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DRI テレコムウォッチャー


  高まりを見せるNSAの大量プライベート情報収集批判の動き
2013年8月15日号

 6月7日、ガーディアン紙が米国諜報機関、NSAによる衝撃的な情報収集活動の実態を報道して以来(注1)、米国のジャーナリズムはこの事件を継続して追及、今もなおこれらの記事は新聞、テレビを賑わせている。
 この事件は、NSAの諜報資料の収集、分析に当たっていたアナリスト、Edward Snowdenが香港に亡命、ビデオを通じ資料をリークした理由を詳しく説明、その後、モスクワの空港内に長期滞在したというセンセーショナルな出来事から始まっただけに、米国ジャーナリズムは、当初は、スパイ小説もどきの報道を多く行った。しかし、ロシア政府が、暫定期間、Snowden氏をロシア国内に受け入れることが決まった今日、ようやく、NASによる大量のプライベート情報の収集、蓄積の持つ重要性が真剣に論議される段階に立ち至った感がある。
 本論では、(1)ガーディアン紙が7月末に、明らかにしたNSAの最大規模のインターネット情報検索プロジェクトXKeyscore(2)米国議会におけるFISA法改正の立法活動開始、オバマ大統領のFISA改正宣言(3)NASの諜報活動に厳しい批判を加え始めた世論の動きの3点を紹介する。
 夏休み以降、米国議会では、NAS法の改正が、大きな課題として取り上げられるものと見られる。議会では、すでに、法務委員会に所属する議員たちが意図している法案の構想に見られる通り、NASの活動を大きく制約しようとする幾件もの法案が提出される予定である。これに対し、オバマ大統領、NASを中心とする米国諜報機関の側は、なおも、アルカディアを始めとするアラブ過激派のテロ行為の危険が十分あると主張して、FISA法の些細な部分修正に留め事態の収拾を図ろうとするであろう。しかし、オバマ大統領の人気は下がっているし、この案件についての大統領批判も高まっている。オバマ大統領が、前任者、ブッシュ大統領築いた基盤の上に立って、拡大を推進した米国情報機関によるグローバル規模でのプライベート情報の蓄積のありかたについて、議会との討論を通じてどのような政策を打ち出していけるかが、注目される。


ガーディアン紙、XKeyscoreの存在を報道

 2013年7月31日、ガーディアン紙は、NSAが収集、蓄積している膨大なインターネット情報のプロジェクト、XKeyscoreを報じた(注2)。
 同紙は、すでに、2013年6月7日、(1)Verizonに対するNSAの通話記録提出命令(2)主要IT企業に対する包括的なインターネットアクセス情報提供を求めるPRISMプロジェクトを暴露していた。今回の発表は、いわば、同紙によるNASを相手取っての第2弾の攻撃である。前回も、今回も、報道の執筆者は、元NSAに勤務し情報をリークしたEdward Snowdenから、同氏が有していた情報ファイルをすべて譲り受けていたといわれるガーディアン紙の記者、Glen Greenwald氏(米国人、人権派の弁護士でもある)である。
 XKeyscoreは、NSAのアナリストがインターネットの各種情報を網羅的かつ効率的にアクセス、選別、監視するためのプロジェクトであって、この種、プロジェクトのうち、もっとも、広範囲のものであるという。インターネットのサーバーは、3分の2が米国に置かれているといわれるが、XKeyscoreは、これらインターネットを経由する米国中継、米国着信のすべてを対象とする。アナリストは、事前の許可なしに、Eメール、チャットのメタデータは、もちろんのこと、これらのコンテンツさらには、検索履歴まで、アクセスできる。 ガーディアンの記事は、Eメール、チャット、検索記録のそれぞれについて、画面を表示し検索方法を説明しているが、通常のインターネット利用者でも、容易に使用できるほど、アクセスはやさしい。
 Green Greenwald氏は、このXKeyscoreが明るみに出たことにより、Edward Snowden氏が最初のインタビューの際、“私は、自分のデスクから、誰の電話でも盗聴(eavesdrop)することができる“という今では著名になった発言に証明を与えるものだといっている。しかし、NSA当局は、これを強く否定している。


FISA法の改正に向かう米国議会、オバマ大統領も一部改正の必要性を表明

 NSAが、莫大な量のインターネット、通信情報を収集しており、しかも、その情報分析に当たるアナリストたちが、特別裁判所の事前承認を得る必要がなく自由にこれらプライバシー情報にアクセスできるというEdward Snowden氏の証言、および、この証言を裏付けるガーディアン紙の2回にわたるNSAプロジェクトの紹介記事は、米国議会に深刻な影響をもたらしている。まず、7月25日、下院に上程されたNASの権限を縮小する旨の法案は、否決されたものの、否決票、可決票は小差であり、従来のNASのシステムを維持したいと考えているオバマ政権、議会の幹部たちに多大なショックを与えた。多くの議員が、夏休み明けの国会で、NASの情報収集の権限縮小、NAS業務の透明性の確保を目的としたFISA法改定を行わなければならないと決意した模様である。上記の情勢を受けて、8月9日、オバマ大統領も、記者会見の席上、NASの一部改正に言及した。

可決寸前まで迫ったNSA予算削減法案(注3)
 7月25日、米国下院は、Justin Amash(共和党)、John Coyers(民主党)の両議員が提出した”国防歳出法案“を217票対205の僅差で否決した。この法案は、NSAが通話情報の収集に費やしている支出を削減するという内容のものであった。
 賛否票の内訳を見ると、民主党議員の賛成111、反対83、共和党議員の賛成94、反対134であった。民主党は、賛成票が反対票を上回り、オバマ政権は、共和党議員の応援を得て、同政権にとっては、不信任を意味するともいえる屈辱的な法案をようやく、下院段階において審議を食い止めたのである。
 上記の大量の賛成票は、リベラル派の民主党員、リベルタン派(政府の権限を極端に縮減しようとする勢力、共和党のティーパーティーがその最たるものである)の通常なら考えられない連合により実現したものと分析されている。
 オバマ政権を下院サイドから、支えてきた民主党の重鎮、Perosi氏は、反対票を投じながらも、現行のNASの内容には、決して満足をしていない旨を明らかにした。同氏はNASのデータ収集方法についての懸念ヲ示した大統領あて書簡に、サインを求める行動を起こし、この書簡は、上記法案に反対した民主党員60名を含む多くの署名を得て、オバマ大統領に提出された。

上下両院の議員、FISA法改正に向け行動を開始(注4)
 下院の法務委員会では、Sensenberner(民主党)、Zoe Lofgan(共和党)の両議員が、NSAの電話傍聴を抑制する法案の策定に取り掛かった。法案を9月には上程する準備を進めている。Sensenberner氏は、(1)NASによる通話の傍聴をテロ容疑者に留めること(2)FISK(特別裁判所)の権限の見直し(3)ターネット情報を提供しているIT企業に対し、NASとの取り決めを公表することを認める条項を折り込みたいとの意向を表明している。
 これに対し、上院諜報委員会の幹部議員たちは、法案策定についての協議を行っている段階である。

NAS法の改正に言及せざるを得なくなったオバマ大統領(注5)
 オバマ大統領は、8月9日に開かれた記者会見の席上、他の案件とともに、NASの情報収集、蓄積の問題に触れた。大統領は、NASが莫大な通信、インターネット情報を蓄積している事実を認めながらも、これまで、テロ対策以外の目的に乱用された事実はないと述べた。さらに、NASの運用を一層、トランスペアレントなものとするため、FISA法の一部改正を行うことを確約した。


NASの諜報活動への批判を強める世論

 NSAの諜報活動が適切であるか否かについて幾つもの調査会社が、世論調査を実施しており、その結果は、NSAに対し厳しい内容のものとなっている。
 以下、最新のものとして、PEW Researchが2013年7月17-21日の期間に行った世論調査の一部を紹介する(注6)。

過半数の米国人は、NASの諜報活動が適切だとは思っていない。

連邦裁判所は政府がテロ対策として実施している通話、インターネットの情報収集活動について、適切な制約を設けていない。 イエス:56%。

政府は、これらのデータをテロ対策調査外の目的に使用している。イエス:70%。

政府は、通信のコンテンツについても情報を集めていると信じる。イエス:63%。


 上記3点は、オバマ大統領、米国諜報機関の首脳陣が、一様に主張し続けていることである。
 しかし、上記のような意見にもかかわらず、テロ対策の一環として通話、インターネットのデータを収集するのに賛成する意見は、50%であり、反対の意見、44%を引き離している。半数の米国人は、セイフティーを求めるあまり、必要悪として諜報機関のプライバシー侵害を容認するという姿勢である。

前回の調査時(2010年7月)に比し大きく高まった人権侵害への懸念

表 テロ対策は、人権保護の立場から行き過ぎであるか、まだ不十分か。
 

2010年10月調査

2013年7月調査

行き過ぎ

不十分

行き過ぎ

不十分

男性

36%

45%

51%(+13)

29%(-16)

女性

27%

49%

42%(+13)

46%(-3)

32%

47%

47%(+15)

35%(-12)

(表中、2013年7月調査の実績値の後に付した、括弧の数字は、2010年10月調査時の数値との差を表示したものである。)


 上表から読み取れる主な結論は、次のとおり。

両調査の結果には、大きな変化が見られる。2010年10月時点には、テロ対策はまだ不十分であると考える人の比率は47%であって、行き過ぎと考える人の比率32%を大きく上回っていた。しかし、1年9カ月後の今、この比率は、それぞれ35%、47%となり、ほぼ逆転した。

男性、女性の別に見ると、男性の変化の方が大きい。女性の場合、2013年7月の調査でも、テロ対策はまだ不十分とする意見が、2010年10月の調査の場合を上回っており、しかも、両期間の間に3ポイントしか変化していない。女性は、人権侵害の懸念よりも、安全性を重視するのであろう。
男性の場合、現在のテロ対策は、行き過ぎであるという意見が、51%とマジョリティーを超えた。



(注1)DRIテレコムウォッチャー、2013年7月1日号、「内部告発で明らかにされた米国諜報機関の無制限な情報取集活動」
(注2)2011.7.31付け、http://www.theguardian.com/uk, "X Keyscore:NSA tool collects nearly everything a user does on the internets."
(注3)2013.7.25付け、http://news.yahoo.com/, "US House leaders defend support after close vote."
(注4)2013.7.28付け、ニューヨークタイムズ 、 "Momentum builds Against NSA Surveillance."
(注5)2013.8.9付け、http://firstread.nbcnews.com/, "Snowden revelations force Obama’s hand on surveillance program."
ついでながら、この記者会見において、ある記者からの”Edward Snowdenは、愛国者だと思うか”との質問に対し、オバマ大統領は、”Mr.Snowdenは、愛国者だと思わない。彼が、自分の主張が正しいというのなら、米国の裁判所で所信を述べることを歓迎する”と述べている。しかし、Snowden氏が米国に戻り、普通裁判所で裁判を受けることとなる事態を大統領は本当に望んでいるのだろうか。
(注6)2013.7.26付け、http://www.people-press.org, "Few See Adequate Limits on NSA Surveillance Program."



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