満を持してFCC入りを果たしたTom Wheeler新委員長:予想されるFCC運営の抜本改革
2013年11月15日号
Tom Wheeler氏は、2013年11月1日、第51代FCC委員長に就任した(注1)。
オバマ大統領が、同氏をFCC委員長に任命した5月1日から、ちょうど、6か月後のことである。
6月1日号のテレコムウオッチャーで同氏のプロフィールは、詳しく紹介したので、ここでこれ以上触れる必要もないが、ともかく異色のFCC委員長の登場である(注1)。ベンチャーの経営者、ロビーストとしての長いキャリア、業界団体(NCTおよびCTIA)の長、FCCを含む多くの政府機関委員会での委員等多数の実務を歴任。しかも、歴史マニアであり、リンカーン大統領と電信の関係を論じた書物を出版している著述家の側面も持つ。
今回は、Tom Wheeler氏の下での新生FCCのラインアップ、FCC職員に対する訓示、氏が解決を要請されている課題の紹介をする。
予断なく本文をお読み頂いたら、お分かりになると思うが、Tom Wheeler氏は6か月の充分な準備期間の間に周到に準備したFCC改革をベンチャー精神により、果断に実行していく決意を固めている。
目標は、氏が定義するところの第4のネットワーク革命(インターネット革命)を競争ベースに、政治、経済、文化、教育の各方面に有益な効果を行う方向に誘導する政策を策定、実施することにある。
Tom Wheeler氏の改革に対する期待は、ますます高まっている。今後、新生FCCの活躍から、目が離せない。
新FCC委員、FCCスタフのラインアップ
表1 新体制の下でのFCC委員ラインナップ
FCC委員 | 就任時期 | 前歴 |
Tom Wheeler(民) | 2013年11月 | Core Capital社長 |
Mignon Clyburn(民) | 2009年8月 | サウスカロライナ州公益事業委員会委員長 |
Jessica Rosencell(民) | 2012年5月 | 上院商務・科学・運輸委員会上級顧問 |
Aji Pai(共) | 2012年5月 | さまざまの政府機関の法律顧問職 |
Michael O’Riely(共) | 2013年9月 | 上院Whip議員事務局の政策アドバイザー |
表1のとおり、これまで3名(欠員2名)のままで運営されていたFCC委員は、Tom Wheeler、Michael O’Riely両氏の任命により、5名のフルメンバーで活動することとなった。
新ラインナップの特色は、最古参で2期目の委員活動に入ったMignon Clyburn氏を除き、他の4名が2012年、2013年の就任とFCC歴が若いことである。もっとも、67才のTom Wheeler委員長は、”わたしは、35年間、FCCに出入りしており、幾度もFCC内部委員会のメンバーを勤めているから、FCCのことならすみからすみまで知っている”と自信満々である。
表2 新委員長が任命した12名のスタフメンバーのリスト(注2)
氏名 | 職名 |
Ruth Milkman(女性) | Chief of Staff |
● Philip Verbes(男性) | Senior Counselor to Chairman |
● Gigi B Sohn(女性) | Special Counsel for External Affairs |
● Diane Cornell(女性) | Special Counsel |
● Daniel Alvares(男性) | Legal Advisor to the Chairman |
Renee Gregory(女性) | Legal Advisor to the Chairman |
Maria Kirby(女性) | Legal Advisor to the Chairman |
● Deborah Ridley(女性) | Confidential Assistant to the Chairman |
● Sagar Deshi(男性) | Special Assistant to the Chairman |
John Sallet(男性) | Interim Diretor of the Technology Transitions policy TaskForce and Acting General Council |
John Wilkins(男性) | Acting Managing Director and Advisor to the Chairman |
Roger Sherman(男性) | Acting Chief of theWireless Telecommunications Bureau |
(●を付したスタフは外部から登用した人々、付されていないスタフはFCC内部からの登用である。)
表1から明らかなとおり、Tom Wheeler氏は、外部から6人の人材を引き入れスタフ職に投入した。電気通信に精通した前国務省の高官(Philip Verbes)、インマルサットの副社長(Diane Cornell)、法律事務所パートナー(John Sallet)など、多彩のキャリアを持った人々である。
特に注目を浴びたのは、小規模ながら非営利の消費者保護団体、Public KnowledgeのCEOとして活動し、知名度が高いGiGi Sohn氏をFCCの広報担当のスタフとしてスカウトしたことである。この人事一つを見ても、新委員長が、徹底的なFCC改革を行うつもりだということが判る。
Tom Wheeler氏、FCC職員に訓示 ― リスクを恐れるなと意識変革を迫る
FCCの新委員長、Tom Wheeler氏は、2013年11月5日、職員に向けて簡潔な訓示を述べた(注3)。前任者(委員長代行、Mignon Clyburn氏および、前委員長、Genachowski氏)への謝辞、FCC職員の優秀性への賛辞等の外交的辞令の部分を除き、以下、訓示の主要部分を紹介する。
今日、われわれは第4のネットワーク革命時代を生きている。グーテンベルグによる印刷の発明により、最初の情報革命の時代が始まった。初めて高速ネットワークを可能にしたのは、鉄道であった。電磁方式による即時の伝送を可能にし、その後の電話、放送への道を切り開いたのは電報である。これらの3つのネットワーク革命は、それぞれ、人類の未来の方途を切り開いてきた。
上記の3つの情報革命と現在の第4のインターネット革命との相違は、これまでの発展のスピードが速かったこと、今後予想されるスピードも速いことである。大統領から私がFCC委員長の指名を受けた2013年5月、私はネットワークの歴史の執筆に掛かっていた。この歴史が示すところによれば、ネットワーク革命の達成は決して容易ではない。
この革命は、大変動、秩序崩壊、恐怖、懸念を引き起こす。しかし同時に、新ネットワークは、宗教改革から産業革命に至るすべてのものの支柱となってきたのである。われわれは、革新と技術進歩 ― スピードが伴った技術進歩 ― が成し遂げられるようにするとともに、ネットワークとネットワークに接続する人々との間の誓約をも保持しなければならない。しかも、まさに大変動の真っただ中の時期において。
ネットワークの歴史が示すところによれば、既得権益を持つ者は、自己の地位を保持しながら情勢に適応しようとする。反乱を起こしたものは、然るべき権利を求めて闘う。庶民は、世界の変化に適応しようとする。こういったことが、大変動をもたらしたのである。ネットワークの変化により、感情の高揚、語調の高まり、警告の叫びが生み出される。これが、歴史の現実である。
私は、FCCが連邦政府のなかで、楽観主義の機関(Optimism Agency)であると信じる。
FCCを貫流しているのは、21世紀の方向を定める接続技術である。われわれの新ネットワークは、教育、エネルギー、保健等、多彩な分野にとって、欠くべからざるものである。21世紀の経済は、新ネットワークに始まる。
最初の著書で、私は、南北戦争当時のリーダシップについて書いたのだが、その本の第1章の表題は、“失敗を恐れるな(Dare to fail)”だった。これこそ、私の出自であるベンチャーキャピタルの哲学である。ベンチャーキャピタルのほとんどは、所期の成果を収めてはいないが、リスクを取らなければ、大きな報酬は得られない。われわれが業務を共にする諸企業は、いつも相当のリスクを取っている。このアプローチから、たじろぐことがないよう望みたい。
新ネットワークの力は、センターから諸々の業務を切り離し、これらを末端へ配分するところにある。効率の良い諸企業は、同じやり方で責任およびそれに伴う権限を下部に委譲する業務構造を取っている。私はFCCも業務配分を受けた組織体の1つだと考えるようにしたい。第3者がアイディア、代案を出すのを座して待つというやり方は、許されない。
最善のアイディア、決定といえども、うまく実行できるかいなかは判らない。私は、考え抜かれた決定を支持するつもりである。権限移譲が成功するための秘訣は、同僚が弱点を突かれるようなことがないように、なすべきことについての知識を共有することにある。私は、FCC委員、国会議員、FCCスタフ、その他利害関係者によるFCC運営についての提案には、十分、意を払う。Diane Cornell氏には、臨時ワーキンググループにより、これら提案を処理するよう命じてある。
彼女は、FCCスタフの考え方、知識のクラウド化の提案も行うだろう。クラウド化の範囲が大きいものとなるよう望んでいる。 |
早急に解決を迫られるFCCの課題
半年以上も前に、FCCを去った前委員長Genachowski氏をいまさら批判することもないが、同氏の優柔不断の意思決定も大いに禍いし、新委員長Tom Wheeler氏には、早急に解決すべき課題がある。その3点を次に紹介しておく(注4)。
オークションによる既存事業者所有の周波数利用
FCCはこれまで、オークション実施により、周波数を落札IPプロバイダーに提供し、年々増大するワイアレスブローバンドの需要増に対処してきた。
新規の周波数資源が希少なものとなっている折から、既存事業者の周波数を利用すべきであるとの意見が、ここ数年来高まり、この周波数オークション実施の具体的スケジュールをFCCが策定すべきだとの圧力が高まっていた。
しかし、周波数を有しながら、余裕があると目されている地方テレビ事業者にしてみても、有償であるとはいえプライドがあり、周波数譲渡については、譲渡する側の利用条件について、注文を付けたくなるというものである。また、これまで、特定のワイアレス事業者(主としてVerizon、AT&T)が資金力に物を言わせて比較的豊富な周波数帯を手に入れてきた経緯もあり、次回の特殊なオークションについては、特定事業者が入札により取得する周波数の上限を定めるべきだとの要望も強かった。
上記は、ほんの1例に過ぎないが、このオークションの手順作りは、FCCの業務としては、きわめて複雑かつ利害調整が必要であり、新委員長の力量が問われる案件だと見られている。
メディア企業相互の株式持ち合い問題
米国において、メディア会社相互間の株式持ち合いは、これまで、民主、共和両党の間で大きな政策論争が続いて、今日に至っている。この論争は、FCCの委員相互間の論争にも反映されている。
民主党は、メディア会社相互間でM&Aが進みすぎると、特に地方のテレビ局、新聞会社の数が減り、ローカルの利害を代弁する報道が少なくなるとの理由で、幾つかの条件を付け、M&A実施の完全自由化を阻止して、今日に至った。
ところが、前委員長Genachowski氏は、みずからが民主党員であるのにもかかわらず、きわめて大メディアよりのM&A条件を折り込んだ規則草案を独断で事務局に起草させ、これについての同意を他のFCC委員4名に認めさせようとした。FCC委員たちは全員、あるいは内容的に、あるいは草案起草の独断性を指摘し、結局、Genachowski氏は、自説を取り下げざるを得なくなった(注5)。
このように、メディアの株式持ち合いの解決は、任期の末期においてのGenachowski委員長の判断力の低さ、統率力の欠如を印象付けることとなったのであるが、そもそも、1996年通信法制定以来、代々のFCC委員長が悩まされてきた難問題である。
この件についても、新委員長の手腕が期待されている。
オープンネットワーク規則の問題
オープンネットワーク規則は、2000年代後半に“Net Neutrality”をどのように具体化するかが、数年間にわたり喧々諤々の議論が米国議会を中心に議論され、結局、関連法は1件も実らなかった。FCCは、この案件の名称をオープンネットワークと変更し、最終的にFCCオープンネットワーク規則制定の形で収拾を見たものである(注6)。
この問題の核心は、インターネットプロバイダーの提供するサービスに、どのような規制を掛けるかというものであった、制定されたFCC規則は、規制を全面的になくすべきだとするプロバイダー側の主張、固定通信並みの規制を掛けるべきだとするサービス提供を受ける側の業者の主張の妥協の正に、妥協の産物だったのである。
実のところ、インターネットプロバイダー側が一番恐れていたのは、インターネット料金に規制が掛けられることであるが、この規制は、事実上行われていない。Verizon、AT&T両社が、実質的な従量制料金を設定して、巨額の利益を得ているのは、FCCによる実質的な料金規制解除である。現在、Verizonは、このオープンネットワーク規制を不当として、裁判所に控訴中であるが、筆者は、この控訴は少し、Verizonのゴリ押し的行動であると思う。
当面の問題は、早晩、控訴裁判所がどのような判決を打ちだすに掛かっており、しかも判決は差し迫ったものではない。FCCのオープンネットワーク規則の効力の最終確定は、確かにFCCに取り、重要な問題ではあるにせよ、あたかも、FCC新委員長が、早急に着手すべき課題であるかのような論じ方は当を得ていないように思われる。
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