| AT&TによるDirecTVの買収 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.120) |
2014年5月25日号
ComcastのTime Warner Cable(TWC)買収により、様々なリアクションが起きている。AT&TがDirecTVの買収に動いたのも、ComcastのTWC買収に対する反応である。ComcastのTWC買収は、ケーブルTV業界のトップ企業による、同じ業界の2位の買収であり、理解し易い。しかし、通信事業者のトップ企業による衛星放送事業者のトップ企業の買収の意図は、より複雑である。
ComcastのTWC買収によりそのケーブルTVへの加入者数は約3300万になるが、400万世帯を手放すことを約束しており、最終的な加入者数は2900万になる。多チャンネルサービスでは、DirecTVが2位で2025万世帯であり、約900万世帯の差を付けることになる。AT&Tの加入者数は546万世帯であり、DirecTV買収後は2571万世帯で、Comcastを追い抜く事は出来ないが、差を300万世帯に縮める事が出来る。
AT&TはDirecTVの買収に$485億ドルを払い、さらにDirecTVの$186億の負債を引き継ぐので、総額は$671億ドルになる。AT&Tは多チャンネルサービスでは2位になるが、提供するサービスは衛星TVとIPTVになり、1つの技術ではない。多チャンネルサービスで2位になる為だけであれば、$671億ドルは大きすぎる投資である。
AT&TがComcastのTWC買収で最も警戒しているのは、その多チャンネルサービスでの加入数ではなく、ブロードバンドでの加入者数である。TWCの買収後、Comcastのブロードバンド加入世帯数は約2800万世帯になり、同業界では第2位のAT&T(1651万世帯)を大きくと引き離す事になる。また、合併後のComcastは人口数でトップ30位の都市の内、26地域を持つ事になる。全米大都市の殆どでブロードバンドを提供する力は膨大であり、固定回線では営業地域が限定されているAT&Tには太刀打ちが出来なくなる。
ブロードバンドを持たないDirecTVを買収する理由は、衛星の方が放送に関しては、IPより効率が良いためである。多チャンネルサービスを衛星とIPのハイブリッドにし、リニア放送は衛星、VODはIPにする事で、ブロードバンドに余裕を持たせ、大きな設備投資を無しでブロードバンドの速度を上げる事が出来る。
AT&Tはその固定回線が無い地域でのブロードバンドサービスに固定LTEを予定しているが、多チャンネルサービスをいかに提供するかが問題になる。IPベースで多チャンネルサービスを提供する場合、HDで4チャンネル分の帯域が必要になる(2台のTVと2つの録画)。多チャンネルサービス無しブロードバンドだけを提供したのでは、ダブルプレーが当たり前のケーブルTV事業者と競合する事は難しい。全米規模で固定LTEにより多チャンネルサービスを提供する為に必要な資金と比べれば、DirecTVは高い買い物では無くなる。
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