熾烈化するAmazonとWalMartの戦い　(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.157)

　大規模小売店チェーンはEコマースに押され、危機に面している。その中で、唯一元気なのがWalMartである。WalMartの顧客層である低所得層ではブロードバンドの普及は低く、Eコマースの影響は受けにくい。しかし、WalMartが成功をしているのはそれだけで無くAmazonを意識し、Eコマースへの対応も積極的に行ってきたこともある。

　WalMartはDVD販売では最大であった。しかしAmazonが急速に追い上げ、さらに2006年にTVODを始め、WalMartを追い抜いた。これに対して、WalMartはオンラインでのDVD販売に力を入れるだけでなく、2010年にはTVOD事業者のVuduを買収した。その後もAmazonがオンライン靴屋のZapposを買えば、WalMartはShoebuyを買い、Amazonに対抗し続けてきた。その結果、WalMartは店舗販売で成功しているだけでなく、Eコマースも成功させている。WalMartはEコマースと店舗の売上を分けて発表していないが、推定ではEコマースではAmazonに続く2位の会社になっている。

　Walmartは昨年にAmazonの最大のライバルになる可能性があると言われるJet.comを$33億で買収した。Jet.comのサイトがスタートしたのは2015年であり、$33億は多額である。$33億の内、$3億はJet.com創立者のMarc Loreに対する支払いであり、彼をWalMartのEコマース事業のトップに任命した。Jet.comを買収しただけでなく、Marc Loreをヘッドハントした訳である。

　Marc Loreは2005年に紙おむつを売るDiapers.comをスタートさせ、2010年にそれをAmazonに売っている。その資金でスタートさせたJet.comの狙いは小売のCostco、あるいはAmazon Primeの様なメンバー制のシステムだが、Amazon Primeが送料無料を売り物にしているのに対して、Jet.comは安値を特徴にしている。Jet.comの安値は製品の価格ではなく、送料の効率化から出している。

　Amazonと異なり、Jet.comの値段は一定ではない。配達先が製品在庫のある配送センターに近ければ、値段は低い。さらに、製品をカートに入れると、同じ配送センターにある他の製品の値段が下がる仕組みになっている。製品の値段はAmazonより安くはないが、同じ製品を複数買う、あるいは同じ配送センターにある他の製品も一緒に買えば安くなる。大量買いでトータルコストを安くするCostco、それにWalMartのSam’s Clubと同じ考えだ。

　Marc LoreはWalMartの全体の見直しも任されており、すでに人事部をアウトソースし、本社で数百人のレイオフをする事を発表している。どの小売事業者もEコマースを始めているが、売り方を買えただけで成功する訳では無い。Amazonが成功したのは、他のインターネットベースのビジネスと同様に柔軟性があり、素早く動いているからである。WalmartはJet.comの買収でそのEコマースを強化するだけでなく、Marc Loreを使い企業自体もAmazonに対抗出来る様に変身させる事を狙っている。

　AmazonもWalMartの動きを気にしており、今月に対抗策を打ち出した。AmazonはWalMartの重要な顧客層である低所得層を引き付ける為に政府からの援助を得ている世帯に対して、Amazon Prime月額料金を$11から$6に引き下げた。Amazonはすでに政府が低所得層向けに支給している食品補助施策のFood Stampを受付始めてる。さらに、Amazon Primeの低所得層向けの割引で、利用のコストを引き下げる事で、WalMartの基礎を脅かそうとしている。