネルサービスが進むとATSC 3.0の出番が無くなる可能性もある。
さらに放送業界に対するインパクトはコンテンツ会社の買収である。T-MobileがSprintの買収に成功すれば、次はコンテンツを求めるであろう。ComcastはNBCUniversalを持ち、AT&TはTime Warnerを得ようとしている。VerizonはAOLとYahooを買収したが、それでは不十分で映像コンテンツの会社を狙っている。このコンテンツ事業者買収競争にT-Mobileが加わると、状況はさらに混沌とする。
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