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DRI テレコムウォッチャー


  Microsoft、Nokiaの携帯事業部門を買収へ
2013年9月15日号

 Microsoftは、2013年9月2日、Nokiaの携帯電話部門の買収について、同社と合意したと発表した。両社は、Microsoft、Nokia両社による株主総会、規制機関の承認を経て、この買収が実現する期日を2014年第1四半期と予測している。
 テレコムウオッチャー前号で説明したとおり、スマホ、タブレットの成長は著しいのに対し、PCの減少が急ピッチで続いている(注1)。このため、Windows OSにより世界のPCのソフトの90%超を提供しているIT業界の巨人、Microsoftも、事業基盤を切り崩されており、自らもスマホ、タブレット業界へと大きく事業の転換を計っている。その第一着手として始まった欧州最大の携帯電話機器メーカ、Nokiaとの3年前の提携が、その当然の成り行きとして、今回の両社の共同発表となったといえよう。
 本号では、両社共同発表の概要、および、携帯電話業界におけるこのドラスティックなM&Aが、合併する側のMicrosoft、合併される側のNokiaにどのようなインパクトをもたらしているかを紹介する。


MicrosoftとNokiaの合意の概要

 2013年9月2日、Microsoft、Nokia両社は、Nokiaの携帯部門をMicrosoft社に売却する件について、大方の合意ができたと発表した(注2)。
 以下に合意の概要を示す。

Microsoftは、従業員ぐるみNokiaの携帯電話部門を買収

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Microsoftは、フィンランドの通信機器総合メーカであるNokiaの携帯電話部門を買収する。その金額は、54.4億ユーロ(72億ドル、この金額のなかにはパテント買収料金16.5億ユーロが含まれており、携帯電話部門買収の金額は37.9億ユーロ)。

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上記買収にともない、携帯電話事業に従事するNokia従業員(総計、約100,000名)中、32,000名がMicrosoftに移籍する。

 

 

MicrosoftがNokia携帯部門運営を行なうに当たっての条件
 Microsoftは、NokiaのDevice&Service部門をほとんど現状のままの形で引き継ぎ、次の様に運営していく。

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Nokiaは、パテントの権利を保有し、Microsoftに10年間のパテント使用権を付与する。

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Microsoftは、Nokiaのスマホ、Lumiaシリーズ製造、販売を引き続き行っていく。ブランド名もそのまま。(2013年第2四半期におけるLumiaの販売数は、740 万台)。

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Microsoftは、幾億人もの顧客にサービスを提供しているMobile Business Phone(スマホ以外の多機能付電話機、通常の携帯電話の製造、アフターサービスを行っている部門)の事業も引き継ぐ。2013年第2四半期におけるこの部門の販売実績は、5370万台。

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Microsoftは、欧州全土にサービスを提供する新たなサービスセンターを、フィンランド国内に設置する。このセンター設置に対し、今後数年間で5億ドルを投資。

 

 

Nokia幹部の移動

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Nokiaの会長兼CEO、Stephen Elop氏は、Microsoftの上級副社長(携帯部門担当)。

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Nokia副社長、Risto Sililasmaa氏が、Elop氏の後任として暫定的にNokiaのCEO。

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Stephen Elop氏のほか、Nokiaの幹部4名(氏名は省略)が、Microsoftに移籍。

 


MicrosoftによるNokia 携帯部門が両社の経営に及ぼす影響(1)- 厳しいMicrosoft携帯電話事業運営

 Microsoftは、2年前からNokiaと提携し、自社のスマホ用OSのWindows PhoneをNokiaの製造するスマホ、Lumiaシリーズに搭載させ、競争の激しいスマホ市場の一角に、地位を占めようと努力してきた。その結果、2013年第2四半期のLumia販売数730万台、Microsoftは、OSベースでは、ようやく、Google、Appleに次いで、第3位の地位を獲得とすることができた。
 しかし、スマホ出荷数では、Samsung、Appleに次いで、LG、Lenovo、ZTEが上位5位までを占め、Microsoftは6位以下のその他グル―プに属する。そもそも、スマホ製造業界では、四半期当たり、1,000万台の売り上げがないと、利益計上のクリティカルパスに達しないといわれる。IT業界の巨人、Microsoftにとって、この実情は、到底、満足できるものではない。
 Microsoftは、本格的にスマホ部門にコミットし、コス削減を行うためには、Nokiaの製造部門を合併し、垂直統合に移行するのは必然の成り行きであった。Microsoftのライバル、Appleは、当初から自前のiPhone製造により、莫大な利益を収めているし、スマホ製造に携帯乗り出した後発のGoogleも、かっての米国通信機器メーカの名門、Motorolaを傘下に収めている。
 それでは、株式市場は、MicrosoftのNokia買収にどのように応じたか。買収発表が行われた翌日、ニューヨーク株式市場において、Microsoftの株価は6%と大きく値下がりし、同社の時価総額は166億ドル分が消失した。このような市場の拒否反応は、どうして生じたのだろうか。
 第1に、Microsoftが、スマホ、タブレット市場への参入を意図して、市場に出した製品、ソフトが、スマホだけでなく、軒並み、売れ行き不調であることである。
 まず、今から1年ほど前、2012年8月中旬に、新PC用ソフトMicrosoft “8”の発表と同時に発売を開始したタブレット端末Surfaceの売れ行きが芳しくない。同社の2012年第4四半期の決算報告(Microsoftの会計期間は、7月から翌年6月末)において、7億ドルの資産償却が計上されており、この金額が、Surface在庫処分に見合うものだと推定されている。さらに、スマホにPC新OS、Microsoft “8”の売れ行きも、好調とはいえない。Microsoftは、このOS販売数について、資料をなんら公表していない。しかし、新OS搭載PCが市場に出て半年後の2013年5月、早くも、顧客の苦情にこたえて、“8”の改定版“8.1”を出すと発表した。このような過去の負の実績からして、市場は、Microsoftのモーバイル機器製造分野への新たなコミットメントを歓迎しなかったのである。

 第2に、今後、MicrosoftがNokiaから引き継ぐスマホの製造、販売を成功させ成長路線に乗せることができるかのカギを握るアプリケーションの不足についても、多くの疑義が出されている。
 現在、MicrosoftのスマホOS、Windows Phoneで利用できるアプリケーション数は16,5万であって、Samsung、Apple両社がそれぞれ、Android、iOSのスマホOSにより利用できるアプリケーション数が、それぞれ100万、90万であるのに比し、格段に少ない。NokiaのLumiaシリーズのスマホが、莫大な販売経費を投じながら、これまで所期の成果が上がらなかったのは、このアプリケーション数の少なさによるところが大きいという。しかも、Microsoftが今後、急速にアプリケーション開発業者との関係を強めて、アプリケーション数を増やす展望はなく、この点だけからしても、Microsoftによるスマホ販売の大きな拡大を計ることは、難しい(注3)。
 最後に、すでに、Microsoftの現CEO、Steve Ballmer氏は、2013年末に辞職する旨を発表しているのであるが、Bill Gates氏の後任として、長期間、剛腕をもってMicrosoftのかじ取りをしてきた彼の後継者に誰を選ぶか、最大の問題となっている。
 Ballmer氏は、後任者を定めた上で、自らが定めた時期、2013年末に引退したいと考えている。ただ、この激動の時代に、評判が日に日に低下しつつあるBallmer氏が、株主、従業員の納得のいく後継者指名をでき、2014年以降のMicrosoftの経営が再び発展期に入るのか。市場は、この点にも危惧を示したのであろう(注4)。


MicrosoftによるNokia携帯部門買収が両社の経営に及ぼす影響(2)- Nokiaはどうなるか(注5)

 Nokia携帯部門のMicrosoftへの売却が発表されると、フィンランドのメディアは、この事件をセンセーショナルに報じた。ほんの5、6年前まで、Nokiaは、斬新なデザイン、高性能の携帯電話を次々に市場に出し、世界の携帯電話メーカに、“Nokiaにはかなわない”と畏怖の念を抱かせた最優秀企業であった。盛時における収入は、フィンランド国の総輸出の16%を占めていた。フィンランドの欧州担当相、Alexander Stubb氏は、“われわれフィンランド人にとり、ノキアの電話事業は生活の一部である。したがって、今回の報道への受け止めは、感情的なものにならざるを得ない”とツイッターで述べている。
 フィンランド人のプライドを傷つけた理由は、MicrosoftがNokiaの買収に支払った金額の低さにも向けられる。32,000人もの従業員を有し、今なお、携帯電話出荷においてSamsungに次ぎ、全世界の15%のシェアを持つNokia携帯電話事業部門がわずか72億ドル(携帯電話事業部門の総売り上げの3分1)で売却されるとは、というわけである。
 さらに、今回の売却劇において、終始、主役を演じたNokiaの会長兼CEO、Stephen Elop氏および、同氏を2年前、Microsoftから招き寄せた当時のNokiaの会長、Jorma Ollila氏にも痛烈な批判が集中した。フィンランドのタブロイド紙、Ilta-Sanomaは、“Jorma Ollita氏はトロイの木馬をNokiaに引き入れたのだ”と嘆いた。
 ところが、Microsoft株が大きく値下がりしたのとは対照的に、合意発表の翌日、Nokia株式は、2,96ユーロから4,36ユーロへと、47%もの値上がりを示したのである。なぜであろうか。
 これは、株主が126年の歴史を持つフィンランドの老舗企業、Nokiaが、携帯事業なしでも、いや赤字を垂れ流すようになった携帯事業を切り離すことにより、縮小した規模の下で、なお十分、成長企業として運営していくだろうとの見通しを持ったことによるからであろう。
 携帯事業部門がMicrosoftに売却された後のNokia主体は、ネットワークインフラの構築、ネットワーク用機器の製造販売を行うNetwork & Solution部門である。この部門は、Siemensと合弁のNokia/Siemens として運営されて来たのであるが、つい最近、Nokiaは、Siemensの持ち分を買い取り、完全直営化した。この分野での欧州最大の企業、エリクソンを始め、強豪企業による競争は激しいが、現在、事業は黒字であり、欧州の携帯電話キャリアは、こぞって、LTE(4G)ネットワーク構築に向けて、投資を高めると見込まれるので、売上を拡大できる余地は、十分ある。
 第2の分野は、“Here”と呼ばれるGPSサービス提供の部門である。この部門は、現在、年間12億ドルほどの年商であるが、将来、ほどほどの売上、利益を上げていく可能性がある。
 第3に、Nokiaは自前の研究開発部門を有しており、パテントの権利を他社に販売している。将来も、開発した新製品のパテント使用料を同社収入の1つの柱にしていく計画である。
 さらに、フィンランド人からは、捨て値でないかと批判されたものの、将来、利益を生まなくなった企業に価値が付かないのは当然のことであって、当面、引き取る従業員32,000名の合理化にふれることなく、72億ドルのキャッシュの支払いを約束し、買収の合意を結んだのは、さすがにMicrosoftならではの決断であるとの見方もできる。この72億ドルは、縮小ベースでの事業の再建を迫られるNokiaに取り、干天における慈雨の役割を果たすだろう。



(注1)DRIテレコムウォッチャー、2013年9月1日号、「スマホ出荷資料(2013 2Q)が示すもの ー Samsung、Appleのシェアを侵食し始めた中国メーカ」
なお、2012年後半までのMicrosoftが抱えている問題点については、DRIテレコムウォッチャー、2012年12月15日号、「Microsoft、新基本ソフト”8”とタブレト(Surface)の商用化でモーバイル分野からの攻勢に対し反撃を開始」
(注2)2013.9.3付け、Microsoftプレスレリース、"Microsoft to acquire Nokia's Devices & Business, Licence, Nokia’s patents and mapping services."
(注3)2013.7.29付け、http;//www.informationweek.com、"Nokia to Microsoft; Can't Sell Phones Without Apps."
(注4)Microsoftが、今後、直面すると予想される問題点についてのネット記事は数多いが、そのうち優れたものとして、次の記事がある。
http://online.wsj.com、"Deal is Easy part for Microsoft and nokia."
(注5)この項では、主として、次の2点の資料を利用した。
2013.9.2付け、http://ca.news.yahoo.com、"Microsoft Swollows nokia's phone business for $7.2 billion."
2013.9.5付け、http://techcrunch.com、"Nokia Shares Pop 47% On News of Microsoft Deal."



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