| MCNはどうなったのか (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.165) |
2018年2月22日号
数年前、MCN(Multi-channel Network)が大きな話題であった。MCNはYouTube上の「TVネットワーク」であり、基本的なコンセプトは複数のYouTuberを1つのチャンネルとしてまとめる事で視聴者を増やし、広告収入を増やし、さらに複数のチャンネルを運営し、ネットワーク化する事で、効率を上げる事である。
2013年に映画会社のDreamWorksがプレティーン向けのMCNをAwesomenessTVを$1.2億で買収する事でMCNが注目される。その翌年にはDisneyが$6億でMaker Studioを買収する。その後、Otter Media(AT&TとChernin GroupのJV)のFullscreen買収(約$3億)、Bertelsmann/RTLのStyleHaul買収($2億)、Warner BrothersのMachinima買収($1億)等で大きな話題となる。 2016年にVerizonがAwesomenessTVの$24.5%を$1.59億で取得し、AwesomenessTVの価値は$6.5億に膨らんだ。
しかし、その昨年にはFullscreenは18ヶ月前にスタートさせたSVODサービスを止め、VerizonはAwesomenessTVとのオリジナルコンテンツ制作契約を切る。DisneyはMaker StudioをDisney Digital Networkに吸収し、最近ではWarner BrothersがMachinimaのゲーマー市場以外への展開を中止した。何がMCNの問題であったのか。
MCNの基本は大規模化である。参加するYouTuberを増やし、ビデオを増やし、チャンネルを増やす事で、視聴を増やし、広告収入を増やすのが戦略である。だが、MCN乱立で、YouTubeのビデオの在庫が増え、増えすぎる事で、広告単価が減っていく。MCNはYouTube以外にもビデオを配信し、Twitter、Facebook、Snapchat等がビデオ配信で力を付ける事で、YouTubeの独占が無くなる。競合の登場でYouTube自体の広告料も下がり、MCNは負のスパイラルに陥る。
また、ビデオの数を増やすことで品質も落ちていく。特に、有名になったYouTuberがMCNから離れ、大手スタジオと契約する事で、スターが減る。MCNには多数のYouTuberが登録しているが、スターは数人である。彼らがMCNを卒業する事で、コンテンツの質が低下していくのと同時期に、Netflix等が大きな予算でオリジナルコンテンツを作り始めることが、MCNへの最後の一撃になる。
AwesomenessTV等のMCNは、買収を機にMCNから制作会社に転向し、成功をしている。彼らはすでにMCNと言う言葉を使わないだけでなく、自分達がMCNであったことも否定しており、MCNのバブルが弾けただけでなく、MCNと言う言葉自体もほぼ死語になっている。
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