スマホ出荷数資料(2013 2Q)が示すもの ー Samsung、Appleのシェアを侵食し始めた中国メーカ
2013年9月1日号
本号では、2013 2Qにおける携帯電話、スマホ、PCの5大メーカ別出荷数を紹介した。2013 1Qにおける同様の資料は、テレコムウォッチャー2013年5月15日号に掲載したので、本号と併せて一読をお願いしたい(注1)。
詳細は本文をお読み頂けば分かることであるが、21世紀における最大のヒット商品、スマホの出荷数は、2013年に入っても衰えを見せず、年率50%強の増率で伸びている。前期を上回るこの増率には、世界最大のスマホ市場である中国における廉価なスマホの登場が大きく寄与している。
タブレットの販売数の増大により、これまで確固たる基盤を有していたPCの販売数が急減し始め、2013 2Qも10%を超える出荷数の減少を余儀なくされた。本号には、PC出荷数についての資料も掲載した。
ITの進歩に伴うコンピューター機能を持つ端末の多様化、顧客の需要の変化に伴い、メーカには、強者、弱者の2極化の原則が容赦なく進んでいる。たとえば、ほんの数年前まで、iPhoneと並んで、世界最強のスマホ、BlackBerryを製造していたカナダのRIM(現在は社名もBlackberryに改称)が経営不振のため、廃業に追い込まれている。
スマホ販売において、覇権を握る競争がグローバルに展開されているため、今後もスマホ、タブレット、PC業界のメーカの淘汰、業界再編は急ピッチで進むだろう。
携帯電話機の出荷数は、スマホの出荷数の増に支えられて伸び率(+6%)は堅調
表1 2013 2Qにおける世界5大メーカの電話機出荷数(単位:100万)、市場シェア(注2)
メーカ名 | 2013 2Q出荷数(シェア) | 2012 2Q 出荷数(シェア) | 増減比 |
Samsung(韓) | 113.4(26.2%) | 97.5(233.9%) | +16.3% |
Nokia(フィンランド) | 61.1(14.1%) | 83.7(20.5%) | -27.0% |
Apple(米) | 31.2(7.2%) | 26.0(6.4%) | +20.0% |
LG電子(韓) | 18.2(3.7%) | 13.1(3.2%) | +23.7% |
ZTE(中) | 15.0(3.5%) | 15.2%(3.7%) | -1.1% |
その他 | 195.2(45.2%) | 172.2(42.2%) | +13.4% |
計 | 432.1(100.0%) | 407.7(100%) | +6.0% |
Samsungは、世界最強のスマホの出荷数をベースにして他社を寄せ付けず、スマホ、携帯電話機総体のいずれの分野でも、トップの座を維持している。
かつて携帯電話業界の王者であったNokiaは、携帯電話出荷数で2位の座を守ってはいるものの、そのほとんどが、通常の電話機、多機能付電話機(フィーチャーフォン)であって、市場に及ぼす力は急減している。出荷数の減少率は、期を追うに従い高まるばかりである。
上位5位までのリストには、Samsung(韓)、LG電子(韓)、ZTE(中)が並び、アジア勢の勢いが強い。後述するとおり、この傾向は、スマホにおいても同様である。
2013 2Q期の特色は、第6位以下の企業の出荷数の総計を示したその他の欄に現れている。2012 2Qに比し、その他企業の出荷数のシェアが3ポイント(42.2%→45.2%)も高まった。これは、6位以下のメーカが、主として発展途上国における廉価な機種の出荷による攻勢で成果をあげているためと見られる。
IDCは、このようなメーカの事例として、アルカテル(フランス)およびHuawei(華為)を挙げている。
Samsung、Appleの市場シェアを脅かし始めた韓国、中国のスマホメーカ(注3)
表2 2013 2Qにおける世界5大メーカのスマホ出荷数(単位:100万)
メーカ名 | 2013 2Q(シェア) | 2012 2Q (シェア) | 増減比 |
Samsung | 72.4(30.4%) | 50.3(32.3%) | +43.9% |
Apple | 31.2(13.1%) | 26.0(16.6%) | +20.0% |
LG | 12.1(5.1%) | 5.8(3.7%) | +108.0% |
Lenovo | 11.3(4.7%) | 4.9(3.1%) | +130.6% |
ZTE | 10.1(4.2%) | 6.4(4.1%) | +57.8% |
その他 | 100.8(42.4%) | 62.8(40.2%) | +60.5% |
計 | 237.9(100%) | 156.2(100%) | +52.3% |
表2から、スマホ市場における2強、Samsung、Apple両社が、市場の43.5%を占めており、LGを初めとする3位以下のメーカが、いづれも、4%から5%程度のシェアを取り、莫大なスマホ市場の細分化している状況が伺える。
しかし、Samsung、Apple両社ともに、市場シェアを減らしていること、その他のスマホメーカの市場シェアが、昨年同期に比し、2ポイント強、増大していることは、Samsung、Appleの寡占化傾向が、2Q 2013に至り、歯止めが掛かった兆候であるとの観測がなされている。
その原動力は、スマホで世界1位、2位の中国、インド市場で、一部のメーカが安いスマホを市場に出し、売り上げを大きく伸ばしている成果が効を結んだためだと見られる。表3を参照いただきたい(注4)。
表3 上位5カ国における2013 2Qのスマホ出荷数(単位:100万)
国名 | 2013 2Q | 2012 2Q | 増減比 |
中国 | 88.1(37.0%) | 42.3(26.7%) | +108% |
米国 | 32.9(13.8%) | 24.2(15.2%) | +36% |
インド | 9.0(3.6%) | 3.9(2.4%) | +129% |
日本 | 8.6(3.6%) | 6.9(4.3%) | +25% |
英国 | 7.4(3.1%) | 5.5(3.4%) | +34% |
その他 | 92.1(42.5%) | 75.4(45.4%) | +22% |
計 | 238.1(100%) | 158.2(100%) | +50% |
LG、Lenovo、ZTE等韓国、中国のスマホメーカの成長率が、Samsung、Appleのそれをはるかに上まわり、活力がある伸びを示している。
2013 2Qにおけるスマホ出荷数が一番多いのは中国であって、中国は、1国で世界スマホ出荷数の3分1強を占めている。しかも、成長率は108%と倍増している。
調査会社Canalysによれば、中国における熾烈なスマホ需要に応じるため、安い端末により、自国市場を制覇しようと目指しているのが、中国のスマホメーカ5社(Lenovo、Yulong、Huawei、ZTE、Xiaomi)であり、これら5社だけで、グローバル市場出荷数の20%(前年同期は15%)を獲得したという。
中国勢の台頭でもっとも被害を受けたのは、これまで、中国市場の9%程度のシェアを確保していたAppleである。同社のシェアは、一挙に5%に落ち、新興の北京のメーカ、Xiaomiにも抜かれた。もちろん、これら中国メーカは、iPhoneの5分1といった低価格で、スマホを販売している。たとえば、Lenovo、ZTEの最新のスマホは、いづれも499元(80ドル)で市場に出されている。中国のあるマーケティング担当者は、”スマホのコモディティー化が進行しており、Xiaomi(世界第6位のスマホのメーカ)は、安い価格で高い製品を出荷している”と評している。
3極化(Android、iOS、Windows Phone)が進むスマホのOS
OS別に出荷数を見ると、強者、弱者の対比が、さらに明確になる。表4から読み取れる主なスマホOS市場の動向は、次の通りである(注4)。
● | Androidのシェアは、ますます増大しており、今や市場の80%近くを占めている。この動向は、今後も続きそうである。 |
● | iOSのシェアは、低下しつつある。しかし、iOSを使用するiPhoneシリーズの出荷数は、依然、増大傾向にある点に注目しなければなるまい。待望の次期機種(iPhone5S)は、2013年9月中旬にも、出荷されると噂されており、2013 3Qには、iPhoneシェアの後退が食い止められるのではないかと見られる。 |
● | Microsoftが開発したOS、Windows Phoneも、これを搭載するNokiaのLumiaシリーズのスマホの売り上げが、ほどほどに伸びたことで、Samsung、Appleに次ぐ第3位の地位を獲得することができた。しかし、Microsoft、Nokiaの両巨大企業が、莫大な投資、宣伝費を掛けた成果としては、四半期1000万台にはるかに及ばない売れ行きは、いかにも淋しい。 |
● | Symbian(Nokiaの旧スマホOS)のシェアも激減しているが、NokiaがWindowsPhoneを導入した以上、これは、当然のことである。 |
● | Linuxは、古い歴史を持ち、一部のファンから支持を受けている独立系のOSであるが、著しくシェアを減らしている。 |
表4 2013 2Q/2012 2QにおけるOS別スマホ出荷数(単位:100万)
OS名 | 2013 2Q(シェア) | 2012 2Q(シェア) | 増減比 |
Android | 187.4(79.3%) | 108.0(69.1%) | +73.5% |
iOS | 31.2(13.2%) | 26.0(16.6%) | +20.0% |
Windows Phone | 8.7(3.7%) | 4.9(3.1%) | +77.6% |
Blackberry OS | 6.8(2.9%) | 7.7(4.9%) | -11.7% |
Linux | 1.8(0.8%) | 2.8(1.8%) | -35.7% |
Symbian | 0.5(0.2%) | 6.5(4.2%) | -92.3% |
その他 | 不詳(0.0%) | 0.8%(0.2%) | -100.0% |
計 | 236.4(100.0%) | 156.2(100.0%) | +51.3% |
なおも、年間10%台の減少が続くPC出荷数(注6)
表5 2013 2Qにおけるトップ5メーカのPC 出荷数
メーカ名 | 2013 2Q(シェア) | 2012 2Q(シェア) | 増加率(%) |
Lenovo(中) | 12,677,265(16.7%) | 12.755.068(14.9%) | -0.6% |
HP(米) | 12,402,887(16.3%) | 13,028,822(15.3%) | -4.8% |
Dell(米) | 8,984,636(11.8%) | 9,349,171(11.0%) | -3.9% |
Acer Group(台) | 6,305,000(8.3%) | 9,743,663(11.4%) | -35.3% |
Asus(台) | 4,590,071(6.0%) | 5,772,043(8.8%) | -20.5% |
その他 | 31,041,130(40.8%) | 34,675,824(40.6%) | -10.5% |
計 | 76,000,986(100.0%) | 85,324,591(100.0%) | -10.9% |
表5に見られるように、2012年後半から始まったPC出荷数の減少は、2013 2Qにも継続しており、年率10%を超える高率で減少している。そのインパクトは、5大メーカのすべてに及んでおり、前年同期より出荷数を増やしたメーカはない状況である。
こういった状況のなかで、Lenovoが、HPを抑え、トップの座についた。Lenovoは、表2に示したとおり、スマホ市場でも一挙に第4位の地位に躍進し、脚光を浴びた。コンピュータメーカは、PC産業の不振から脱却するため、タブレット、スマホ市場への多角化を目指しているのであるが、Lenovoは、いち早くこの多角化路線で成功を収めたということができる。
(注1) | DRIテレコムウォッチャー、2013年5月15日号、「急ピッチで進むスマホ、タブレットによるPC市場の浸食」。 |
(注2) | 2013.7.25付け、IDCのプレスリリース、"Growth Accelerates in the Worldwide Mobile Phone and Smartphone markets in The second Quarter, According to IDC." |
(注3) | 2013.7.19付け、Vodafoneのニュースレリース、"Interim management statement for the quarter ended 30 June 2013." |
(注4) | 2013.8.5付け、Canalysの資料、http://www.canalys.com、"China's top vendors account for 20% of the world smart phone shipments." |
(注5) | 2013.8.7付け、IDCのプレスリリース、"Apple Cedes Market Share in Smartphone Operating System Market as Android Surges and Windows Phone Gains, According to IDC." |
(注6) | 2013.7.5付け、Gartnerのプレスリリース、http://www.gartner.com/newsroom、"Gartner Says Worldwide PC Shipments in the Second Quater of 2013 Declined 10.9%." |
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