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DRI テレコムウォッチャー


  Verizon、好調な2013 1Q決算:宿敵AT&Tとの差を広げる
2013年6月15日号

 2013年2月15日号では、業績がいずれも好調なVerizon、AT&T両社の2012年次通年の業績を紹介した(注1)。 今回は、同じ方法により2013 1Qの両社の業績を比較する。
 わずか3か月間の期間が推移しただけであるのに、AT&Tに対するVerizonの優位はさらに鮮明になった感がある。 本文で説明するとおり、Verizon Wirelessは、AT&T Mobileに対し、収益率、モーバイル機器の販売、モーバイル加入者獲得数のすべての面で優位に立った。時系列的に見てみると、2007年7月にAT&Tが米国における排他的なiPhoneの供給業者になって以来、ほんの2、3年前までは、iPhoneが有する強烈なブランド力により、AT&T Wirelessは、実力を上回る成長を遂げた。ネットワーク、サービス品質、囲い込んでいるポストペイド加入者数等で同社を数等上回る実力を持つVerizon Mobileに対抗できたのである。しかし、iPhoneの人気が低落し、さらにSamsungのGalaxyシリーズの人気が高まるなど、市場が急激に変化している折から、次世代LTEネットワークの構築をあらかた完成し、多くのスマホ機種の品揃えを行っているVerizonの実力がAT&Tを圧して行ったのは、当然の成り行きともいえる。
 本文では、このような状況について、主として、Verizon、AT&T両社の2013 1Qの決算資料に基づき分析した。
 なお、両社の固定通信分野については、本文、末尾の参考資料に、主要数値を掲載するにとどめた。両社ともに、固定電話回線の減少、ブロードバンド加入者数の伸びの停滞、業績の低迷といった傾向が持続しており、特筆に値する内容が見当たらなかったからである。


Verizon vs AT&T(1) ー 加入者数比較(注2)

表1 2013 1QにおけるVerizon、AT&Tのモーバイル加入者増数・加入者数(単位:1000)

項目

Verizon

AT&T

2013 1Q 加入者増数
ポストペイド加入者数
プリペイド加入者数
リセラーによる加入者数
ネット接続加入者数
調整


677(+35.1%)
43(-41.5%)
*3
*4


+296(+58.3%)
-184(*1 125)
-262(*2 184)
+431(+87.4%)
+3

720(-1.1%)

294(-59.9%)

2013 1Q 加入者数
ポストペイド加入者数
プリペイド加入者数
リセラーによる加入者数
ネット接続加入者数
調整


93,186(+5.9%)
5744(+14.3%)
*5
*6


70.749(+1.9%)
7104(-3.6%)
14.702(+6.0%)
14,696(+10.5%)

98,130(+6.4%)

107,251(+3.2%)

*1、2は、比率ではなく実数。
*3、4、5、6:Verizonは、リセラー、ネット接続機器をすべて、ポストペイド、プリペイドの項に含めてあるので空白。

 表に示すとおり、2013 1Qには、Verizon、AT&Tともにモーバイル加入者の増加数は大きく減少した。前期の4Q 2012に、Verizon、AT&Tはそれぞれ、四半期で100万、200万を超える加入者を増やしたのであるが、今期は72万、29.4万にとどまった。また、前期に比し、Verizonが獲得した加入者数は、AT&Tのそれに比し、約3倍に達している。
 加入者の中核を為すポストペイド加入者の増加数でみると、さらにVerizonの優位が際立つ。
 Verizonが、この期、67.7万のポストペイド加入者数を増やしたのにもかかわらず、AT&Tのポストペイド加入者数増は29.6万にとどまった。しかも、このわずかの増は、タブレットの増により生み出されたものであり、モーバイル電話数は減少している。
 すなわち、タブレットの増数は36.5万、モーバイル電話の減少分が6.9万であって、これの計が29.6万なのである(注3)。
 この事態が今後も継続すれば、AT&Tの経営に深刻なインパクトが及ぶこととなろう。


Verizon vs AT&T(2) - スマホ稼動数増の比較

表2 2013 1Q、2012 4QにおけるAT&T、Verizonのスマホ稼動数増の比較(単位:10,000)

項目

Verizon

AT&T

期間

1Q 2013

4Q 2012

1Q 2013

4Q 2012

iPhone

400(-41,2%)

680

480(-44.2%)

860

他のスマホ

320(+7%)

300

120

160

720(-26,5%)

980

600(-41,2%)

1,020


 表2に示すように、1Q 2013期、VerizonもAT&Tも、前期(4Q 2012)に比しスマホの稼動数を大きく減らした。これは、1つには、前期はクリスマス商戦期が入っていたため、他の四半期に比し、スマホが大きく売れる時期であり、そもそも、1Q期と4Q期を比較すること自体が無意味である点も否定できない。しかし、ここで指摘したいのは、スマホの稼動数増において、これまでAT&Tに遅れを取っていたVerizonが、ついにAT&Tを抜き、優位な地位に立ったという事実である。

まず、スマホ稼動の総数において、VerizonはAT&Tの600万にと比し、720万と大きくAT&Tを引き離した。

さらに、スマホに占めるiPhoneの構成比率において、VerizonとAT&Tの間には、大きな差異が見られる。すなわち、Verizonでは、iPhoneとその他のスマホの比率は、55.4%対44.6%とほぼバランスが取れている。これに対し、AT&TではiPhoneの占める比率は、80%であって、それ以外のスマホは20%に過ぎない。この数字は、AT&TのiPhone稼動数の大半が、新規のiPhone獲得加入者によるものであるよりも、iPhone機種間(たとえば、典型的な事例としてiPhone4S→iPhone5)の買い替え需要によるものであることを示す。


Verizon vs AT&T(3) - 収入、営業利益比較

 Verizon、AT&Tの収入、営業利益は、参考資料の表3、4、5で示した。
 一見、類似の傾向を示しているように見えるが、

総収入において、AT&Tが昨年同期に比し、減収になっていること。

両社の基軸を為すワイアレス部門において、Verizonの増収比率がAT&Tの倍になり、また、利益の絶対額、利益率においてもAT&Tを上回っていること

 の2点からして、VerizonのAT&Tに対する優位は明らかである。
 その理由の大半は、既述のVerizon vs AT&T(1)、(2)で述べたところであるが、ここではVerizonがAT&Tに先んじて実施した新従量料金のインパクトについて触れて置く。
 Verizon、AT&Tの両社が、2012年6月、8月、それぞれ、ワイアレス端末の複数接続をパッケイジに組むことを認めると同時に、データ使用料に応じて料金単価を変更する新たな料金制度(Verizon :Share Everything、AT&T:Mobile Share plan)を導入したことについては、2012年11月のテレコムウォッチャーで紹介した(注4)。
 Verizonは、導入後1年にならない2013年3月末で、同社のポストペイド加入者の3分の1がVerizon Share Everything Planに加入し、その結果、ポストペイド加入者のARPU(Average Revenue Per User:加入者1人当たり月間収入)は、2013年3月末、前年同期の140.58ドルから6.9%増加して150.27ドルに達した成果を誇示している。
 これに比し、AT&Tは、同じく同社のMobile Share Planを利用する加入者は、ポストペイド加入者の70%に及んでいるとしながらも、年間のARPUの値は、ほとんど変化が見られない。多分、AT&TのMobile Share Planは、定額制+従量制の双方の要素を含むこの新料金制度の導入において、Verizonより定額制の要素を多く含む料金制度なのであろう。

 参考資料:AT&T、Verizon 両社の2013 1Qの収入、利益比較

 

表3 2013 1QにおけるVerizon、AT&T総体の収入、利益比較(単位:100万ドル)

項目

Verizon

AT&T

収入

29,420(+4.2%)

31,356(-1.5%)

営業利益

6,222(+19.8%)

5,940(-2.6%)

純利益

4,855(+24.3%)

3,773(+3.3%)

純利益率

16,5%(+13.8%)

12.0%(+11.5%)

(括弧内の数値は、2013 1Qの数値に対する増減比である。表2以下の諸表についても同じ。)

表4 2013 1QにおけるVerizon、AT&Tワイアレス部門の収入、利益比較(単位:100万ドル)

項目

Verizon

AT&T

収入

19,523(+6.8%)

16,691(+3,4%)

営業利益

6,418(+23.0%)

4,676(+4,1%)

営業利益率

32.9%(+28.6%)

28.0%(+27.8%)



表5 2013 1QにおけるVerizon、AT&Tワイアライン部門の収入、利益比較(単位:100万ドル)

項目

Verizon

AT&T

収入

9,830(-1.2%)

14,655(-1,8%)

営業利益

13(-91.7%)

1,633(-5.0%)

営業利益率

0.1%(*1 1,6%)

11.1%(*2 11.5)

(*1、*2の数値は比率でなく、実績値である。)

表6 2013 1QにおけるVerizon、AT&Tのワイアライン加入者数(単位:100万)

項目

Verizon

AT&T

音声加入者数

22,191(-6,4%)

31,163(--11,5%)

ブロードバンド加入者数

FiOS Internet:5612(+12.0%)
高速DSL:328.2(-12.8%)

U-verse:4,755(+19.4%)

8,894(+1,4%)

*16,514(―0.4%)

1、*AT&Tブロードバンド加入者数の計は、高速DSL+U-verse+衛星である。同社は、今回、U-verseの内訳のみしか表示していない。
2、表5では、AT&Tのブロードバンド加入者数は、Verizonの倍以上である。確かに、AT&Tのブロードバンド加入者数が、Verizonのそれより多いのは事実であるが、両社のブロードバンドの定義が違う(Verizonは、衛星会社の衛星回線のリセールを行なっているが、この回線数を除外している)のであるから、表6の両社計の数値を比較することは、無意味である。



(注1)>DRIテレコムウォッチャー、2013年2月15日号、「AT&T、Verizonの2012年次決算:ITサービス成長の波に乗り好調」
(注2)本文の表、記述の執筆の当たっては、もっぱら、以下の2013 1QにおけるVerizon、AT&T決算資料を使用した。
  2013.4.18付け、Verizon、“1Q Investor Quarter”
  2013.4.23付け、AT&T、”Investor Briefing"
(注3)2013.4.23付け、http://www.boston.com、"AT&T loses contract phone subscribers in 1Q."
(注4)>DRIテレコムウォッチャー、2012年11月15日号、「新従量料金制度の早期実施でAT&Tと業績に大きく差を付けたVerizon」



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