| AT&TはNetflixの脅威になるか (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.149) |
2016年10月27日号
AT&Tは$854億でTime Warnerを買収しようとしている。買収にはFCCと司法省の許可が必要であり、結果が出るには1年はかかるが、この買収は放送とコンテンツ市場に大きな影響を与える。AT&Tは昨年に衛星放送事業者のDirecTVを買収している事から、今回の買収は2011年のComcastによるNBC Universal買収と同様に多チャンネルサービス事業者によるコンテンツ事業への参入に見えるが、それ以上の要素がある。
Time WarnerはTurner Television、HBO、CNN等多くの多チャンネルサービス向けネットワークを持つ。NBCUniversal、Disney等との大きな違いはTime Warnerには地上波ネットワークが無いことである。Time WarnerはThe CWの50%(残り50%はCBS)を持っているが、The CWはメージャーではない。自社で局を持つ事が可能な地上波と異なり、多チャンネルネットワークの放送には多チャンネルサービス事業者との契約が不可欠である。Time Warnerは彼らとの関係を重視してきた。
ABC、NBC、FoxがHuluでOTTサービスに乗り出す中、Time Warnerは多チャンネルサービス事業者との競合になるOTTサービスは行わない事を約束し、TV Everywhere(TVE)を提案した。TVEはインターネットでの番組配信であるが、視聴出来るのは多チャンネルサービス加入者だけである。TVEは多チャンネルサービスの一部であり、競合する物ではない。Time Warnerの有料チャンネルのHBOが2010年2月に最初のTVEサービスとなるHBO Goを開始した。
HBO Goの開始から6年以上たったが、TVEの利用は多チャンネルサービス加入者の20%程度にしか達していない。その間、多チャンネルサービスの加入世帯は100万以上減り、Netflixの加入者数は1362万人(2011年3月)から4648万人(2016年9月)へと3.5倍の成長をしている。昨年、HBOはSVODサービスのHBO Nowを開始した。多チャンネルサービス事業者との約束を破る事になるが、Time WarnerはTVEは失敗であった事を認めている。Tuner部門も11月から名画専門のSVODのFilmStruckを開始し、CNNを含めた他のTurnerチャンネルのOTT化も予定されており、Time WarnerはOTTへ進む決定をしている。
AT&Tも11月には衛星多チャンネルサービスのDirecTVをOTT化するDirecTV Nowを開始する予定である。DirecTV Nowは4Kを含むハイエンド志向のDirecTVをリプレースするものではなく、多チャンネルサービスには加入していない若い層を対象にする。月額は$35と低い設定であり、AT&Tのモバイルネットワークからのアクセスの場合、データ利用は課金されない等、アグレッシブな計画である。AT&TのTime Warnerの買収目的は多チャンネルサービスのDirecTV、あるいはDirecTV Nowの為ではなく、OTT特にSVODサービスの強化である。それはTime Warnerの方針とも合致している。
Time Warnerの大きな魅力はHBO部門である。HBOのアメリカ国内の加入者数は4600万世帯(姉妹ネットワークのCinemax含む)でNetflixに匹敵する。世界合計ではHBOとCinemaxの加入者数は1.4億以上であり、Netflixの倍近い加入者数があり、Netflixの最大の競合である。これをベースにWarner Brothersの映画、Turner系のテレビ番組、Time社系のコンテンツ、それにDirecTVの多チャンネルサービス(衛星とOTT)と、AT&Tのモバイル網の合計はNetflixの大きな脅威となる可能性を持っている。
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