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DRI テレコムウォッチャー


  Verizon、VodafoneとVerizon Wireless株式45%買収で合意
2013年10月1日号

 2013年9月2日、米国のVerizon は、英国のVodafoneと両社の合弁会社であるVerizon Wireless株式の45%を買収することで合意した。今後、両社株主総会、規制機関の承認を経て、2014年第1四半期には、この合意実現を達成する見通しである。
 Verizon は、いうまでもなく、AT&Tと並ぶ米国最大のITサービス提供企業である。今後、Verizon Wirelessを完全に自社のコントロール下に収めれば、自由度が一層高まった経営環境のもとで、さらなる発展を遂げるチャンスが得られるだろう。
 Verizon Wirelessの株式を売却する側のVodafoneは、欧州最大の英国の携帯電話企業である。欧州だけでなく、中近東、アフリカ、インド等世界各国で携帯電話サービスを中心に電気通信サービスを提供しており、加入者数は3億を超える。
 今回の巨額の資金獲得により、同社は、ネットワーク(中心は、米国に比し遅れている4Gネットワーク)の拡充、これまで果たせなかった株主への報酬増、負債の償還など、経営基盤の強化に努めるものと見られる。欧米でそれぞれトップの携帯キャリア両社にとって、今回の合意は、双方ともに利益があるウィンウィンゲームであるように思える。
 しかし、内部留保によらず、ほとんどすべての支払いを借財(主として巨額の株式、社債の発行)により調達するVerizonにとって、リスクも大きい。米国経済、ひいては世界経済が不況に見舞われ金利が高騰し、Verizonが借金返済に苦しめられるような事態は起きないだろうか。さらには、最近、インフラの整備に力を入れ、定額制低料金によりVerizon、AT&Tに対し競争を挑みつつある米国第3、第4の携帯キャリア、Softbank/Sprint、T-Mobileから、自社加入者を大きく蚕食される恐れはないのか等々。

 本論では、両社の合意の概要、合意遂行により得られる両社のメリット、合意を可能にしたVerizonの強固な経営基盤(2013 2Qの決算報告をベース)について紹介、解説を行う。


2013年9月2日のVerizon、Vodafoneの合意概要(注1)

●  

VerizonとVodafoneは、両社の合弁会社、Verizon Wireless(Verizon、Vodafoneの株式持分はそれぞれ55%、45%)の株式45%(Vodafone所有)をVerizonがVodafoneから1,300億ドルで購入することで合意した。この合意は、両社の役員会で了承済みである。今後、両社の株主総会、規制機関の承認を得なければならないが、実施は2014年第1四半期を見込んでいる。

●  

VerizonはVodafoneに対し、以下のように、おおむね現金と同社所有の株式により1、300億ドルを支払う。
 589億ドル:現金
 602億ドル;Verizon 株式
 50億ドル:Vodafoneに対する手形
 35億ドル:Verizonが所有するVodafone Italy株式23%
 25億ドル:VodafoneがVerizon Wirelessに有している負債相当分

●  

Verizonは、上記589億ドルの現金を金融市場で調達する。また、602億ドルの株式は、増資により調達する。

 


合意に至るまでの経緯

 Verizon Wirelessは、Verizonの子会社とVodafoneの子会社が合併して設立された携帯電話会社である。マジョリティーを持つVerizonからすれば、Verizon Wirelessの規模が年々拡大し、持ち株会社Verizonに占めるウェイトが高まっていくにつれて、Verizon Wirelessのパートナー、Vodafoneから同社が所有する株式45%を買収し、Verizonの完全所有にしたいとの意向が強くなった。ここ数年来、水面下において、両社間で、この案件解決のため、接触が計られていた。
 2013年に入り、Verizon側は、予想以上の業績の好調と金融市場における低金利での資金調達の可能性により、買収の資金調達に自信を持ったこと、Vodafone側は、欧州市場における継続的なM&Aの推進と株主からの熾烈な配当増の要求に応じるための資金需要が発生したことといった状況の下で、両社は本格的な交渉に入った。
 最大の問題は、Verizonが、Vodafoneの株式買収にどれだけの金額を提示するかにあった。Vodafoneは、欧州経済の低迷により、同社の収入、利益が落ち込んでいる折からVerizon のWireless株式買収を前向きにとらえてはいたものの、できるだけ多額の金額を手中に収めたいとの意思は固かった。
 結局、2013年8月末、Verizon役員側がVodafone役員側に1,300億ドルという破格の買収金額(当初、Verizonは1,000億程度の金額を見込んでいた模様)を提示したことにより、交渉は終了した。数日後、Verizon CEO、Lowell McAdams氏とVodafone CEO、Vittorio Colao氏は、電話により、金額において過去最大クラスの取引の合意を取り結んだ。  


Verizon Wireless完全取得がVerizonにもたらすメリット ー 10年来の悲願達成(注2)

 Verizonは、なぜ、Verizon Wirelessの完全取得を試みたか。同社CEO、Lowell McAdams氏の発言によれば、次の3点である。
 第1に、Verizon Wireless自体が成長性に富んだ優良会社であることである。Verizon Wirelessは、約1億の加入者を有する米国最大の携帯電話会社であり、業績も毎期向上している。
 将来も、スマホ、タブレット、モーバイル端末によるデータサービスの需要増により、大きな収益が見込まれる。モーバイル端末と家電、各種メータとの接続とによるさらなる需要(いわゆるユビキタス)拡大の時期も間近であり、前途も明るい。こういう時期に、最善の投資先と言えば、Verizon Wireless以外にない。このいわば自社に対するM&A投資は、実行後、統合のための調整を要しない点にも、メリットがある。
 第2に、Verizon Wirelessを完全所有することにより、Verizonは、これまでVodafoneに支払っていた配当(2012年における配当総額は255億ドルであった。これの45%がVodafoneの受け取り分)を全額、Verizonが受け取ることとなる。これは、大きな収益増の要因となる。もちろん、Verizonは、1,300億ドルのVerizon Wireless買収金を支払うので、この資金返還との関連で、今後、Verizonの利益増分のメリットを考慮しなければならないのであるが。さらに、メリットとしては、意思決定の迅速化、ワイアレス部門との一層の共同サービス推進等の利便が得られるだろう。
 第3に、国内の競争業者、Sprint、T-Mobile USAに対しても、Verizonの地位が強化される。  


Verizon Wirelessの45%株式売却がVodafoneにもたらすメリット ー Project Springの達成と株主のへの利益還元

 Vodafoneは、Verizonから1,300億ドルの巨額のVerizon Wireless売却金を受け取るのであって、この売却金を利用することにより、大きく同社の経営改善、投資の拡大を計ることができる。そのメリットは、買収側のVerizonのそれを上回るものがあろう。
 Vodafoneは、今回の取引に際し、売却金のうち、100億ドルを携帯インフラ強化のための投資計画、“Project Spring”に当てるという。Project Springの骨子は次のとおり(注3)。
 欧州の主要5市場(ドイツ、英国、イタリア、スペイン、オランダ)で2017年までに、
 ● 4Gネットワークのカバー率を90%とする。
 ● 新興国市場における3Gネットワーク(音声、データ用)を拡充する。
 ● クラウド、データ、IP-VPNなど、企業用の高度サービスを高度化する。

 残りの資金は、株主への見返り、負債の返済に当てる。
 Vodafoneは、これまで成長に次ぐ成長を続けてきたため、株主に対する見返りを最小限に抑えており、株主の批判が強かった。
 プレスレリースで触れられてはいないが、Vodafoneは、今回、手にする巨額の資金を利用して従来から行ってきた果敢なM&A政策を継続、強化していくことは、もちろんのことであろう。  


参考;スマホ、タブレットの需要増大を背景として収益を伸ばすVerizon(注4)

1.好調なVerizonの2013年第2四半期業績(AT&Tと対比して)

表1 2013 2QにおけるVerizon,AT&Tの収入、利益(単位:100万ドル)

項目

Verizon

AT&T

収入

29,786(+4.3%)

32,075(+1.6%)

営業利益

6,555(+16.0%)

6,113(-10.3%)

純利益

5,198(+21,3%)

3,880(-2.1%)

純利益率

17,5%(+1.3%)

12.0%(-0.4%)

上表で、括弧のなかの数値は、2012 2Qに対する増減比率である。表2、3の場合も同様。

表2 2013 2QにおけるVerizon、AT&Tワイアレス部門の収入、利益(単位:100万ドル)

項目

Verizon

AT&T

収入

19,976(+7.5%)

17,291(+5.7%)

営業利益

6,464(+13.1%)

4,678(-7.7%)

営業利益率

32/4%(+5.1%)

27.1%(-12.6%)


表3 2013 2Qにおけるワイアライン部門のVerizon、AT&Tの収入(単位:100万ドル)

項目

Verizon

AT&T

収入

9,734(-2.0%)

14,773(-0.9%)

営業利益

74(-60.4%)

1,634(-15,8%)

営業利益率

0.8%(-58%)

11.1%(-14,7%)



 これまで、毎四半期、上記3表を紹介してきたので、今回は、個々の表についての説明は省略する。Verizon、AT&Tともに、2013 2Qの業績は好調なのであるが、特にVerizonが優位にある点だけを指摘しておく。

 

●  

Verizonは、総収入の伸び率において、AT&Tを毎期、上回っている。

●  

Verizonが、AT&Tに比し成長が大きいのは、そのワイアレス部門(Verizon Wireless)の業績が期を追うごと向上していることによる。


 Verizonの業績がなぜすぐれているか、その理由をさらに2、3の項で、説明する。


2.加入者獲得で、AT&Tを大きく引き離したVerizon

表4 2013 2QにおけるVerizon、AT&Tのモーバイル加入者増数・加入者数(単位:1,000)

項目

Verizon

AT&T

2013 2Q加入者増数
 ポストペイド加入者数
 プリペイド加入者数
 リセラーによる加入者数
 ネット接続加入者数
 計


941(+6.0%)
97(-66.6%)
*1
*2
1,038(-11.9%)


551(+72.2%)
11(-88.0%)
-414(472)
484(+26.7%)
632(-50.1%)

2013 2Q加入者数
 ポストペイド加入者数
 プリペイド加入者数
 リセラーによる加入者数
 ネット接続加入者数
 計


94,271(+6.1%)
 5,853(-10.1%)
 *3
 *4
 100,124(+6.3%)

71,278’(+2.3%)
 7,084(-5.2%)
 14,130(-9,4)
 15,192(+11.0%)
 107,884(+2.5%)

1、*1、2、3、4は、Verizonが、リセラーによる加入者、ネット接続加入者の項目を設けていないため、空欄となっている。
2、*5は、実数値である。

 表4から、AT&Tに比し、以下のVerizonの優位性が明らかとなる。

●  

加入者増加数は、Verizon(103,8万)に比し、AT&T(63,2万)であり、倍近い。

●  

この期、Verizonの加入者数は、1億万台に達し、AT&Tに匹敵するようになった。
加入者の絶対数でも、AT&Tを追い抜く日が近いのではないかとも思われる。
さらに、加入者構成からすると、Verizonの方が、ポストペイド加入者の比率が高い。一人当たり料金支払い額が高く契約期間が長い、ポストペイドの加入者は、キャリアから見て、もっとも頼りとなる収入源となる加入者層である。この層をガッチリ確保している点も、Verizonの強みである。


3. 先手必勝の戦略推進でAT&T Mobileに差を付けたVerizon Wireless

 すでに、1、2において、説明したように、Verizon Wirelessは、期を追うごとにAT&T Mobileとの差を広げている。その理由の最たるものは、Verizon Wirelessが積極的に米国のモーバイル市場を切り開く戦略を提示し、それを実行に移してきたパイオニアであったことにある。AT&T Mobileは、Verizon Wirelessに追随して来たに過ぎない。
 典型的な事例として、4G LTEネットワークの構築とデータ通信用新料金制の導入が挙げられよう。2013年6月30日現在、Verizon Wirelessの4G LTEネットワークは、米国人口の3億100万をカバーしており、ほぼ完成したといえる。同社の3Gネットワークのカバレッジの99%に相当する。これに対し、立ち遅れたAT&T Mobileの側は、構築に力を入れているものの、同時期における市場カバーは、人口2億7000万に留まり、その完成は、2014年夏になるという。4Gネットワークでトップを走っているVerizon Wirelessが、顧客からの信頼性、特にLTE対応のスマホの獲得に果たした効果は計り知れないものがあろう。
 2012年6月末に導入したVerizon Wirelessのスマホ、タブレット対応の高データ利用加入者に焦点を当てた新料金制度、Share Everything Planの導入にしても、同様である。
 Verizonは、この料金制度を利用するポストペイド利用者が、実施1年後の2012 1Qに30%、また、さらに3か月後の2013 2Qには6%向上し、36%に達したと発表している。
 この料金制度では、携帯、スマホなどデータ利用端末を複数個利用した場合、共通の請求書により支払できる利便性がある。実体は、従量制にほかならないこの料金制度導入に対する批判は強かったものの、Verizon Wirelessは、周到な準備の後、果敢にこの料金制度を実施して、大成功を収めている。2年間契約を継続しないとペナルティーを科されるこの料金制度には、加入者の囲い込みの効果も大きい。現に、Verizon Wirelessのポストペイド加入者の取り消し率(churn)は、1年前の1,23%から0,9%へと、0,3%下がっている。
 2013 2QにおけるVerizon Wirelessの好決算の大きな理由は、このShare Everything Planにあるだろう。
 ちなみに、AT&T Mobile は、Verizon WirelessがShare Everything Planを導入した2カ月後に同様の料金プラン、Family Talk、Mobile Shareを実施に移したものの、2番煎じであるとの印象は免れがたい。そのためか、Mobile Shareの利用は、ポストペイド利用者の18%にとどまっている。



(注1)合意に際しては、Verizon、Vodafone両社がそれぞれ、2013.9.2に次のニュースレリースを発表している。
 ・ Vodafone to realize US $130 billion for its 45% interest to Verizon Wireless
 ・ Verizon to reaches Agreement to Acquire Vodafone’s 45% Interest in Verizon Wireless for $130 billion
(注2)この項については、幾つかのネット記事があるが、筆者は、主として次の2点を利用した。
 ・ 2013.9.2付け、http://newsecter.verizon.co, "Verizon Reaches Agreement to Acquire Vodafone's 45 Percent Interest in Verizon Wireless for $130 Billion."
 ・ 2013.9.2付け、http://www.cnbc.com, "Why $130 billion Verizon-Vodafone deal makes sense."
(注3)すでに、Spring Projectについては、ネットで幾つかの解説も報道されているが、ここでは、Vodafoneのプレスレリースに記載された内容の紹介に留めた。Vodafoneは、2013年11月にこのプロジェクトの詳細を発表するという。
なお、Vodafone Groupがどのような会社であるかについては、8月にテレコムウォッチャーで紹介した。
DRIテレコムウォッチャー、2013年8月1日号、「Vodafone Group(欧州最大の携帯電話事業者)の最近の業績、M&A戦略」
(注4)「参考」については、次のVerizon,AT&Tの2013 2Qに関するプレスレリースを利用した。
 ・ 2013.7.18付け、"Verizon 2Q Investor Quarterly."
 ・ 2013.7.23付け、Investor Briefing, "AT&T Reports Solid Revenue Growth on Strong Wireless Gains Driven by Quality network Performance and Continued U-Verse Growth."



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