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DRI テレコムウォッチャー


  Verizonを急追するAT&T:2013 3Q決算から
2013年11月1日号

 AT&T、Verizonは、それぞれ、10月17日、23日に、2013 3Q決算を発表した。
 両社とも、モーバイル加入者が飽和しつつある状況からして、収入増は僅少に留まったものの、2012年夏ごろから導入しているスマホのデータ利用に導入した新たな料金設定(複数の端末を単一の料金請求書で処理できること、データ利用数に応じ、異なった料率を適用すること、つまり従量制)を利用する加入者数が増大したことにより営業利益は増大した。
 ここ数年来、Verizonは、よりワイアライン加入者数が多いAT&Tに比し、総収入は少ないものの、最新の4GのLTEネットワークの早期架設等、インフラ整備、サービス品質の優秀な点等ですぐれているワイアレス部門を有するため、業績では常に優位な地位にあった。この状況は、2013 3Qにおいても変わらない。
 しかし、2013 3Q決算を仔細に検討してみると、ここ1、2年の間に巨額の投資を行った結果、AT&Tは、通信インフラの規模、性能において、Verizonを急追している。AT&Tは、2012年11月、3年間で140億ドルを投入して、ワイアライン、ワイアレス両部門の設備の新鋭化を達成する大規模な投資プロジェクト“Project VIP(Project Velocity IP)”を策定した(注1)。この計画は、予定を上回るスピードで達成されている模様である。たとえば、LTE 4G網の米国人口3億人へのカバーと達成予定期日は、このプロジェクトでは2014年末であったが、2013年現在、2,5億人カバーにまで前倒しで進捗しており、2013年末には2,7億人カバーヘ、さらに、2014年夏には、目標達成が見込まれている。
 本文では、モーバイル加入者、ワイアライン部門の光ファイバーによるインターネット、ブロードバンドの分野におけるAT&T、Verizon両社の競争の状況を紹介する。


AT&T、モーバイル加入者増でVerizonと並ぶ(注2)

表1 2013 3QにおけるAT&T、Verizonのモーバイル加入者増数、加入者数(単位:万)

項目

AT&T

Verizon

ポストペイド加入者増数
プリペイド加入者増数
リセラー加入者増数
ネット接続機器加入者増数
 加入者増数計

36.3(+140,4%)
19.2(181.7%)
-28.5(*3 137)
71.9(+197.1%)
 98.9(+45.8%)

92.7(-39.6%)
13.4(-41.2%)
*1
*2
 106.1(-39.8%)

ポストペイド加入者数
プリペイド加入者数
リセラー加入者数
ネット接続機器加入者数
 加入者数計

7164.1(+2.7%)
727.6(-3,6%)
1384.5(-5.0%)
1591.1(+13.6%)
 10867.3(+2.6%)

9518.5(+5.3%)
596.5(+7.6%)
*4
*5
 10115.0 (+5.5%)

1、括弧の%の数値は、2013 3Qの数値に対する増減比を示す。
2、Verizonは、リセラー、ネット接続の加入者の区別を設けていない。*1、2、4、5が空欄であるのは、このためである。
3、3は、実績値である。
4、AT&Tは、2013 3Qにおけるモーバイル加入者数を公表しなかった。表1のAT&T加入者数の数値は、筆者が2013 3Q加入者増分に、2013 2Q加入者数を加えて計算した、推計値である。

 表1から、次の点が読み取れる。
 第1に、これまでモーバイル加入者数増において、Verizonに遅れを取っていたAT&Tが予想以上に加入者獲得数を伸ばし、ほぼ、Verizonに匹敵する加入者増を得たことである。その原因は定かではないが、AT&T自体も強調しているように、同社のLTEネットワークが、ようやく、人口2億5千万(2013年末目標は、3億)をカバーする段階にまで、敷設が完了したことによる点が大きいと見られる。最近のスマホは、LTE対応機種が主流となりつつあるが、同社は、ネットワークの4G化が進むに応じて、スマホ機器の販売にも、Verizonと互角で競争する力を備えてきた。
 第2に、モーバイル加入者層の構造変化が読み取れる。(1)加入者層の内訳を示しているAT&Tの数値によると、この期、もっとも加入者増が大きかった層は、ネット接続機器(タブレット、e-ブック等スマホ以外のコンピューティング機能を持つ単能あるいは複合端末)の加入者であって、絶対数において、携帯端末加入者の倍以上の増を示している(注2)。
 次に顕著なのは、リセラー数の減少である。リセラー加入者が売却するのは、主として、スマホ以外のいわゆる通常の携帯端末が主体であって、AT&Tが、増数においても総加入者数においても、減少傾向が続いているのは、顧客が一般の携帯電話→スマホに多く移動しつつある事実を反映している。
 資料がないため、推量するしかないが、多分、Verizonでも、同様の傾向が進行しているはずである。ただ、Verizonがポストペイド加入者の総数を9,500万加入と発表していることの意味は大きい。これには、ネット接続機器加入者を含むので、AT&Tと正確な比較はできないが、Verizonは、2年契約で年額、多額の料金を支払う良質の加入者数層をAT&Tより、相当に多数囲いこんでいることは確かであり、これが、加入者の絶対数ではAT&Tに劣るものの、ワイアレス部門の収入、利益において、依然AT&Tの追随を許さない力の源泉となっている。  


両社における低調なスマホの売れ行き ー iPhone5S、5Cは、どこに売れたか

 AT&T、Verizon両社は、しぶしぶながら、2013 3Qにおけるスマホ及びiPhoneの稼動数を発表している。その数値を2013 1Qに対比して、表2に示す。

表2 2013 3Q、2013 1QにおけるAT&T、Verizon両社のスマホ、iPhone稼動数(単位:万)

項目

AT&T

Verizon

期間

2013 3Q

2013 1Q

2013 3Q

2013 1Q

iPhone

390

400

発表なし

480

その他スマホ

370

320

発表なし

120

スマホ総数

760

720

670

600


 上表からすると、スマホ総数において、2013年の春から秋に掛けての期間、Verizonは稼動数を少し増やし、AT&Tが稼動数を少し減らしたという程度のことで、前々期と変動はほとんどない。

 ところで、2013年9月20日、Apple社は、同社のiPhone5の新バージョン2機種、iPhone5S、5Cを世界11市場(米国、オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、香港、日本、プエルトリコ、シンガポール、英国)において、同時発売した。
 9月23日、Apple社は、プレスレリースにおいて、新型2機種のiPhone売れ行きは、これまで経験したことがないほど好調であると発表した。Apple社のCEO、Tim Cook氏は、9月10日の週(9月10日は金曜なので、9月10、11の両日)で、900万のiPhoneを発売したと述べた(注3)。さらに、Appleは、最近の同社、2013 4Qの報告において、この期、同社は、iPhoneを前年同期の2,690万台を大きく上回る3,380台を販売したとしている(注4)。
 ここで不思議なのは、この好調なiPhoneの売れ行きが、表2に示すAT&T、Verizonのスマホ販売数に何ら反映されていなことである。この点について、両社は何らの説明もしていない。
 近いうちにSprint、T-Mobileの2013 3Q決算が発表されるので、これら3社の決算資料を通じて、この疑問が解明されるだろう。


AT&T、ワイアラインブロードバンドでVerizonに優越

表3 2013 3QにおけるAT&T、Verizonのワイアライン、ブロードバンド加入者数(単位:万)

項目

AT&T

Verizon

ブロードバンドInternet

FiOS Internet
590(17,3)

U-Verse Internet
970(65.5)

ブロードバンドTV

FiOS Video
520(13.5)

U-Verse Video
530(26.5)

発表なし

1,000

1、表3括弧内の数値は、2013 2Qに比しての加入者増数である。
2、AT&Tの計の数字1,000万が、U-Verse Internet加入者数とU-Verse Video加入者数の計に合致しないのは、両サービスを利用している加入者を1加入者とカウントしたためである。Verizonは、多分、この方式で計の算出を行えば、総数がたかだか600万台か700万台になることを嫌って、敢えて、計の数値を出さなかったものであろう。

 周知のとおり、VerizonとAT&Tの光ファイバー利用のブローバンドは、2006年から2007年に掛けて開始されたものである。Verizonは、本格的なFTTH(オール光ファイバー方式)、AT&Tは、投資を大きく節約できるがスピードが遅いFTTH方式で、すでに既存インフラの活用により、先行して多くの加入者を有するMSO(大手ケーブル事業者)に対する競争を挑んだ。
 表3は、サービス開始後、6、7年を経ての加入者数の面から見ての、一応の成果を示したデータであるともいえる。
 AT&TのU-Verseは、VerizonのFiOSに比し、インターネットでは倍近くの加入者数を有し、さらにブロードバンドTVでも、ついに加入者数でVerizonを抜いた。
 また、AT&T、VerizonのDSL回線は、それぞれ、730万、305万であって、いずれも光ファイバーブロードバンド数を下回り、しかも、毎期、減少を続けている。
 さらにAT&Tは、U-Verseによる収入が月額10億ドルを超え、住宅用加入者の収入の54%を占めるに至った発表し、この分野における同社の成功を誇示している。  


参考資料:2013 3QにおけるAT&T、Verizonの収入、利益

 表4に示したとおり、2013 3Q、AT&T、Verizonの両社は、ともに増収増益となった。 AT&Tは、この期、純利益を掲上していない。そのため、表では、AT&T、VerizonのEPS(1株当たり利益率)を表示した。
 Verizonの利益率が急増しているのは、VodafoneからVerizon Wireless株式45%を買収し、同社がこれまでVodafoneに支払っていた配当分を利益に回したためである。
 AT&Tも今期、地道に収入、利益の増を積み重ねており、Verizonとの差を値締めている。上記の自主経営移行に伴うVerizonの利得分を差し引けば、AT&T、Verizonの業績の格差は、さほど大きくないといえよう。  

表4 2013 3QにおけるAT&T、Verizonの収入、利益(単位:100万ドル)

項目

AT&T

Verizon

収入

32,200(+2.2%)

30,279(+4,4%)

営業利益

6,200(+3,3%)

7,128(+30,0%)

営業利益率

19.3%

23,5%

純利益、EPS

EPS:0.72ドル(0.53ドル)

EPS:0.78ドル(0.56ドル)
純利益:5,578(+30.0%)

1、AT&Tは、今回、億ドル単位の概数しか発表していないので、表2では、Verizonとの比較の便を図るため、数値はラウンドナンバーで表示した。以下の表2、3についても、同様である。
2、EPSの括弧内の数値は、2013 2Qの実績値である。

 表5に、AT&T、Verizon両社のワイアレス部門の収入利益を示す。Verizon、AT&Tともに増収、増益であり、この部門は、収益面では両社とも問題がない。  

表5 2013 3QにおけるAT&T、Verizonのワイアライン部門の収入、利益(単位:100万ドル)

項目

AT&T

Verizon

収入

14,700(-1.0%)

9,814(-1.0%)

営業利益

1,500(-13.7%)

155(*41)


 奇しくも両社の収入の減少率が-1%となっている。この数字は、これまで数パーセントであった両社のワイアレス部門が、固定電話回線の減少に伴う収入、利益の減少をブロードバンド、ビジネスにおける高度サービス利用等で補い、ようやく、収入減少を食い止めた努力の成果として見るべきであろう。換言すれば、回線のディジタル化、ブロードバンド化がようやく、旧来のlegacyインフラに拮抗するようになったのである。
 本文の両社のブロードバンドサービスの説明でもその一端を紹介したとおり、ワイアレス分野ではインフラ整備、サービス提供の双方の分野で、AT&TがVerizonに勝っている。



(注1)2012.11.07付け、http://www.eweek.com、"AT&T's project VIP to Invest $14 Billion in 3Years in Key Areas."
(注2)本文の記述に当たっては、おおむね、次のAT&T、Verizon両社の2013 4Q決算のプレスレリースを利用した。
2013.10.17付け、Verizonの "Investor Quarterly Third Quarter"
2013.10.23付け、AT&Tの "3Q Earnings Conference call"
(注3)2013.9.23付け、Appleのプレスレリース、"First Weekend iPhone Sales Top Nine Million, Sets New Record."
(注4)2013.10.28付け、Appleのプレスレリース、"Apple Reports Fourth Quarter Results."



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