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DRI テレコムウォッチャー


  内部告発で明らかにされた米国諜報機関の無制限な情報取集活動
2013年7月1日号

 “私は、実のところ、私のデスクから誰のでも、電話を盗聴(eavesdrop)できる権限を有している。あなたも、あなたの顧客も、連邦裁判所の判事も、さらに大統領さえも。” (Edward Snowden, 2013.6.6、注1)

 NSA(国家安全保障局)に勤務していた諜報担当官、Edward Snowden氏が漏洩した機密情報、彼の証言、行動が米国のみならず、全世界に衝撃を及ぼしている。
 筆者は、2007年ごろから、米国においてワイアタッピングが違法に実施されているのではないかという問題に興味を抱いており、特に、米国の諜報機密の収集を律する法律、改正FISA法の成立経緯に力を入れ紹介を続けてきた(注2)。
 筆者の関心領域からして、本論では、Snowden氏がガーディアン、ワシントンポスト両社にリークした情報の内容と解釈の案件に焦点を絞ることとする。Snowden氏は、South China Morning Star紙に、NSA(国家安全保安局)が、中国の数多くの機関に2009年以来、ハッキング行為を行っているとの証言を行い、資料も提供した模様である。米国政府が、Snowden氏の身柄拘束に躍起となっているのは、ひとつには、国際諜報戦に肝要なこの種の情報のこれ以上のリークを恐れのことであろう。
 米国市民のプライバシー侵害に関する点だけに絞ってみると、論点は、次の一点に帰すると思われる。すなわち、米国諜報活動を規制する改定FISA法は、建前の上では、米国市民の情報収受についてのプライバシーは、一見、特別裁判所(FISC)が、諜報機関からの情報収集要望を審査することにより、守られているかのように条文が構成されている。しかし、実際の運用に当たっては、FISCが諜報機関の要請をほぼ、無審査で承認しており、チェック機能を果たしていない。そればかりか、諜報機関内部で効率的な資料収集体制を組む目的のため、当初は例外的とされていたはずの米国人を対象とする国内情報をも網羅的に収集するようになっている。
 本文では、今回、資料の裏付けを得て、明るみに出た、NSAの情報収集プロジェクト二件(一件は、Verizonの3ケ月にわたるすべての通話のmetadataのすべてにアクセスするというもの、他の一つは、いわゆるPRISMであって、米国の主要IPが提供しているほとんどのインターネットサービスにアクセスするプロジェクト)を紹介した。さらに、Snowden氏の証言、リークした資料を裏付ける幾つかの議員、諜報機関職員の証言も付記した。
 しかし、冒頭に引用したEdward Snowden氏の発言が真実であるのならば、NSAの資料収集体制は、一部の米国ジャーナリズムがすでに報道している通り、すべての通信事業者、IP事業者の提供するサービスをオンラインでアクセスできるきわめて大掛かりなものではなかろうかとの推定が成り立つ。

 オバマ大統領、米国諜報機関のトップの側は、これら情報は、諜報目的以外に使われることはないと断言するが、このような楽観的な発言を信じる人々はほとんどいるまい。
 2011年11月、当時アフガン派遣総司令官であったPetraeus氏が職務上密接な関係にあった女性との愛人関係を暴露され、辞職に追い込まれた事件があり、このスキャンダルは大きく報道された。Petraes氏と女性との間の多数のメールの存在が愛人関係立証の決め手になったといわれる。こういう情報は、果たして正規の捜査令状に基づいて入手されたものなのだろうか。
 すでに、Snowden氏には、米国政府から逮捕状が出されている。しかし、氏の最終的な落ち着き場所がどこであろうとも、オバマ大統領は、諜報機関の情報収集、得られた情報の利用実態についての透明性を国民の前に明らかにする時期が来たと思われる。


3ケ月のすべての通話記録提出の命令を受けたVerizon - 英国ガーディアン紙の報道から

 英国紙ガーディアンは、2013年6月7日、NSAはVerizonから、毎日、幾100万もの加入者の通話記録を収集しているというセンセーショナルな見出しの特種記事を発表した。(注3)。
 この記事によると、米国のFISC(Foreign intelligence Surveillance Court)は、2013年4月25日、NSAからの要請を受け、7月19日までの期間、毎日、いわゆるMegadeta - 通話場所、発着信番号、通話時分等 - の提出をVerizon社に命令したという。
 改正FISA法(2008年7月、ブッシュ政権の下で制定され、2012年12月、オバマ政権の下で一部改正された)は、米国諜報機関(NSA、FBI、CIA等)が迅速かつ効率的な諜報情報を入手するとともに、米国人のプライバシー侵害を最小限にとどめることを目的としている。この法律では、テロ対策のための司法サイドの監視機関としてのFISCが、具体的に諜報機関の情報収集の範囲を定めることとなるので、重要な役割を果たしている。
 しかし、今回、Edward Snowden氏の内部告発で明らかになったことは。NSAが改正FISA法の枠を超え、過剰な資料収集活動に携わっていたのではないかとの、これまで幾たびも報道されながら確たる情報が得られなかった事実が、暴露されたことであった。改正FISA法は、諜報の対象を具体的にテロ活動との関連で特定された外国人に対象をしぼり、米国人対象の情報収集をきわめて例外的な場合に限っている。米国人に対する情報収集は、普通裁判所に捜査令状を申請し行うことができるからである。
 改正FISA法適用の実態について、多くの機密情報にアクセスできる立場にある幾名かの上院議員は、かねてから、諜報機関によるプライバシー侵害の危険性を指摘してきた。特に、民主党上院議員のRon Wyden、Mark Udall両氏(両氏ともに上院情報委員会の委員)は、過去2年間にわたり、米国民に対し、“米国民に対しどのような情報探索行為が行われているかを知れば、あきれかえるだろう”と述べている。FISCの命令の中に、守秘義務が含まれているのから、当然のことである。


明らかとなったPRISM ― 米国のインターネット提供業者から、大量のインターネット情報を入手するNSA

NSAのPRISMとは
 ガーディアン紙は、NSAがVerizonに対し、大量の通話情報提供を求めたとの特種記事を掲載した2013年7月6日の翌7月7日、さらに、NSAは主要IT事業者と協定を結び、これら業者のインターネット網に直接アクセスできるメカニズム(PRISM)を運営しているとの衝撃的な記事を発表した(注4)。
 執筆者のGlenn Greenwald氏は、NSA諜報情報に携わる調査官訓練用教材(パワーポイント41ページ)を入手し、この資料により、記事を書いたとしている。
 PRISMは、ISPが米国内に有するインターネットのサーバーに直接アクセスすることにより可能になるものである。主要ISP各社は、2007年のMicrosoftを皮切りに、Yahoo(2008)、Facebook、PalTalk(2009)、You Tube(2010)、 Skype(2011)、Apple(2012)と、この計画に参加するISPの数を増やしており、この努力はなおも継続している。
 アクセスできる情報は、メール、ビデオ、音声チャット、フォート、IP音声、ファイル等多様であり、インターネットで伝送されるほとんどのサービスが含まれる。
 CNETによれば、PRISMは、ただ、ISPのサーバから得られる情報を意味するものではなく、サーバからの情報をコンピュータ処理して、各種情報の中から、もっとも効率よく、ターゲットに関する情報を引き出すツールとして理解すべきだという。同社は、さらに、PRISMはいかに広汎な資料収集がなされても、その目的は、あくまでも、テロ活動に従事する外国人の活動に焦点が絞られている。改正FISA法に違反するものではないと主張する。この見解は、ブッシュ大統領をはじめとする米国政府の公式見解と同様である。
 ワシントンポストも、2013.6.7付けで、ガーディアンと同様の基調の記事を掲載した(注5)。ガーディアン、ワシントンポストは、共に、内部告発者、Edward Snowden氏から提供された資料により、記事を書いているのであるから、これは、当然のことである。
 ワシントポストは、2012年大統領に対するブリーフィングの中で、1477項目の引用が、PRISMにより、為されたとして、その重要性を強調している。

一部ISPのPRISM計画関与否定
 Apple、Yahoo、Google、Facebookは、PRISM計画が明るみに出ると、すぐさまこの計画への関与を否定した。たとえばGoogleは、これまでFISCの命令に応じて、資料要求に応じたことはあるが、PRISMのような包括的なプロジェクトへの協力を約束した事実はないといっている。米国のIP企業にとって顧客の信頼を得る立場からして、自社の加入者のプライバシーを守ることは、きわめて肝要なことだと考えられる。Googleにしても、改正FISA法の適用を巡って、NSA等諜報機関と争った経験を有している。
 たとえば、正規の手続きを踏まず、バックドア(正規の手続きを踏まず、裏口からサーバに侵入すること)を行使したような事実があったのかどうか。中国の諸組織へのハッキングを実施しているといわれる米国諜報機関の実力をもってすれば、こういったことは可能だと思うが、にわかに信じられない。ともかく、PRISMで使われている”直接アクセス”の語が、具体的に何を指すのか、また、どのような方法で行われているのかについては、謎が残る。


NSA職員による法律違反の諜報関係情報収集は、Snowden氏の証言通りとする幾つもの証言

 あるネット紙は、”政府のスパイ行為のひどさは、Snowden氏の証言通りのものではない。もっと、ひどいのだ。“というセンセーショナルな見出しを掲げ、幾人かの証言者の発言を紹介しコメントを加えている(注6)。そのうち、数件を紹介する。

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NSAが電話を傍聴しようとすれば、FISCの承認は不要である。NSAアナリストの判断だけで、通話内容にアクセスできる(民主党下院議員、Jerrod Nadler氏)

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NSAのアナリストたちは、”通話内容”にアクセスできる権限を有している(民主党上院議員、Dianne Feinstein氏)

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NSAの捜査過程には、傍受された幾10億も大量の通信の傍受、分析、データベースへの組み込みが含まれている(元情報長官、McConnell、2007年における上院情報委員会における証言)

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Snowdenが暴露した事実は氷山の一角に過ぎない(Loretta Sanchez、民主党下院議員、国土保安委員会委員)


 上記の証言をみると、Edward Snowdenが提起した米国諜報機関による米国市民のプライバシイ侵害問題は、米国一部の層(特に、国会議員)には周知の事実であったということが判る。


オバマ大統領の弁明 ― 米国の諜報活動は合法的である(注7)

 オバマ大統領は、2013年6月7日、ガーディアン、ワシントンポスト両紙による特種記事発表間もないときにスピーチを行い、米国の諜報活動により、市民のプライバシーは、ほとんど侵害されることがない。そもそも、諜報活動を規制する改正FISAは、米国在住者を対象としておらず、調査上たまたまプライバシーがEdwardに侵犯されることがあっても、それは偶発的なものに過ぎない。テロの侵犯を防ぐ諜報活動遂行に当たり、100%市民のプライバシーを守ることは、不可能である。
 改正FISA法は、政府が提案し、議会で可決され、特別裁判所の監督の下に行われている。行政、立法、司法の3権が承認した諜報機関の活動を信用しないというのだろうか。
 しかし、オバマ大統領のスピーチは、あまりにも建前論に終始しており、一部民主党議員によるプライバシー侵害疑惑の表明、NSAによる諜報活動の作業に従事していた内部告発者、Edward Snowden氏の生々しい証言を前にしては、空疎に感じられる。



(注1)この文は、Edward Snowden氏(Boose Allen Hamiltonから派遣されたANSの諜報担当官)が、英国紙ガーディアン記者、Glenn Greenwald氏のインタビューに答えた回答の一部である。Snowden氏が初めて米国民の前に登場したビデオを視聴し、筆者が訳した。
(注2)DRIテレコムウォッチャー、
2006.7.1号、「最大規模の民事訴訟を引き起こした米国政府の電気通信プライバシー侵害疑惑」
2007.12.1号、「自らが命じた違法なワイアタピングの処理に困っているブッシュ大統領」
2008.2.1号、「議会に対し電気通信会社のワイアタッピング免責を執拗に迫るブッシュ大統領」
2008.7.15号、「ブッシュ大統領の完勝に終わったWiretapping法制化 - FAA(FISA改正法)成立」
2009.5.15号、「Obama大統領の悩みの種、Wiretapping問題の解決」
(注3)2013.6.7付け、the guadianのネット記事、"NSA collecting phone recordsof millions of Verison customers daily."
(注4)2013.6.8付け、the guadianのネット記事、"NSA Prism program taps in to user data of Apple, Google and others."
(注5)2013.6.3付け、http://www.washingtonpost.com,"US,Rritish intelligence mining data from nine US Internet companies in broad secret program."
(注6)2013.6.16付け、http://www.khaleejtimes.com, "The Government’s Spying is not as bad as the blower said.It's WORSE."
(注7)2013.6.7付け、USA Today,”Obama defends surveillance program."



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