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DRI テレコムウォッチャー


  “un-carrier initiative(新料金制度)”の成功で業績を伸ばす新生T-Mobile
2013年12月15日号

 米国第3位のモーバイル通信業者、T-Mobileが、2013年第2四半期、第3四半期の両四半期に、大きく業績を伸ばした。
 DT(ドイツテレコム)の100%子会社であったT-Mobile(旧称 T-MobileUSA)は、2013年第3四半期までは、毎期加入者を大きく失うとともに巨額の赤字を出していた。理由は、4Gネットワークの全国架設に立ち遅れ、提供するサービスの品質があまりにもトップ携帯事業者、Verizon、AT&Tに立ち遅れてしまったからである。2011年12月、頼りにしていたAT&Tへの身売りが、司法省、FCCによる反対により拒否されたことも、T-MobileUSAからの加入者流出を加速させることとなった。
 T-Mobileは、その後ニッチ市場を狙い、ほどほどの業績を収めている米国の中規模携帯電話事業者、MetroPCSを統合し、業績立て直しを図ることとなる。2012年9月、新生T-Mobileのかじ取りを委ねられた同社の会長兼CEO、John Legere氏は、2013年3月、新たな料金政策、“un-carrier initiative”を華やかに打ち出し、この政策に従ったモーバイル国内料金、モーバイル国際料金、タブレット料金等を次々と実施に移すことにより、加入者増、業績拡大に成功している。また、AT&Tから提供されたT-Mobile買収不成功に伴うペナルティー(30億ドルの現金及び、128営業エリアをカバーする周波数の供与)により、同社は、待望の4Gネットワークを2,100万の人口エリアにまで拡大することができ、ようやく、全国に高速インターネット・モーバイルサービスを提供できるナショナル・キャリアーとしての存在感も強めた。このことも、同社の競争力を強めている。
 “un-carrier initiative”の語義の解釈は難しいが、ネット紙に紹介されたLegere氏の説明からすると、特定の携帯事業者が提示する料金政策ではなく、いずれの携帯キャリアも採用すべき料金原則だとの意味が、この語に込められている。Legere氏は、AT&T、Verizonの料金制度は、端末(携帯電話、スマホ、タブレット等)の料金、月々のサービス使用料の設定に当たり、内部補助を行っている。また、顧客をつなぎとめるため、契約期間の縛りを掛け、多額の解約料を科するなどの方策を取り、料金を複雑なものにしていると批判しているのである(注1)。
 “un-carrier initiative”の原則は、端末の料金とサービス料金を明確に分離し、内部相互補助の無い形で提示し顧客に分かりやすいものにすること、ならびに、契約期間の縛りをペナルティーなしで、外すことの2点が基本である。料金支払額の総額においてすべての場合にVerizon、AT&Tの場合より低廉になるとはいえないものの、通常のデータ量を利用する単独加入者は利用しやすい料金であるとの分析が見られる(注2)。
 Legere氏は、新料金を売り込むに当たって、みずから、“T-Mobile"をブチ抜きにしたTシャツ、ジーンズ、長髪姿で、TVコマーシャルに登場、センセーションを巻き起こした。インテリ(MITで修士号取得)であり、幾つもの電気通信企業の役員を歴任(たとえばGlobal CrossingのCEO)した一流の経営者が、芸人(というより、今では死語となったチンドン屋)に身をやつしての捨身の宣伝活動を行うなどという芸当はなかなかできるものではない。当初、T-Mobileの活動を冷やかな眼で見ていたVerizon、AT&Tの経営陣も、その後、T-Mobileの業績が向上するにつれて、同社攻勢への防御策を真剣に検討せざるを得なくなっているといわれる。
 T-Mobileの快進撃が今後、持続するかいなかは、さらに今後の推移を見る必要があるが、今のところ、米国観測筋からの評価は高い。高名のアナリスト、Craig Moffett氏も、T-Mobileは、2014年次には、240万程度のTブランド加入者数を増やし、株価も36ドル程度にまで上がると予測している。
 以下、本文では、T-Mobileの業績、加入者獲得状況、これまで実施に移された“un-carrier initiative”に基づく施策の概要について述べる。
 なお、米国第3位のモーバイル事業者、Sprintもわが国ソフトバンクの資本傘下に入り、T-Mobileと同様に4Gネットワークを拡充し、市場シェアの拡大に向け邁進している。ただし、2013 3Qには、未だ回復に向けての転機がつかめず、加入者の流出が続いている。Sprintの業績については、2013 4Q決算の資料について、2014年早期に報告することとしたい。


T-Mobileの最近3期の決算による収支、加入者獲得状況(注3)

表1 2013 3Q、2Q、1QにおけるT-Mobileの収支状況(単位:100万ドル)

項目

2013 3Q

2013 2Q

2013 1Q

収入

6,681

6,228

4,893

営業利益

297

181

-7,593

純利益

-36

-16

-7,735


 表1に示すとおり、T-Mobileの収支改善は、2013 2Qから顕著な数値になって現れた。
 収入増と営業利益増の大半は、T-Mobileが1000万弱の加入者数を有し、しかも、小規模ながら利益を生み出していたプリペイド加入者を主体としたモーバイル企業、MetroPCSを吸収したこと、さらに、同社がAT&Tから、同社合併について規制機関の承認が得られなった場合のペナルティーを注ぎこんだことにより、おおよそ、予想された数字ではあった(注4)。しかし、2013 3Qの2013 2Qに対する業績向上分は、新料金政策によるものと見なして差支えないだろう。


表2 2013 3Q、2Q、1QにおけるT-Mobile加入者数(単位:1000)

項目

2013 3Q

2013 2Q

2013 1Q

ポストペイド加入者数

621,430

20,783

20.094

ポストペイド加入者増加数

+647

+689

-194

プリペイド加入者数

14,960

14,935

6,028

小売加入者数計

36,390

-16

26,122

卸加入者数

8,649

8,297

7,846

加入者総計

45,039

44,016

33,968

加入者総増加数計

1,023

1,004

57,9


 表2に示す通り、2013 2Q、2013 3Qには、T-Mobileの加入者数は飛躍的に拡大した。
 同社の加入者総数は、1000万を超える加入者数を持つMetroPCSの吸収により、2Q 2013大きく加入者数を伸ばし、2003 3Qには、新たな料金制度“un-carrier initiative”の導入成功により、さらに増大した。


表3 2013 3Q末におけるT-Mobile、Verizon、AT&Tモーバイル電話加入者の増加数比較(単位:万)

項目

T-Mobile

Verizon

AT&T

ポストペイド加入者増数

64.7

92.7

36.1

プリペイド等加入者増数

37.6

13.4

62.6

102.3

106.1

98,9

モーバイル加入者総数(参考)

4539

101150

10867.3


 表3では、2013 3Q期について、モーバイル事業者3社の加入者増数の比較を示す。
 ポストペイド、プリペイドの総数でみると、3社の数値は拮抗しているように見えるが、項目に含まれている加入者の定義がそれぞれことなるので、この点を吟味してみる必要がある。
 数字上、Verizonは、最大の加入者数増を達成している。しかし、この数字には、相当多数(数字についてVerizonの発表なし)のネット接続端末(タブレット、eブック等)が含まれているのであって、これを除外すると、T-Mobileの純粋のモーバイル電話加入者数の増は多かったはずである。
 AT&Tも、計においては、T-Mobile、Verizon2社に匹敵する加入者増を成し遂げているが、この数字のうち92.7万がネット接続端末であるという。してみると、98.9万の加入者増の内訳は、モーバイル電話加入者:6.2万、ネット端末加入者:92.7万であって、同社の加入者増は、ネット端末加入者数の増により、からくも支えられているのである。
 加入者数が、Verizon、AT&Tの約2.5分の1にしか過ぎないT-Mobileの大幅な加入者数獲得は、2大寡占的モーバイル事業者2社に対する思いがけない痛打であるといってよい。


“un-carrier initiative”に基づくT-Mobileの料金政策

 T-Mobileは、2013年3月、MetroPCS吸収の日時が迫りつつある時期に、“un-carrier initiative”を打ち出し、同年4月、第1段として、Simple Choice Dataを実施した。さらに、7月から11月に掛けても、このサービス国際通信にも拡大するSimple Choice Global Data、顧客が同社との契約期間中に新機種に移ることを容易にするJump!、さらには電話機だけでなくタブレットにも、同様の料金制度を押し広めるUN-leashed tabletなどを導入した。
 以下に、これら料金制度の概要を示す。

   

(1)

Simple Choice Data (2013年4月サービス開始)

このサービスの特色は、年間契約機器の買い取りを要せず、月額料金(伝送速度に応じ幾種ものオプションがある)と機器の割賦契約による月々の月賦支払額により、サービス提供が受けられることである。
 あるネット資料によると、複数の機器を家族の複数メンバーで利用する場合などには、必ずしもT-Mobileの料金が有利であるとは言えないが、個人が特定の速度のデータを利用する場合、他の3携帯電話事業者に比し、明らかに料金が安く上がると解説している(たとえば、2.5GBのデータサービスを利用する場合。機器料金を含め、Verizon:100ドル、AT&T:110ドルであるのに対し、T-MobileのSimple Choiceは80ドル)。

(2)

Jump!(2013年7月サービス開始)

将来、機種を変更する必要性があると考える加入者に向けてのサービスである。
 ● 加入者は、最初6カ月間、10$の料金を支払うことにより、年2回、無料で機種を変更することができる。
 ● ただし、Jump!を利用する加入者は、最初の機器の購入の場合も、2台目、3台目の機器の購入の場合も、T-Mobileが提供する割賦販売(EIP)を利用しなければならない。

(3)

Simple Choice Global Data(2013年10月サービス開始

国内サービスであるSimple Choice Serviceを国外諸国(100国超)に拡大したものである。

(4)

タブレットの販売開始(2013 年11月)

 ● タブレットは頭金不要、24ケ月の割賦で対抗する。
 ● 月々、200MBのデータ料金は無料。
 ● スマホの場合同様、タブレットにSimple Global Data料金が適用される。



(注1)2013.11.25付け、http://wwwfinance.yahoo.com、"T-Mobile’s Blunt-Talking CEO Shakes Up the Mobile Industry."
(注2)2013.8.13付け、http://www.Talkandroid.com、"What you need to Know about the T-Mobile Simple Choice Plan."
(注3)この項の表の作成、分析は、あらまし次のT-Mobile決算資料によった。"T-Mobile 3Q 2013 Investor Quarterly, Changing the game."
(注4)DRIテレコムウォッチャー、2013年4月15日号、「T-MobileによるMetro PCSの取得、実現間近」



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