| OTTにより到来する乱世の時代 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.130) |
2015年3月25日号
Netflixにより始まったOTTビデオの普及により、アメリカ放送業界は乱世の時代に突入している。放送業界には3つの大きなステークホルダー、コンテンツ事業者、放送事業者、それにTVセットメーカーが存在するが、秩序のある市場であった。それは、3者ともお互いに頼らずには事業を行う事が出来ないからであった。しかし、OTTはこれを崩した。スマートTVにより、TVメーカーは放送事業者に頼る事無く、コンテンツを配信出来る様になった。コンテンツ事業者も、Netflix等、既存の放送網以外で配信が可能になっている。放送事業者も、OTTを使う事で、これまでのインフラ外、あるいは地域外でのサービスの提供が可能になっている。
地上波ネットワークのCBSは、昨年末にSVOD(定額見放題)のCBS All Accessを開始した。他の地上波ネットワークのABC、NBC、Foxはストリーミング視聴も、多チャネルサービス加入者に限定するTV Everywhereを使う事で秩序を守ろうとしたが、CBSはこれを破った。月額$6を払えば、多チャネルサービスに加入していなくてもCBSの番組のキャッチアップ、それに過去のシーズンのオンデマンド視聴が出来る。CBSが放送局を持つ地域では地上波放送のサイマルキャストもしている。
CBSに続き、HBO、Showtime、Discovery、Nickelodeon等が続々とSVODのサービスを発表している。NBCもコメディー、ホラー等のジャンル分けしたSVODサービスを計画している。コンテンツ事業者は放送事業者をバイパスし、OTTにより直接視聴者にコンテンツを提供し始めている。
放送事業者がこれを黙ってみている訳ではない。衛星事業者のDISH NetworkはOTTベースの多チャネルサービス、Sling TVを1月から始めている。チャンネル数は通常の多チャネルサービスより少ないが、基本パッケージが月額$20で、オプションのパッケージはそれぞれ$5と、既存の多チャネルサービスよりかなり安い。また、STB等の導入も不要で、タブレット、あるいはスマートフォンがあればすぐに見始める事が出来る便利さもある。
DISHに続き、SonyもPlayStation Vueと呼ばれるOTTの多チャネルサービスをスタートさせた。基本パッケージでのチャンネル数はSling TVより多く、より既存の多チャネルサービスに近いチャンネルのラインナップになっているが、月額も$50と多チャネルとそれほど変わりない値段になっている。
秋にはいよいよAppleもOTTのTVサービスを開始すると噂されている。現在、Disney、Time Warner、CBS、Viacom、Fox等の主要コンテンツ事業者と交渉中である。Appleが交渉をしているコンテンツ事業者の中にはComcast/NBCUniversalは含まれていない。AppleとComcastはTVサービスを共同で行うことで契約したが、仲違いがあり、契約は破棄された。そのしこりがまだ残っている様だが、もう1つ、NBCUniversalがAppleに協力しない理由は、Comcastも独自でOTTサービスを予定している為だと言われている。Comcastはすでにバックエンドの配信はIP化し、独自のCDNネットワークを持ち、ラストマイルをケーブルからOTTに切り替える事は難しくない。Apple、そして米国最大のケーブルTV事業者のComcastもOTTに参入すれば、乱世はいよいよと本格的となる。
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